(完結)虐げられていた私を引き取ったのは、王国騎士団元帥でした!

青空一夏

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15 豪華すぎる屋敷

 オフェリーは目を見開いた。
 一瞬、息が止まる。

「馬車を……止めてください」

 抑えきれない怒りを滲ませて告げる。
 御者が一瞬だけ戸惑う気配を見せたが、オフェリーは続けた。

「今すぐ、止めて」

 馬車が止まるや否や、オフェリーは扉を開けて飛び出した。
 そのまま一直線に畑へ向かう。
 背後で、制止の声が重なったが、足は止まらない。
 視線の先では、再び鞭が振り上げられていた。

(お願い……イバラよ……)

 オフェリーは足を止めることなく、畑に視線を走らせ、呼びかける。
 次の瞬間、地面を突き破るように、イバラが伸び上がった。
 鋭いトゲを持つ蔓が一気に伸び、振り下ろされかけた鞭に絡みつく。
 ぴたりと、その男の動きを止めた。

 監視役の男は目を見開き、イバラとオフェリーを見比べて顔を歪める。

「な、なんだよ……この蔓……っ、お前の仕業か? ……ばっ、化け物? ……来るな……!」

 吐き捨てられた言葉に、空気が張り詰めた。

「……今、何て言った? オフェリーは化け物なんかじゃないぞ!」

 冷たい声とともに、ダリルが歩み寄る。
 逃げようとした腕を掴んだ瞬間、監視役の顔が苦痛に歪んだ。

「ぐっ……な、なんだ……っ、体が……!」

 膝が崩れかける。

「ダリル様、もういいです」

 オフェリーの制止に、ダリルは手を離した。
 男はその場に崩れ落ちる。

「縛り上げろ」
 トリスタンの声が響き、騎士たちが一斉に男を押さえつけた。

「総括領地管理官、ピーターはどこにいますか?」
 オフェリーが問うと、監視役は苦々しく顔を歪めた。

「……屋敷だ。ここから少し行った先にある」

「案内しなさい」
 
 男に案内を命じたあと、オフェリーはふと足を止めた。
 視線の先、鞭に打たれて倒れていた女が、地面に崩れたまま動かない。
 すぐに駆け寄り、そっとその体を支えた。

「……大丈夫ですか?」

 かすかに目を開いた女は、震える声で呟いた。

「……すみません……手を止めてしまって……どうか……地下には……入れないでください……」

「……地下? 大丈夫よ。私たちは助けに来ただけなの。あなたたちの味方よ。少し木陰で休んでいるといいわ」

 女はオフェリーを見上げ、わずかに戸惑ったように目を瞬かせた。

「……でも……少しでも休んだら……また……鞭で打たれます……」

 震える声で、必死に言葉を紡ぐ。

「……朝から……日が落ちるまで……休んではいけないんです」

 か細い声だった。
 だが、それで十分だった。
 オフェリーはぎゅっと拳を握りしめた。

「ピーター総括管理官……許さないわっ!」

 オフェリーは女の傷を軽く手当てし、こんなことは二度とさせないと約束する。
 監視役は御者の隣に座らされ、オフェリーたちも乗り込み、馬車は再び走り出した。

 窓の外では、白い綿畑がどこまでも広がっている。
 だがその中で働く者たちは、誰一人として顔を上げない。罰を恐れるように、ただ手だけを動かし続けていた。

 やがて視界の先に、不釣り合いなほど立派な屋敷が現れた。
 広大な畑の只中にそびえ立つそれは、周囲の光景とあまりにもかけ離れていた。

「……あまりにも立派すぎるわ、この屋敷」

 思わず漏れたオフェリーの呟き。

「あれだけ使用人を奴隷みたいにこき使ってりゃ、金もいくらでも溜まるだろうさ」
 視線を屋敷へ向けたまま、ダリルは吐き捨てるように言う。
 
 トリスタンもまた、わずかに眉をひそめた。
「……おそらく食事もまともに与えられていないな。先ほどの女性もひどく痩せていた」

 馬車が門の前で止まる。
 門番は訝しげにこちらを見たが、縄で縛られた監視役の男に気づいた瞬間、顔色を変えた。

「何者だ! ここから先は通さん!」

 怒号とともに剣を抜く。
 さらに、警備の男たちが次々と駆け寄ってきた。
 だが、応戦は一瞬だった。
 トリスタンと騎士たちが難なく制圧し、彼らもまた縄で縛り上げられる。
 
 そのまま門の中へと進んだ。
 ピーターに会う前に、オフェリーは指輪をはめた。
 国王から賜った、領地を預かる者にのみ許された証。

 やがて玄関前で馬車が止まり、オフェリーは静かに降り立った。
 その頃には騒ぎを聞きつけたピーターが、顔を青ざめさせながら重厚な玄関の前に立っていた。

「一体どういうことなんですか? あなた方はどなたです? ここはヴィダル伯爵様が治める領地で、私はそこの統括管理官なんですよ? 見た感じ貴族の方のようですが……」

「私がそのヴィダル伯爵ですわ」

「え……? ヴィダル伯爵は、小柄で細い男性だったはずですが……」

 怪訝そうに目を細める相手に、オフェリーは静かに言い返した。

「私がその跡を継ぎました。国王陛下からも、正式に任命されています」

 そう言って、右手をわずかに掲げる。
 指に嵌められた指輪が光を受け、ヴィダル伯爵家の紋章を浮かび上がらせた。
 それを見たピーターの目が、わずかに揺れる。

 次の瞬間、その口元がゆっくりと形を変えた。彼は……
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