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8 実は両親に愛されていた私
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「実は私がレオナード王太子殿下に質問をしたあの日、すぐに王家から私を差し出すようにジュベール侯爵家へ使者がきました。
「なんの為に?」
「躾のいきとどいていない私を再教育する為だそうです。ですが、奥様がおっしゃるには、そう言われて王家に向かった者は、誰も二度と戻ってくることはなかったそうです。なので奥様は急遽、私が嫁ぐ為に辞めたと、そう王家に伝えました。もうジュベール侯爵家の侍女でなくなれば、王家で再教育する必要もありませんからね」
アデラインはルコント王国とブリュボン帝国の、ちょうど国境のあたりに設立されたセント・ニコライ修道院に身を潜めていたという。その修道院はブリュボン帝国の保護下に置かれており、荒廃した土地で作物はほとんど育たないけれど、帝国からの物資の援助も厚く、修道院内も清潔で安全だということだった。
「私があの日、お屋敷を立ち去るときに、『あの王妃殿下の気性だと、いずれステファニーの身にもなにかがおこりそうだ。その時にはお前に託すので頼むぞ』と、そう旦那様はおっしゃいました」
アデラインは涙ながらにそう教えてくれた。
「うそ。私はお父様とお母様に本当は愛されていたの?」
「さようでございます。私もあの時初めてわかったのです。ジュベール侯爵夫妻はステファニーお嬢様をなによりも大切に思っていらっしゃいます」
私はその言葉がまだ信じられない。だって私があのパーティで責められたときに、少しもかばってくれなかったし、家を追い出された時は目も合わせてくれなかったもの。
考え込んでいたところで、アデラインの大胆な行動が私を圧倒した。彼女は私が乗ってきた馬車に飛び乗り崖に向かって勢いよく走らせる。そして馬車が崖に落ちていく寸前のところで、地上に鮮やかに降り立ったのよ。
「アデラインって、すごいのね。そのようなことができるなんて知らなかったわ」
「私はステファニーお嬢様の護衛も兼ねられるよう特殊な訓練を受けておりました。さぁ、セント・ニコライ修道院に参りましょう」
私は言われるがまま、アデラインが乗ってきた馬車に乗り込み、また夜通し馬車は走り続けた。もちろん合間には馬を取り替え、馬車のメンテナンスも忘れない。
そうしてやっと着いた、その国境沿いの地は確かに荒廃していた。枯れ木が目立ち、野の花のひとつも咲いていない寒々しい光景だったが、気候そのものはむしろ蒸し暑いぐらいだった。
セント・ニコライ修道院に着いてから荷ほどきをして、私はアデラインの言ったことが嘘ではないとわかった。トランクの中には私の宝石だけではなく、お母様の宝石もあったのよ。服は日常的に着られる簡素なものから、お洒落なワンピースまで揃えてあった。夜会用のドレスは売るようにとメモがつけられ、高く買い取ってくれる店の名前と場所まで書いてあった。
その中には手紙もあって、それはお母様の思いを綴った手紙だった。
愛するステファニーへ
ルコント王国ではステファニーは幸せにはなれないわ。ですから、旦那様と話し合ってあなたをアデラインに託します。セント・ニコライ修道院に行き、しばらくはそこにいなさい。宝石やドレスは必要に応じて売り、生活の基盤を整えるのです。ジュベール侯爵家には二度と戻ってきてはなりません。使用人のなかにはキャサリン王妃殿下側の人間が何人も紛れこんでいます。
可愛い私の娘ステファニー。あなたをずっと愛しています。
「おっ、お母さまぁ、お母さまぁーー」
私はずっと誤解していた。お母様の厳しさに、すっかり嫌われていると思い込んでいた。けれど、思い返してみれば、私が着るドレスや宝石は厳選した上等な物ばかりだったし、食事は私の好きな物がさりげなくいつも出されていた。それに私が幼い頃していたリボンは、お母様がレース編みをした手作りだったことも思い出すと、実際は愛されていたことが納得できてしまうのよ。
「ステファニーお嬢様、奥様と旦那様にはきっといつの日かまた会えます。ですから、悲しまないでください。絶対に、大丈夫です」
