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番外編2
スピネルの話
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番外編2は単話です。
登場人物は毎回変わります。
本編、番外編で、きちんと名前を出していない方々の話です。
ーーーーーーーーーー
「いやぁ、本当に驚きました。『みぎゃぁぁ!』なんて叫び声、初めて聞きましたよ。」
笑いながら王太子は、陛下に城内の誘拐事件の経緯からその後までを報告している。
「あれは魔物ではなかったのか。」
「はい、ユーリ殿の叫び声でした。間近で聞きましたので、間違いありません。」
クックッと笑いながら王太子は答える。
「して、マリーアンの処罰はどうしたいと?」
「働かせることにします。傷病施設に送りましょう。後の2人は各家で対応させます。『若いんだから、しっかり働かせて欲しいです。身体を動かせば、余計なことを考える暇なんてない』なんて言われましたので。自分より年上なのに、若いって。」
また王太子は笑い出す。
「なら、そのように。…あれは教育を間違えたか。」
「まず、母親の側妃から間違えていますね。あれも甘やかされるのが当たり前で育ちましたから。」
「はぁ、あれには蟄居を命じよう。儂もほとほと手を焼いていたが、今回のことで大人しくさせたい。」
「ならばそのように。」
と、報告は終わり、王太子は陛下の執務室から出て行った。
第三王女の処遇が速やかに決まった。
城内でも扱いに困っていたから、いなくなるだけでも有り難い。
平民出と馬鹿にされてきたアクアと僕は、心なしか安堵の表情を浮かべる。
陛下も何度も側妃と第三王女を諌めてきたが、聞く耳を持たなかった。
陛下の疲れた顔が心配である。
アクアと俺は双子で、近所でも有名なやんちゃ坊主だった。
親はこのまま成長したら、平気で人を傷つける人間になってしまうと心配して、近所の剣術を教えてくれている人のところに通わせた。
2人は性に合ったのか、メキメキと上達をしていく。
その先生がある時、『これ以上のことは私は教えられないから』と言われて、騎士団を紹介してもらった。
大人に混じって鍛練をした。最初はきつかったけど、周りは自分達より強い人達ばかりだから、負けることが悔しくて、鍛練に励んだ。
結果、12歳で正式に騎士団に入ることができた。史上最年少だった。
でも人は、自分より優れている者がいると、どうしても妬み嫉みの感情が現れる。
幾度も嫌がらせを受けた。雑用も押し付けられた。それでも生来の負けん気の強さで頑張れた。
一度だけ、心が折れそうな事件が起きた。
騎士団での窃盗事件が起きた。
備品の購入で用意した金が取られた。騎士団という場所柄、まず泥棒が入ることはない。そこで貴族出の騎士達は平民出じゃないかと騒ぎ立てる。
そんな中でも一番に若い僕達が疑われた。
いつも2人で行動を共にしていたから、他に味方なんていなかった。
まさか同じ平民出の騎士達も貴族出の騎士達と一緒になって責めて来るとは思わなかった。
その時俺達は人間と言うものを信じられなくなった。
事件を聞きつけた王陛下自らが調査に乗り出した。
そして、陛下は『民の血税を騎士と名乗る者が盗むなどあってはならん。平民だの貴族だの言っておらず、騎士としての矜持を示せ!』とお怒りになられた。
調査の結果、備品購入をする担当の騎士を、貴族出の騎士が遊ぶ金欲しさに、脅して金を盗っていったという。そして、平民のくせに史上最年少と騒がれた俺達を辞めさせるために、犯人に仕立て上げようとしたのだ。
この2人はもちろん解雇され、更に罰金と3年の懲役が決まった。
俺達は冤罪とわかってもらえたが、一度できた溝は埋まることはないし、もう周りの騎士達を信じることはできなかった。
そんな中、団長から陛下の護衛騎士を命じられる。陛下は将来有望な若手がいなくなることを危惧してだと団長は言っていた。
でも陛下の答えは違っていた。
昔見た勇者の話をしてくれた。
『若者を死地へと追い立てる人間になりたくない。しかし、私自身制限がある身。でも誰よりも権力もある。出来るなら、力が及ぶ限りは救えるように努力はしたい。其方らも私の自己満足に過ぎないが、若者の死んだような目はもう見たくないのだ』と語ってくれた。
俺達は確かに生きる希望を失っていた。
それでも陛下は俺達を助けたいと仰られた。
陛下に聞いた。『俺達の生きる目的になってくれますか?』と。
陛下は微笑みながら、『いくらでもなろう』と答えてくれた。
この時より、俺達は陛下の専属護衛騎士となった。
あれから十数年が経つ。俺達は陛下の守る為の努力は毎日欠かさない。
陛下は、第三王女と側妃の件で、昨日、今日とあまり眠れておらず、今朝はいつもより早く散歩をされた。
中庭の近くの回廊をトタトタと歩く音が聞こえる。
誰かと確認すれば、あの宿屋の料理人だった。料理人は陛下に気が付くと、
「王様、おっはよう。」
思わず俺達は剣の柄を握ろうとしたが、陛下に諫められる。陛下と分かっていてのあいさつの仕方ではないと思う。
陛下と料理人は会話をして、『東屋で待っていて』と、料理人は厨房に行った。
「陛下。」
「わかっておる。だがあの者から敵意も殺意も感じない。ただ料理を食べてもらいたいだけの者じゃ。」
料理人が戻ってきて、陛下に料理を給仕する。
毒味をと思っていたら、料理人が先に食べ出した。陛下も続けて食べ出す。
初めて見る料理だが、出汁?というものの香りが食欲を刺激する。
