苦しい恋はいらない

青空一夏

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眼鏡貴公子は私の旦那様様

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私は夫のジョシュア・バーレー侯爵がリリィ・チェリー公爵令嬢を伴ってバルコニーから通じるらせん階段を降りて薔薇の庭園に降りていくのを見ていた。


-・-・-・-・


リリィ様はジョシュア様の婚約者だった女性で、理知的な眼差しとすらりとした姿の学問好きの女性だ。

ジョシュア様も学問好きな少し堅物的な印象を与える男性だったから、リリィ様とはお似合いのインテリカップルだった。

二人はお互い愛し合い理解しあっている最高のカップルのなかの一組と思われていた。

ところが、この国の第二王子が5歳年上のリリィ様を見初めて無理矢理、婚約者にしてしまった。

まだ15歳の第二王子は隣国のリヒテンシュタイン帝国へ3年間留学してしまったので、帰国してからの婚姻となったが、婚約者を奪われたかたちのジョシュア様は、仕方なく私と結婚した。



-・-・-・-・-・


だから、夫に私に対する愛などかけらもないのよ。

その証拠に、こんな王宮での舞踏会でも私達夫婦は別行動なのだから。

ジョシュア様は、今でもずっと、あのリリィ様だけを愛するのだろう‥‥

私は心の奥底から暗く苦いものが膨れあがってくる気がした。





「マディソン、こんなところにいたのかい?喉が渇いただろ?さぁ、これを飲んで?」

幼なじみのデイビッド・ストロベン伯爵が私に飲み物を持ってきてくれた。

デイビッドは、女性なら誰もが振り返りたくなるような金髪にブルーサファイアの瞳の華やかな美貌の持ち主だ。

彼はまだ独身で婚約者もいなかった。

「また、君の夫はリリィと一緒かい?いくらなんでも、舞踏会で、妻もエスコートしないなんて!
俺が意見をしてきてやろうか?」

「ううん、いいのよ。だって、私にはデイビッドがいるから大丈夫‥‥」
デイビッドは嬉しそうに頬を赤らめた。

でも、私はそう言いながら、夫の姿をずっと追いかけていたの。

だって、私は彼をずっと好きだったから‥‥





幼い頃からお勉強が苦手だった私はいつも家庭教師から叱られていた。

「マディソン様、そんなことでいかがなさいます?伯爵家のご令嬢として、もっと高位の貴族の貴公子のもとに嫁ごうと思ったら、お頑張り遊ばせ!」

「‥‥はい」
泣きながら返事をして、プラム家の薔薇園のすみっこで泣いていた。

お父様の親友のバーレー侯爵がちょうどプラム家に遊びに来ていて、その嫡男の眼鏡をかけた男の子が私のところに、そっと来て言った。

「泣かないで‥‥大丈夫だよ。勉強が苦手だって、そんなのたいしたことじゃないよ?君はなにが得意なの?」

「絵を描くことが大好きです」

「ならば、それを頑張ればいいさ。みんなが同じことをやる必要なんてないだろう?」

その眼鏡の男の子こそ、私の旦那様、ジョシュア様だ。

「僕は君の絵の一番最初のファンになるよ」そう言ってくれたジョシュアは整った端正な顔立ちに眼鏡をかけた頭の良さそうな少年だった。

私は、自分があまりお利口さんじゃないのがわかっているから、頭のいい男性に幼い頃から憧れていた。






(ジョシュア様‥‥素敵)

バーレー侯爵様が帰った後にそうつぶやいたら、お母様に聞こえたようだった。

「あらぁー、マディちゃん、ジョシュア様にはもう婚約者がいるからダメよ。お相手は本の虫の変わったご令嬢のリリィ・チェリー公爵令嬢よ」

私の幼い淡い恋はこの瞬間、砕け散った。

この初恋が思わず実ったのはリリィ様が婚約破棄をジョシュア様にしたからで、そこはとても感謝している。

でも、婚約前と変わらず、二人が仲睦まじく親密に振る舞うのは罪だ。

私は妻だけど‥‥妻じゃないの‥‥

薔薇の庭園からはリリィ様の華やかに笑う声が聞こえてくる。

ジョシュア様と話が弾んでいるようだわ。

私の心はどんどん冷えて、暗く闇の奥深くに沈んだわ。

夫は私にプラム家で会ったことすら忘れているに違いない。

私は、彼のアドバイス通りに生きて、今では画家として王族の肖像画まで描くようになったというのに‥‥







物思いに沈みながらデイビッドとバルコニーで、夜風に吹かれているとデイビッドが自分の上着を私の肩にそっとかけた。

「寒くない?なにか、温かい物でも中に戻って飲もう」
私の手をデイビッドが取ったところで、夫とリリィ様が、らせん階段を登ってバルコニーに戻ってきた。

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