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「はい、ぐっすりと眠っておられました。とても幸せそうなお顔でしたので、私まで嬉しくなりました」
「つっ……すまない。昨夜は初夜だったのに……」
気まずそうに視線を逸らす龍神の横顔は、どこか恐縮していて、少し反省しているように見える。その姿を可愛い、と雪乃は思った。
朝になると、早速茜がやって来て雪乃の世話を始めた。けれど龍神は、ひとりで着替えを済ませようとしている。
「私はひとりで何でもできますから、茜は龍神様のお世話をしてください」
思わず雪乃がそう言うと、茜は困ったように首を振った。
「龍王様は耳があまりにも良すぎるのです。人間界のざわめきや負の思念はもちろん、我ら龍の“心の声”さえ雑音として拾ってしまわれるほどで……。誰かが触れると、その雑音が増幅されて流れ込んでしまいます。だから龍王様は直に触れられるのを好まれません」
「まあ、それは難儀なことですね。でしたら私がお世話をします。だって昨晩は私のそばで、すやすやとお眠りになっていましたもの。もしかすると、私なら大丈夫なのではありませんか?」
「へ? 龍王様が眠ったんですか? ……ふわぁ、それは奇跡です! でしたら恐れ多いのですが、雪乃様に龍王様のお世話はお任せします。大変だわ、皆に伝えてこなければ……では失礼します!」
茜は勢いよくパタパタと走り去っていった。その日から雪乃は龍神の屋敷で働く者全員に、尊敬と驚きの目で見られることになるが、本人はまったく気づいていなかった。
雪乃は甲斐甲斐しく龍神の世話をし始めた。桶で洗顔用の湯を運び、着替えの手伝いをし、滑らかな銀髪を櫛で梳き、こまごまと動き回る。
そして厨房までやってきて、朝餉の支度までしようとするので、茜に止められた。
「ダメです! ここに奥方様がお越しになるなんていけません。食事の支度は龍王妃様のお仕事ではありません!」
「お願いです、手伝わせてください。ここにいて何のお役にも立てないことが辛いのです」
雪乃がそう言うと、茜は目を丸くして叫んだ。
「役に立たないわけありません! 雪乃様は龍王様にとって唯一無二ですよ! だって龍王様、ここ数百年ずっと寝不足だったんです。それが昨晩は雪乃様のおかげでぐっすり眠れて……もう、それだけで素晴らしい能力なんですから! あの……ちょっと私も抱きついてみていいですか?」
「えっ? どうぞ……」
小柄な茜がそっと雪乃の体に抱きついた。柔らかい体温が触れた瞬間、雪乃は思わず子どもをあやすみたいに茜の頭を撫でていた。
その途端、茜は目を閉じて、すやすやと寝入ってしまう。
「えっ、寝た? ……茜まで?」
「うぉー、私ら龍人は感覚が研ぎ澄まされている者が多いんで、大抵は多少なりとも寝不足なんですよ。人間界のざわつきも敏感に拾っちゃうから、どうしても雑音が入ってきてしまうんです」
厨房の料理人の一人がそう言うと、なぜか雪乃に抱きつこうとする者たちの列ができ始めた。
そこへ龍神が入ってきて、彼らを怒鳴りつける。
「こら! 何をしている! 我が妃に気軽に触れるな! 雪乃は私の次に尊いのだぞ……いや、私以上に尊い! 不敬な者ども、これは厳しく罰を与えねば……!」
ぷりぷり怒りながら、龍王は雪乃を引き寄せ、両腕で大事そうに囲い込んだ。雪乃は頬を赤らめながら龍王の腕から抜け出そうとするが、しっかり抱きかかえられて身動きが取れない。
「龍王様、大丈夫ですよ。この方たちは寝不足なだけですって。ちょっと私に触れたいだけなんです」
「……ちょっとでも雪乃が減る! だめだ、だめだ。それに雪乃に触れて全員寝たら、朝餉の支度は誰がするんだい?」