見ているだけの俺達は、腹が鳴りそうだった。
食べ終わった後は、なにやら陛下と勇者達の話をしていた。
途中料理人は、ナイフを出していいかと聞いてきた。事前に聞かれたので、素直に許可を出す。
ナイフとリンゴを取り出し、スルスルとリンゴを違う形に切っていく。
『見た目は違うけど、元は同じリンゴ。エル達もそう。お、私たちも思い出さないだけで、前世、誰かに会っているのかもしれない。見た目が違うけど、魂は同じだから。』
魂をリンゴに見立てて、違う形に仕上げる。でも、リンゴはリンゴ。味はリンゴのままだ。
人の姿形、生まれや身分は違っても、元は同じ魂。今世の行いが来世にも繋がる。そんな話だった。
この料理人は俺達と同じ平民にしては、知識の量が半端なかった。10も年下だというのに。
料理人は『残りもので悪いけど、騎士様達も食べてみてね』と去っていった。
陛下の護衛もあるので、アクアと交代で食べた。陛下は俺達が食べるのをニコニコしながら見ていた。
『お茶漬け』なるものは、さらさらと口に入っていき、とても美味しかった。
ここ半年、陛下はあまり食欲がなかった。病ではないかと心配したが、精神的疲れと診断されていた。
あの宿屋での食事は、陛下が久しぶりに満腹になるまで食べていた。
昨夜もあの料理人が城の料理人に教えた餃子というものを美味しそうに食べていた。
料理人のおかげで、陛下の食欲は戻りつつあった。
あの料理人は、俺達とは形は違えど、大事な人を守る術を身に着けたのだろう。
年下ながら、尊敬に値する人物だと俺達は思った。
魔王が討伐されたとの話を聞き、あの3人が無事で良かったと王が喜ぶ。
事の真相は彼らが城に到着してから聞いた。俺達が仕えている陛下が陛下で良かったと、つくづく思い知った。
彼らが城に滞在中、料理人はいつの間にか陛下を『ハル』と愛称で呼ぶようになった。
陛下も親友かのように『ユーリ』と呼ぶ。
2人が仲良く話している隣で、俺達は勇者達に稽古をつけてもらった。
俺達は他より強いとは思っていたが、彼らは圧倒的に桁違いに強かった。
勇者は『剣は苦手』と言うけれど、全く勝てなかった。
勇者に何をしたらそこまで強くなれるのか聞いてみたら、『美味いごはん』と答えた。
確かにあの料理人のご飯は美味しい。でもそれだけではないと思う。思って詳しく聞いてみたが、それ以上は教えてもらえなかった。まあ、秘密は誰にでもあるしな。
勇者の仲間のジークハロルドは、本当に強かった。ジークハロルドにも同じことを聞いてみた。
彼の答えは『守ることを覚悟出来たから』だった。守ることに覚悟?
『守ると決めても、本能は生き延びたいと身体が勝手に動いて、守る人を守れないまま死ぬ、を繰り返していた。もうあんな悔しい思いはしたくないと思っていても繰り返す。ユーリと話をして、守る覚悟が俺にはなかったらしい。自分が死んでも守りたいと、生きたい本能さえ捻じ曲げる覚悟ができたから、強くなれた。』
俺達は言葉が出なかった。
なんと壮絶な経験を繰り返したのだろう。
前世の記憶を持つことはいいことばかりではないと知った。
そう言われて、覚悟はあるのかと自分自身を問う。ついでにアクアにも聞いてみた。
「アクアは覚悟ってあるのか?」
「漠然と陛下を守るって頭はあったけど、実際のところ、危なかったことはあまりなかっただろ?生きるか死ぬかなんて瀬戸際に立ったことはなかったから、あそこまで考えたことはなかった。」
「俺もだ。…でも、覚悟か。俺はなかったかもしれない。」
「ああ、俺もなかった。…そうだよな、ラインハルト様がむざむざと殺される様は見たくないな。」
「うん。……良い話が聞けたな。」
「ああ。」
俺達は今まで以上に鍛練を積み重ねることにした。
「アクアさんとスピネルさんて何年くらいハルの護衛しているの?」
ユーリが聞いてくる。いつの間にか俺達とも仲良くなっていた。
「もう、10年以上だな。」
「へ?…ってことは、俺の歳にはもう護衛していたの?!すっげぇ!」
「そうだけど、…そんなにすごいか?」
「うん!平民が騎士になるってこと自体、中々なれないじゃない。騎士になれても、護衛騎士になれるってわけじゃないよね。護衛って信頼とか実績があるからなれるんでしょ?しかし、ハルは見る目があるね。2人が若いうちに取り込んでいたんだもん。」
陛下が褒められて、少し照れくさい。
実際の経緯は違うが、わざわざ指摘することでもない。
「それに10年以上なんて、それだけ好きじゃないといつも一緒にいられないじゃない。ん、この場合、好きとかじゃなくて、尊敬とか忠誠とかかな?」
「ああ、陛下は尊敬している。」
「だよね。やっぱりハルはすごいな。良い王様だ。」
ユーリは、手放しに陛下を褒める。
他国の民から見ても、陛下は良い王のようだ。俺達はそんな陛下を誇りに思う。
それから数年後の皇国で開催された首脳会議前の顔合わせで、俺は初めて恋をした。
皇帝陛下が連れてきた中に、美しい女性がいた。魔法士のローブを纏っていたので、護衛として連れてきたのだろう。皇帝の護衛をするだけ強い魔法士のようだ。
歳は18、9ぐらいで、20歳近くは離れている。でも年齢なんて気にしなかった。
俺は護衛中にも関わらず、その女性の元に寄り跪く。
「貴女に一目惚れしました。結婚してください!」
と、プロポーズをした。
「…はい。お受けします。」
と、女性はプロポーズを受けてくれた。
俺は思わず、
「よっしゃぁあ!!」
と叫んだ。彼女はそんな俺を温かい目で見てくれていた。
「「まてぇ!!」」
と、皇帝とジークハロルドが叫んだ。何故この2人?
