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すると、国王陛下がすっと席を立ち、ソフィアの罪を次々と上げていく。
「泳げないと知っていて突き飛ばし、 その結果マリアが風邪をひいたのならば、罪としては暴行致傷だな。サンテリオ服飾工房のエントランスホールで騒いだ件は、威力業務妨害罪。それから恐喝、窃盗、ドレスの盗作は王国法における意匠盗用か……随分と たくさんの罪を犯したものだ」
ソフィアは顔面蒼白になり、どうにか罪を逃れようとして、こちらへすがるような目を向けてきた。レオナード様も同じだ。助けを乞うような表情で私を見ている。けれど、私はこの二人に同情する気にはなれなかったし、助けるつもりもない。そもそもドレスの盗作については、私に助ける権限すらない。被害を被ったのは、サンテリオ服飾工房とウィルミントン侯爵夫人なのだから。
その予想通り、サンテリオ侯爵様がよく通る声で口を開いた。
「サンテリオ服飾工房は、ソフィアおよびレオナードに対し損害賠償を請求する! あのような粗悪な模造品を作られたことで、我が工房の名は著しく傷つきましたからね」
「私も本来の注文者として、当然ながら損害賠償を請求いたしますわ。一点物として仕立てさせたドレスの価値が台無しになりましたし、模造品が出回ったドレスを着てパーティーに出席した汚点が残りました。私の精神的苦痛は、はかりしれませんわ!」
ウィルミントン侯爵夫人は、珍しく語気を強めて不快感をあらわにした。
( それはそうよね。 社交界の重鎮で影響力があるウィルミントン侯爵夫人がパーティーで纏ったドレスが、ソフィアのせいで量産品のドレスに貶められたのですもの)
「なっ、なんでそんなに深刻な罪になるのよ! お姉ちゃんを湖に突き落としたのは、ちょっと悪かったかもしれないけど……風邪をひいただけでしょ? そんなの子供のいたずらとか、姉妹喧嘩の延長でよくあることです。それに、サンテリオ服飾工房で騒いだのは、ただお姉ちゃんに会いたかっただけよ。恐喝って言われても、お姉ちゃんが1銅貨もくれそうになかったから、ちょっと怒っただけだし……窃盗だって、お姉ちゃんの鞄を借りただけです! あのデザイン画も、まだ発表前の落書き程度のものだと思ったから、私がもらっただけ。そこの貴族のおばさんも、模造品が出回った程度で精神的苦痛って……おおげさなのよっ!」
「……ソフィアには、もう呆れるしかないわ。何ひとつ反省しようともしないあなたは、ちゃんと罪を償うべきよ」
私はあまりにも身勝手な言い訳を聞かされ続け、ついに堪忍袋の緒が切れた。ずっと持ち歩いていた魔導録音機をポケットから取り出し、ためらいなく再生ボタンを押す。その瞬間、ソフィアと両親の声が、鮮明な音としてコロッセウムに響き渡った。
「利用されるなんて、 そんな人聞きの悪いこと言わないでよ。『 お姉ちゃん』なんだから親や妹を助けるのは当たり前でしょ」
「『助ける』とは、具体的にどういうことを指しているのかしら?」
「そんなのわかりきったことじゃないの! お金よ、お金を私たちに渡しなさい。もらうまでは諦めないわよ。 親子の縁を簡単に切れるなんて思わないで」
「私がお金をあげなかったら、どうするつもりですか?」
「もちろん、どこまでもつきまとうわよ! またサンテリオ服飾工房に行って、マリアがどれほど薄情な娘かを大声でわめき散らしてやるわ。あそこに出入りするお客様、全員に言いふらしてやるんだから!」
「そうだとも! それほど成功したんだから、俺たちをいくらでも養えるだろう? あぁ、そうだ! ……パン屋を開くのは諦めるよ。ただ、住みやすくてきれいな広い家と、毎日美味しい物が食べられるだけでいいんだ。マリアにとっては簡単なことだろう?」