「つっ……すまない。昨夜は初夜だったのに……」
気まずそうに視線を逸らす龍神の横顔は、どこか恐縮していて、少し反省しているように見える。その姿を可愛い、と雪乃は思った。
朝になると、早速茜がやって来て雪乃の世話を始めた。けれど龍神は、ひとりで着替えを済ませようとしている。
「私はひとりで何でもできますから、茜は龍神様のお世話をしてください」
思わず雪乃がそう言うと、茜は困ったように首を振った。
「龍王様は耳があまりにも良すぎるのです。人間界のざわめきや負の思念はもちろん、我ら龍の“心の声”さえ雑音として拾ってしまわれるほどで……。誰かが触れると、その雑音が増幅されて流れ込んでしまいます。だから龍王様は直に触れられるのを好まれません」
「まあ、それは難儀なことですね。でしたら私がお世話をします。だって昨晩は私のそばで、すやすやとお眠りになっていましたもの。もしかすると、私なら大丈夫なのではありませんか?」
「へ? 龍王様が眠ったんですか? ……ふわぁ、それは奇跡です! でしたら恐れ多いのですが、雪乃様に龍王様のお世話はお任せします。大変だわ、皆に伝えてこなければ……では失礼します!」
茜は勢いよくパタパタと走り去っていった。その日から雪乃は龍神の屋敷で働く者全員に、尊敬と驚きの目で見られることになるが、本人はまったく気づいていなかった。
雪乃は甲斐甲斐しく龍神の世話をし始めた。桶で洗顔用の湯を運び、着替えの手伝いをし、滑らかな銀髪を櫛で梳き、こまごまと動き回る。
そして厨房までやってきて、朝餉の支度までしようとするので、茜に止められた。
「ダメです! ここに奥方様がお越しになるなんていけません。食事の支度は龍王妃様のお仕事ではありません!」
「お願いです、手伝わせてください。ここにいて何のお役にも立てないことが辛いのです」
雪乃がそう言うと、茜は目を丸くして叫んだ。
「役に立たないわけありません! 雪乃様は龍王様にとって唯一無二ですよ! だって龍王様、ここ数百年ずっと寝不足だったんです。それが昨晩は雪乃様のおかげでぐっすり眠れて……もう、それだけで素晴らしい能力なんですから! あの……ちょっと私も抱きついてみていいですか?」
「えっ? どうぞ……」
小柄な茜がそっと雪乃の体に抱きついた。柔らかい体温が触れた瞬間、雪乃は思わず子どもをあやすみたいに茜の頭を撫でていた。
その途端、茜は目を閉じて、すやすやと寝入ってしまう。
「えっ、寝た? ……茜まで?」
「うぉー、私ら龍人は感覚が研ぎ澄まされている者が多いんで、大抵は多少なりとも寝不足なんですよ。人間界のざわつきも敏感に拾っちゃうから、どうしても雑音が入ってきてしまうんです」
厨房の料理人の一人がそう言うと、なぜか雪乃に抱きつこうとする者たちの列ができ始めた。
そこへ龍神が入ってきて、彼らを怒鳴りつける。
「こら! 何をしている! 我が妃に気軽に触れるな! 雪乃は私の次に尊いのだぞ……いや、私以上に尊い! 不敬な者ども、これは厳しく罰を与えねば……!」
ぷりぷり怒りながら、龍王は雪乃を引き寄せ、両腕で大事そうに囲い込んだ。雪乃は頬を赤らめながら龍王の腕から抜け出そうとするが、しっかり抱きかかえられて身動きが取れない。
「龍王様、大丈夫ですよ。この方たちは寝不足なだけですって。ちょっと私に触れたいだけなんです」
「……ちょっとでも雪乃が減る! だめだ、だめだ。それに雪乃に触れて全員寝たら、朝餉の支度は誰がするんだい?」
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