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【番】の意味を考えるべきである
【番】とは生涯において一人だけの伴侶のことを言う。
お互いの仲を徐々に時間をかけて深めていく夫婦の場合と、匂いやフェロモンで魂が【番】と認識して夫婦になる場合がある。
後者は、【運命の番】と呼ばれている。
私は、伯爵位を持つ旦那様の従者として40年近くお仕えしている。
孤児で行き場のなかった私を拾って下さり、それからは旦那様の従者となった。
旦那様は20歳で結婚し、2男1女と子宝にも恵まれて、30歳前には前当主から伯爵位を引き継いだが、45歳となった一昨年、奥様を亡くされ、気落ちした旦那様は先月当主の座を25歳になられるご長男に渡された。
そして、領地で隠居生活をするということで、荷物を整理をされていた時に、ぎっくり腰になってしまった。
当然、領地までの移動はできない。
今日は最近東方から肩こり・腰痛に効く針治療というものを受けに、街に出たのだ。
馬車で入り込めない細い路地の先に治療院があるため、馬車留めから歩いていた時だった。
「貴方は私の番だ!」
狼の獣人はそう言って、旦那様を後ろからギュッと抱きしめる。
「ああ!旦那様を離してください!」
私は慌ててそう言った。
しかし獣人は旦那様を離そうとしないどころか、更に力強く抱きしめる。
ピキッとイヤな音もした。
しかも私に殺気を放つ気配までする。
「なんだ、貴様は。私と番の仲を割くのか!」
「違います!旦那様はぎっくり腰の治療中なんです!」
「えっ?!」
「旦那様、腰は?」
「む、…無理」
旦那様は涙目で答えた。
身体はプルプルして立っているのも辛いようだった。
「旦那様!!」
私は獣人から旦那様を奪うと、お姫様抱っこをして治療院まで走った。
獣人は、私達の後を追ってきた。
治療院に駆け込んで、すぐさま旦那様を診てもらった。
治りつつあった腰は、2~3日完全に安静ということで、治療院に入院となった。
「旦那様、入院の準備等でお傍から離れます。何かございましたら、この呼び鈴を鳴らしてください。治療院の者が駆け付けますので」
「エリ、すまないがフィリップにも伝言を頼む」
「もちろんです。若にもお伝えいたします」
「ふふっ、また『若』って言うとあいつが怒るぞ」
「申し訳ございません。ですが、私が『旦那様』と呼ぶのは、旦那様だけでございます」
「エリは相変わらずの頑固だねぇ」
「…あの駄犬も安静の邪魔になりそうなので、連れて行きます」
チラッと獣人の方を見る。
私よりも20センチも背の高い獣人の背後に素早く移動して、膝の裏を軽く蹴った。
膝から崩れ落ちたところで私が後ろ襟を捕まえた。
最初は驚いて動きが止まっていた獣人だったが、襟を引っ張られていること嫌がり暴れようとしたが、それに構わず獣人を引き摺りながら私は部屋から退出した。
「てめぇ!いい加減離せ!」
部屋を出てもなお騒ぐ獣人は、治療に来ている人達の邪魔になっていることに気が付かない。
「無駄吠えばかりする駄犬ですね」
治療院から出たところで、獣人に言った。
「いいですか?今回は旦那様に対する暴行罪にあたります。治療費はもちろん、慰謝料も要求させていただきます。ひと先ずは詰め所に行きましょうか?」
と、獣人を引き摺って、警備隊の詰め所に行った。
それからは、詰め所であれこれの説明・屋敷に戻り旦那様の入院の説明と入院の準備と慌ただしかった。
しかも獣人は、隣の国の大公令息であったと翌日騎士団から知らせが来た。
大公令息と聞き驚いた。
礼儀がなっていなくとも、大公子息という王族に準ずる方を犯罪者として騎士団につきだしたのだから、私は確実に首が刎ねられるだろう。
物理的な意味で。
そうなると、旦那様の今後が不安でしかない。
仕事や社交界では貴族らしく振舞うが、私室に一歩入ればとてもだらしなくなる。
着替えも、湯あみもせず真っすぐにベッドへとダイブするのを止めるのは、日常のこと。
休みの日は、ベッドの上で芋虫状態になりだらだらと一日を過ごす。
食事を取ろうともしないので、奥様か、私が給餌をしないと食べてくれない。
こんなだらしない旦那様は、奥様と私しか知らない。
奥様が亡くなられて、私一人でお世話をしていたが、もうそれも終わりのようだ。
旦那様が安らげる場所がなくなるのが、死ぬことよりも恐怖だった。
その話を聞いた夕方に、獣人、もとい大公令息が護衛2名を連れて旦那様の病室を見舞われた。
旦那さまの容態は、痛みは昨日よりは引いたがまだ起き上がることはしてはいけないので、寝たままでの対応となるのでお断りをしたのに、強引に病室へと入ってきた。
令息は旦那様の姿を見て嘆きながら、旦那様の手を握り、『申し訳ない』と謝り、『フェロモンで【運命の番】とわかった』と説明をし始めた。
