(完)専属執事は私の恋人

青空一夏

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3 初夜に来なかった旦那様

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 顔合わせの日のドレスは淡いブルーにしました。アントニア家での出席はウェズリー様のお父様とお兄様とその奥様、ウェズリー様と専属侍女のエイプリルでした。

 私のほうはお父様が無理を押して車椅子で参加なさいました。どうしてもウェズリー様とその身内が見たい、とのことでした。

 和やかに会話が進んでいくなかで、ウェズリー様が誤ってワインをこぼしてしまいエイプリルのドレスにかかってしまいます。

「あ、ごめんよ。ワインが……」

「あぁ、いいんですよ。ウェズリー様のワインがかかるくらいどうってことはありません。ウェズリー様になら私はなにをされても嬉しいのですから」

 エイプリルが微笑みながら、ウェズリー様にワインがかからなくて良かったと微笑んでいました。


「アントニア家では、このような大事な場に侍女を同席する慣習があるのかね?」

 お父様は一瞬、顔をしかめると首を傾げました。

「も、申し訳ありません。エイプリルは乳母の子でして当家では特別扱いをしていたものですから……」

「ほぉ、特別ね……」

 お父様は曲がったことが嫌いなまっすぐな性格です。

「お父様、私が許可したのですよ。エイプリルは身内同然なのですって。私は気にしないわ」

 私は朗らかな口調で、その場を和ませようと必死です。

「申し訳ありません。私が出席するようにいいました。身内だけの会食と聞いてものですから……エイプリルは侍女ですが妹のような存在なので……すみません」

 ウェズリー様がお父様に堅い口調で謝罪します。

「私がいけないのです! ウェズリー様のおそばにいてお世話がしたかったものですから……お邪魔なようでしたら馬車のなかで待っていますので」

 エイプリルは泣きながらその場を立ち去り、あとには微妙な空気が残りました。

「侍女だからといって、なぜそれほど差別されなければならないのか私にはわかりません。エイプリルの母親は男爵家の三女です。貴族の血は入っています」

 ウェズリー様は悲しそうな瞳でおっしゃいます。なんと、使用人にお優しいのでしょう。私も差別は良くないと思っていますから、その点は賛成です。

 けれどお父様とギルバートは明らかに、ウェズリー様の言葉にムッとしているようです。そのあとの食事会はいっこうに盛り上がらず、ウェズリー様はエイプリルが気分が悪くなったとかで早々と帰ってしまいました。


☆彡★彡☆彡


「お嬢様! あれはやめたほうがいいです。専属侍女を同席させる? あり得ません。妹同然と言っても、戸籍上の妹ではありません。それを同席させる? 旦那様は身分がどうのという意味でおっしゃったのではない。この場にふさわしいかどうか……という意味でおっしゃったのに……あのでくの坊め……」

 ギルバートは私に辛辣な口調で言ってきます。

「ふっ。別にいいわよ。 エイプリルはそんなに悪い子じゃないと思うわ。だって、ウェズリー様が同席するようにっておっしゃったのでしょう? それなら、それでいいわよ」

「……私は反対です……もちろん、お決めになるのはお嬢様ですが……」

 そんなに気にすることないのに……そんなことより最近の日照りのほうがよっぽど気になるわ。このまま雨が降らないと作物がダメになってしまう。私はウェズリー様のことよりも、今は領地のことで頭がいっぱいなのでした。


 結婚式当日は純白のドレスに身を包み、身内だけの小さな式にしました。大がかりなものにしますと準備期間がかかりすぎて、お父様に見ていただくことができないかもしれないからです。

 お父様はとても喜んで祝福してくださいました。

 その夜のことです。初夜ということで侍女達は私を磨き上げ、皆が薔薇のように美しいと褒め称えますが、肝心の旦那様が寝室にいらっしゃいません。

 夫婦の寝室はお互いの部屋を挟んだ真ん中に位置していますが、お互いの部屋にもベッドは備え付けられています。自室のベッドで寝ているのかと思い、彼の部屋のドアをノックしましたが、なんの反応もありませんでした。

 結局その夜に旦那様は訪れることはなく、私はいつの間にか寝入ってしまいました。


☆彡★彡☆彡 



 夜が明けて、侍女が寝室をノックし私の世話をはじめます。

「旦那様は、いっらっしゃってないのですね? 初夜だというのに!」

「えぇ、そのようね? ウェズリー様は、どこで寝たのかしら? 自室をノックしても反応がなかったけれど」

 私は寝室の右の部屋を指し示しました。

「……あの専属侍女のエイプリルの持病がでたとかで、様子を見に行ってそのままかと……」

 侍女のナターシャは怒りに声を震わせました。

「持病もちの侍女を連れてくること自体がおかしな話です。侍女はご主人様のお世話をする為にいるのですよ? これでは逆です!」

 マリーアンも不満を爆発させております。

「まぁ、いいじゃないの? そんなに怒ることでもないわ」

 私は、身支度を調え食堂に向かいました。そこでは当主の席にウェズリー様が座り、その隣にはエイプリルの姿があり、楽しげに笑い合う声が聞こえたのでした。 
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