（完）美貌の王に恋するお姫様（前７話）

１ 庭師に恋する私(アイヤナ視点）

１ーーアイヤナ視点ー庭師に恋する私

その庭師を見たのは、午後の陽射しが眩しすぎて、目を細めた瞬間だ。太陽神アポロンのような完璧な均整のとれた身体と精悍な顔立ちに、思わず何度も目をこすり、その姿が幻ではないかと確かめた。

私は、通常は男性に一目惚れなどしない。けれど、彼の姿を見たときには、まさに雷に打たれたような衝撃を感じた。

あの男性の側に言って、話しかけたい・・・・・・でも、私は一国の王女だ。庭師に直接、声をかけるなどしてはならないことぐらいはわかる・・・・・・。

ならば、王女ではなく侍女であったならどうだろう？　私は、侍女の服を着て、彼の前に姿を現した。

「こんにちは・・・・・・今日は、すごく暑いわね？」

あぁ、私ったら、こんなことしか言えないのよ・・・情けないわ。もう少し、男性との会話の仕方を学んでおけば良かった。でも、彼は気さくな様子で『あぁ、溶けちゃいそうだな。今日は暑すぎる・・・』と、甘いバリトンの声で答えてくれた。


彼に初めて声をかけた時の私は、この男性を、どうこうしようなんて全く思っていなかった。私は、エステファニア王国のアイヤナ姫だ。彼は、王宮の庭園の手入れをする庭師にすぎない・・・だから、この恋は実るはずはないのだ。

ただ、近くに行って、一言二言話せれば、それだけで満足だった。ほんとに、そう思っていた・・・


*:ﾟ+｡.☆.+*✩⡱:ﾟ

その日は、爽やかな風が吹く、穏やかな天気だった。庭園の薔薇には、雲間から漏れる日の光が注いでいた。

「君は、俺が好きなんだろう？　俺の名前はタキスだ。一緒に、駆け落ちしないか？」

彼は、私が最初に話しかけてから三日目に、そう持ちかけてきたのだった。