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書類にサインをして、ポリー様との専属契約が正式に成立した。前金が入金され、仕上がった際には残金が支払われる仕組みだ。私の取り分は、なんと全体の25%と記載されていた。
工房に勤務するデザイナーであれば、通常は10%前後が相場。経営者が儲け主義の場合、7~8%しかもらえないことも珍しくないというのに……。
「すみません、サンテリオ侯爵様。この数字、間違っていませんか?」
私は恐る恐る、侯爵様の顔を見上げた。
「ああ、サンテリオ服飾工房は、領主である私が直接経営に携わっているからね。先日も言った通り、優秀な人材を育てるのが私の務めだ。この地にずっと留まって、その才能を存分に発揮してもらうことが、サンテリオ侯爵領の発展にもつながる。だから、報酬は他の工房よりかなり優遇しているんだよ」
確かに、優秀な人材はより良い環境を求めて移ろうとする。受け入れてくれる場所はいくらでもあるだろうし、悪い条件で働く人はいない。
(それにしても……大金だわ。工房から固定のお給料ももらえる上に、担当したドレスの取り分まで設定されている――それも全体の25%!)
契約書はいくつもあり、手続きにはかなり時間がかかった。私が今回デザインしたものは、基本的にサンテリオ服飾工房の所有になる。ポリー様が同じデザインの服を作りたい場合も、この工房にしか頼めない。さらに、私自身がサンテリオ服飾工房を辞めて他で働く場合には、同じデザインを作らないことも契約書に明記されていた。
それが一段落すると、もうお昼を少し過ぎていた。私は急いでリーベン洋食店に向かう。サンテリオ服飾工房の前の大通りの角。お店はすぐに見つけられた。
店内に入ると、カエリンさんが、にこにこと手を振った。
「マリアさん、こっちよぉ――! 私の隣に座って!」
10人以上が座れる大きなテーブルには、サンテリオ服飾工房の仲間たちの姿が揃っていた。
「いいタイミングだわ! 私たち、ちょうど料理を注文したばかりだったのよ。ここの日替わり定食は美味しくてお得よ。マリアさんも、それにする?」
カエリンさんがメニューを指し示す。私がうなずくと、別の子がすぐに店員を呼び、注文を済ませてくれた。
ほどなくして、日替わり定食が運ばれてきた。ボリュームがあって、とても美味しそうだ。それに、値段も手頃だった。 私たちは笑い声を交えながら、わいわいと昼食を楽しんだ。
「マリアさん、すごいよね。一日目で専属デザイナーに選ばれるなんて! ポリー様はサンテリオ服飾工房のお得意様だけど、なかなかデザインが決まらないことが多いのよ」
「そうそう。それに、けっこう気難しいのよ。ドレスが仕上がっても、よく手直しをさせられるのに……。あんなに上機嫌で、マリアさんを専属に即決するなんて、奇跡みたいだわ」
ひとしきり先ほどの出来事について話した後は、他愛のないおしゃべりでテーブルがさらに盛り上がった。
午後、サンテリオ服飾工房に戻ると、先ほどのアトリエとは別の部屋で、注文を受けたドレスの制作を始めた。
トルソーの前に立ち、私は森の妖精を思わせる淡い黄緑――まるで新緑の葉が朝日に透けるような、柔らかなパステルグリーンの布をそっと巻き付けていく。
薄手で軽やかな生地は、指先の動きに沿ってふわりと波打ち、まるで風に揺れる森の葉のようだ。
胸元には複雑に布を重ね鎖骨がかすかに覗く程度にしながらも、生地の持つ軽やかさと優雅な質感が際立つように調整した。取り外し可能な袖やウエストリボンも、イメージに合わせてざっと形を整える。
みんなが息をのんで見守る。布が巻かれるごとに形を成し、ドレスに立体感が生まれるたびに、小さな拍手が自然と部屋に響いた。
「わぁ……本当に妖精が纏うドレスに見えるわぁ……!」
カエリンさんが、感心したようなため息を漏らす。
このサンテリオ工房では、実際縫い合わせてドレスを仕上げるのは、裁縫だけを担当する熟練スタッフなので、私の仕事はここまで。
作業が一段落した後、午前中にいたアトリエに戻ると、また次の注文者が現れた。今度のお客様は可愛らしい少女で、 オーブリー・ヘバーン伯爵令嬢だと紹介された。後ろには侍女が付き添っていて、より華やかな服装の女性はへバーン伯爵夫人だとのこと。ヘバーン伯爵令嬢は「友人のお茶会に着ていきたいドレスなの」と可愛い声で教えてくれた。
「さぁ、みんなそれぞれスケッチを始めてくれ。ヘバーン伯爵令嬢は自由にデザイン画を見て回って。気に入ったものがあったら教えてほしい」
そうおっしゃったサンテリオ侯爵様に、少女は嬉しそうにうなずいた。
私が思い描いたのは、淡いピンクを基調にした、ちょっと変わったお茶会用のドレスだった。
胸元には控えめなリボンをあしらい、裾には小花が咲き乱れる刺繍を、波のような曲線に沿って施す。花の色は淡いピンクを基調にしつつ、ところどころにクリームやサーモン色を混ぜた。
半袖には透け感のあるチュールを重ね、腕の動きに合わせてふわりと揺れる仕掛け。背中の一部には淡いブルーの布を差し込み、後ろ姿にも目を引くアクセントを添える。
後ろリボンに小花のチャームを忍ばせ、端には透け感のある布を重ねて、座ったときにも可愛らしさがさりげなく映えるように描くと・・・・・・
ヘバーン伯爵令嬢が私のデザイン画を覗き込んで「これよ!」 と叫んだ。
工房に勤務するデザイナーであれば、通常は10%前後が相場。経営者が儲け主義の場合、7~8%しかもらえないことも珍しくないというのに……。
「すみません、サンテリオ侯爵様。この数字、間違っていませんか?」
私は恐る恐る、侯爵様の顔を見上げた。
「ああ、サンテリオ服飾工房は、領主である私が直接経営に携わっているからね。先日も言った通り、優秀な人材を育てるのが私の務めだ。この地にずっと留まって、その才能を存分に発揮してもらうことが、サンテリオ侯爵領の発展にもつながる。だから、報酬は他の工房よりかなり優遇しているんだよ」
確かに、優秀な人材はより良い環境を求めて移ろうとする。受け入れてくれる場所はいくらでもあるだろうし、悪い条件で働く人はいない。
(それにしても……大金だわ。工房から固定のお給料ももらえる上に、担当したドレスの取り分まで設定されている――それも全体の25%!)
