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13 王太子視点
王太子視点
授与式が終わった後、私は父上と母上の前で、ルシアンを王太子付き近衛騎士から外すと宣言した。
「あいつは昔から知っていますが、どうもこのところ信用がなりません。勝手にリリアーナを執務室に入れたり、私の身を真剣に守ってくれるかどうか、怪しく思っています」
「それはそうでしょうね。私だって、あの者を専属にはしたくありませんわ。部屋に閉じ込められたセシリアを助けようともしなかったのでしょう? セシリアの調合した薬はどんな医者よりよく効きます。私はあの子をとても大事に思っているわ。なのに、ルシアンときたら……信用なりませんよ」
父上は私と母上の話を聞き、「王妃と王太子が嫌悪する者なら、余もそばには置きたくないぞ」と笑った。
父上の許可は取った。私は執務室に戻ると、近衛騎士団長を呼びつけ、決定事項を告げた。
「ルシアンは本日から、近衛騎士ではなく一般騎士団員となる。これは陛下も承認済みだ。所属は適当に決めてくれ。あいつの能力にあったところでかまわん」
「はっ。かしこまりました! 遅すぎる決断ですよ。ルシアンは近衛騎士に向いておりません。命をかけて王族を守るという覚悟が感じられぬ、と常々思っておりました」
騎士団長は即座に片膝をつき、迷いのない動きで頭を下げた。
「あぁ、おまえの言う通りだ」
騎士団長への指示が終わったところで、持ち場を外していたルシアンが、何も知らぬまま私の警備に戻ろうと執務室へ入ってこようとした。しかし、騎士団長がそれを止めた。
「ルシアン・クロコード! お前はたった今、近衛騎士団の任務を解かれた。これより王太子殿下への接近を禁じる!」
「え? なぜですか?」
「理由は簡単だ。信用できない。ただそれだけだ」
私の言葉にルシアンの顔が青ざめた。
「さあ、私についてこい。所属先は、おまえでも務まる第四騎士団がいいだろう。あそこは雑用ばかりだが、身の丈には合っている。せいぜい励め」
騎士団長はカラカラと笑いながらも、ルシアンを引きずっていく。
「嫌ですー! 王太子様、私は幼い頃から、あなたに仕えてきたではありませんか?……裏切るんですか? 酷い人だ。長年尽くしてきた私の苦労はどうなるんです? 学園だって一緒に通ったのに……うっ、うっ」
(声を荒げ、取り乱しすぎだし、泣きすぎなんだよ。男らしくないし、なにより不敬だ。貴族としての矜持がないのか? この男に、誰かを守る役目など任せられない。背中を預けなくて正解だった)
宮廷薬師に任じられてから、セシリアの周囲は驚くほど穏やかになった。ヴァレンティア公爵家から呼び戻されることもなく、官職があることで貴族達も一目置くようになった。調合室で薬草と向き合う横顔は、以前よりもずっと落ち着いて見えた。母上も私もセシリアのお陰で体調はすこぶるいい。彼女がここにいるだけで、王宮の空気まで整っていくようだ。
――この静けさが、長く続けばいい。
そう思い始めた矢先だった。
やはり、リリアーナは黙っていなかった。
母上主催の夜会の場。リリアーナへの謹慎期間はすでに解けており、彼女は再び多くのパーティに顔を出していた。そしてこの夜会にも、目にしみるほど鮮やかなドレスを纏って参加していた。
貴婦人たちが和やかに談笑している最中、リリアーナは場の空気を切り裂くように、大きな声を張り上げた。
「皆様、おかしいと思いませんか? 今まで医療に携わった経歴もないお姉様が、お医者様方をも凌ぐような効果を出せる薬を作れるなんて……普通、考えられませんよね?」
リリアーナの周囲には宮廷医たちが集まっており、同意するように首を縦に振っていた。
「確かに、我々は幼き頃より医者を志し、専門の学園に通い、学びを重ねて今があります。しかし、セシリア様にはそのような経緯がない。それなのに、なぜ薬を配合できるのか……」
宮廷医長が、疑わしげな視線をセシリアへと向ける。
そして、一瞬の静寂が訪れたその時――リリアーナの呟きが、効果的にその場を支配した。