「リリー、パパは許さんぞ!スピネルはパパより年上なんだぞ!」
「スピネルさんていうですね。」
「お名前はリリーさんというんですね。お似合いだ。」
「まぁ、ありがとうございます。」
照れる彼女はとても可愛い!
「リリー、話を聞いて!」
「リリー、おじいちゃまは反対だぞ!」
ジークハロルドがパパで、皇帝がおじいちゃま?もしかして、凄い身分の女性だった?
「もう、パパ達煩いよ。今スピネルさんとお話し中なの!」
「あのぅ、その前に会議始まるから。リリーもスピネルもジークも父上も話は後にして、みんな仕事しよ?」
と、勇者だったエルンスト様の一声で一旦保留となった。
周りは俺の突然のプロポーズから、唖然として事の成り行きを見ているだけだった。
俺は陛下の元に戻り謝罪した。陛下は『よいよい』と言いながら、ニマニマしている。アクアも同じ顔だ。
会議中ジークハロルドからの殺意に満ちた目で、漸く冷静になれた。
「で、うちは婿希望だけど、うちに婿入りする気はあるの?てか、ラインハルトの護衛辞めていいの?」
会議の後、場所を変えて陛下とアクアと俺、リリーさんとジークハロルドとエルンスト様と皇帝で話し合いとなった。
「儂は今年で退位する予定じゃ。アクアとスピネルには今後は好きにしていいと言っておる。」
「リリーさんと一緒になれるなら婿入りします!」
「なら俺も付いて行く!生まれてずっと一緒にいるスピネルと今更離れたくない。もう両親もいないし、2人っきりの家族だから。」
「アクアも一緒でいいかな?双子の兄で生まれた時からずっと一緒なんだ。俺も今更離れたくないんだ。」
「もちろんです。アクアさんよろしくお願いします。」
「こちらこそ、受け入れてくれてありがとう!」
「リリー、小舅も付いて来るんだぞ。考え直しなさい。」
「そうだぞ。もっと若い男の方がいいぞ。」
「もう、パパ達うるさい!パパだって、好きな人と結婚したでしょ!第一ママが賛成したら、パパ達は反対できないでしょ!ママに勝てる人いるの?!」
「「……。」」
ジークハロルドも皇帝も黙ってしまった。
やっぱりユーリが最強だった。
予想通りで笑えた。アクアと陛下は顔を隠して笑っているし。エルンスト様に至っては普通に笑っていた。
俺はリリーさんに言っておかないといけない事を伝える。
「リリーさん、俺達は陛下に助けられたご恩があるから、陛下が退位するまではきちんと護衛騎士を全うしたいです。陛下が退位したらすぐにこの国に戻ってくるので、それまで待ってもらえますか?」
「はい。私待ちます。しっかりとお勤めを果たしてくださいませ。」
「ありがとう。リリーさんが理解ある方で良かった。」
「私もスピネルさんが真摯な方で嬉しいです。」
と、俺達は見つめ合い、二人の世界に入っていった。
そんな俺達に構わずエルンスト様が、
「じゃあ、それで決まりだね。ラインハルト、今夜うちでごはん食べる予定だったよね?」
「ああ、久しぶりにユーリのごはんだ。」
「ユーリへの報告はその時にするから。」
「わかった。スピネルもそれで良いか?おーい、スピネルぅ?」
「はっ、お願いします!」
と、今夜ユーリに結婚報告をすることになった。
アクアが教えてくれたけど、前回の首脳会議にも皇帝はリリーさんを連れて来ていた。前回俺は風邪を拗らせてやむなく留守番をしていた。リリーさんの容姿、身分などで近寄ろうとした者は後を絶たなかった。けれど、リリーさんの後ろに控えるジークハロルドの眼光に耐えられる者は居らず、みなすごすごと引き下がっていった。
リリーさん自身もジークハロルドか皇帝としか話す姿は見なかったので、男性が苦手かな?と、アクアはそう思っていたらしい。
「でもびっくりしたよ。堅物で有名なスピネルが、一目惚れでいきなり求婚だなんて。」
「いや、今を逃したら、もう会う機会がないかと思って。」
「でも、初恋の相手がリリーさんか。……ユーリはどっちだろ?反対?賛成?」
「わからん…けど、頑張る。」
「俺も応援する。」
「アクア、…すまんな。」
「何言ってんの。俺達は死ぬまで一緒だ。ラインハルト様の護衛になる時に誓ったんだ。それに家族が増えるのは嬉しいな。」
「ありがとな。」
いつもどんな時でも一緒にいてくれたアクアに感謝した。
「スピネルさんがリリーの結婚相手?ハルが許したならいいよ。」
「ありがとう、ユーリ!」
「ありがとう、ママ!」
「でも、2人知り合ったばかりでしょ?よくすぐに結婚したいって思えたね?」