私は旦那様の側に控えながら子息を観察していたが、初めは頬を染め愛おしいとういう表情だったが、段々と『これじゃない』という顔になってきている。
貴族なら本心を顔に出してはいけないと習わなかったのか?と思ったが、顔に出してくれたおかげで今何を思い、何を考えているのか手に取るように分かった。
つまり、旦那様の顔が子息の好みでなかったらしい。
なにせ普通におじさんだ。
美中年でもイケオジでもない。
それに年齢も20歳以上も上。
加齢臭が気になるお年頃。
番になれても、腰の悪い旦那様相手では番い合えない。
でも、フェロモンが【運命の番】だよ!って叫んでいるようだ。
私は苦悶する令息が面白くてじっくりと観察をしてしまった。
令息の護衛2人は、微妙な顔をしている。
旦那様は、笑顔のまま青筋を立てていた。
そんな旦那様の表情をきちんと読み取った令息は、慌てた様子で退室し帰っていった。
「アレで大公令息か?」
「はい。アレで大公令息です。しかも22歳だそうです。」
「隣国の教育の低さが窺えるな」
旦那様、それは言ってはいけません。
「大体『運命の番』だの『真実の愛』だの言うのは、裕福な家出身で、頭が花畑の男どもが言い出す。女性の方が現実的だ。妻は『主食は経済力、おやつに恋愛』と言い切った。私はなるほどと思ったよ」
奥様、なんてことを言っているんですか。
「主食もおやつも私だったがな」
ええ、そうですね。
「大公家に苦情の文を入れておいてくれ」
「かしこまりました」
【運命の番】だったけど、顔で拒否られたなんて噂をたてられたら、家門の名誉が傷つけられますから。
しっかりと苦情を申し立てましょう。
あれから詫び状と治療費、慰謝料が大公家より届いた。
これにて、番騒動に幕が降りた。
旦那様も無事腰が治り、領地に引越した。
今日も今日とて、芋虫旦那様のお世話をする。
『筋肉がないから、腰をやられるんです』と言えば、散歩するようになったが、外から帰って直ぐにベッドにダイブはやめて欲しい。
そんな散歩の時に、獅子の獣人男性から声をかけられた。
「あなたこそ、私の番だ!」
と旦那様は求婚をされてしまった。
旦那様、あなたの加齢臭は獣人を惹きつけるフェロモンが出ているのですか?と問いたい。
そして獣人の方達よ。
番とは夫婦の意味だ。
夫婦になってから使うべき言葉だ。
今一度【番】の意味を考えるべきである!
お互いの仲を徐々に時間をかけて深めていく夫婦の場合と、匂いやフェロモンで魂が【番】と認識して夫婦になる場合がある。
後者は、【運命の番】と呼ばれている。
私は、伯爵位を持つ旦那様の従者として40年近くお仕えしている。
孤児で行き場のなかった私を拾って下さり、それからは旦那様の従者となった。
旦那様は20歳で結婚し、2男1女と子宝にも恵まれて、30歳前には前当主から伯爵位を引き継いだが、45歳となった一昨年、奥様を亡くされ、気落ちした旦那様は先月当主の座を25歳になられるご長男に渡された。
そして、領地で隠居生活をするということで、荷物を整理をされていた時に、ぎっくり腰になってしまった。
当然、領地までの移動はできない。
今日は最近東方から肩こり・腰痛に効く針治療というものを受けに、街に出たのだ。
馬車で入り込めない細い路地の先に治療院があるため、馬車留めから歩いていた時だった。
「貴方は私の番だ!」
狼の獣人はそう言って、旦那様を後ろからギュッと抱きしめる。
「ああ!旦那様を離してください!」
私は慌ててそう言った。
しかし獣人は旦那様を離そうとしないどころか、更に力強く抱きしめる。
ピキッとイヤな音もした。
しかも私に殺気を放つ気配までする。
「なんだ、貴様は。私と番の仲を割くのか!」
「違います!旦那様はぎっくり腰の治療中なんです!」
「えっ?!」
「旦那様、腰は?」
「む、…無理」
旦那様は涙目で答えた。
身体はプルプルして立っているのも辛いようだった。
「旦那様!!」
私は獣人から旦那様を奪うと、お姫様抱っこをして治療院まで走った。
獣人は、私達の後を追ってきた。
治療院に駆け込んで、すぐさま旦那様を診てもらった。
治りつつあった腰は、2~3日完全に安静ということで、治療院に入院となった。
「旦那様、入院の準備等でお傍から離れます。何かございましたら、この呼び鈴を鳴らしてください。治療院の者が駆け付けますので」
「エリ、すまないがフィリップにも伝言を頼む」
「もちろんです。若にもお伝えいたします」
「ふふっ、また『若』って言うとあいつが怒るぞ」
「申し訳ございません。ですが、私が『旦那様』と呼ぶのは、旦那様だけでございます」
「エリは相変わらずの頑固だねぇ」
「…あの駄犬も安静の邪魔になりそうなので、連れて行きます」