「それ、賛成だわ。父さん、いいこと言うじゃない。パン屋なんてやったって大変なだけだもの。お姉ちゃん、私も快適な家に住ませてくれて、美味しいものが食べられるだけで十分よ。あと、たまにドレスを作ってくれれば上等。あ、お小遣いもよろしくね。お姉ちゃんにとっては、どうってことないでしょう?」
国王陛下は、険しい面持ちのまま録音された声に耳を傾けていた。広いコロッセウムの空気が、一瞬で張り詰める。観客たちは息をひそめ、次に語られる裁きの言葉を待つかのように沈黙した。やがて、国王陛下の眉間には深い怒りの皺が刻まれ、氷のように静かで揺らぎのない声が発せられた。
「……ふむ。先ほどのソフィアの発言といい、この録音内容といい、何とも己の欲望ばかりを正当化しようとする傲慢な理屈。もしこれがまかり通るのならば、この王国において何を為そうとも罪には問われず、秩序は音を立てて崩壊するであろう」
国王陛下の厳かな声が、石造りの観客席の隅々にまで響き渡る。
「……ソフィアには反省の色は微塵も見られぬ。よって、後日、王都中央広場にて鞭打ち刑に処し、その後は賠償金を完済するまで、王国管理下の労役場にて働かせるものとする。己が罪を、己が身をもって知るがよい!」
ソフィアにとって、かなり厳しい宣告が降りた。一拍の静寂ののち、観客席がどっとどよめきに包まれる。
「出た! 国王陛下のお裁きだ!」
「当然だ! あれだけ好き勝手な屁理屈が通るもんかい!」
「ざまあみろ、性悪女が!」
「王国法は甘くないってことだな!」
賞賛とも喝采ともつかぬ歓声が、コロッセウムに反響した。中には「陛下万歳!」「見事な断罪でございます!」と叫ぶ者までいる。
その渦の中心で、ソフィアの顔は血の気を失い、今にも倒れそうに膝を震わせていたのだった。一方、レオナード様は……
「泳げないと知っていて突き飛ばし、 その結果マリアが風邪をひいたのならば、罪としては暴行致傷だな。サンテリオ服飾工房のエントランスホールで騒いだ件は、威力業務妨害罪。それから恐喝、窃盗、ドレスの盗作は王国法における意匠盗用か……随分と たくさんの罪を犯したものだ」
ソフィアは顔面蒼白になり、どうにか罪を逃れようとして、こちらへすがるような目を向けてきた。レオナード様も同じだ。助けを乞うような表情で私を見ている。けれど、私はこの二人に同情する気にはなれなかったし、助けるつもりもない。そもそもドレスの盗作については、私に助ける権限すらない。被害を被ったのは、サンテリオ服飾工房とウィルミントン侯爵夫人なのだから。
その予想通り、サンテリオ侯爵様がよく通る声で口を開いた。
「サンテリオ服飾工房は、ソフィアおよびレオナードに対し損害賠償を請求する! あのような粗悪な模造品を作られたことで、我が工房の名は著しく傷つきましたからね」
「私も本来の注文者として、当然ながら損害賠償を請求いたしますわ。一点物として仕立てさせたドレスの価値が台無しになりましたし、模造品が出回ったドレスを着てパーティーに出席した汚点が残りました。私の精神的苦痛は、はかりしれませんわ!」
ウィルミントン侯爵夫人は、珍しく語気を強めて不快感をあらわにした。
( それはそうよね。 社交界の重鎮で影響力があるウィルミントン侯爵夫人がパーティーで纏ったドレスが、ソフィアのせいで量産品のドレスに貶められたのですもの)
