無能と蔑まれた七男、前世は史上最強の魔法使いだった!?

青空一夏

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15 ケアニー商店街美化プロジェクト

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 ビショップの交渉により、商業ギルドはケアニー辺境伯爵家への莫大な保護料を免れ、健全な運営が可能となった。これを機に、ギルドは商店街の大規模な修繕に着手する。傷んだ石畳を修復し、通りの両端には木々を植えて緑陰をつくり、彩り豊かな花壇を整備。花壇の間には等間隔でベンチが設けられ、買い物客が気軽に休憩できるよう工夫された。活気を取り戻した商店街の変化は店主たちにも波及し、看板を塗り直し、商品を見やすく並べるなど、それぞれが店構えを整えていく。こうして商店街全体が生まれ変わったように美しくなり、訪れる人々の賑わいも一層増していった。
 

 石畳はこれまで、頻繁に現れる魔獣との戦闘で一部が欠けたり剥がれたりすることが多かった。カイルはその問題を解決すべく、強化の魔法を石畳に施した。この魔法は石畳を硬化させるだけでなく、衝撃を吸収し、軽度の損傷であれば自然に自己修復する効果も付与していた。これにより、通行人が安全に歩けるだけでなく、修復の手間と費用も大幅に減らすことができた。

 さらに、カイルは各店舗のショーウィンドウや看板にも強化の魔法をかけていった。魔法によってガラスは割れにくくなり、看板の塗装は長期間剥げることがなくなる。これらの施策により、商店街の景観と機能性が劇的に向上し、住民たちからも大いに感謝された。

 この発想は、かつてアーサーがカイル自身に身体強化の魔法をかけていた経験から得たものだった。――以前のカイルはひょろひょろ体型の少年だった。

 『人間にかけられる身体強化を、物体に応用すればどうなるだろうか』という閃きは見事に成功し、ケアニー商店街はカイルの工夫と魔法の力で一新されたのだった。

 この活動は『ケアニー商店街美化プロジェクト』と名付けられ、半年ほどの歳月をかけて進められた。そして、この日、その完成を祝う祝賀会が大々的に催されることになった。


 ◆◇◆

 
 祝賀会当日。商業ギルドの最も広い会議室に足を踏み入れると、まず目に飛び込んできたのは天井から吊るされた花飾りと、壁際に並べられた色とりどりのランタンだった。普段は会議や打ち合わせに使われるこの大部屋が、今日は活気に満ちた笑い声と美味しそうな香りで満たされている。
 
「カイル! 早くこっちに来いよ!」
 カツオが、手に大皿を掲げながら声をかけてきた。その皿の上には、商店街名物の焼き魚が山盛りだ。隣ではカブの妻が、季節の野菜をふんだんに使ったサラダを盛り付けている。ハムが運んできた巨大なローストポークは、テーブルの中央を豪快に飾っていた。

「カイルが来てくれたお陰で、皆が幸せになったよ。ほんとうにありがとうね」
 パン工房の店主ココが、笑顔で差し出してきたのは焼きたてのパンが山高く盛られた皿である。芳ばしい香りに思わずカイルの鼻がくすぐられた。

 カイルは苦笑しながらも、軽く頭を下げる。
「そんな大層なもんじゃないよ。俺はただ、毎日魔獣討伐をしているだけさ」

 その言葉に商店街の人々が声を上げて笑う。
「複数の魔獣を瞬時に倒すやつがなにを言う? カイルは凄いんだよ! そうさ、世界一強い男だし、世界一情に厚いんだ。仲間を大切にする最高の弟さ」
 カツオが笑いながらからかうように言うが、その瞳にはカイルを誇らしく思う気持ちが溢れていた。

 会場には店主たちが集まり賑やかに談笑し、マーロンがランスと笑いながら酒を注ぎ合っている姿も見える。そんな中、エリカが元気よくカイルに声をかけてきた。
「カイル! こっちに来て、こっち! もうみんな待ってるよ!」
 元気で明るいエリカは、嬉しそうに手を振っている。
 
「そうだとも、カイル君! これから乾杯の音頭をカイル君にお願いしたい!」
 ランスが声を張り上げた。カイルが振り返ると、皆が集まってきて、手に酒やジュースの入った杯を掲げている。

「新しい商店街に乾杯! これからこの商店街を皆で盛り立てていこう。ここを、どこよりも安全で素晴らしい活気に満ちた商店街にしていこう!」
 カイルの掛け声に、皆が一斉に杯を高く掲げ、声を合わせた。

「カイル、かっこいいよ、大好き! 乾杯!」
 エリカが嬉しそうに一際大きな声を上げた。
「カイルさん、頼もしいですよ――。私も大好きです――」
 スザンナはニコニコと優しい笑みを浮かべ、照れながらもエリカに負けないように声をはりあげる。
「うはぁ、うちの英雄カイルに乾杯! モテモテだな。俺もあやかりたいぞーー!」
 カツオが声をあげたその瞬間、部屋中に笑い声と拍手が広がった。

 商業ギルドの大会議室で繰り広げられたこの賑やかなひととき。カイルは周囲を見渡しながら、その温かな光景に満たされた気持ちを感じていた。商店街の人々がそれぞれのテーブルを囲んで楽しそうに話している。カイルはその中にいて、これからもこの場所で一緒に過ごしていけることを感謝し、胸の中に広がる温かい感覚を感じていた。