「スピネルさんでなきゃって思えたの。」
「俺もリリーさんとならと思えた。」
「ふーん。(やっぱりここは小説通りになったんだね。)」
「ユーリ?」
「ああ、エルには後で話すよ。でも、おめでとう!」
と、ユーリは祝いの言葉をくれた。
ジークハロルドと皇帝は部屋の隅っこでいじいじしている。その姿にみんなが呆れていたが、
「もう、2人はいつまでもいじけてないの!エルパパとジークがいつまでも反対していたら、リリーはずっと独り身なんだよ?自分達は恋愛したのに、リリーが恋愛することを許さないってことなの?!」
と、ユーリが怒れば、渋々ながらジークハロルドと皇帝は認めてくれた。
ユーリからスピネルに『後で話があるから』とこっそり言われた。
やっぱり反対されるのかな?と思ってしまった。
ユーリに誘われて、宴会状態になった食堂から離れ、階段の下でまたこっそりとどんな話かを聞いた。
リリーさんの過去の話だった。リリーさんがユーリ達に保護されるまでの話を聞く。
親族にもかかわらず、10歳にも満たない少女になんて酷いことをさせていたのだろう!
俺は悔しくて、悲しくて、涙が零れた。
「ねぇ、スピネルさん。リリーは汚いって思える?」
「思えない。リリーさんは汚くない。汚いのは周りにいた大人だ。」
「…引き取った時、体中が傷だらけだった。もちろん女性器も傷ついていた。そこは医療を学んだエルが確認して治療したんだけど。でも、10歳の子に見えなかった。食事も満足に食べさせてもらえなくて、ほんと骨と皮の状態だった。俺達がここまで大事に育てたんだ。覚悟を持って、引き継いでくれるんだよね?」
ユーリは、真剣な眼差しで俺を見る。
誰よりもリリーさんを大事に、愛情を持って育ててきたのはユーリだから、俺は嘘偽りなく答えた。
「幸せにする自信はある。ただ、どうしても年上だから、俺の方が早く逝ってしまうと思う。その時は泣かせるかもしれない。その時だけは許して欲しい。」
「その言葉忘れんなよ?」
「忘れないさ。俺、初めて好きになった人がリリーさんで本当に嬉しいんだよ。」
「えっ?あの堅物スピネルじゃない。…うわ、きっもぉ~。」
「…ユーリ、その言葉は流石に尊大な俺も許せんなぁ!」
「うわぁぁ、リリー!婿殿が怒った!助けてぇ!」
なんて、ユーリはすぐにいつもの調子で俺を揶揄い、リリーさんの元へと走って逃げていく。俺は思わずユーリを捕まえようとしたが、一瞬のうちにユーリはジークハロルドの腕の中にいた。そして俺を睨みながら、
「ユーリまではやらんぞ!!」
と、ユーリはジークハロルドによってどこかに連れ去られた。誰もが気にしていないみたいだから、俺も敢えて言わないでおこう。
食堂は、エルンスト様とリリーさん以外はみんな酔っ払っていてひどい状態だった。
『仕方ない』と言いながら、エルンスト様がみんなを客室へと魔法で運んでいく。
アクア、お前護衛だろ?飲み過ぎだ!
でも思わず、リリーさんと二人っきりになれた。俺はリリーさんの手を握り、
「リリーさん、俺ユーリと約束しました。絶対に幸せにします。だから、少しだけ待ってもらえますか?」
「はい。私スピネルさんなら信じられるって思っていますので。」
「私もです。初めてお会いしたのに、リリーさんなら信じられると思えて。」
「きっと前々々世くらいに私たち恋人だったのかもしれませんね。」
「だとしたら、…いえ、今世は幸せになりましょう。」
「はい、よろしくお願いします。」
その後色々と話した。今の状況、今後の話など。
話が尽きることなかったが、いつの間にかソファに座った状態で、リリーさんが俺に寄りかかりながら眠ってしまった。
そんな俺達に毛布を掛けてくれたのは、エルンスト様。初めから反対はされなかったが、怒らせたら多分一番危険な人だ。
リリーさんの周りは強い人ばかりだから、リリーさんの意思に反することをやらかした場合、俺はこの世からいなくなるだろう。
泣かすことはしないが、絶対という保証はないので、遺言書は早めに書いておいて、アクアにそっと託しておくことにした。
その後も色々あったけど、無事リリーさんと結婚して、子供が3人生まれてきてくれた。
子育てもみんなで四苦八苦しながらした。
そんな子供達も大人になり、孫が生まれた頃、俺は倒れた。寿命だ。だから、仕方ない。
「リリーさん、泣かないで。年上の俺が先に逝くのは仕方ないことだよ。」
「でも、それでも。」
