諦めることを諦めてみた

ゆい

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にゃんこ編

3

夕食後、僕たちは聖騎士の訓練所の中の地下にある鍛錬場に移動した。
これから魔法の訓練をするから、被害を出さないように、地下の鍛錬場に行く。
皇都の地面下は、一定層まで掘ると硬い岩盤にあたる。それを利用して造られたのが地下の鍛錬場だ。
尚様の魔法が強いのはわかっていたことだけど、僕も尚様に次ぐ魔法の使い手になるとは思いもしなかった。
よくわからないけど、詠唱をしなくても、イメージをしたことを魔法で繰り出せた。魔法の基礎が、元からわかっているような感覚だった。
今まで魔法に触れた生を送ったことはないと、記憶していたのに。
いつ習ったかは、全く覚えていなかった。


ロア様は、がっくり肩を落として、凹みながら僕たちに付いてきたけど、

「いや自分でも二人に比べたら、ヘタだって知っているけど」

「あんな風に言わなくても」

と、ぶつぶつと文句を言っている。
ロア様は武神と魔法神のご加護を持っている。でも、武術は熱心に特訓をして、魔法は疎かにしていたらしい。
その結果、魔法がめちゃくちゃヘタなままなのだ。しかも無駄打ちが多いから、途中で魔力切れになってしまう。
魔力切れになるとフィジカルで攻撃をしかけてくる。いきなり木剣の攻撃になるから、防御が間に合わない。当たれば痛いことこの上もない。青痣もできるし。
折角いただいたご加護なのだから、近接戦は剣で、遠距離戦は魔法と使い分けができるはずなのに、勿体ない話だ。




僕は、魔術陣を展開して、鍛錬場に更に結界を張る。鍛錬場を万が一壊さない措置だ。
ロア様の開始の合図で、光線のようなもので尚様を攻撃する。尚様は、なんてことなく避けてしまうけど。

「尚様は、剣とかはやらないのですか?」

尚様も同じように光線で攻撃をしてくるけど、僕も防御魔法で防ぎながら場内を駆ける。

「一応、朝軽くやっているよ、部屋の中で。俺は殺陣で教わったやり方しか知らないから、この世界の剣術と動きが違って、合わないんだよ」

僕が移動した先に、罠魔法が仕掛けられていた。足元が泥状になり、ずぶずぶと沈んでいく。それを確認した尚様は、すぐに地面の水分を抜き、僕の埋まった足ごと、地面を固めていく。

「へぇ。……でも日本刀って、この世界、ないですよね?」

地面が固まりきる前に、僕は浮遊魔法を使い、泥から抜け出す。

「俺、神子だよ?創造神のご加護でちょちょいと、造ったよ?」

ふふん、と言いながら、尚様は氷の礫を投げてくる。氷の礫は、防御魔法を突き抜けてくるし、当たると地味に痛いので、僕は必死に避ける。

「……万能ですね。それなら、猫を生み出すことも出来そうですけど」

避けながらも、僕も氷の礫で応戦をする。

「流石に、生命に関わることはしたくないな。人が介入してはいけない域だと思うから」

僕の氷の礫は、尚様に届く前に、火の壁でジュッと蒸発してしまう。
そのまま火の壁から火の矢に姿を変えて、僕目掛けて射ってくる。

「そうですね。でも、絵本とかの魔女なら、黒猫かカラスが仕えているのを覚えています。魔法使いだから、使い魔的存在がいてもいいんですけど」

僕は水の壁を作り出し、火矢を防ぐ。と同時に、水鉄砲の要領で水の弾丸を撃つ。

「ああ、確かに。絵本に出てくる魔女は、全身黒服で、とんがり帽を被って、杖を持って、肩にはカラスか黒猫が乗っているイメージだよね。……そうか、従魔だ!そうだよ、魔法で呼び出せばいいんだよ!」

水の弾丸を避けながら話していた尚様は、ピタリと動きを止める。
また何か思いついたらしい。
アイスクリームも、僕の会話の中で食べたくなったから、冷凍庫を作ってと言い出したし。

「尚様?」

「神子だと聖獣?とかになるのかな?」

と、訓練は中断して、尚様に連れられて、僕とロア様は、召喚魔法がないかと書庫で尚様と一緒に探すことになった。
寝る前の軽い運動は、やっぱり簡単には終わらなかった。
ウキウキとしている尚様を止められる人はいなかった。