「まさか、お姉様……禁術を使ったの? それとも、悪魔と契約したのかも……いいえ……魔女、そのものなのかも……」
授与式が終わった後、私は父上と母上の前で、ルシアンを王太子付き近衛騎士から外すと宣言した。
「あいつは昔から知っていますが、どうもこのところ信用がなりません。勝手にリリアーナを執務室に入れたり、私の身を真剣に守ってくれるかどうか、怪しく思っています」
「それはそうでしょうね。私だって、あの者を専属にはしたくありませんわ。部屋に閉じ込められたセシリアを助けようともしなかったのでしょう? セシリアの調合した薬はどんな医者よりよく効きます。私はあの子をとても大事に思っているわ。なのに、ルシアンときたら……信用なりませんよ」
父上は私と母上の話を聞き、「王妃と王太子が嫌悪する者なら、余もそばには置きたくないぞ」と笑った。
父上の許可は取った。私は執務室に戻ると、近衛騎士団長を呼びつけ、決定事項を告げた。
「ルシアンは本日から、近衛騎士ではなく一般騎士団員となる。これは陛下も承認済みだ。所属は適当に決めてくれ。あいつの能力にあったところでかまわん」
「はっ。かしこまりました! 遅すぎる決断ですよ。ルシアンは近衛騎士に向いておりません。命をかけて王族を守るという覚悟が感じられぬ、と常々思っておりました」
騎士団長は即座に片膝をつき、迷いのない動きで頭を下げた。
「あぁ、おまえの言う通りだ」
騎士団長への指示が終わったところで、持ち場を外していたルシアンが、何も知らぬまま私の警備に戻ろうと執務室へ入ってこようとした。しかし、騎士団長がそれを止めた。
「ルシアン・クロコード! お前はたった今、近衛騎士団の任務を解かれた。これより王太子殿下への接近を禁じる!」
「え? なぜですか?」
「理由は簡単だ。信用できない。ただそれだけだ」
私の言葉にルシアンの顔が青ざめた。
「さあ、私についてこい。所属先は、おまえでも務まる第四騎士団がいいだろう。あそこは雑用ばかりだが、身の丈には合っている。せいぜい励め」
騎士団長はカラカラと笑いながらも、ルシアンを引きずっていく。
「嫌ですー! 王太子様、私は幼い頃から、あなたに仕えてきたではありませんか?……裏切るんですか? 酷い人だ。長年尽くしてきた私の苦労はどうなるんです? 学園だって一緒に通ったのに……うっ、うっ」
(声を荒げ、取り乱しすぎだし、泣きすぎなんだよ。男らしくないし、なにより不敬だ。貴族としての矜持がないのか? この男に、誰かを守る役目など任せられない。背中を預けなくて正解だった)
宮廷薬師に任じられてから、セシリアの周囲は驚くほど穏やかになった。ヴァレンティア公爵家から呼び戻されることもなく、官職があることで貴族達も一目置くようになった。調合室で薬草と向き合う横顔は、以前よりもずっと落ち着いて見えた。母上も私もセシリアのお陰で体調はすこぶるいい。彼女がここにいるだけで、王宮の空気まで整っていくようだ。
――この静けさが、長く続けばいい。
そう思い始めた矢先だった。
やはり、リリアーナは黙っていなかった。
母上主催の夜会の場。リリアーナへの謹慎期間はすでに解けており、彼女は再び多くのパーティに顔を出していた。そしてこの夜会にも、目にしみるほど鮮やかなドレスを纏って参加していた。
貴婦人たちが和やかに談笑している最中、リリアーナは場の空気を切り裂くように、大きな声を張り上げた。
「皆様、おかしいと思いませんか? 今まで医療に携わった経歴もないお姉様が、お医者様方をも凌ぐような効果を出せる薬を作れるなんて……普通、考えられませんよね?」
リリアーナの周囲には宮廷医たちが集まっており、同意するように首を縦に振っていた。
「確かに、我々は幼き頃より医者を志し、専門の学園に通い、学びを重ねて今があります。しかし、セシリア様にはそのような経緯がない。それなのに、なぜ薬を配合できるのか……」
宮廷医長が、疑わしげな視線をセシリアへと向ける。
そして、一瞬の静寂が訪れたその時――リリアーナの呟きが、効果的にその場を支配した。
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