何もしない悪役令息になってみた

ゆい

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本編

13

目が覚めて上半身を起こす。いつものように探査魔法を使って、寝台から降りようとしたが、探査の反応が返って来ない。目は開いているのに、眼前に拡がる無限の闇。魔法が使えないと、何もわからない闇の中にいる。
久しくその状態を忘れていた僕は、パニック状態になった。

「うあぁぁぁ!やぁぁ!!」

寝ているのか、起きているのか境界が分からずに、昔は誰かに起こされるまでは寝ていた。誰かと話すまでは、寝ているから、目を瞑っているんだから真っ暗なんだと思い込んでいた。現実も真っ暗だと受け入れるまで、時間はかかった。
探査魔法を覚えてから、真っ暗闇の中もそれなりに判るようになったら、自ら起きるようになった。夢では魔法が使えないから、夢と現実の違いが出てきて、漸く一人で起きれるようになってきたのだ。
今日は魔法を封じられていることを忘れていた。だから急に魔法が使えなくて、夢なのか現実なのかわからずに叫んでしまった。

「「リアム!!」」

祖父母が駆け寄り、祖母が抱きしめてくれる。僕は祖母にぎゅっと抱きつく。祖母は背中を優しくトントンと叩いてくれる。

「リアム、怖い夢でも見たか?」

祖父が聞いてくる。僕は祖母の胸に顔を埋めながら、ふるふると首を振る。

「…探査魔法、使えない。」

「まだ王宮だからね。アンクレットはまだ外せないんだよ。」

「探査魔法使えないと、起きているのか、寝ているのかの、どちらにいるのかがわからないの。」

「……。」

「…真っ暗だから。」

僕はそれだけ言ってその胸の中でぐずぐずと泣き続ける。
起きたのに暗いから、朝なのか夜なのか判らないから、いつまでも寝台に潜ったままの僕。『寝台から出るのが怖いの?』と母が聞いてくれた。
『出るのが怖いんじゃなくて、誰かが話しかけてくれるまで、夢の中か現実かわからないの。それが生きているのか、死んでいるのか、わからなくなるの。』と伝えた。それから、時間になると母や使用人が起こしに来てくれるようになった。
探査魔法を覚えてからは、1人で食堂まで行けるようになった。
そのことは祖父母にも話は伝っているだろうから、多分理解してくれるはずだ。

「アル、リアムの滞在中は、特別許可は下りないのか?」

「難しいよね?探査魔法しか使えないのを私たちはわかっているけど。…一応お願いはしてみるよ。」

「それがダメなら、リアムと一緒に寝れるようにしてもらうか、宿屋を探してもらおう。」

ドンドンと、ちょっと慌ただしい部屋のドアのノック音が聞こえた。祖母は僕が抱きついているので、祖父が対応した。
僕の叫び声で、近くに配置されていた騎士達や働いていた人たちはびっくりして、確認をしに来たそうだ。本当に申し訳ないです。
『怖い夢を見た』と祖父が説明してくれた。
祖母が言うには、『境界がわからない』なんて言い方を他の人にしても、理解してもらえないし、変に気を遣われそうだからと言っていた。
普通の人だったら、朔月しか暗闇なんて経験しないし、暗かったら明りを灯せばいいだけのことだから、四六時中暗闇しか知らない僕の説明は聞いてもわからないんだそうだ。



