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本編
14
途中からアムール視点が入ります。
ーーーーーーーーーー
祖母が掛け合ってくれたけど、やっぱり魔法の使用許可は下りなかった。
幾つもの誓約と制約をした上での許可だから、短い滞在中では難しかった。
なら、宿屋という話にもなったが、他国ならともかく自国の皇弟だった者を、宿屋に泊まらすわけにもいかないわけで。
基本祖父母と一緒で、いない時はシリルが付きっきりとなった。
翌日、祖母と同じ布団で眠り起こされ、シリルに支度をしてもらい、朝食をいただく。
昨日、皇宮の人が中庭も皇都に負けず、花が咲き誇っていると教えてくれた。
「お祖母様、お庭に行ってみたいです。花の香り、嗅いでみたいです。」
「ん~、これからちょっと打ち合わせがあるから、シリルと行っておいで。騎士も2人つけてね。」
と、許可が出た。
近衛騎士が2人も付くって豪華じゃない?
シリルに抱っこされ、皇宮の中庭に連れてきてもらった。
「ふぁぁ、凄い、色んな花の香りがする。何のお花だろう?」
「何の花でしょうね?私は花に詳しくないので、申し訳ないです。」
「じゃあ、手を繋いでお散歩しよ?だから、降ろしてほしいな。」
「はい。」
と、シリルは笑いながら、抱っこから降ろしてくれた。手を繋いで、シリルに誘導されながら歩く。
陽の光を浴びながらの散歩は、久しぶりだった。ずっと馬車での移動だったから、身体を動かすのも久しぶり。
やっぱり人間太陽の光を浴びないと、元気にはなれないよね。
花の香りを楽しみながら散歩をする。…なんか、遠くからガンとかギンとか、金属がぶつかり合っている音が聞こえてきた。
「あっちの方からなんかぶつかり合う音が聞こえる。」
聞こえる方を指差す。
「あちらの方角には、騎士達の訓練場があります。中庭から大分離れているのに。お耳が良いですね。」
「微かにだよ?香りと合わないから、違和感がしたの。」
「そうでしたか。訓練場とは反対方向に噴水がございます。水は地下から汲み上げていますので、この時期はとても冷たくて気持ちいいですよ?」
「シリル!」
「はい、かしこまりました。すみませんが、案内をお願いします。」
シリルは近衛騎士に道案内をお願いしてくれた。
5分ほど、右に左にと歩くと、水音が聞こえてくる。向かって行く方向から、少し涼しい風がそよぐ。
「こちらを曲がると噴水です。」
と、角を曲がる。
一定の水が落ちる音、水の匂いがする。
「綺麗ですね。」
と、シリルが呟く。
「シリル、どう綺麗なの?」
「丸い池の真ん中の塔から水が溢れているのですが、水が光に反射して、キラキラ光って見えます。場所によっては、小さな虹が見えます。…言葉にするのは、難しいですね。リアム様、わかっていただけましたか?」
「うん、わかるよ。虹まで見えるんだ。うふふっ、シリルいいな。」
僕は想像で噴水を思い描く。
汲み上げた水を高い所から水を溢れるように流しているんだろう。
今日は晴れているから、キラキラ光って見えているんだ。
シリルが『キラキラ』なんて表現を使うとは知らなかった。
「リアム様、水に触って見ますか?」
「うん。」
シリルと繋いだ手を水が落ちてくる場所に引いてくれた。
指先に水が当たる。
「つめたっ!」
と、思わず手を引っ込めてしまった。
「ははっ!冷たいですね。」
「シリル、もう一度!」
と、今度は下に水が溜まっている所へと導いてくれた。
「冷たい。でも、気持ちいい。」
「暑い日には最高ですね。」
「この水は庭全体の水やりに使われています。それと、騎士団の訓練場まで引いているんです。」
「騎士様も暑い日に水浴び?」
「そうですね。」
2人の騎士はクククッと笑っている。
暑い日の水浴びは、大人も子供も関係なくはしゃいでしまうもんね。
そんな僕達に近づく足音が聞こえてきた。3人分の足音だ。
「シリル、誰か来る。」
シリルはすぐに近衛騎士に目配せをして、確認をしてもらった。
「皇帝陛下の弟君のご子息グウェンダル様と、ご友人の方々です。」
「皇弟殿下?」
「はい。リアム様には、はとこにあたります。」
「はとこ?でも何で皇宮にいるの?」
「皇弟殿下は、別宮に住まいを構えて居られますので。」
「なるほど。」
アダマス王国とは違うみたい。
王弟殿下は、王位継承権を放棄したから、王宮から出られたのかな?