「世の中ままならないものだよね」

と、なんとも形容し難い表情で、尚様が言う。
召喚魔法はあった。きちんと実在した。
紙に魔術陣を描き、自分の魔力を流して詠唱をすると、自分の魔力量に見合った何かが召喚される。それはどこの世界と繋がっているのかわからないけど。
召喚された何かが、召喚者に従う気があれば、名前を付けられる。名付けができれば契約が成立したことになる。つまり、名前があるものは呼び出せない。それに、召喚された何かが気に入らなければ、そのまま元の世界に帰って行く。あと、魔力の相性もあるとも書かれていた。魔力がないものは呼べないとも。
この世界に留まる際は、主人の魔力を吸い続けるらしい。場合によっては、主人の魔力切れで、強制送還されてしまうこともあるそうだ。だから、自分に見合った魔力量のものしか呼び出せないのである。


尚様はワクワクしながら、召喚を行った。
『にゃんこ♪にゃんこ♪』と言いながら。
でもよく考えて欲しい。普通の猫が召喚されないことを。魔力がないものは呼び出されないのだから。

結果から言えば、にゃんこ属性はあった。
でも、これじゃない感が伝わってくる。尚様は癒しを求めていたから。
僕は『一応ネコ科ですから』なんて言って慰めることはできない。

「おい、我に失礼ではないか、このあるじは」

と、流暢に人語を話す。
喋る時点で、もうにゃんこから、かけ離れている。
尚様は、ガクッと膝から崩れて、泣きはじめた。『可愛い【にゃあ】の鳴き声がもう聞けないんだぁ』と、ぐすぐすと泣き出した。

「おい、そこの人間。何故、あるじは泣き出した?」

と、僕に聞いてきたので、

「申し訳ございません。私では、尚様のお心の内を推し量ることはできません」

と、答える。
泣いている理由なんてわかっているけど、正直に答えることは出来ない。
なんせ、暴れでもしたら、止められる自信なんてないから。それに、なんか一目で尚様を気に入ったようなので、元の世界に戻りそうもないし。
僕は、尚様に仕える身なので、挨拶はきちんとしておく。

「私は、尚様の侍従をしていますユークと申します。これからよろしくお願い致します、白虎様」




召喚で呼び出されたのは、玄武・青龍・白虎・鳳凰で有名な四神の白虎様であった。
尚様が『中世のヨーロッパに、中国の神話がぶっ込んできた。異世界ってなんでも有りだな』と、訳の分からないことを言っていた。

「主よ、早よ我に名をつけないか?我は元の世界に戻ってしまうぞ?」

「……チェンジで!チェンジをお願いします!」

尚様、それはないと思います。

「確かにネコ科だけど、3mの虎はないよぉ。小さくてもふもふで【にゃあ】と鳴くにゃんこを希望したのにぃ。まだ、小虎だったら、我慢できたのにぃ」

と、我儘を言い出した。どれだけ、にゃんこに飢えているのやら。

「なんだ、そのような姿がお望みか。」

白虎様は尚様希望の小虎(体長約40㎝)に変身をした。
小さくてもふもふの小虎になった。

「っっ!可愛い!デフォルトはこれでいるなら、名付ける!」

「あい、わかった」

小虎になった白虎様を抱き上げて、じっと見つめる。

「……綺麗な金瞳だから、琥珀。お前は今日から琥珀だ!」

「気に入った!」

尚様が名前を決め、白虎様が受け入れたら、ふわんと白虎様の身体が光った。契約が成立した証だ。

「これからよろしくな、琥珀」

「ああ、よろしく頼むぞ、主」

と、尚様は無事に、にゃんこ様を手に入れることができた。
これで、僕の夜な夜なぬいぐるみ縫製生活は、終わりを迎えられそうだ。
ちなみにロア様は初めて見るにゃんこ(白虎・体長約3m)に驚き、腰を抜かして見ているだけだった。
護衛聖騎士なのに、どういうこと?仕事はきちんとしようよ。







「大きいにゃんこも、悪くないものだよね」

と、琥珀様と生活をされ出して二週間が経つ頃、尚様はそう話す。

「そうですか」

としか、僕は答えられない。
先日、例のご令嬢がまた来た。しかし、元の姿の琥珀様を見て、叫びながら逃げていった。それ以降、執務室に突撃されることはなくなった。

大司教や司教、神官たちも、初めて見るにゃんこに驚きおののいていた。
僕と尚様には、みんなが慄く要素がわからなかった。
でも、一週間も経つ頃には、みんなは慣れてきて、尚様の肩にちょこんと乗る琥珀様の姿は『愛くるしい』と評判になった。





それから程なくして、貴族で召喚魔法が流行った。従魔を連れて歩くことがステータスになったとか。
従魔も生き物だから、召喚する際は死ぬまで面倒をみる覚悟をしてから、召喚しましょう、と、尚様が皇宮に進言したとか。

間違えても、尚様が琥珀様に『チェンジで!』なんて言ったことは、口外してはいけない。



琥珀様が寛容で良かった。




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