1 / 8
眼鏡貴公子は私の旦那様様
しおりを挟む私は夫のジョシュア・バーレー侯爵がリリィ・チェリー公爵令嬢を伴ってバルコニーから通じるらせん階段を降りて薔薇の庭園に降りていくのを見ていた。
-・-・-・-・
リリィ様はジョシュア様の婚約者だった女性で、理知的な眼差しとすらりとした姿の学問好きの女性だ。
ジョシュア様も学問好きな少し堅物的な印象を与える男性だったから、リリィ様とはお似合いのインテリカップルだった。
二人はお互い愛し合い理解しあっている最高のカップルのなかの一組と思われていた。
ところが、この国の第二王子が5歳年上のリリィ様を見初めて無理矢理、婚約者にしてしまった。
まだ15歳の第二王子は隣国のリヒテンシュタイン帝国へ3年間留学してしまったので、帰国してからの婚姻となったが、婚約者を奪われたかたちのジョシュア様は、仕方なく私と結婚した。
-・-・-・-・-・
だから、夫に私に対する愛などかけらもないのよ。
その証拠に、こんな王宮での舞踏会でも私達夫婦は別行動なのだから。
ジョシュア様は、今でもずっと、あのリリィ様だけを愛するのだろう‥‥
私は心の奥底から暗く苦いものが膨れあがってくる気がした。
☆
「マディソン、こんなところにいたのかい?喉が渇いただろ?さぁ、これを飲んで?」
幼なじみのデイビッド・ストロベン伯爵が私に飲み物を持ってきてくれた。
デイビッドは、女性なら誰もが振り返りたくなるような金髪にブルーサファイアの瞳の華やかな美貌の持ち主だ。
彼はまだ独身で婚約者もいなかった。
「また、君の夫はリリィと一緒かい?いくらなんでも、舞踏会で、妻もエスコートしないなんて!
俺が意見をしてきてやろうか?」
「ううん、いいのよ。だって、私にはデイビッドがいるから大丈夫‥‥」
デイビッドは嬉しそうに頬を赤らめた。
でも、私はそう言いながら、夫の姿をずっと追いかけていたの。
だって、私は彼をずっと好きだったから‥‥
☆
幼い頃からお勉強が苦手だった私はいつも家庭教師から叱られていた。
「マディソン様、そんなことでいかがなさいます?伯爵家のご令嬢として、もっと高位の貴族の貴公子のもとに嫁ごうと思ったら、お頑張り遊ばせ!」
「‥‥はい」
泣きながら返事をして、プラム家の薔薇園のすみっこで泣いていた。
お父様の親友のバーレー侯爵がちょうどプラム家に遊びに来ていて、その嫡男の眼鏡をかけた男の子が私のところに、そっと来て言った。
「泣かないで‥‥大丈夫だよ。勉強が苦手だって、そんなのたいしたことじゃないよ?君はなにが得意なの?」
「絵を描くことが大好きです」
「ならば、それを頑張ればいいさ。みんなが同じことをやる必要なんてないだろう?」
その眼鏡の男の子こそ、私の旦那様、ジョシュア様だ。
「僕は君の絵の一番最初のファンになるよ」そう言ってくれたジョシュアは整った端正な顔立ちに眼鏡をかけた頭の良さそうな少年だった。
私は、自分があまりお利口さんじゃないのがわかっているから、頭のいい男性に幼い頃から憧れていた。
☆
(ジョシュア様‥‥素敵)
バーレー侯爵様が帰った後にそうつぶやいたら、お母様に聞こえたようだった。
「あらぁー、マディちゃん、ジョシュア様にはもう婚約者がいるからダメよ。お相手は本の虫の変わったご令嬢のリリィ・チェリー公爵令嬢よ」
私の幼い淡い恋はこの瞬間、砕け散った。
この初恋が思わず実ったのはリリィ様が婚約破棄をジョシュア様にしたからで、そこはとても感謝している。
でも、婚約前と変わらず、二人が仲睦まじく親密に振る舞うのは罪だ。
私は妻だけど‥‥妻じゃないの‥‥
薔薇の庭園からはリリィ様の華やかに笑う声が聞こえてくる。
ジョシュア様と話が弾んでいるようだわ。
私の心はどんどん冷えて、暗く闇の奥深くに沈んだわ。
夫は私にプラム家で会ったことすら忘れているに違いない。
私は、彼のアドバイス通りに生きて、今では画家として王族の肖像画まで描くようになったというのに‥‥
☆
物思いに沈みながらデイビッドとバルコニーで、夜風に吹かれているとデイビッドが自分の上着を私の肩にそっとかけた。