「俺、リリーさんと結婚できて、毎日幸せだった。リリーさんは違う?」
「ううん、毎日幸せよ。」
「なら、笑って。リリーさんの笑顔が、一番好きだから。」
彼女の泣きながらの笑顔を見て、俺は意識をなくした。多分そのまま……。
でも、先に天国に行って神様にお願いをしておく。来世もアクアと一緒にいたいし、ラインハルト様に仕えたい。それにお嫁さんは絶対にリリーさんでないと嫌だ!と。
それとユーリに聞かないと。俺、『約束』守れたかな?って。
まぁ、みんなが来るのを気長に待つさ。
土産話が楽しみだ。
ーーーーーーーーーー
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて完結とさせていただきます。
ここまでお付き合いくださりありがとうございます。
たくさんのいいねをありがとうございました。
一言でも感想をいただけたら、嬉しいです。
登場人物は毎回変わります。
本編、番外編で、きちんと名前を出していない方々の話です。
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「いやぁ、本当に驚きました。『みぎゃぁぁ!』なんて叫び声、初めて聞きましたよ。」
笑いながら王太子は、陛下に城内の誘拐事件の経緯からその後までを報告している。
「あれは魔物ではなかったのか。」
「はい、ユーリ殿の叫び声でした。間近で聞きましたので、間違いありません。」
クックッと笑いながら王太子は答える。
「して、マリーアンの処罰はどうしたいと?」
「働かせることにします。傷病施設に送りましょう。後の2人は各家で対応させます。『若いんだから、しっかり働かせて欲しいです。身体を動かせば、余計なことを考える暇なんてない』なんて言われましたので。自分より年上なのに、若いって。」
また王太子は笑い出す。
「なら、そのように。…あれは教育を間違えたか。」
「まず、母親の側妃から間違えていますね。あれも甘やかされるのが当たり前で育ちましたから。」
「はぁ、あれには蟄居を命じよう。儂もほとほと手を焼いていたが、今回のことで大人しくさせたい。」
「ならばそのように。」
と、報告は終わり、王太子は陛下の執務室から出て行った。
第三王女の処遇が速やかに決まった。
城内でも扱いに困っていたから、いなくなるだけでも有り難い。
平民出と馬鹿にされてきたアクアと僕は、心なしか安堵の表情を浮かべる。
陛下も何度も側妃と第三王女を諌めてきたが、聞く耳を持たなかった。
陛下の疲れた顔が心配である。
アクアと俺は双子で、近所でも有名なやんちゃ坊主だった。
親はこのまま成長したら、平気で人を傷つける人間になってしまうと心配して、近所の剣術を教えてくれている人のところに通わせた。
2人は性に合ったのか、メキメキと上達をしていく。
その先生がある時、『これ以上のことは私は教えられないから』と言われて、騎士団を紹介してもらった。
大人に混じって鍛練をした。最初はきつかったけど、周りは自分達より強い人達ばかりだから、負けることが悔しくて、鍛練に励んだ。
結果、12歳で正式に騎士団に入ることができた。史上最年少だった。
でも人は、自分より優れている者がいると、どうしても妬み嫉みの感情が現れる。
幾度も嫌がらせを受けた。雑用も押し付けられた。それでも生来の負けん気の強さで頑張れた。
一度だけ、心が折れそうな事件が起きた。
騎士団での窃盗事件が起きた。
備品の購入で用意した金が取られた。騎士団という場所柄、まず泥棒が入ることはない。そこで貴族出の騎士達は平民出じゃないかと騒ぎ立てる。
そんな中でも一番に若い僕達が疑われた。
いつも2人で行動を共にしていたから、他に味方なんていなかった。
まさか同じ平民出の騎士達も貴族出の騎士達と一緒になって責めて来るとは思わなかった。
その時俺達は人間と言うものを信じられなくなった。
事件を聞きつけた王陛下自らが調査に乗り出した。
そして、陛下は『民の血税を騎士と名乗る者が盗むなどあってはならん。平民だの貴族だの言っておらず、騎士としての矜持を示せ!』とお怒りになられた。
調査の結果、備品購入をする担当の騎士を、貴族出の騎士が遊ぶ金欲しさに、脅して金を盗っていったという。そして、平民のくせに史上最年少と騒がれた俺達を辞めさせるために、犯人に仕立て上げようとしたのだ。
この2人はもちろん解雇され、更に罰金と3年の懲役が決まった。
