ゆい

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ハロルドに夏の長期休暇に入る最後の登校日に、『放課後に時間を貰えないか?』と聞かれた。
僕は了承した。

「僕は、学園を辞めて、国に戻ることが決まったよ。夏の長期休暇には、この国を出る予定だ。」

「…そう、ハロルドがいなくなるなんて、寂しいね。」

「僕も折角できた友達と離れるのは寂しいよ。でもアシェルのおかげで、帰国が早まったんだよ。」

「やっぱり密輸・密売を調べていたんだ。」

「ん。僕の国でも調べ上げきれなかったのを、アシェルは一人で調べた。」

横領の中には、剣や弓などの武器が含まれていた。
それらが密売されていた。
何処かでクーデターを狙っていたのだろうと言う話もあった。

「これ、公では渡せないけど、報奨の目録。」

ハロルドから目録書をもらう。
丸まっている目録書を拡げて読む。

「報奨にしては、すごいね。」

金貨1,000枚から始まり、王家所蔵の宝石が数点、入国が自由になる王家のメダル等が書かれていた。

「アシェルはそれだけのことをしたから。」

「この最後の1つだけ願いを聞くって言うのは何?」

「文字通り何でもあり、らしい。人道に反していなければ。」

「なら、僕の願いは決まっているよ。」

「なに?」

「ハロルドと永遠の友情を。」

ハロルドは驚いた顔をした。

「…それがアシェルの願いなのかい?」

「そうだよ。これから先、ハロルド以上の親友に巡り会えないと思うんだ。だから、離れていても、ハロルドは僕の親友であると胸を張って言いたい。」

「…アシェルはバカだな。そんなことに願い事を使わなくても、親友なのに。」

ハロルドは少し泣きながら笑った。
頬を伝って落ちた雫は、宝石のように輝いていた。
ハロルドは密輸・密売先の国の第2王子だった。
社会勉強と称して、僕の国に留学をした。
身分を明かさなかったのは、調査の為だった。
他国ということで、中々調査が進まなかったが、ある時、僕も調べているのがわかった。
それから行動を共にしてみたと言う。
何故僕が調べているのか理由がわからなかったけど、アレクセイへの『嫁に来い』宣言で、大体のことを察してくれたようだ。

「アシェル、良かったね、婚約できて。」

「ありがとう。7年も掛かったけどね。」

「アシェルが割に粘着質だと知れたしね。」

「『欲しいモノは必ず手に入れる』が家訓だからね。それに『有言実行』が師匠のモットーだしね。」

「ふふっ、アシェルの周りは楽しそうだね。」

「うん。…ハロルド、元気でね。」

「アシェルも。」

ハロルドが手を出した。
僕も手を差し出し、握手を交わす。
僕達は硬く握手をした。
永遠の友情を約束した。





長期休暇に入っても、お互いが忙しかった。
アレクセイは鍛練漬けの毎日、僕は次期当主としての仕事があった。
休暇に入って1週間した頃、夕食の時に父から提案された。

「領地に視察に行くなら、アレクセイ君を誘ってはどうだ?アシェルは物覚えが早いから、大体のところは教え終わっているから、これからは1人で実践して来なさい。」

「わかりました。」

父なりの気遣いのようだ。
夕食後にアレクセイにすぐに手紙を出した。
もちろん、副団長達にも。
返事はすぐに来た。
『行く』『いいよ』だった。
すぐに父に手紙を見せて伝えた。

「…アレクセイ君には、結婚までにもう一度貴族の勉強だな。」

と、頭を抱えながら、呟いていた。
アルサスさん達は?…ああ、もう無理か、と苦笑いをするしかなかった。

アレクセイと領地に向かう。
朝早く出れば、夕方には領地の屋敷には着く。
王都の隣にあったから、近かった。
馬車の中では、久しぶりに会えたので、2人で色々と話をした。
夕方前には到着した。
屋敷の使用人達にアレクセイを紹介して、部屋を案内させた。
執事長にもう少ししたら、アレクセイを丘に連れて行くと伝えた。
執事長はニコニコと『それはようございます』と言ってくれた。


アレクセイに領を一望できる丘に行こうと誘った。
屋敷の裏にある丘だった。
日が傾き、辺りは赤々としていた。

「はぁ、やっぱり侯爵領ってすごいな。」

景色を観ながら感嘆とした声で言っていた。
目を輝かせながら、景色を観ていた。

「セイ君。」

僕はアレクセイを呼び、こちらに振り向かせる。
僕はポケットから箱を取り出して開けて、アレクセイに見せた。

「色々順番が変わったけど、アレクセイ大好きだよ。愛している。どうか僕と結婚してください。」

「…アーシェ。」

「返事は『はい』しか受け付けないけど。」

「…俺でいいのか?男爵子息だし。」

「アレクセイはアレクセイだよ。男爵子息なんだろうが、平民だろうが関係ない。」

「騎士目指しているから、夫人としての仕事は難しいと思うし。」

「アレクセイの夢だった騎士は諦めて欲しくないな。僕が夫人の仕事はすればいいだけだし。」

「それに貴族らしくの振る舞いには自信がない。」

「それはおいおい頑張ろうか。」

「それに、」

「アレクセイ。僕が嫌い?僕と結婚したくない?」

「違う、そうじゃなくて、…なんて言っていいかわからないけど、いつも父さん母さんに比べられてきたから、自信がないんだ。アーシェは父さん似の顔だから、父さん母さんの子だから繋がりが欲しいとかじゃないのは、わかっている。わかっているけど…。」

「アレクセイ、僕はまだアレクセイより背は低い。3歳も年下だ。それに家系的に代々顔は平凡だ。アルサスさん並みの美人とは程遠い。そんな僕はいや?」

「いやなわけない、アーシェはアーシェだ。…あっ。」

「わかった?僕はアレクセイだから、求婚をしているんだよ。アレクセイ、返事は?」

「…俺もアーシェが好きだ。よろしくお願いします。」

「こちらこそ。大事にするね。」

箱から指輪を取り出して、アレクセイの左手の薬指に嵌める。
指に嵌った指輪を見て、アレクセイは嬉しそうにしてくれた。

「アレクセイ。」

と、背伸びをして、アレクセイにキスをする。
軽くチュッと音を立て、すぐに離れた。
アレクセイは一瞬のことで少し呆けてしまったが、すぐに顔を真っ赤にして、手で顔を隠すようにしゃがみ込んでしまった。

「俺、一生アーシェに勝てる気がしない。」

「僕も負ける気はないよ。夫としてのプライドが許さないからね。」

俯いているアレクセイの顔を上に向けて、もう一度キスをした。
今度、ゆっくり、優しく、味わうように。

『本当に蜜の味を味わえるのは、誰だろうね。』
本当の蜜の味を味わえたのは、僕のようだったよ、ハロルド。



2人地面に座り、寄り添いながら夕陽を観ていた。
どうか、この先何十年とアレクセイと見続けることが出来ますように、と祈りを込めて。

















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ここまで読んでいただきありがとうございます。
心から感謝します。
後日談なども考えてはおります。
感想など一言だけでもいただけたら、嬉しいです。



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