「なっ、なんでそんなに深刻な罪になるのよ! お姉ちゃんを湖に突き落としたのは、ちょっと悪かったかもしれないけど……風邪をひいただけでしょ? そんなの子供のいたずらとか、姉妹喧嘩の延長でよくあることです。それに、サンテリオ服飾工房で騒いだのは、ただお姉ちゃんに会いたかっただけよ。恐喝って言われても、お姉ちゃんが1銅貨もくれそうになかったから、ちょっと怒っただけだし……窃盗だって、お姉ちゃんの鞄を借りただけです! あのデザイン画も、まだ発表前の落書き程度のものだと思ったから、私がもらっただけ。そこの貴族のおばさんも、模造品が出回った程度で精神的苦痛って……おおげさなのよっ!」
「……ソフィアには、もう呆れるしかないわ。何ひとつ反省しようともしないあなたは、ちゃんと罪を償うべきよ」
私はあまりにも身勝手な言い訳を聞かされ続け、ついに堪忍袋の緒が切れた。ずっと持ち歩いていた魔導録音機をポケットから取り出し、ためらいなく再生ボタンを押す。その瞬間、ソフィアと両親の声が、鮮明な音としてコロッセウムに響き渡った。
「利用されるなんて、 そんな人聞きの悪いこと言わないでよ。『 お姉ちゃん』なんだから親や妹を助けるのは当たり前でしょ」
「『助ける』とは、具体的にどういうことを指しているのかしら?」
「そんなのわかりきったことじゃないの! お金よ、お金を私たちに渡しなさい。もらうまでは諦めないわよ。 親子の縁を簡単に切れるなんて思わないで」
「私がお金をあげなかったら、どうするつもりですか?」
「もちろん、どこまでもつきまとうわよ! またサンテリオ服飾工房に行って、マリアがどれほど薄情な娘かを大声でわめき散らしてやるわ。あそこに出入りするお客様、全員に言いふらしてやるんだから!」
「そうだとも! それほど成功したんだから、俺たちをいくらでも養えるだろう? あぁ、そうだ! ……パン屋を開くのは諦めるよ。ただ、住みやすくてきれいな広い家と、毎日美味しい物が食べられるだけでいいんだ。マリアにとっては簡単なことだろう?」
「それ、賛成だわ。父さん、いいこと言うじゃない。パン屋なんてやったって大変なだけだもの。お姉ちゃん、私も快適な家に住ませてくれて、美味しいものが食べられるだけで十分よ。あと、たまにドレスを作ってくれれば上等。あ、お小遣いもよろしくね。お姉ちゃんにとっては、どうってことないでしょう?」
国王陛下は、険しい面持ちのまま録音された声に耳を傾けていた。広いコロッセウムの空気が、一瞬で張り詰める。観客たちは息をひそめ、次に語られる裁きの言葉を待つかのように沈黙した。やがて、国王陛下の眉間には深い怒りの皺が刻まれ、氷のように静かで揺らぎのない声が発せられた。
「……ふむ。先ほどのソフィアの発言といい、この録音内容といい、何とも己の欲望ばかりを正当化しようとする傲慢な理屈。もしこれがまかり通るのならば、この王国において何を為そうとも罪には問われず、秩序は音を立てて崩壊するであろう」
国王陛下の厳かな声が、石造りの観客席の隅々にまで響き渡る。
「……ソフィアには反省の色は微塵も見られぬ。よって、後日、王都中央広場にて鞭打ち刑に処し、その後は賠償金を完済するまで、王国管理下の労役場にて働かせるものとする。己が罪を、己が身をもって知るがよい!」
ソフィアにとって、かなり厳しい宣告が降りた。一拍の静寂ののち、観客席がどっとどよめきに包まれる。
「出た! 国王陛下のお裁きだ!」
「当然だ! あれだけ好き勝手な屁理屈が通るもんかい!」
「ざまあみろ、性悪女が!」
「王国法は甘くないってことだな!」
賞賛とも喝采ともつかぬ歓声が、コロッセウムに反響した。中には「陛下万歳!」「見事な断罪でございます!」と叫ぶ者までいる。
その渦の中心で、ソフィアの顔は血の気を失い、今にも倒れそうに膝を震わせていたのだった。一方、レオナード様は……
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