俺達は冤罪とわかってもらえたが、一度できた溝は埋まることはないし、もう周りの騎士達を信じることはできなかった。
そんな中、団長から陛下の護衛騎士を命じられる。陛下は将来有望な若手がいなくなることを危惧してだと団長は言っていた。
でも陛下の答えは違っていた。
昔見た勇者の話をしてくれた。
『若者を死地へと追い立てる人間になりたくない。しかし、私自身制限がある身。でも誰よりも権力もある。出来るなら、力が及ぶ限りは救えるように努力はしたい。其方らも私の自己満足に過ぎないが、若者の死んだような目はもう見たくないのだ』と語ってくれた。
俺達は確かに生きる希望を失っていた。
それでも陛下は俺達を助けたいと仰られた。
陛下に聞いた。『俺達の生きる目的になってくれますか?』と。
陛下は微笑みながら、『いくらでもなろう』と答えてくれた。
この時より、俺達は陛下の専属護衛騎士となった。
あれから十数年が経つ。俺達は陛下の守る為の努力は毎日欠かさない。
陛下は、第三王女と側妃の件で、昨日、今日とあまり眠れておらず、今朝はいつもより早く散歩をされた。
中庭の近くの回廊をトタトタと歩く音が聞こえる。
誰かと確認すれば、あの宿屋の料理人だった。料理人は陛下に気が付くと、
「王様、おっはよう。」
思わず俺達は剣の柄を握ろうとしたが、陛下に諫められる。陛下と分かっていてのあいさつの仕方ではないと思う。
陛下と料理人は会話をして、『東屋で待っていて』と、料理人は厨房に行った。
「陛下。」
「わかっておる。だがあの者から敵意も殺意も感じない。ただ料理を食べてもらいたいだけの者じゃ。」
料理人が戻ってきて、陛下に料理を給仕する。
毒味をと思っていたら、料理人が先に食べ出した。陛下も続けて食べ出す。
初めて見る料理だが、出汁?というものの香りが食欲を刺激する。
見ているだけの俺達は、腹が鳴りそうだった。
食べ終わった後は、なにやら陛下と勇者達の話をしていた。
途中料理人は、ナイフを出していいかと聞いてきた。事前に聞かれたので、素直に許可を出す。
ナイフとリンゴを取り出し、スルスルとリンゴを違う形に切っていく。
『見た目は違うけど、元は同じリンゴ。エル達もそう。お、私たちも思い出さないだけで、前世、誰かに会っているのかもしれない。見た目が違うけど、魂は同じだから。』
魂をリンゴに見立てて、違う形に仕上げる。でも、リンゴはリンゴ。味はリンゴのままだ。
人の姿形、生まれや身分は違っても、元は同じ魂。今世の行いが来世にも繋がる。そんな話だった。
この料理人は俺達と同じ平民にしては、知識の量が半端なかった。10も年下だというのに。
料理人は『残りもので悪いけど、騎士様達も食べてみてね』と去っていった。
陛下の護衛もあるので、アクアと交代で食べた。陛下は俺達が食べるのをニコニコしながら見ていた。
『お茶漬け』なるものは、さらさらと口に入っていき、とても美味しかった。
ここ半年、陛下はあまり食欲がなかった。病ではないかと心配したが、精神的疲れと診断されていた。
あの宿屋での食事は、陛下が久しぶりに満腹になるまで食べていた。
昨夜もあの料理人が城の料理人に教えた餃子というものを美味しそうに食べていた。
料理人のおかげで、陛下の食欲は戻りつつあった。
あの料理人は、俺達とは形は違えど、大事な人を守る術を身に着けたのだろう。
年下ながら、尊敬に値する人物だと俺達は思った。
魔王が討伐されたとの話を聞き、あの3人が無事で良かったと王が喜ぶ。
事の真相は彼らが城に到着してから聞いた。俺達が仕えている陛下が陛下で良かったと、つくづく思い知った。
彼らが城に滞在中、料理人はいつの間にか陛下を『ハル』と愛称で呼ぶようになった。
陛下も親友かのように『ユーリ』と呼ぶ。
2人が仲良く話している隣で、俺達は勇者達に稽古をつけてもらった。
俺達は他より強いとは思っていたが、彼らは圧倒的に桁違いに強かった。
勇者は『剣は苦手』と言うけれど、全く勝てなかった。
勇者に何をしたらそこまで強くなれるのか聞いてみたら、『美味いごはん』と答えた。
確かにあの料理人のご飯は美味しい。でもそれだけではないと思う。思って詳しく聞いてみたが、それ以上は教えてもらえなかった。まあ、秘密は誰にでもあるしな。
勇者の仲間のジークハロルドは、本当に強かった。ジークハロルドにも同じことを聞いてみた。
彼の答えは『守ることを覚悟出来たから』だった。守ることに覚悟?
『守ると決めても、本能は生き延びたいと身体が勝手に動いて、守る人を守れないまま死ぬ、を繰り返していた。もうあんな悔しい思いはしたくないと思っていても繰り返す。ユーリと話をして、守る覚悟が俺にはなかったらしい。自分が死んでも守りたいと、生きたい本能さえ捻じ曲げる覚悟ができたから、強くなれた。』
俺達は言葉が出なかった。
なんと壮絶な経験を繰り返したのだろう。
前世の記憶を持つことはいいことばかりではないと知った。
そう言われて、覚悟はあるのかと自分自身を問う。ついでにアクアにも聞いてみた。
「アクアは覚悟ってあるのか?」
「漠然と陛下を守るって頭はあったけど、実際のところ、危なかったことはあまりなかっただろ?生きるか死ぬかなんて瀬戸際に立ったことはなかったから、あそこまで考えたことはなかった。」
「俺もだ。…でも、覚悟か。俺はなかったかもしれない。」
「ああ、俺もなかった。…そうだよな、ラインハルト様がむざむざと殺される様は見たくないな。」
「うん。……良い話が聞けたな。」
「ああ。」
俺達は今まで以上に鍛練を積み重ねることにした。
「アクアさんとスピネルさんて何年くらいハルの護衛しているの?」
ユーリが聞いてくる。いつの間にか俺達とも仲良くなっていた。
「もう、10年以上だな。」
「へ?…ってことは、俺の歳にはもう護衛していたの?!すっげぇ!」
「そうだけど、…そんなにすごいか?」
「うん!平民が騎士になるってこと自体、中々なれないじゃない。騎士になれても、護衛騎士になれるってわけじゃないよね。護衛って信頼とか実績があるからなれるんでしょ?しかし、ハルは見る目があるね。2人が若いうちに取り込んでいたんだもん。」
陛下が褒められて、少し照れくさい。
実際の経緯は違うが、わざわざ指摘することでもない。
「それに10年以上なんて、それだけ好きじゃないといつも一緒にいられないじゃない。ん、この場合、好きとかじゃなくて、尊敬とか忠誠とかかな?」
「ああ、陛下は尊敬している。」
「だよね。やっぱりハルはすごいな。良い王様だ。」
ユーリは、手放しに陛下を褒める。
他国の民から見ても、陛下は良い王のようだ。俺達はそんな陛下を誇りに思う。
それから数年後の皇国で開催された首脳会議前の顔合わせで、俺は初めて恋をした。
皇帝陛下が連れてきた中に、美しい女性がいた。魔法士のローブを纏っていたので、護衛として連れてきたのだろう。皇帝の護衛をするだけ強い魔法士のようだ。
歳は18、9ぐらいで、20歳近くは離れている。でも年齢なんて気にしなかった。
俺は護衛中にも関わらず、その女性の元に寄り跪く。
「貴女に一目惚れしました。結婚してください!」
と、プロポーズをした。
「…はい。お受けします。」
と、女性はプロポーズを受けてくれた。
俺は思わず、
「よっしゃぁあ!!」
と叫んだ。彼女はそんな俺を温かい目で見てくれていた。
「「まてぇ!!」」
と、皇帝とジークハロルドが叫んだ。何故この2人?
「リリー、パパは許さんぞ!スピネルはパパより年上なんだぞ!」
「スピネルさんていうですね。」
「お名前はリリーさんというんですね。お似合いだ。」
「まぁ、ありがとうございます。」
照れる彼女はとても可愛い!
「リリー、話を聞いて!」
「リリー、おじいちゃまは反対だぞ!」
ジークハロルドがパパで、皇帝がおじいちゃま?もしかして、凄い身分の女性だった?
「もう、パパ達煩いよ。今スピネルさんとお話し中なの!」
「あのぅ、その前に会議始まるから。リリーもスピネルもジークも父上も話は後にして、みんな仕事しよ?」
と、勇者だったエルンスト様の一声で一旦保留となった。
周りは俺の突然のプロポーズから、唖然として事の成り行きを見ているだけだった。
俺は陛下の元に戻り謝罪した。陛下は『よいよい』と言いながら、ニマニマしている。アクアも同じ顔だ。
会議中ジークハロルドからの殺意に満ちた目で、漸く冷静になれた。
「で、うちは婿希望だけど、うちに婿入りする気はあるの?てか、ラインハルトの護衛辞めていいの?」
会議の後、場所を変えて陛下とアクアと俺、リリーさんとジークハロルドとエルンスト様と皇帝で話し合いとなった。
「儂は今年で退位する予定じゃ。アクアとスピネルには今後は好きにしていいと言っておる。」
「リリーさんと一緒になれるなら婿入りします!」
「なら俺も付いて行く!生まれてずっと一緒にいるスピネルと今更離れたくない。もう両親もいないし、2人っきりの家族だから。」
「アクアも一緒でいいかな?双子の兄で生まれた時からずっと一緒なんだ。俺も今更離れたくないんだ。」
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「こちらこそ、受け入れてくれてありがとう!」
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やっぱりユーリが最強だった。
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「はい。私待ちます。しっかりとお勤めを果たしてくださいませ。」
「ありがとう。リリーさんが理解ある方で良かった。」
「私もスピネルさんが真摯な方で嬉しいです。」
と、俺達は見つめ合い、二人の世界に入っていった。
そんな俺達に構わずエルンスト様が、
「じゃあ、それで決まりだね。ラインハルト、今夜うちでごはん食べる予定だったよね?」
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「はっ、お願いします!」
と、今夜ユーリに結婚報告をすることになった。
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リリーさん自身もジークハロルドか皇帝としか話す姿は見なかったので、男性が苦手かな?と、アクアはそう思っていたらしい。
「でもびっくりしたよ。堅物で有名なスピネルが、一目惚れでいきなり求婚だなんて。」
「いや、今を逃したら、もう会う機会がないかと思って。」
「でも、初恋の相手がリリーさんか。……ユーリはどっちだろ?反対?賛成?」
「わからん…けど、頑張る。」
「俺も応援する。」
「アクア、…すまんな。」
「何言ってんの。俺達は死ぬまで一緒だ。ラインハルト様の護衛になる時に誓ったんだ。それに家族が増えるのは嬉しいな。」
「ありがとな。」
いつもどんな時でも一緒にいてくれたアクアに感謝した。
「スピネルさんがリリーの結婚相手?ハルが許したならいいよ。」
「ありがとう、ユーリ!」
「ありがとう、ママ!」
「でも、2人知り合ったばかりでしょ?よくすぐに結婚したいって思えたね?」
「スピネルさんでなきゃって思えたの。」
「俺もリリーさんとならと思えた。」
「ふーん。(やっぱりここは小説通りになったんだね。)」
「ユーリ?」
「ああ、エルには後で話すよ。でも、おめでとう!」
と、ユーリは祝いの言葉をくれた。
ジークハロルドと皇帝は部屋の隅っこでいじいじしている。その姿にみんなが呆れていたが、
「もう、2人はいつまでもいじけてないの!エルパパとジークがいつまでも反対していたら、リリーはずっと独り身なんだよ?自分達は恋愛したのに、リリーが恋愛することを許さないってことなの?!」
と、ユーリが怒れば、渋々ながらジークハロルドと皇帝は認めてくれた。
ユーリからスピネルに『後で話があるから』とこっそり言われた。
やっぱり反対されるのかな?と思ってしまった。
ユーリに誘われて、宴会状態になった食堂から離れ、階段の下でまたこっそりとどんな話かを聞いた。
リリーさんの過去の話だった。リリーさんがユーリ達に保護されるまでの話を聞く。
親族にもかかわらず、10歳にも満たない少女になんて酷いことをさせていたのだろう!