「……これからも頼むぞ、カイル君」
 いつのまにか横に立っていたマーロンがそう言って笑い、カイルの肩を軽く叩いた。

「任せてください! このケアニー商店街はずっと俺が守りますよ」
 カイルも笑い返しながら、ワインを口元に運ぶ。商店街の人々と過ごす時間を、カイルは何よりも心地良く感じているのだった。

 パーティも盛り上がりを見せ、中盤に差しかかった頃、ほろ酔い気分のエリカがカイルに声をかけてきた。ここマクニール王国では、幼少期から水で薄めたワインを嗜む文化が根付いており、16歳を迎えたエリカは、既に水で薄めずにワインを飲むことが許される年齢に達している。

「カイル! 最近、どんどん逞しくなってるね。どう? そろそろあたしのお婿さんにならない?」

 エリカはかなり酔っているようで、後ろからカイルに抱きついた。柔らかいなにか――胸がカイルの背中にあたり、落ち着かない気分になった。

 ――まずいよ、俺こういうのに耐性がないんだ。

 内心ではドギマギするカイルなのだが、自然にアーサーが前に出てきて、お決まりのセリフを言った。

「いや、以前にも言ったはずだが、結婚についてはまだ遥か先のことだと思っている。しかし、その気持ちには感謝する」
 やはり、カイルの中のアーサーがきっぱりと断りつつお礼を言うのは、もはや定番の流れといえた。カイルはさりげなく身体をずらし、エリカの身体をそっと抱えると椅子に座らせ水を手渡す。
「君は飲み過ぎだな。可愛い女の子は飲み過ぎてはいけないよ」
 大人っぽい表情でその言葉を口にしたカイルに、エリカは頬を赤らめた。
「うふ。可愛いだなんて……まぁ、ほんとのことだけど」

「あのぉ――、私もお嫁さん候補にいるのを忘れないでくださいね? 私は2歳だけカイル君より年上ですから、たくさん甘やかしてあげようと思っています。私、こう見えて家事は得意なんですよ。きれい好きで、お料理もなかなかの腕前ですし。今日もほら、ローストチキンを焼いてきたんです!」

 遠慮がちに参戦してきたのは、スザンナだった。が、ちゃっかりカイルの口元にチキンを刺したフォークを突き出す。反射的に口に入れたカイルは、にっこりと微笑んだ。

「これは美味しい! 香草と塩でシンプルに味付けされているが、皮はパリッと焼きあがっている。添えられた焼き野菜――ジャガイモ、ニンジン、タマネギには、家庭的な温かさを感じさせる。ほっとする一品だな」

 カイルの中のアーサーはここでも遠慮なく表に現れる。トリガーのひとつなので当然と言えば当然なのだが、アーサーに味の感想を任せて、カイルはスザンナとの恋人生活を妄想していた。

 ――受付嬢だから当然だが、スザンナさんはいつもニコニコしていて、清楚で綺麗な年上のお姉さん、という印象だ。これもまた、癒やされるよなぁ。それに、少し大人びた雰囲気があって、甘えられそうだ。魔獣を一匹倒す度に「ご褒美」と言って、キスしてくれないかな……。

 ニヨニヨと妄想に励んでいたカイルだったが、やはりそこはアーサーがきっぱりと断っていた。

「先ほども言ったが、私は誰とも結婚するつもりはない。ただ、いつもニコニコと優しく接してくれるスザンナには、感謝している。そして、そのように言ってくれることは、誠に光栄に思う」

 アーサーの態度には一切の揺るぎがなく、彼は女性たちの好意に対して深い感謝を示すと同時に、現時点では誰一人として選べないという率直な意思を明確に告げていた。しかし、未熟なカイルには、その潔い誠実さや女性への配慮の深さを完璧には理解するには至らず、少しばかり「もったいない」と内心で嘆いてしまう。

「まぁ、私の笑顔に癒やされているですって? うふふ、ありがとう。ますます受付嬢として頑張らなくては……カイルさんの優しいところが、私は大好きですよ」

 いつものように満足気に微笑むエリカとスザンナは、カイルの素晴らしさをお互いに語り合い、いつしか友情のような絆が芽生えていくのだった。



 ◆◇◆


 ――魚屋二階にて――


 祝賀会が終わり、魚屋の二階でカイルは着替え、寝支度を整えていた。パールからもらったネックレスは、言われた通りいつも身につけている。パールの瞳と同じ色の琥珀のネックレスを見つめていれば、パールに思い出してと言われなくとも、自然と彼女の顔が浮かんだ。

「パール嬢か…。綺麗で可愛かったなぁ。今頃何をしているんだろう? やっぱり次期女侯爵として、いろいろ勉強しているんだろうな」

 カイルはエリカ、スザンナ、そしてパールの三人すべてに、好意を抱いていた。エリカは明るくて活発、話しやすく気さくな存在。スザンナは綺麗で落ち着いていて、共にいると安心感を覚える。それでも、これが恋なのかと問われれば、答えられない自分がそこにいた。

 パールは笑顔が愛らしく、凛とした立ち居振る舞いが美しく、精巧な人形のように整った顔立ちの持ち主。まるで自分が不釣り合いなほど完璧な存在だと感じる。では、パールに恋をしたかと問われれば、これもまたはっきりとは答えられなかったのである。

 一方、ケアニー辺境伯爵のくだらない趣味とは……
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