その3人は真っ直ぐに僕達の方に来た。
そして騎士に聞いてきた。
「何故皇宮に幼子がいる。」
10歳だけど、幼子に見える僕。見た目は何歳に見えているんだろう?
「前皇帝陛下の弟君アムール様のお孫様にてございます。」
「ああ、アダマスに嫁いだという。…お前、名は?」
声がする方向に、
「アダマス王国サファイア公爵が三男リアムでございます。」
と、ボウ・アンド・スクレープをする。
「私は皇弟ウルトゥスが長男グウェンダルだ。」
ふふんと、なんか偉そうに言われた。
「ふーん、紫の瞳とは珍しいな。…これから騎士団で訓練しに行くから、お前もどうだ?」
「ごめんなさい。この後は予定がありますので。」
祖父母が何かの打ち合わせが終わったら、医師からの診察の予定が入っている。
「何だお前、俺の言うことが聞けないのか?」
と、権力を振り翳してくる。
「聞けません。」
「何だと!俺は皇族だぞ!不敬だぞ!」
なんか僕より歳上みたいだけど、我儘を言う幼児みたいだと感じた。
大叔父様や皇帝陛下はそんな感じはしなかったけど、皇族ってこんな人達ばっかりなのかな?
「シリル、抱っこして。部屋に戻る。」
「はい、かしこまりました。失礼します。」
と、シリルが抱き上げてくれた。
「お前、逃げるのか?!」
「逃げるのではなく、予定があるのです。失礼します。」
と、噴水のある場所から立ち去った。
近衛騎士達も僕達に付いて来てくれた。
このことは、部屋に戻ってすぐに祖父母の耳に入ることとなる。
「回復は難しいですね。まだ、病後にすぐに治療したなら明るさくらいはわかるようになっていたかもしれませんが。もう見えないことが正常と身体が認識して、治癒魔法が効きません。」
「そうですか。」
医師の説明で、落胆した祖母の声が聞こえた。
「お祖母様。」
僕は祖母の手を強く握り、
「落ち込まないでください。」
「リアム。」
「わかっていたことです。」
僕は治らないってわかっていた。
無属性の魔法で、治癒魔法があるってわかってから、やり方はわからなくても、何度も『治れ』と念じながら、魔力を目の周りに流してみた。
でも、暗闇から抜け出せなかった。
それに、優しい家族が僕のことで落ち込むことも嫌だった。
「それに探査魔法をいっぱい練習します。家で探査魔法が使えれば、日常生活は不自由はしませんし。」
「…うん、うん。」
「だから、泣かないでください。見えなくなっても、お祖母様とお祖父様の顔は覚えています。父様も母様も。兄様達の顔も覚えていますが、大人な兄様達はわからないのが残念です。」
「そうか、覚えているか。」
「はい、忘れません。大事な家族です。」
祖母は僕をぎゅっと抱きしめて、祖父はその上から祖母ごと抱きしめてくれた。
夕方の晩餐会のために、僕は昼食後に軽くお昼寝をした。
目覚めた時にパニックにならないようと、シリルが付いていてくれた。
祖父母は、その間に前皇帝陛下のお見舞いに行った。
ーアムールsideー
「リアムの目はもう治癒魔法も効かないそうです。」
「……そうか。」
「リアムはやっぱりわかっていました。」
「そうか。」
「まだ10歳の子に、慰められてしまいました。」
「優しい子だな。」
「優しくて、強い子です。」
兄上にリアムの話をする。
兄上も心配だったが、リアムの目が見えるかもと、一縷の望みをかけて、帝国に来たのだ。
「…昨日の話ですが、ブルートと話しましたが、リアムはやはり【神の国の記憶】があるのかもしれません。」
【神の国の記憶】とは、あまり知られていないが、前世の記憶持ちのことを言う。
誰も知らない知識を持ち、その知識を使い、経済の発展へと繋げる。
ただ、他人に知られてしまえば、権力者から搾取されるだけになってしまうので、保護をする意味で、ステータスカードを誰にも見せてはいけなくなった。
それ以降【神の国の記憶】の話題も出なくなる。しかし、王族、皇族はその存在を忘れることはない。もし現れたら、保護をするために。
「リアムは、5歳の時に階段から落ちて、それからは人が変わったかのように、絵ばかりを描いていました。思えば、あの頃に思い出したのでしょう。」
ブルートが言う。