チラッと獣人の方を見る。
私よりも20センチも背の高い獣人の背後に素早く移動して、膝の裏を軽く蹴った。
膝から崩れ落ちたところで私が後ろ襟を捕まえた。
最初は驚いて動きが止まっていた獣人だったが、襟を引っ張られていること嫌がり暴れようとしたが、それに構わず獣人を引き摺りながら私は部屋から退出した。
「てめぇ!いい加減離せ!」
部屋を出てもなお騒ぐ獣人は、治療に来ている人達の邪魔になっていることに気が付かない。
「無駄吠えばかりする駄犬ですね」
治療院から出たところで、獣人に言った。
「いいですか?今回は旦那様に対する暴行罪にあたります。治療費はもちろん、慰謝料も要求させていただきます。ひと先ずは詰め所に行きましょうか?」
と、獣人を引き摺って、警備隊の詰め所に行った。
それからは、詰め所であれこれの説明・屋敷に戻り旦那様の入院の説明と入院の準備と慌ただしかった。
しかも獣人は、隣の国の大公令息であったと翌日騎士団から知らせが来た。
大公令息と聞き驚いた。
礼儀がなっていなくとも、大公子息という王族に準ずる方を犯罪者として騎士団につきだしたのだから、私は確実に首が刎ねられるだろう。
物理的な意味で。
そうなると、旦那様の今後が不安でしかない。
仕事や社交界では貴族らしく振舞うが、私室に一歩入ればとてもだらしなくなる。
着替えも、湯あみもせず真っすぐにベッドへとダイブするのを止めるのは、日常のこと。
休みの日は、ベッドの上で芋虫状態になりだらだらと一日を過ごす。
食事を取ろうともしないので、奥様か、私が給餌をしないと食べてくれない。
こんなだらしない旦那様は、奥様と私しか知らない。
奥様が亡くなられて、私一人でお世話をしていたが、もうそれも終わりのようだ。
旦那様が安らげる場所がなくなるのが、死ぬことよりも恐怖だった。
その話を聞いた夕方に、獣人、もとい大公令息が護衛2名を連れて旦那様の病室を見舞われた。
旦那さまの容態は、痛みは昨日よりは引いたがまだ起き上がることはしてはいけないので、寝たままでの対応となるのでお断りをしたのに、強引に病室へと入ってきた。
令息は旦那様の姿を見て嘆きながら、旦那様の手を握り、『申し訳ない』と謝り、『フェロモンで【運命の番】とわかった』と説明をし始めた。
私は旦那様の側に控えながら子息を観察していたが、初めは頬を染め愛おしいとういう表情だったが、段々と『これじゃない』という顔になってきている。
貴族なら本心を顔に出してはいけないと習わなかったのか?と思ったが、顔に出してくれたおかげで今何を思い、何を考えているのか手に取るように分かった。
つまり、旦那様の顔が子息の好みでなかったらしい。
なにせ普通におじさんだ。
美中年でもイケオジでもない。
それに年齢も20歳以上も上。
加齢臭が気になるお年頃。
番になれても、腰の悪い旦那様相手では番い合えない。
でも、フェロモンが【運命の番】だよ!って叫んでいるようだ。
私は苦悶する令息が面白くてじっくりと観察をしてしまった。
令息の護衛2人は、微妙な顔をしている。
旦那様は、笑顔のまま青筋を立てていた。
そんな旦那様の表情をきちんと読み取った令息は、慌てた様子で退室し帰っていった。
「アレで大公令息か?」
「はい。アレで大公令息です。しかも22歳だそうです。」
「隣国の教育の低さが窺えるな」
旦那様、それは言ってはいけません。
「大体『運命の番』だの『真実の愛』だの言うのは、裕福な家出身で、頭が花畑の男どもが言い出す。女性の方が現実的だ。妻は『主食は経済力、おやつに恋愛』と言い切った。私はなるほどと思ったよ」
奥様、なんてことを言っているんですか。
「主食もおやつも私だったがな」
ええ、そうですね。
「大公家に苦情の文を入れておいてくれ」
「かしこまりました」
【運命の番】だったけど、顔で拒否られたなんて噂をたてられたら、家門の名誉が傷つけられますから。
しっかりと苦情を申し立てましょう。
あれから詫び状と治療費、慰謝料が大公家より届いた。
これにて、番騒動に幕が降りた。
旦那様も無事腰が治り、領地に引越した。
今日も今日とて、芋虫旦那様のお世話をする。
『筋肉がないから、腰をやられるんです』と言えば、散歩するようになったが、外から帰って直ぐにベッドにダイブはやめて欲しい。
そんな散歩の時に、獅子の獣人男性から声をかけられた。
「あなたこそ、私の番だ!」
と旦那様は求婚をされてしまった。
旦那様、あなたの加齢臭は獣人を惹きつけるフェロモンが出ているのですか?と問いたい。
そして獣人の方達よ。
番とは夫婦の意味だ。
夫婦になってから使うべき言葉だ。
今一度【番】の意味を考えるべきである!
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