侯爵ロベルトーー妻は美女悪役令嬢、親友はドラゴン王

エリーゼ、ズルイーヨ王子に騙される

――エリーゼが通う貴族の学校の門前にて――

エリーゼは優美な白馬が引く馬車から降りた瞬間、腕をつかまれた。
トリスタン王国の第一王子ズルイーヨだった。

「エリーゼ嬢、妹のソフィアが隣国ルマンド帝国のマリオ王により誘拐された。」

「なぜ、ソフィア様が誘拐されるのですか？」

「貴女のせいで誘拐されたようなものだ。」


ルアンド帝国のマリオ王がエリーゼを正妃にとの申し込みが王家に持ち込まれ、トリスタン国王はエリーゼとロベルトとの婚約を理由に正式に断った。
トリスタン国王はフェルナンド公爵家の意向を尊重したのだ。
その結果、大国の王の申し出を断った制裁として、王女のソフィアが誘拐された。
見せしめで、昼には殺される。
そんな話の経緯をエリーゼは聞かされた。


この世界では近隣国との王族同士の争いはよくあることだった。
諸外国にもなめられないために力を誇示する王族は珍しいものではなかった。

私のせいでソフィア様が殺されるの？
エリーゼはパニックに陥った。

「まず、ロベルト様に相談しなければ」
エリーゼはあわてて公爵家に引き返そうとしたが止められてしまう。

「時間がありません！とにかく、昼までに着くように行ってもらえませんか？妹の生首が送られてきてしまう。
ロベルト卿には使者を送っておきますから。」

生首、エリーゼはぞっとした。

「貴女に執心のマリオ様だから、貴女が説得してくれれば妹の命も助かるでしょう。お願いします。妹が死んだらあなたのせいですよ」
そうまで言われて行かないわけにはいかなかった。
エリーゼは王家の馬車に第一王子に抱えられるようにして乗せられるのだった。

「大丈夫ですよ。すぐにロベルト公爵が助けにくるでしょう」



ロベルトにはエリーゼは宮殿に泊まると使者を送った。
エリーゼとソフィアは仲が良く、何度もエリーゼはソフィアの部屋に泊まったことがあるので怪しむことはないはずだ。

明日までには首尾良くエリーゼはマリオのものになっているだろう。
虎剣士と名高いマリオ王は女好きとの噂もある。
エリーゼに手をつけるのも早かろう。
ズルイーヨ第一王子は下卑た笑いを浮かべた。