「あの頃は本当に寝食を忘れて、絵を描き続けていましたから。勉強やマナーの時間もさっさと切り上げるほどで。でも、どの絵も素晴らしいのです。まるでそこを切り取ったかのような風景ばかりで。」
「私達も描いてもらったな。アルの優しく慈愛に満ちた表情が素晴らしかった。」
「もう、ブルートの勇ましさも表現されていて、素敵だったよ。」
「……惚気かな?」
「んんっ、でも5歳児の描く絵ではなかったのです。だから、尚更、目が見えなくなって、本当に残念で、可哀想で。」
「…あの子は目が見えないとわかったら、すぐに死のうとしたんです。絵が描けないのもそうですが、『お荷物』になりたくないと。」
「…今考えてみれば、目が見えなくなってそこまで考えられる幼子なんているはずがないのです。息子から話を聞いた時に気付くべきでした。」
「その絵とやらは見たかったな。」
「兄上。本当にお加減が…。」
「いや、そんなに悪くはない。昨日から果実水を試している。そんなすぐに効果はでるものではないからな。ただ、今日はまだ一度も出血はしていない。効いているのか、偶々なのか、まだわからない。」
「そうですか。」
「それと先程、グウェンダルの話を聞いた。我が国は帝位継承権は放棄できないからな。私が退位してもアムールの順位は、ウルトゥスより高い。血筋でいけば、ウルトゥスよりリアムの方が継承順位は高いのだ。」
アムールの順位は、レイモンドの2人の子供の上になる。
ルキゥール帝国は、血筋を大事にする。血統魔法がまだ根強く残る国だった。しかも血統魔法で国を国民を守っている。
レザム、アムールの父母は従兄弟同士だったため、より血が濃い世代となった。
しかしレザムが嫁に娶ったのは、伯爵家子息で、ルキゥールの血筋が全く入ったことがない家柄だった。
サファイア公爵は何代か前に皇族が降嫁しているし、アダマス王族も降嫁している実績もあり、ブルートとアムールの婚姻はすんなり帝国の議会に通った。
この時、帝国は魔物の大量発生で、軍事的、経済的にこの伯爵子息が第一候補となり、そのまま皇妃、皇后となった。
レイモンド、ウルトゥスは継承順位は低かったものの、レイモンドの実直な働きで、皇帝になることの反対意見は出なかった。
ここでレイモンドが愚王になる可能性が一つでもあったなら、アムールの孫、ルーフェス、エドワード、リアムを担ぎ出す動きがあったかも知れなかった。
ミュラーは、何度か皇族が降嫁したことがある公爵子息なので、2人の子供の順位は6位、7位となり、アムール達の次点となった。
4人兄弟だが、次兄は魔物との戦いで、三兄は、それこそリアムと同じ流行り病に罹り亡くなった。
次兄は騎士に、三兄は医師として、結婚もせずに皇帝である兄上を支えていた。
「晩餐会にウルトゥス達も出席すると聞いている。…レイモンドと話し合ったが、レイモンドに全てを任せた。私が何とかすべきだったのだが。」
「いえ、仕方ありません。権力に固執している者は、権力者の言うことしか聞きませんから。」
「わざわざ来てもらったのに、迷惑をかけるな。」
「何歳になっても兄弟には代わりありません。いつでも頼ってください。」
次兄と三兄で兄上を陰日向に支えていこうと誓った日から、兄上に、帝国に不利益をもたらすなら、この手を血でいくらでも染め上げてきた。
例えそれが甥だろうが、帝国の害虫になるなら容赦はしない。
ーーー
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祖母が掛け合ってくれたけど、やっぱり魔法の使用許可は下りなかった。
幾つもの誓約と制約をした上での許可だから、短い滞在中では難しかった。
なら、宿屋という話にもなったが、他国ならともかく自国の皇弟だった者を、宿屋に泊まらすわけにもいかないわけで。
基本祖父母と一緒で、いない時はシリルが付きっきりとなった。
翌日、祖母と同じ布団で眠り起こされ、シリルに支度をしてもらい、朝食をいただく。
昨日、皇宮の人が中庭も皇都に負けず、花が咲き誇っていると教えてくれた。
「お祖母様、お庭に行ってみたいです。花の香り、嗅いでみたいです。」
「ん~、これからちょっと打ち合わせがあるから、シリルと行っておいで。騎士も2人つけてね。」
と、許可が出た。
近衛騎士が2人も付くって豪華じゃない?