俺は悔しくて、悲しくて、涙が零れた。
「ねぇ、スピネルさん。リリーは汚いって思える?」
「思えない。リリーさんは汚くない。汚いのは周りにいた大人だ。」
「…引き取った時、体中が傷だらけだった。もちろん女性器も傷ついていた。そこは医療を学んだエルが確認して治療したんだけど。でも、10歳の子に見えなかった。食事も満足に食べさせてもらえなくて、ほんと骨と皮の状態だった。俺達がここまで大事に育てたんだ。覚悟を持って、引き継いでくれるんだよね?」
ユーリは、真剣な眼差しで俺を見る。
誰よりもリリーさんを大事に、愛情を持って育ててきたのはユーリだから、俺は嘘偽りなく答えた。
「幸せにする自信はある。ただ、どうしても年上だから、俺の方が早く逝ってしまうと思う。その時は泣かせるかもしれない。その時だけは許して欲しい。」
「その言葉忘れんなよ?」
「忘れないさ。俺、初めて好きになった人がリリーさんで本当に嬉しいんだよ。」
「えっ?あの堅物スピネルじゃない。…うわ、きっもぉ~。」
「…ユーリ、その言葉は流石に尊大な俺も許せんなぁ!」
「うわぁぁ、リリー!婿殿が怒った!助けてぇ!」
なんて、ユーリはすぐにいつもの調子で俺を揶揄い、リリーさんの元へと走って逃げていく。俺は思わずユーリを捕まえようとしたが、一瞬のうちにユーリはジークハロルドの腕の中にいた。そして俺を睨みながら、
「ユーリまではやらんぞ!!」
と、ユーリはジークハロルドによってどこかに連れ去られた。誰もが気にしていないみたいだから、俺も敢えて言わないでおこう。
食堂は、エルンスト様とリリーさん以外はみんな酔っ払っていてひどい状態だった。
『仕方ない』と言いながら、エルンスト様がみんなを客室へと魔法で運んでいく。
アクア、お前護衛だろ?飲み過ぎだ!
でも思わず、リリーさんと二人っきりになれた。俺はリリーさんの手を握り、
「リリーさん、俺ユーリと約束しました。絶対に幸せにします。だから、少しだけ待ってもらえますか?」
「はい。私スピネルさんなら信じられるって思っていますので。」
「私もです。初めてお会いしたのに、リリーさんなら信じられると思えて。」
「きっと前々々世くらいに私たち恋人だったのかもしれませんね。」
「だとしたら、…いえ、今世は幸せになりましょう。」
「はい、よろしくお願いします。」
その後色々と話した。今の状況、今後の話など。
話が尽きることなかったが、いつの間にかソファに座った状態で、リリーさんが俺に寄りかかりながら眠ってしまった。
そんな俺達に毛布を掛けてくれたのは、エルンスト様。初めから反対はされなかったが、怒らせたら多分一番危険な人だ。
リリーさんの周りは強い人ばかりだから、リリーさんの意思に反することをやらかした場合、俺はこの世からいなくなるだろう。
泣かすことはしないが、絶対という保証はないので、遺言書は早めに書いておいて、アクアにそっと託しておくことにした。
その後も色々あったけど、無事リリーさんと結婚して、子供が3人生まれてきてくれた。
子育てもみんなで四苦八苦しながらした。
そんな子供達も大人になり、孫が生まれた頃、俺は倒れた。寿命だ。だから、仕方ない。
「リリーさん、泣かないで。年上の俺が先に逝くのは仕方ないことだよ。」
「でも、それでも。」
「俺、リリーさんと結婚できて、毎日幸せだった。リリーさんは違う?」
「ううん、毎日幸せよ。」
「なら、笑って。リリーさんの笑顔が、一番好きだから。」
彼女の泣きながらの笑顔を見て、俺は意識をなくした。多分そのまま……。
でも、先に天国に行って神様にお願いをしておく。来世もアクアと一緒にいたいし、ラインハルト様に仕えたい。それにお嫁さんは絶対にリリーさんでないと嫌だ!と。
それとユーリに聞かないと。俺、『約束』守れたかな?って。
まぁ、みんなが来るのを気長に待つさ。
土産話が楽しみだ。
ーーーーーーーーーー
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて完結とさせていただきます。
ここまでお付き合いくださりありがとうございます。
たくさんのいいねをありがとうございました。
一言でも感想をいただけたら、嬉しいです。
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