(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏

文字の大きさ
26 / 37

26 ゾーイの生い立ち回想(ゾーイ視点)

しおりを挟む
 父は著名な医者であり、母は植物を魔法で操れる者として知られる薬草魔賢者だった。私は両親の影響を受け、幼い頃から医学と魔法の融合に興味を抱いていた。自ら薬草を摘んで様々な組み合わせを試し、新しい解毒剤や治癒薬を創り出す実験を欠かさなかった。

 時には危険な魔道具を取り扱い、自身の身体で効果を確かめる勇気を持っていた。私の研究室は謎めいた匂いと様々な薬瓶で満ち、実験台には魔法陣が描かれた。私の魔法属性は母と同じ緑の魔法で、植物を操りその成長を画期的な速度で促す力を持っている。母の指導のもとで植物の性質や魔法の知識を学び、父の医学的な教えを受けて実践的なスキルを磨いた。

 私の努力と好奇心から生まれた新たな発見は、両親を喜ばせたが同時に困惑もさせた。誕生日のプレゼントには人体模型をねだり、実験用の取り扱い危険の液体を調合しては、実験室を何度も爆発させたからだ。

 人体のどこが急所か、それを狙えばどんな症状になるかは熟知している。大抵の毒薬とその解毒剤が作れ、植物とも完璧にコミュニケーションが取れるようになった頃、ベンジャミン男爵からある条件を提案された。

「私の愛娘の専属侍女になってくれ。好きな研究はなんでもしていいし、そのための資金は惜しまない」

 その条件は最高に嬉しいものだった。大富豪のベンジャミン男爵がなんでも研究していいとおっしゃったのだ。それこそ、どんな珍しい薬草でも手に入るし、どんな魔道具でも開発し放題だ。嬉しくて断る理由などなかった。ベンジャミン男爵家に専用の研究室も与えられ、オリビア様のお世話をしながら実験三昧の生活に明け暮れた。

 最初は、仕事だった。オリビア様は私の主で大切にお守りする存在にすぎなかった。だが、今ではオリビア様を守ることが私の生き甲斐になっている。

 なぜなら、ベンジャミン男爵夫妻もオリビア様も、私に家族のように接してくれるからだ。エマやラナとも気心が知れていて、専属侍女仲間に不満はない。オリビア様のいる場所はとても居心地が良い。


☆彡 ★彡



 私は頭の中で回想を終えて、目の前にいるクロエと向き合った。緑の魔法や植物魔法と言われる能力を持つ私は、大抵の植物を成長させ意のままに操れる。今はハッピーフェザーデルライトを操り、足の裏こちょこちょ攻撃をクロエに仕掛けていた。

 本当は拷問も大好きで、人体の・・・・・・あわわ・・・・・・これはあんまり口外するな、とエマから言われているから詳しくは言えないけど、拷問は楽しい。だが、より穏便な方法で目的を達した方が良いという、リーダーのエマの持論を優先した。

 私はエマには逆らわないし、ラナとも仲良くしたい。そう、私は平和主義だし優しいのだ! クロエからオリビア様を襲わせたという言質が取れた時には、こちょこちょ攻撃もやめてやった。実に優しいと思う。

 やがて、屋敷の外が騒がしくなり、以前パリノ公爵家ですれ違った黒髪の男性が王家の騎士たちを従えて入ってきた。後ろにはハミルトンもいる。

「まさか、女三人だけで全部倒したのか? 強すぎなんだが・・・・・・」

 驚いた表情のハミルトンは、やはり軟弱な公爵家の坊ちゃんだな。足を切られて倒れている騎士を見て青ざめていた。致命傷ではないし、単に動けないようにしただけの浅い傷だ。

「この状況を説明してくれないか? これだけの騎士を傷つけたら、君たちも無罪放免とはいかないぞ」

 融通のきかない男のようだ。私は魔道具録音装置をその男の前で作動させ、クロエの自白を聞かせた。ベンジャミン男爵家に忍び込んだ男たちの言質も、クロエの自白の前に録音されていた。

「ベンジャミン男爵家に侵入した男たちとゾーイが持っている魔道具録音装置はそちらに渡しますから、有効に利用してください。私たちはベンジャミン男爵家のオリビアお嬢様の専属侍女です」

 エマは協力することを強調する。

「あぁ、ありがとう。ご協力は感謝する。しかし、ベンジャミン男爵家を襲ったからといって、プレイデン侯爵家に報復にくるのはまずいだろう? ここは法治国家だぞ。ベンジャミン男爵家にだってお咎めがいくかもしれない」

(なんというか、この男はだめだな。融通がきかないし、理屈屋な気がするし、いろいろ面倒だ。世の中、正論ばかり振り回していてもダメなのに)

 私はきんちゃく袋からマスクを三枚取り出して、黙ってエマとラナに渡した。そうして、紫の玉もチョッキのポケットから取り出す。エマが玉に向かって火魔法で発火させると、周囲にメモリーバニシング・スモークが大量に発生した。

 これは吸い込んだ者の記憶を一時的に混乱させ、特定の期間の出来事や情報を消し去る作用があった。こんな面倒な男からは、私たちの目撃情報は消した方が良い。

 濃い紫の煙が充満するなか、騎士たちはむせかえりうずくまっていた。特定の記憶がなくなるだけで、この煙がおさまれば身体に異常は残らない。そんなわけで、特殊なマスクをつけた私たちは悠々とその場から立ち去ろうとした。

「まぁ、いい。今回は見逃してやるよ。だが、今後は勝手にあまり派手な動きをするなよ」

 黒髪の男だけは煙にむせることもなく、背筋を伸ばした状態で立っていた。

(ふん! なかなかやるじゃないか)

 私たちはこの男が大魔道士様だなんて、思ってもいなかったのだった。

 


୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
※誤字、脱字、多めの作者です。あったら教えていただけると助かります。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...