69 / 70
65 チャスとガスキンの処分
しおりを挟む
【レオン視点】
俺は広場の壇上から、眼下に並べられた罪人たちを見下ろした。
ざわついていた群衆も、俺が一歩前に出ただけで静まり返る。視線はすべて、俺に集中していた。チャスはまだ目を逸らしたままだ。アルトの作った氷の中に閉じ込められながら、顔をしかめている。
「チャス・レイフォード」
俺が名を呼ぶと、その場の空気がぴんと張りつめた。奴はぎこちなく顔を上げたが、その目にはもう、あの傲慢な光は残っていなかった。
「お前は王より預かった騎士団の権威を私物化し、その地位を使って民を裏切り、罪なき子供たちを金で売り飛ばした」
俺の声は、風に乗って広場の隅々にまで届く。それを遮る者はいない。息を呑むように、皆が耳を澄ませていた。
「お前の行いは、騎士である前に人として終わっている。いや、騎士の名を汚したという点で、外道の中でも最も卑劣だ」
チャスが小さく唇を動かすが、言葉になっていない。もう言い訳など、意味を成さないのだ。
俺はゆっくりと右手を掲げ、はっきりと宣言した。
「チャス・レイフォードに対し、王命のもと――公開処刑を命ずる!」
言葉が落ちた瞬間、どよめきと賛同の声が広場を揺らした。誰もがその裁きを待ち望んでいたのだ。民衆の怒りも、正義も、いまここに結実した。
チャス、これが、お前の結末だ。
自ら積み重ねてきた罪の重さ、骨の髄まで思い知れ!
【エルナ視点】
旦那様の声が広場に響いた瞬間、私は正義が勝った瞬間だと感動すらした。
「……公開処刑を命ずる!」
その言葉を、私は確かにこの耳で聞いた。
ざわめきが広場を駆け抜け、民衆たちの間に賛同の声と歓声があがった。孤児院で働いていた女性の証言にもあったように、子供たちが次々と姿を消していたのだ。真相が明らかになった今、民衆たちの怒りは凄まじかった。
私はチャスを見つめた。あの男は、うなだれたまま微動だにしない。茫然自失とはこのことか。あれが、かつて“正義”を掲げた騎士の末路なのだと思うと、喉の奥がひりついた。しかし、子供を“カボチャ”と呼び、無垢な命を数字で数えていたあの男に、もはや同情など不要だ。
氷が溶けた数日後、チャス騎士団長の公開処刑は滞りなく執行された。
そして同じ場で、ガスキン子爵もまた、同罪として処刑された。
領主として本来ならば、騎士団の不正を止める立場にありながら、それを見て見ぬふりをしていた――いいえ、利益の話を持ちかけられても断ったとはいえ、何も行動を起こさなかった。その責任はそれだけの重罪に値する。
ガスキン子爵が所持していた音晶石には、チャス騎士団長が孤児たちを奴隷売買が合法な他国へ売り飛ばす取引への参加を、子爵に持ちかける声がはっきりと記録されていたのだから。
俺は広場の壇上から、眼下に並べられた罪人たちを見下ろした。
ざわついていた群衆も、俺が一歩前に出ただけで静まり返る。視線はすべて、俺に集中していた。チャスはまだ目を逸らしたままだ。アルトの作った氷の中に閉じ込められながら、顔をしかめている。
「チャス・レイフォード」
俺が名を呼ぶと、その場の空気がぴんと張りつめた。奴はぎこちなく顔を上げたが、その目にはもう、あの傲慢な光は残っていなかった。
「お前は王より預かった騎士団の権威を私物化し、その地位を使って民を裏切り、罪なき子供たちを金で売り飛ばした」
俺の声は、風に乗って広場の隅々にまで届く。それを遮る者はいない。息を呑むように、皆が耳を澄ませていた。
「お前の行いは、騎士である前に人として終わっている。いや、騎士の名を汚したという点で、外道の中でも最も卑劣だ」
チャスが小さく唇を動かすが、言葉になっていない。もう言い訳など、意味を成さないのだ。
俺はゆっくりと右手を掲げ、はっきりと宣言した。
「チャス・レイフォードに対し、王命のもと――公開処刑を命ずる!」
言葉が落ちた瞬間、どよめきと賛同の声が広場を揺らした。誰もがその裁きを待ち望んでいたのだ。民衆の怒りも、正義も、いまここに結実した。
チャス、これが、お前の結末だ。
自ら積み重ねてきた罪の重さ、骨の髄まで思い知れ!
【エルナ視点】
旦那様の声が広場に響いた瞬間、私は正義が勝った瞬間だと感動すらした。
「……公開処刑を命ずる!」
その言葉を、私は確かにこの耳で聞いた。
ざわめきが広場を駆け抜け、民衆たちの間に賛同の声と歓声があがった。孤児院で働いていた女性の証言にもあったように、子供たちが次々と姿を消していたのだ。真相が明らかになった今、民衆たちの怒りは凄まじかった。
私はチャスを見つめた。あの男は、うなだれたまま微動だにしない。茫然自失とはこのことか。あれが、かつて“正義”を掲げた騎士の末路なのだと思うと、喉の奥がひりついた。しかし、子供を“カボチャ”と呼び、無垢な命を数字で数えていたあの男に、もはや同情など不要だ。
氷が溶けた数日後、チャス騎士団長の公開処刑は滞りなく執行された。
そして同じ場で、ガスキン子爵もまた、同罪として処刑された。
領主として本来ならば、騎士団の不正を止める立場にありながら、それを見て見ぬふりをしていた――いいえ、利益の話を持ちかけられても断ったとはいえ、何も行動を起こさなかった。その責任はそれだけの重罪に値する。
ガスキン子爵が所持していた音晶石には、チャス騎士団長が孤児たちを奴隷売買が合法な他国へ売り飛ばす取引への参加を、子爵に持ちかける声がはっきりと記録されていたのだから。
1,838
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
【完結】すり替えられた公爵令嬢
鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。
しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。
妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。
本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。
完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。
視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。
お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。
ロイズ王国
エレイン・フルール男爵令嬢 15歳
ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳
アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳
マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳
マルゲリーターの母 アマンダ・オルターナ
エレインたちの父親 シルベス・オルターナ
パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト
アルフレッドの側近
カシュー・イーシヤ 18歳
ダニエル・ウイロー 16歳
マシュー・イーシヤ 15歳
帝国
エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(前皇帝の姪)
キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹)
隣国ルタオー王国
バーバラ王女
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆小説家になろうにも投稿しています
【完結】結婚しておりませんけど?
との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」
「私も愛してるわ、イーサン」
真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。
しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。
盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。
だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。
「俺の苺ちゃんがあ〜」
「早い者勝ち」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\
R15は念の為・・
【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜
よどら文鳥
恋愛
ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。
ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。
同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。
ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。
あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。
だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。
ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。
【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです
よどら文鳥
恋愛
貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。
どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。
ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。
旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。
現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。
貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。
それすら理解せずに堂々と……。
仕方がありません。
旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。
ただし、平和的に叶えられるかは別です。
政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?
ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。
折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。
【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?
よどら文鳥
恋愛
デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。
予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。
「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」
「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」
シェリルは何も事情を聞かされていなかった。
「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」
どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。
「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」
「はーい」
同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。
シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。
だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる