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8 会議を仕切るエメラルド
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※エリアス侯爵視点
エリアス侯爵家は、実は厳しい問題を抱えていた。お人好しの父上が生前新たに起こした事業が、全く収益を上げてくれない。どれも破綻寸前で、ここまでつぎ込んだお金の回収もできないどころか、年々雪だるま式に借金が増えていたのだ。表向きはまだ体裁を保っていたが、ゴシップ誌や新聞では散々に叩かれていた。
私は庭園の桜を眺めながら、思わず暗い気持ちになった。癒やしになるはずの庭園もこの整然とした秩序を維持するのに、かなりのお金がかかっていることを思うとため息しかでない。
しかも、今日はそんな事業を任せている幹部達との会議の日だ。厄介な問題ばかりが増えていく事業に明るい展望はないが、幹部達は皆、この事業から撤退するのに反対意見だった。
しかし、彼らは約束の時間になっても、一向に私の執務室に現れない。日にちを間違えたのだろうか? 手帖をもう一度見なおしても、やはり今日の日に赤丸がしてあり、時間もあっている。
なぜ、現れない? おかしいなぁ? かなりの時間が過ぎているのに、呼び集めた5人のうちの、ひとりも来ない。執務室から廊下に出ると、サンディが6人分のカップを運びながら、通り過ぎるところだった。
「どこに行くのだ? お客様が来ているのかい?」
「はい、本日の会議に出席なさっている幹部の方々に、お茶をお持ちするところです」
「は? あいつらはいったいどこにいるのだ?」
「この廊下の突き当たりの会議室ですよ。旦那様のお茶も追加してお持ちしましょうか?」
「あぁ、頼む」
私は、長い間使っていなかった会議室に足早に向かった。その扉を開けて、目の前に広がる光景に驚きを禁じ得ない。深紅のドレス姿のエメラルドが、朝よりもさらにきらびやかな宝石を身につけて、会議を仕切っていたからだ。 楕円形のテーブルを囲んで座っている幹部達は、苦々しい顔をしながらエメラルドを睨み付けている。
「エメラルド! いったい、何をしているのだ!」
「あら、見てわかりませんか? 会議ですわ。旦那様も空いている席におかけくださいな。さて、皆様。さきほどの説明のように、儲からない怪しげな事業はすぐに中止しましょう。これは絶対命令ですわ」
「いや、それは愚策でしょう? 今までいくら、これらの事業に投資したと思っておいでですか? ここでやめたら、今までつぎ込んだお金が無駄になります」
エリアス商会を任せている5人の幹部達が、声をそろえて反対した。ここまではいつもの展開だった。私もこれらの事業からの撤退を提案するたびに、彼らから今までの投資が無駄になると文句をつけられてきたのだ。
「このままお金を注ぎ続けて、いつになったら儲かるのですか? 現状を鑑みれば儲かるどころか、詐欺だと訴えられる可能性の方が大いにあります。すでに一部のゴシップ誌では、エリアス侯爵家は詐欺商法をしている、と面白おかしく書いてあります」
「ゴシップ誌などいい加減なものですよ。あれらの商品は画期的で必ず売れるはずなのです。あともう少し宣伝したり改良すれば、きっと爆発的な人気商品になることでしょう」
「開発商品の一つに『永遠の若さのエリクサー』がありますわね? あれの成分を分析させたところ、ただの甘いジュースでした。永遠の若さを維持する秘密の果実は、普通のマンゴーとパイナップルと林檎のようですわね? なのに、なぜ材料の購入費があれほど高額なのですか? しかも誇大広告すぎて、虚偽広告行為による詐欺罪に該当します」
「嫁いできたばかりのエメラルド奥様に、なにがわかると言うのですか。私達が提出してきた帳簿を全部確認したとおっしゃっていますが、そもそも、そんなに贅沢に着飾った女に計算ができるのですか?」
ジョーセフがエメラルドに詰め寄った。
「この『深紅絹』は、私の実家のアドリオン男爵領の特産物です。要するに私は歩く広告塔ですわ。それと、人を見た目で軽率に判断するのは愚か者だけです。試しに思いついた数字を言ってご覧なさい。私がそれらを全て足した数を即座に答えましょう」