「寒くない?なにか、温かい物でも中に戻って飲もう」
私の手をデイビッドが取ったところで、夫とリリィ様が、らせん階段を登ってバルコニーに戻ってきた。
31
あなたにおすすめの小説
束縛婚
水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。
清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
恋の終わらせ方
ありがとうございました。さようなら
恋愛
由寿は10年以上。片思いを引きずっていた。
「30過ぎても相手が居なかったら結婚するか」
幼なじみの正己が失恋して、自棄酒に付き合っていた時に言われた戯れ言。それに縛られて続けて、気がつけば27になっていた。
その男から連絡が来る時は大体、フラれた時か、彼女と喧嘩した時だけ。
約束をすっぽかすのは当たり前。
酷い男なのにずっと好きで居続けた。
しかし、それも一つの電話で終わりを迎えた。
「俺、結婚するんだ」
回帰したけど復讐するつもりはありません
能登原あめ
恋愛
* 本編終了後にR18、シリアス寄りのお話です。タグ増やしましたので確認お願いします。
ケイトリンは政略結婚なりに一男一女に恵まれ、領地で穏やかに暮らしていた。
娘が社交界にデビューするために王都で過ごすことになってから慣れない生活で体調をくずす。
高熱で苦しんだ後、なぜか10年前に時が戻っていて――?
夫のアランや愛人と噂される夫の幼なじみナタリーに復讐して新しい人生を送るように勧められたけれど、そのつもりはなかった。
* 本編3話程度+Rシーンを含む話の予定。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。
【完結】死に戻り伯爵の妻への懺悔
日比木 陽
恋愛
「セレスティア、今度こそ君を幸せに…―――」
自身の執着により、妻を不遇の死に追いやった後悔を抱える伯爵・ウィリアム。
妻の死を嘆き悲しんだその翌日、目覚めた先に若い頃――名実ともに夫婦だった頃――の妻がいて…――。
本編完結。
完結後、妻視点投稿中。
第15回恋愛小説大賞にエントリーしております。
ご投票頂けたら励みになります。
ムーンライトさんにも投稿しています。
(表紙:@roukoworks)
悪役妹は仲裁人じゃありませんよ!
お好み焼き
恋愛
周りへの仲裁役をやめたいけどなかなかやめれない転生悪役妹と、そんな悪役妹を一生腕の中に閉じ込めたいお腹真っ黒な護衛騎士。予告なく性描写が出ます。
(新しくしたスマホの操作がおぼつかなくて小分けじゃなく一気に載せたので長いです。ちょっと読みにくいかもしれません;)
【完結】亡くなった妻の微笑み
彩華(あやはな)
恋愛
僕は妻の妹と関係を持っている。
旅行から帰ってくると妻はいなかった。次の朝、妻カメリアは川の中で浮いているのが発見された。
それから屋敷では妻の姿を見るようになる。僕は妻の影を追うようになっていく。
ホラー的にも感じると思いますが、一応、恋愛です。
腹黒気分時にしたためたため真っ黒の作品です。お気をつけてください。
6話完結です。
愛さないと言うけれど、婚家の跡継ぎは産みます
基本二度寝
恋愛
「君と結婚はするよ。愛することは無理だけどね」
婚約者はミレーユに恋人の存在を告げた。
愛する女は彼女だけとのことらしい。
相手から、侯爵家から望まれた婚約だった。
真面目で誠実な侯爵当主が、息子の嫁にミレーユを是非にと望んだ。
だから、娘を溺愛する父も認めた婚約だった。
「父も知っている。寧ろ好きにしろって言われたからね。でも、ミレーユとの婚姻だけは好きにはできなかった。どうせなら愛する女を妻に持ちたかったのに」
彼はミレーユを愛していない。愛する気もない。
しかし、結婚はするという。
結婚さえすれば、これまで通り好きに生きていいと言われているらしい。
あの侯爵がこんなに息子に甘かったなんて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる