(完)僕は醜すぎて愛せないでしょう? と俯く夫。まさか、貴男はむしろイケメン最高じゃないの!

青空一夏

文字の大きさ
2 / 9

2 怪物君かぁ、なんて楽しみなのかしら!

しおりを挟む
今日はフローレンスがリッチ候爵家に初めて訪問する日だった。顔合わせに両親と出向くのだが、通常は男性側が女性側の屋敷を訪問するのに今回は逆なのね。

「全く、リッチ候爵家が大金持ちでもなければ同じ候爵家! こちらが出向くこともないのだがな!」
お父様はプライドが傷ついたようにブツブツと文句をおっしゃっていた。

「どうせ借金を払ってもらうのでしょう? こちらはお願いする立場ですわ。出向くのは当たり前じゃぁありませんか?」
私はサロンで刺繍をしながらお父様を窘めた。借金を肩代わりしてもらうつもりならこちらは同じ候爵家でも同等なわけがない。

前世でもお金をもらうって大変なことだった。夏休みは家事と妹弟の世話の合間にコンビニバイトしていたけれど、あれは超大変だったもの。なにしろ、肉まん類を蒸かしおでんを仕込み揚げ物を並べ、宅急便の手配に品出しもしながらのレジ打ち! それで時給はたったの・・・・・・。

ーー恐ろしいくらいの借金を払ってもらうポピンズ候爵家がリッチ候爵家に文句を言えた義理ではないわ。

お父様は何度も瞼をしばたたかせて私を見つめていらっしゃる。
「目薬をさしたほうがいいわ、お父様。そんなに目をギョロギョロさせたら人相が悪くていけません! リッチ家に縁談を断られてしまいますよ?」

「バカ者! エリーゼ、お前を睨んでおるんだ! 耳に痛いことばかり言いおって」

「? なんで怒っていらっしゃるのかしら? 血圧が上がって倒れてしまいますわよ? アーロン、お父様に目薬と血圧の薬を持ってきてあげて!」
私を長年仕えてくれている老執事アーロンに命令した。

「かしこまりました、お嬢様。ちょっとお待ちくださいませ」
アーロンは笑いをかみ殺しながら薬と水を持ってくるのだった。





「お姉様、綺麗なクリーム色のドレスを持っていらっしゃったわよね? 貸してもらっていい?」
今度は妹が私にねだり始める。

「あら、いいわよ。どうぞ、持っていって。一緒に私のお部屋に行きましょう。・・・・・・そうだわ、この首飾りも一緒につけるといいわ。ほら、つけてみて! まぁ、蜂蜜色の髪によく似合うわねぇーー。なんて可愛いのかしらぁ」
私は自分の部屋に招き入れたフローレンスにクリーム色のドレスを着せ惚れ惚れと見入った。

「そうでしょう? 私の方がお姉様よりずっと似合いますわ!」
小鼻をピクピクさせて自慢げに胸を張るフローレンス。

「そうね! その通りだわ。可愛いったらないわねーー。そのお鼻のピクピクするところなんてふわふわした蜂蜜色のネザーランドドワーフそのものよ! 一度、飼ってみたかったからとても満足よ」
私はそう言いながらギュッと妹を抱きしめた。

「ちょっ、ちょっと、お姉様! いつも本当にわけがわからないですわ。私はウサギじゃないですっ! もう結婚もできる立派なレディなんだからぁ~~」

「うふふ。いいじゃないのぉ。お姉様の前ではネザーランドドワーフでいなさいよ。その髪は少し艶が足りないわねぇ。ちょっとここに座って!」
私はローズオイルをほんの数滴手にたらし揉み込んで、フローレンスの髪に毛先を中心につけてあげた。

「うん、とても綺麗に艶々になったわ。この髪は結うのかしら? どんな髪型にする? お姉様がやってあげましょうか?」

「結構です! お姉様より侍女にしてもらいますわ。ふん!」
トコトコと小柄なウサギが駆け出すように去って行く妹を名残惜しく見守っていた私。

――あの髪をふんわりとハーフアップにしてリボンをつけるだけで可愛いのになぁ。編み込みにしても素敵なのに・・・・・・あぁ、フローレンスの髪を結いたいわぁ~~

日本で高校生だった私の夢は美容師だった。手先が器用なこともあり、複雑な髪型などでも雑誌のお手本を見ただけで難なく再現することができた。

美容師になりたかったな。カリスマ美容師ってやつよ。ここでは美容院というものはなく全て侍女達がやってくれるけれど、侍女ができる髪型はそれほどレパートリーは多くない。美容師という職業はこの世界ではまだないようだった。

10分後、泣きはらしたフローレンスが私の部屋に飛び込んで来た。
「お姉様、侍女がこんな髪型にしたけれど全然私に似合わないわ! やっぱりお姉様がやってよ!」

「あら、まぁーー。あっははは。それじゃぁ、ちょんまげじゃない? 今はポニーテールが流行っているとはいえ、なんでそんなにカチカチに固めておでこまで丸出し。バカ殿みたい!」
笑い転げる私にフローレンスは癇癪を起こした。

「あの侍女は奴隷にしてやるんだから! クビよ、クビ! きっとわざとこんな髪型にしたのだわ。使えない侍女め! 後でお父様に鞭で打ってもらうもん」
我が儘な妹は空恐ろしいことを言うから困る。ここは異世界の貴族社会、こんな些細なことでも侍女やメイドは鞭を打たれる。

「そんなことはしちゃいけないわ! そのいらない侍女は私が貰います。私の専属侍女にするわ。さて、その髪型を直してあげるからここに座って」
素直に座ったフローレンスの髪からつけすぎた整髪料をなんとか拭い、ふんわりとハーフアップにして毛先だけヘアアイロンでカールをつけた。

「ほら、どう? とても素敵よ。サイドは編み込みにしたから、横から見ても素敵よ。留めた箇所には髪飾りをつけてっと」
テキパキとやっていくと、さきほどの喜劇のバカ殿は恋愛ドラマのヒロインに変身!

「早く、お父様達とリッチ家に行ったほうがいいわ! 楽しんで来なさいね」
そう言いながら手を振り送り出したのだった。


☆彡★彡☆彡


その日の夕方、プンプンと頭から湯気が出ている子ウサギ妹は私に人差し指をつきつけて言ったのだった。
「お姉様の嘘つき! フェルゼン様は少しも美しくなかったです。あんな醜い方は初めて見ましたわ! 怪物よ! お姉様が私を騙したからこんなことになったんだわ。酷い、酷い! 嘘つきぃ~~!!」

「そうよねぇ~~。可哀想なフローレンス! エリーゼは自分が怪物と結婚したくないからフローレンスに嘘を言ったのですわ。酷い子ね」
お母様は私を鋭い眼差しで睨み付け、お父様も同意するようにうなづいていた。

「美しいかも、と言っただけですわ。それにフローレンスにフェルゼン様を薦めた覚えもありませんよ。勝手にフローレンスがフェルゼン様を欲しがっただけのこと。そんなにカリカリしていたら皺が増えましてよ? お母様」
私は眉間に深く刻まれたお母様の顔を見つめて注意をして差し上げた。

――あんな顔を常にしていたら口角も下がって何倍も老けて見えちゃうのに。スマイルは大事よね?

「とにかく私、フェルゼン様はお姉様に返します! だって元々はお姉様が結婚するはずだったのだもの。当然でしょう?」
やっぱり小鼻をピクピクさせて泣きわめいているから、だだをこねて足を踏みならすネザーランドドワーフそっくりだ。

「はい、いいわよ! 全く問題ないわ。楽しそうねぇーー。怪物君だなんてどんなかんじかしらぁ。容姿がそんなだと反比例できっと心は優しくて綺麗かもしれないわね!うふふ、面白そう」
心の底からそう思いウキウキした笑顔を浮かべると、両親はまたもや私を奇異の目で見つめフローレンスは首を傾げるのだった。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

妹の方がかわいいからと婚約破棄されましたが、あとで後悔しても知りませんよ?

志鷹 志紀
恋愛
「すまない、キミのことを愛することができなくなった」  第二王子は私を謁見の間に連れてきて、そう告げた。 「つまり、婚約破棄ということですね。一応、理由を聞いてもよろしいですか?」 「キミの妹こそが、僕の運命の相手だったんだよ」 「そうですわ、お姉様」  王子は私の妹を抱き、嫌な笑みを浮かべている。 「ええ、私は構いませんけれど……あとで後悔しても知りませんよ?」  私だけが知っている妹の秘密。  それを知らずに、妹に恋をするなんて……愚かな人ですね。

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

どうぞお好きになさってください

はなまる
恋愛
 ミュリアンナ・ベネットは20歳。母は隣国のフューデン辺境伯の娘でミュリアンナは私生児。母は再婚してシガレス国のベネット辺境伯に嫁いだ。  兄がふたりいてとてもかわいがってくれた。そのベネット辺境伯の窮地を救うための婚約、結婚だった。相手はアッシュ・レーヴェン。女遊びの激しい男だった。レーヴェン公爵は結婚相手のいない息子の相手にミュリアンナを選んだのだ。  結婚生活は2年目で最悪。でも、白い結婚の約束は取り付けたし、まだ令息なので大した仕事もない。1年目は社交もしたが2年目からは年の半分はベネット辺境伯領に帰っていた。  だが王女リベラが国に帰って来て夫アッシュの状況は変わって行くことに。  そんな時ミュリアンナはルカが好きだと再認識するが過去に取り返しのつかない失態をしている事を思い出して。  なのにやたらに兄の友人であるルカ・マクファーレン公爵令息が自分に構って来て。  どうして?  個人の勝手な創作の世界です。誤字脱字あると思います、お見苦しい点もありますがどうぞご理解お願いします。必ず最終話まで書きますので最期までよろしくお願いします。

婚約破棄されたので、その場から逃げたら時間が巻き戻ったので聖女はもう間違えない

aihara
恋愛
私は聖女だった…聖女だったはずだった。   「偽聖女マリア!  貴様との婚約を破棄する!!」  目の前の婚約者である第二王子からそう宣言される  あまりの急な出来事にその場から逃げた私、マリア・フリージアだったが…  なぜかいつの間にか懐かしい実家の子爵家にいた…。    婚約破棄された、聖女の力を持つ子爵令嬢はもう間違えない…

婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ポーレット伯爵家の一人娘レティシア。レティシアの母が亡くなってすぐに父は後妻と娘ヘザーを屋敷に迎え入れた。 将来伯爵家を継ぐことになっているレティシアに、縁談が持ち上がる。相手は伯爵家の次男ジョナス。美しい青年ジョナスは顔合わせの日にヘザーを見て顔を赤くする。 レティシアとジョナスの縁談は一旦まとまったが、男爵との縁談を嫌がったヘザーのため義母が婚約者の交換を提案する……。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

「この結婚はなかったことにしてほしい、お互いのためだ」と言われましたが……ごめんなさい!私は代役です

涙乃(るの)
恋愛
男爵家の双子の姉妹のフィオーリとクリスティナは、髪色以外はよく似ている。 姉のフィオーリ宛にとある伯爵家から結婚の申し込みが。 結婚式の1ヶ月前に伯爵家へと住まいを移すように提案されると、フィオーリはクリスティナへ式までの代役を依頼する。 「クリスティナ、大丈夫。絶対にバレないから! 結婚式に入れ替われば問題ないから。お願い」 いえいえいえ、問題しかないと思いますよ。 ゆるい設定世界観です

処理中です...