シリルに抱っこされ、皇宮の中庭に連れてきてもらった。
「ふぁぁ、凄い、色んな花の香りがする。何のお花だろう?」
「何の花でしょうね?私は花に詳しくないので、申し訳ないです。」
「じゃあ、手を繋いでお散歩しよ?だから、降ろしてほしいな。」
「はい。」
と、シリルは笑いながら、抱っこから降ろしてくれた。手を繋いで、シリルに誘導されながら歩く。
陽の光を浴びながらの散歩は、久しぶりだった。ずっと馬車での移動だったから、身体を動かすのも久しぶり。
やっぱり人間太陽の光を浴びないと、元気にはなれないよね。
花の香りを楽しみながら散歩をする。…なんか、遠くからガンとかギンとか、金属がぶつかり合っている音が聞こえてきた。
「あっちの方からなんかぶつかり合う音が聞こえる。」
聞こえる方を指差す。
「あちらの方角には、騎士達の訓練場があります。中庭から大分離れているのに。お耳が良いですね。」
「微かにだよ?香りと合わないから、違和感がしたの。」
「そうでしたか。訓練場とは反対方向に噴水がございます。水は地下から汲み上げていますので、この時期はとても冷たくて気持ちいいですよ?」
「シリル!」
「はい、かしこまりました。すみませんが、案内をお願いします。」
シリルは近衛騎士に道案内をお願いしてくれた。
5分ほど、右に左にと歩くと、水音が聞こえてくる。向かって行く方向から、少し涼しい風がそよぐ。
「こちらを曲がると噴水です。」
と、角を曲がる。
一定の水が落ちる音、水の匂いがする。
「綺麗ですね。」
と、シリルが呟く。
「シリル、どう綺麗なの?」
「丸い池の真ん中の塔から水が溢れているのですが、水が光に反射して、キラキラ光って見えます。場所によっては、小さな虹が見えます。…言葉にするのは、難しいですね。リアム様、わかっていただけましたか?」
「うん、わかるよ。虹まで見えるんだ。うふふっ、シリルいいな。」
僕は想像で噴水を思い描く。
汲み上げた水を高い所から水を溢れるように流しているんだろう。
今日は晴れているから、キラキラ光って見えているんだ。
シリルが『キラキラ』なんて表現を使うとは知らなかった。
「リアム様、水に触って見ますか?」
「うん。」
シリルと繋いだ手を水が落ちてくる場所に引いてくれた。
指先に水が当たる。
「つめたっ!」
と、思わず手を引っ込めてしまった。
「ははっ!冷たいですね。」
「シリル、もう一度!」
と、今度は下に水が溜まっている所へと導いてくれた。
「冷たい。でも、気持ちいい。」
「暑い日には最高ですね。」
「この水は庭全体の水やりに使われています。それと、騎士団の訓練場まで引いているんです。」
「騎士様も暑い日に水浴び?」
「そうですね。」
2人の騎士はクククッと笑っている。
暑い日の水浴びは、大人も子供も関係なくはしゃいでしまうもんね。
そんな僕達に近づく足音が聞こえてきた。3人分の足音だ。
「シリル、誰か来る。」
シリルはすぐに近衛騎士に目配せをして、確認をしてもらった。
「皇帝陛下の弟君のご子息グウェンダル様と、ご友人の方々です。」
「皇弟殿下?」
「はい。リアム様には、はとこにあたります。」
「はとこ?でも何で皇宮にいるの?」
「皇弟殿下は、別宮に住まいを構えて居られますので。」
「なるほど。」
アダマス王国とは違うみたい。
王弟殿下は、王位継承権を放棄したから、王宮から出られたのかな?