祖母の声や心臓の鼓動を聞いてやっと落ち着いてきた頃、来客との知らせを受けた。
なんと、現皇帝陛下と現皇后陛下だった。

「叔父上、サファイア前公爵、お久しぶりです。」

「久しぶりだね。元気そうで何よりだ。……こんな格好ですまないね。」

僕が祖母から離れたがらないので、だっこちゃんのようにくっついている。
まだ色々と精神が不安定なんだから見逃してほしい。

「あらあら。」

「愛らしいな。叔父上の2人目?」

「兄上と同じことを言わないでよ。本当に性格がそっくりな親子だ。孫だよ。リアム、ご挨拶しよ?」

僕はくっついたまま、首を振る。大泣きしたから、顔も悲惨なことになっている。恥ずかしくて見せられない。

「リアム?」

祖母の怒っているような声が聞こえる。

「だって、お顔、べしょべしょで、みっともないもん。」

「はいはい、綺麗に拭いてあげるから、挨拶はしようね。」

「…はい。」

祖母に顔を拭いてもらった後、きちんと挨拶をした。

「ルキゥール帝国の皇帝レイモンドだ。と、皇后のミュラーだ。」

「よろしくね。」

「はいよろしくお願い致します。」

そしたら、誰かにひょいっと抱っこをされた。

「ふわっ!」

と、驚き、ジタバタしてしまう。でも相手はがっしりとした体つきの人だから、しっかりと抑えられていた。

「こら、レイモンド!リアムは見えないんだから、ちゃんと一言声を掛けてあげてよ。」

「ああ、そうでしたね。こんな綺麗な瞳をしていて見えていないとは。」

皇帝陛下はじっと僕の瞳を覗き込んでいるようだった。なんかその視線で気恥ずかしくなる。

「お、お祖母様!」

「どうしたの?」

「僕は、もしかして、皇帝陛下に口説かれていますか?」

「は?」

と、皇帝陛下は目を真ん丸にして、3人は大笑いをした。会話を聞いていた侍従たちも肩を震わせて笑っていた。と後からシリルが教えてくれた。



「だって、『綺麗な瞳』って言われたら、口説き文句のひとつだって、エド兄様が言ってました。」

僕は、皇后陛下の膝の上で、お菓子をいただきながら、どうして口説かれたと思ったのかの説明をすることになった。
皇后陛下は、皇帝陛下から僕を渡してもらってから、離してくれない。
子供が好きなんだそうです。学園に視察に行ったりと、教育にも力を入れている皇后陛下なのです。

「ほぉ、つまり、エドは……。」

なんか祖父が怒っている?

「フレデリック殿下はまだ言ってくれていないって言ってました。エド兄様はそう言ってもらえるのが憧れだそうです。」

「…なるほど。」

祖父の怒りはおさまった。なんで?
大人になって知ることだけど、アダマス王国では『綺麗な瞳ですね』って言われたら、『口付けをしてもいいですか?』って意味なんだって。OKなら、『あなたの瞳も素敵です』と返して、そっと目を閉じる。NOなら、褒めてくれたお礼は言いつつもきちんとお断りをするんだそうだ。

「リアムちゃんには、婚約者はいるの?」

と、皇后陛下に聞かれる。

「旨味のない僕にはいません。」

「…リアム。その言い方はやめなさい。リアムは食材じゃないんだから。」

と祖母に怒られる。案外母より母らしいのが祖母。母はあまり怒らない。関心がないとかでなく、言葉遣いが悪くてもあまり気にしない人だから。昔はけっこうなやんちゃをしていたらしいので、ある程度は許容していたら、あまり怒らないようになったって聞いた。どんなやんちゃをしていたのか、誰も詳しくは教えてくれないけど。

「リアムぐらい綺麗な容姿の子息はいないから、申し込みは殺到していそうだけど。」

「リアムは社交には出さないから、来てもお返ししていますよ。他家に嫁ぐなんて、リアムには無理ですし。」

祖母の言い方はきついが、家の切り盛りもできないし、四六時中誰かの付き添いが必要だ。お飾りの嫁でいいのなら嫁ぎ先はあると思うけど、父達がそんな家に嫁がせるわけはないし。それに、

「容姿に惚れられても、僕、自分の容姿がわからないし、相手の容姿もわからないです。だから、もし結婚するなら、お祖父様みたいに身体が大きく、お祖母様みたいに知識が豊富なお相手で、父様と母様みたいな仲良しで優しくて支え合える夫夫になりたいです。」

「そうか。」

と、祖父の声が柔らかかった。
こういう場では『父母みたいな』とか『祖父母のような』とか言っておけば、角が立たないと教えてくれたのはルー兄様。
僕の答えは正解だったようで、それ以上に誰も僕の婚約の話をすることはなかった。


皇帝陛下達は、其々の近況の話をする。
僕は皇后陛下に餌付けされて、話に加われなかった。

「さて、もう仕事に戻る時間だ。叔父上、明晩内々での晩餐会を開きたいと思いますので、是非出席をお願い致します。」

「話は聞いているよ。こちらこそ楽しみにしているね。」

「リアムちゃん。明日の晩餐の時は息子達も来るから、仲良くしてね。みんな成人して可愛げがない子達よ。」

皇后陛下は、コロコロと笑いながら、そう言っていた。
それよりも成人した皇子様と仲良くって、どうやって?可愛げない人と仲良くなる方法を教えて?

皇帝陛下と皇后陛下は、公務へと戻られて行った。




ーーーーーーーーーー

【だっこちゃん】がわからない方は、検索してみてください。
昭和の懐かしい一品です。


感想 36

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