婚約者の心の声を聴きたくない【改稿版】

ゆい

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「ここは、ノイリスの心の奥の奥にある空間です。深層心理と言えばわかりやすいでしょうか?自分自身が意識できる表層心理より、自分では気付かない無意識下にある心理の中の一場所にあたります。こんな場所があると認識できたのは、ノイリスが閉じ籠ったことで発見できました」

「「へぇぇ」」

私と哲彌は、リューの分かりやすい説明に感嘆の声をあげる。

「更に詳しいことは、時計オタクの2人に説明したところで理解してもらえないと思い説明を省きました。今回は哲彌とノイリスが急に入れ替わったことで、身体的・精神的にも負荷がかかり過ぎて倒れてしまいました。前回では5日間寝ていましたので、今回もそれくらいになるでしょう」

「……また、哲彌さんが表に出るの?」

「いやいや、何のために私がお前を引っ張り出そうとしていたんだよ?」

哲彌は手を振りながら、否定の言葉を言う。

「私はもう出たくないよ。時計や魔法具を弄れたのは楽しかったけど、あの男と話をにするのは、精神がゴリゴリに削られていくんだよ。…もう、本当に二度と会いたくない……。それに、この生はノイリスの人生だ。哲彌の人生ではない。だから、辛くても悲しくても逃げんなよ。自分の人生なんだから、誰かが責任なんて取ってくれないんだから、自分が足掻くしかないんだ。それにいつかは、悲しみも苦しみも糧になる日がくるんだ。ノイリスならそれらを糧にして、まだまだ成長できるのだから、頑張ってほしいんだ」

「…哲彌さん」

哲彌さんの言葉にちょっとウルッとしてしまう。
人生の先輩の言葉は、重みが違うなぁと思った。

「良いことを言っているようですけど、哲彌は大体アキさんの観ていたドラマに出てきた言葉を繋ぎ合わせて言っているだけです。アキさんは青春ものが大好きでしたからね。アキさんと一緒に名言・格言集なんかもよく読んでいましたよね」

「ちょっ、リューはなんでバラしちゃうのかなぁ」

「それに婚約者の心の声を聴く度に、哲彌だと鳥肌が立っていましたからね。ずっと『キモい』を繰り返していましたよ」

「だぁぁ、もう、黙っていれば、分からなかったのに!」

と、またギャンギャンと2人は言い合いを始めた。
仲良しだなと私はちょっと羨ましく思った。

「ノイリスが出てきたなら、私の役目はおしまいだ。まぁ、隆関連で時々出てくるかもしれないけど」

哲彌がリューに変な技を掛けながら、私に話しかけてきた。
えっ、こわいこわい。

「いだっい!!哲彌、コブラツイストはやめろ!」

「なら、卍固めだ!」

更に変な技をかけられたリューは痛そうに喚いている。
えぇぇ、こわいこわい!
……ていうか、この精神?だけの空間なのに、肉体的痛覚ってあるの?そもそもAIって肉体を持たないから、痛みってわかるの?

「痛みはないですよ」

「プロレス技をかけられたら、痛がるフリでもしてもらわないと、観客は面白くないだろ?」

……つまり、この2人は遊んでいただけで。ついでに私も遊ばれたようで。小難しく考えてしまった私はおまぬけさんみたいで、思わず頬を膨らまして盛大に拗ねた。

「ノイリスが拗ねた」

「拗ねましたね」

と、2人で膨らんだ私の頬をツンツンツンツンと突いてくる。この2人は鬼かな?

「失礼な、誰が鬼だ」

ベシッと哲彌に頭をたたかれる。

「そうですよ、哲彌と同じ扱いをしないでください。鬼は哲彌だけで十分です」

と、リューが返す。哲彌はリューに蹴りを入れていたけど。
哲彌さんって結構手が早い方なのかな?
またしても、ベシッと哲彌に頭をたたかれる。
……あれ?私、口にしていないよね。

「…もしかして、……この空間って」

「ノイリスの心の中にいるんだから、どうしたってノイリスの心の声は、私達には聞こえるんだよ」

「第一、哲彌に隠し事なんてできないんですよ?だって、ノイリスと哲彌の魂は同じなんですから。器が違うだけなんですよ?」

「…それは理解しているけど、なんでリューさんまで聞こえるの?」

「指輪の延長線上です。口で言葉を発しなくても、私と会話をしていたでしょう?それと同じ原理です」

「へぇ、なるほど……って、私のプライバシー、ゼロなの?!」

「へっ、「今更」」

2人から悪ガキのような顔をしながら言われた。
確かにリューさんは今更だけど、それに哲彌さんも加わるとなると、煩そうだ。

「勘弁してよぉ!!」

私の嘆きに2人はただ笑うだけだった。




「でも、私は本当にもう表には出ないよ。今回は緊急事態だったから、無理矢理リューに引っ張り出されただけだし」

「また緊急事態には引っ張り出します」

「ノイリスがここに戻ってこない限りは出ないぞ。あとは詳しいことはリューに聞け」

「また丸投げですか」

「どの口が言う。私を勝手に引っ張り出しておいて!」

哲彌はリューの両頬をみよーんと引っ張り伸ばす。
本当に仲が良いな、この2人は。

「ノイリス、そろそろ起きる時間だ」

と、リューが言う。

「自分の人生を楽しんでこい。それに何かあったらちゃんと助けるから、リューが」

今度はリューが哲彌の両頬を引っ張り伸ばす。

「どうして素直に見守っているって言えないんですかね、あなたは」

「いひゃいって!」

「ノイリス、私達がいるのですから、きちんと婚約者と話をしなさい」

「そうそう。意思疎通は大事だぞ」

「…頑張って、みます」

まだ踏ん切りがつかないけど、2人に背中を押してもらったなら、頑張れそうな気がした。

「言いたいことを言ってやれ!」

「それで話が通じないなら、婚約を解消するように、哲彌を召喚しますから」

「だから、「いってらっしゃい!」」

「はい、いってきます!」

私がそう言うと、辺りは段々と白くなり、哲彌とリューの姿も霧に溶け込むかのように見えなくなってくる。
2人は完全に見えなくなるまで、手を振ってくれていた。












「ノイリス、起きてくれ」

悲痛なフェリックス様の声が聞こえた。
目を開ければ、私の右手を両手で握り、額にあてながら俯いていた。
握られている右手は、どこかしっとりとしている。

「フェリックス、さま?」

カスカスの声で、半分くらいは音にならなかったけど、それでもフェリックス様に聞こえていたみたいで、バッと顔を上げる。
フェリックス様は顔色が悪くて隈が酷く、髭も伸びっぱなしだった。
それに涙の跡がわかるほどで、目も充血していた。

「ノ、イリス。…やっと、…起きたのか」

と、涙を流し始めた。

「フェリックス様、泣かないで、ください」

「……良かった、…本当に、良かった」

と、また、私の右手を更にギュッと握ったまま、泣き始めてしまった。







「リューさん、ノイリスが目が覚めるまで、時間がかかり過ぎたんでない?」

「計算の上では5日でした」

「……ノイリス、驚くよな?」

「……驚くだけだといいのですが」

ノイリスに聞こえていないことをいいことに、哲彌とリューは暢気な会話をした。



ノイリスが倒れてから目が覚めるまで、今回は10日が過ぎようとしていた。

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