その3人は真っ直ぐに僕達の方に来た。
そして騎士に聞いてきた。
「何故皇宮に幼子がいる。」
10歳だけど、幼子に見える僕。見た目は何歳に見えているんだろう?
「前皇帝陛下の弟君アムール様のお孫様にてございます。」
「ああ、アダマスに嫁いだという。…お前、名は?」
声がする方向に、
「アダマス王国サファイア公爵が三男リアムでございます。」
と、ボウ・アンド・スクレープをする。
「私は皇弟ウルトゥスが長男グウェンダルだ。」
ふふんと、なんか偉そうに言われた。
「ふーん、紫の瞳とは珍しいな。…これから騎士団で訓練しに行くから、お前もどうだ?」
「ごめんなさい。この後は予定がありますので。」
祖父母が何かの打ち合わせが終わったら、医師からの診察の予定が入っている。
「何だお前、俺の言うことが聞けないのか?」
と、権力を振り翳してくる。
「聞けません。」
「何だと!俺は皇族だぞ!不敬だぞ!」
なんか僕より歳上みたいだけど、我儘を言う幼児みたいだと感じた。
大叔父様や皇帝陛下はそんな感じはしなかったけど、皇族ってこんな人達ばっかりなのかな?
「シリル、抱っこして。部屋に戻る。」
「はい、かしこまりました。失礼します。」
と、シリルが抱き上げてくれた。
「お前、逃げるのか?!」
「逃げるのではなく、予定があるのです。失礼します。」
と、噴水のある場所から立ち去った。
近衛騎士達も僕達に付いて来てくれた。
このことは、部屋に戻ってすぐに祖父母の耳に入ることとなる。
「回復は難しいですね。まだ、病後にすぐに治療したなら明るさくらいはわかるようになっていたかもしれませんが。もう見えないことが正常と身体が認識して、治癒魔法が効きません。」
「そうですか。」
医師の説明で、落胆した祖母の声が聞こえた。
「お祖母様。」
僕は祖母の手を強く握り、
「落ち込まないでください。」
「リアム。」
「わかっていたことです。」
僕は治らないってわかっていた。
無属性の魔法で、治癒魔法があるってわかってから、やり方はわからなくても、何度も『治れ』と念じながら、魔力を目の周りに流してみた。
でも、暗闇から抜け出せなかった。
それに、優しい家族が僕のことで落ち込むことも嫌だった。
「それに探査魔法をいっぱい練習します。家で探査魔法が使えれば、日常生活は不自由はしませんし。」
「…うん、うん。」
「だから、泣かないでください。見えなくなっても、お祖母様とお祖父様の顔は覚えています。父様も母様も。兄様達の顔も覚えていますが、大人な兄様達はわからないのが残念です。」
「そうか、覚えているか。」
「はい、忘れません。大事な家族です。」
祖母は僕をぎゅっと抱きしめて、祖父はその上から祖母ごと抱きしめてくれた。
夕方の晩餐会のために、僕は昼食後に軽くお昼寝をした。
目覚めた時にパニックにならないようと、シリルが付いていてくれた。
祖父母は、その間に前皇帝陛下のお見舞いに行った。
ーアムールsideー
「リアムの目はもう治癒魔法も効かないそうです。」
「……そうか。」
「リアムはやっぱりわかっていました。」
「そうか。」
「まだ10歳の子に、慰められてしまいました。」
「優しい子だな。」
「優しくて、強い子です。」
兄上にリアムの話をする。
兄上も心配だったが、リアムの目が見えるかもと、一縷の望みをかけて、帝国に来たのだ。
「…昨日の話ですが、ブルートと話しましたが、リアムはやはり【神の国の記憶】があるのかもしれません。」
【神の国の記憶】とは、あまり知られていないが、前世の記憶持ちのことを言う。
誰も知らない知識を持ち、その知識を使い、経済の発展へと繋げる。
