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プロローグ

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アイラ・ジャスミンは幼いながらに自分の容姿にコンプレックスを持っていた。

(なぜ私の身長は同じ年頃の男の子より頭一つ高いのだろうか? 手足も長く骨格もしっかりした私には女子が習い始める刺繍で使う小さな針より男子が剣術の稽古で使うトレーニングソードの方が似合うわ。)

兄のハリーが剣術の稽古を受け始めたのを見て、どうしてもそれがしたくてたまらなくなった自分にも驚いた。

「お父様、お願いです。私にも剣の指導を受けさせてください」
6歳の誕生日にそう願い出でて父アルフィーを驚愕させたアイラだ。

「アイラや。お前は女の子だ。ルワンガ国では女の子は編み物や刺繍をするのが普通だよ。女性は強くなくていいのだ。男性が守ってくれるからね」
アルフィーはアイラに言い含めるが幼いアイラは首を横に振った。
「いいえ、私は剣を習いたいです!」

さらに7歳の誕生日には魔法を習いたいと言いだし、またもや父アルフィーを驚愕させるアイラ。
「困った子だなぁ。女の子に剣や魔法は不要だ」
ため息をつく父親のアルフィーは呆れ、母親のルビーからは説教をされた。
「なんて外聞が悪いのかしら! 恥ずかしいことですわ。女が男のように剣や魔術を嗜むなど……」
ルビーはアイラをその頃から毛嫌いしたのである。

(こんな子を産んだ私は社交界では立場がないわ。そのぶん、リリーをなんとかしなければ……綺麗に可愛くそれこそ理想の女性に育てるわ)
ルビーは硬く心に誓ったのだった。

母親のルビーにとってリリーは自分の理想どおりに育つ金の卵であり、アイラは悪評を招く疫病神なのだった。

このルワンガ国では女性の価値は女らしさにある。小柄で華奢、刺繍や編み物が得意な可愛らしい女性が美の基準でもあったのだ。
アイラは自分の容姿がこの国の美の基準とはかけ離れていることはわかっていた。


(私に白馬の王子様なんていないわ。だって、こんなに背が高くて手足が長いのだもの。だから恋なんて一生しないだろうなぁ)

アイラは着飾ることより書物を好み、屋敷の図書室の魔法書を読みあさるのがなによりも楽しかった。その中にはところどころ破れている古い書物があり、生涯の愛読書になったのである。それは多種の魔物についての辞典のようなものでそれぞれの弱点や魔物の階級などが記されていたのだ。

魔物の最上位にある者は竜種。その中でも最強なのが魔天竜。天を駆け火を吹き強靱な鱗で体を覆った最強の伝説級の魔物。恐ろしい生き物だが、その本に描かれている姿は実に優美だった。
「あなたは最高に綺麗ね。とても素敵だわ」
アイラはいつかこの魔天竜に会いたいと思うのだった。



そんなとき新しい庭師のハンスが雇われた。その息子のジャックは陽光にきらめく黄金の髪とエメラルドグリーンの瞳をもつおとぎ話の王子様のように美しかった。芸術の大家が渾身の想像力で作り上げた彫刻のように整った顔立ちは美の男神さながらに。アイラは雷が落ちたような衝撃を覚える。

アイラ、8歳。恋に落ちた瞬間だった。……これがアイラの初恋である。

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