契約書はいくつもあり、手続きにはかなり時間がかかった。私が今回デザインしたものは、基本的にサンテリオ服飾工房の所有になる。ポリー様が同じデザインの服を作りたい場合も、この工房にしか頼めない。さらに、私自身がサンテリオ服飾工房を辞めて他で働く場合には、同じデザインを作らないことも契約書に明記されていた。
それが一段落すると、もうお昼を少し過ぎていた。私は急いでリーベン洋食店に向かう。サンテリオ服飾工房の前の大通りの角。お店はすぐに見つけられた。
店内に入ると、カエリンさんが、にこにこと手を振った。
「マリアさん、こっちよぉ――! 私の隣に座って!」
10人以上が座れる大きなテーブルには、サンテリオ服飾工房の仲間たちの姿が揃っていた。
「いいタイミングだわ! 私たち、ちょうど料理を注文したばかりだったのよ。ここの日替わり定食は美味しくてお得よ。マリアさんも、それにする?」
カエリンさんがメニューを指し示す。私がうなずくと、別の子がすぐに店員を呼び、注文を済ませてくれた。
ほどなくして、日替わり定食が運ばれてきた。ボリュームがあって、とても美味しそうだ。それに、値段も手頃だった。 私たちは笑い声を交えながら、わいわいと昼食を楽しんだ。
「マリアさん、すごいよね。一日目で専属デザイナーに選ばれるなんて! ポリー様はサンテリオ服飾工房のお得意様だけど、なかなかデザインが決まらないことが多いのよ」
「そうそう。それに、けっこう気難しいのよ。ドレスが仕上がっても、よく手直しをさせられるのに……。あんなに上機嫌で、マリアさんを専属に即決するなんて、奇跡みたいだわ」
ひとしきり先ほどの出来事について話した後は、他愛のないおしゃべりでテーブルがさらに盛り上がった。
午後、サンテリオ服飾工房に戻ると、先ほどのアトリエとは別の部屋で、注文を受けたドレスの制作を始めた。
トルソーの前に立ち、私は森の妖精を思わせる淡い黄緑――まるで新緑の葉が朝日に透けるような、柔らかなパステルグリーンの布をそっと巻き付けていく。
薄手で軽やかな生地は、指先の動きに沿ってふわりと波打ち、まるで風に揺れる森の葉のようだ。
胸元には複雑に布を重ね鎖骨がかすかに覗く程度にしながらも、生地の持つ軽やかさと優雅な質感が際立つように調整した。取り外し可能な袖やウエストリボンも、イメージに合わせてざっと形を整える。
みんなが息をのんで見守る。布が巻かれるごとに形を成し、ドレスに立体感が生まれるたびに、小さな拍手が自然と部屋に響いた。
「わぁ……本当に妖精が纏うドレスに見えるわぁ……!」
カエリンさんが、感心したようなため息を漏らす。
このサンテリオ工房では、実際縫い合わせてドレスを仕上げるのは、裁縫だけを担当する熟練スタッフなので、私の仕事はここまで。
作業が一段落した後、午前中にいたアトリエに戻ると、また次の注文者が現れた。今度のお客様は可愛らしい少女で、 オーブリー・ヘバーン伯爵令嬢だと紹介された。後ろには侍女が付き添っていて、より華やかな服装の女性はへバーン伯爵夫人だとのこと。ヘバーン伯爵令嬢は「友人のお茶会に着ていきたいドレスなの」と可愛い声で教えてくれた。
「さぁ、みんなそれぞれスケッチを始めてくれ。ヘバーン伯爵令嬢は自由にデザイン画を見て回って。気に入ったものがあったら教えてほしい」
そうおっしゃったサンテリオ侯爵様に、少女は嬉しそうにうなずいた。
私が思い描いたのは、淡いピンクを基調にした、ちょっと変わったお茶会用のドレスだった。
胸元には控えめなリボンをあしらい、裾には小花が咲き乱れる刺繍を、波のような曲線に沿って施す。花の色は淡いピンクを基調にしつつ、ところどころにクリームやサーモン色を混ぜた。
半袖には透け感のあるチュールを重ね、腕の動きに合わせてふわりと揺れる仕掛け。背中の一部には淡いブルーの布を差し込み、後ろ姿にも目を引くアクセントを添える。
後ろリボンに小花のチャームを忍ばせ、端には透け感のある布を重ねて、座ったときにも可愛らしさがさりげなく映えるように描くと・・・・・・
ヘバーン伯爵令嬢が私のデザイン画を覗き込んで「これよ!」 と叫んだ。
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