エメラルドが不敵な笑みを浮かべると、5人の幹部達もニヤリと笑ったのだった。
エリアス侯爵家は、実は厳しい問題を抱えていた。お人好しの父上が生前新たに起こした事業が、全く収益を上げてくれない。どれも破綻寸前で、ここまでつぎ込んだお金の回収もできないどころか、年々雪だるま式に借金が増えていたのだ。表向きはまだ体裁を保っていたが、ゴシップ誌や新聞では散々に叩かれていた。
私は庭園の桜を眺めながら、思わず暗い気持ちになった。癒やしになるはずの庭園もこの整然とした秩序を維持するのに、かなりのお金がかかっていることを思うとため息しかでない。
しかも、今日はそんな事業を任せている幹部達との会議の日だ。厄介な問題ばかりが増えていく事業に明るい展望はないが、幹部達は皆、この事業から撤退するのに反対意見だった。
しかし、彼らは約束の時間になっても、一向に私の執務室に現れない。日にちを間違えたのだろうか? 手帖をもう一度見なおしても、やはり今日の日に赤丸がしてあり、時間もあっている。
なぜ、現れない? おかしいなぁ? かなりの時間が過ぎているのに、呼び集めた5人のうちの、ひとりも来ない。執務室から廊下に出ると、サンディが6人分のカップを運びながら、通り過ぎるところだった。
「どこに行くのだ? お客様が来ているのかい?」
「はい、本日の会議に出席なさっている幹部の方々に、お茶をお持ちするところです」
「は? あいつらはいったいどこにいるのだ?」
「この廊下の突き当たりの会議室ですよ。旦那様のお茶も追加してお持ちしましょうか?」
「あぁ、頼む」
私は、長い間使っていなかった会議室に足早に向かった。その扉を開けて、目の前に広がる光景に驚きを禁じ得ない。深紅のドレス姿のエメラルドが、朝よりもさらにきらびやかな宝石を身につけて、会議を仕切っていたからだ。 楕円形のテーブルを囲んで座っている幹部達は、苦々しい顔をしながらエメラルドを睨み付けている。
「エメラルド! いったい、何をしているのだ!」
「あら、見てわかりませんか? 会議ですわ。旦那様も空いている席におかけくださいな。さて、皆様。さきほどの説明のように、儲からない怪しげな事業はすぐに中止しましょう。これは絶対命令ですわ」
「いや、それは愚策でしょう? 今までいくら、これらの事業に投資したと思っておいでですか? ここでやめたら、今までつぎ込んだお金が無駄になります」
エリアス商会を任せている5人の幹部達が、声をそろえて反対した。ここまではいつもの展開だった。私もこれらの事業からの撤退を提案するたびに、彼らから今までの投資が無駄になると文句をつけられてきたのだ。
「このままお金を注ぎ続けて、いつになったら儲かるのですか? 現状を鑑みれば儲かるどころか、詐欺だと訴えられる可能性の方が大いにあります。すでに一部のゴシップ誌では、エリアス侯爵家は詐欺商法をしている、と面白おかしく書いてあります」
「ゴシップ誌などいい加減なものですよ。あれらの商品は画期的で必ず売れるはずなのです。あともう少し宣伝したり改良すれば、きっと爆発的な人気商品になることでしょう」
「開発商品の一つに『永遠の若さのエリクサー』がありますわね? あれの成分を分析させたところ、ただの甘いジュースでした。永遠の若さを維持する秘密の果実は、普通のマンゴーとパイナップルと林檎のようですわね? なのに、なぜ材料の購入費があれほど高額なのですか? しかも誇大広告すぎて、虚偽広告行為による詐欺罪に該当します」
「嫁いできたばかりのエメラルド奥様に、なにがわかると言うのですか。私達が提出してきた帳簿を全部確認したとおっしゃっていますが、そもそも、そんなに贅沢に着飾った女に計算ができるのですか?」
ジョーセフがエメラルドに詰め寄った。
「この『深紅絹』は、私の実家のアドリオン男爵領の特産物です。要するに私は歩く広告塔ですわ。それと、人を見た目で軽率に判断するのは愚か者だけです。試しに思いついた数字を言ってご覧なさい。私がそれらを全て足した数を即座に答えましょう」
エメラルドが不敵な笑みを浮かべると、5人の幹部達もニヤリと笑ったのだった。
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