アデラインは慰めてくれるけれど、もうきっと二度と会えないと思う。両親に愛されていたことがわかった私は嬉しい気持ちで満たされるけれど、そのあとなおさら悲しい気持ちになるわ。だってジュベール侯爵家には二度と帰れないのだから。
「なんの為に?」
「躾のいきとどいていない私を再教育する為だそうです。ですが、奥様がおっしゃるには、そう言われて王家に向かった者は、誰も二度と戻ってくることはなかったそうです。なので奥様は急遽、私が嫁ぐ為に辞めたと、そう王家に伝えました。もうジュベール侯爵家の侍女でなくなれば、王家で再教育する必要もありませんからね」
アデラインはルコント王国とブリュボン帝国の、ちょうど国境のあたりに設立されたセント・ニコライ修道院に身を潜めていたという。その修道院はブリュボン帝国の保護下に置かれており、荒廃した土地で作物はほとんど育たないけれど、帝国からの物資の援助も厚く、修道院内も清潔で安全だということだった。
「私があの日、お屋敷を立ち去るときに、『あの王妃殿下の気性だと、いずれステファニーの身にもなにかがおこりそうだ。その時にはお前に託すので頼むぞ』と、そう旦那様はおっしゃいました」
アデラインは涙ながらにそう教えてくれた。
「うそ。私はお父様とお母様に本当は愛されていたの?」
「さようでございます。私もあの時初めてわかったのです。ジュベール侯爵夫妻はステファニーお嬢様をなによりも大切に思っていらっしゃいます」
私はその言葉がまだ信じられない。だって私があのパーティで責められたときに、少しもかばってくれなかったし、家を追い出された時は目も合わせてくれなかったもの。
考え込んでいたところで、アデラインの大胆な行動が私を圧倒した。彼女は私が乗ってきた馬車に飛び乗り崖に向かって勢いよく走らせる。そして馬車が崖に落ちていく寸前のところで、地上に鮮やかに降り立ったのよ。
「アデラインって、すごいのね。そのようなことができるなんて知らなかったわ」
「私はステファニーお嬢様の護衛も兼ねられるよう特殊な訓練を受けておりました。さぁ、セント・ニコライ修道院に参りましょう」
私は言われるがまま、アデラインが乗ってきた馬車に乗り込み、また夜通し馬車は走り続けた。もちろん合間には馬を取り替え、馬車のメンテナンスも忘れない。
そうしてやっと着いた、その国境沿いの地は確かに荒廃していた。枯れ木が目立ち、野の花のひとつも咲いていない寒々しい光景だったが、気候そのものはむしろ蒸し暑いぐらいだった。
セント・ニコライ修道院に着いてから荷ほどきをして、私はアデラインの言ったことが嘘ではないとわかった。トランクの中には私の宝石だけではなく、お母様の宝石もあったのよ。服は日常的に着られる簡素なものから、お洒落なワンピースまで揃えてあった。夜会用のドレスは売るようにとメモがつけられ、高く買い取ってくれる店の名前と場所まで書いてあった。
その中には手紙もあって、それはお母様の思いを綴った手紙だった。
愛するステファニーへ
ルコント王国ではステファニーは幸せにはなれないわ。ですから、旦那様と話し合ってあなたをアデラインに託します。セント・ニコライ修道院に行き、しばらくはそこにいなさい。宝石やドレスは必要に応じて売り、生活の基盤を整えるのです。ジュベール侯爵家には二度と戻ってきてはなりません。使用人のなかにはキャサリン王妃殿下側の人間が何人も紛れこんでいます。
可愛い私の娘ステファニー。あなたをずっと愛しています。
「おっ、お母さまぁ、お母さまぁーー」
私はずっと誤解していた。お母様の厳しさに、すっかり嫌われていると思い込んでいた。けれど、思い返してみれば、私が着るドレスや宝石は厳選した上等な物ばかりだったし、食事は私の好きな物がさりげなくいつも出されていた。それに私が幼い頃していたリボンは、お母様がレース編みをした手作りだったことも思い出すと、実際は愛されていたことが納得できてしまうのよ。
「ステファニーお嬢様、奥様と旦那様にはきっといつの日かまた会えます。ですから、悲しまないでください。絶対に、大丈夫です」
アデラインは慰めてくれるけれど、もうきっと二度と会えないと思う。両親に愛されていたことがわかった私は嬉しい気持ちで満たされるけれど、そのあとなおさら悲しい気持ちになるわ。だってジュベール侯爵家には二度と帰れないのだから。
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