ただ、他人に知られてしまえば、権力者から搾取されるだけになってしまうので、保護をする意味で、ステータスカードを誰にも見せてはいけなくなった。
それ以降【神の国の記憶】の話題も出なくなる。しかし、王族、皇族はその存在を忘れることはない。もし現れたら、保護をするために。
「リアムは、5歳の時に階段から落ちて、それからは人が変わったかのように、絵ばかりを描いていました。思えば、あの頃に思い出したのでしょう。」
ブルートが言う。
「あの頃は本当に寝食を忘れて、絵を描き続けていましたから。勉強やマナーの時間もさっさと切り上げるほどで。でも、どの絵も素晴らしいのです。まるでそこを切り取ったかのような風景ばかりで。」
「私達も描いてもらったな。アルの優しく慈愛に満ちた表情が素晴らしかった。」
「もう、ブルートの勇ましさも表現されていて、素敵だったよ。」
「……惚気かな?」
「んんっ、でも5歳児の描く絵ではなかったのです。だから、尚更、目が見えなくなって、本当に残念で、可哀想で。」
「…あの子は目が見えないとわかったら、すぐに死のうとしたんです。絵が描けないのもそうですが、『お荷物』になりたくないと。」
「…今考えてみれば、目が見えなくなってそこまで考えられる幼子なんているはずがないのです。息子から話を聞いた時に気付くべきでした。」
「その絵とやらは見たかったな。」
「兄上。本当にお加減が…。」
「いや、そんなに悪くはない。昨日から果実水を試している。そんなすぐに効果はでるものではないからな。ただ、今日はまだ一度も出血はしていない。効いているのか、偶々なのか、まだわからない。」
「そうですか。」
「それと先程、グウェンダルの話を聞いた。我が国は帝位継承権は放棄できないからな。私が退位してもアムールの順位は、ウルトゥスより高い。血筋でいけば、ウルトゥスよりリアムの方が継承順位は高いのだ。」
アムールの順位は、レイモンドの2人の子供の上になる。
ルキゥール帝国は、血筋を大事にする。血統魔法がまだ根強く残る国だった。しかも血統魔法で国を国民を守っている。
レザム、アムールの父母は従兄弟同士だったため、より血が濃い世代となった。
しかしレザムが嫁に娶ったのは、伯爵家子息で、ルキゥールの血筋が全く入ったことがない家柄だった。
サファイア公爵は何代か前に皇族が降嫁しているし、アダマス王族も降嫁している実績もあり、ブルートとアムールの婚姻はすんなり帝国の議会に通った。
この時、帝国は魔物の大量発生で、軍事的、経済的にこの伯爵子息が第一候補となり、そのまま皇妃、皇后となった。
レイモンド、ウルトゥスは継承順位は低かったものの、レイモンドの実直な働きで、皇帝になることの反対意見は出なかった。
ここでレイモンドが愚王になる可能性が一つでもあったなら、アムールの孫、ルーフェス、エドワード、リアムを担ぎ出す動きがあったかも知れなかった。
ミュラーは、何度か皇族が降嫁したことがある公爵子息なので、2人の子供の順位は6位、7位となり、アムール達の次点となった。
4人兄弟だが、次兄は魔物との戦いで、三兄は、それこそリアムと同じ流行り病に罹り亡くなった。
次兄は騎士に、三兄は医師として、結婚もせずに皇帝である兄上を支えていた。
「晩餐会にウルトゥス達も出席すると聞いている。…レイモンドと話し合ったが、レイモンドに全てを任せた。私が何とかすべきだったのだが。」
「いえ、仕方ありません。権力に固執している者は、権力者の言うことしか聞きませんから。」
「わざわざ来てもらったのに、迷惑をかけるな。」
「何歳になっても兄弟には代わりありません。いつでも頼ってください。」
次兄と三兄で兄上を陰日向に支えていこうと誓った日から、兄上に、帝国に不利益をもたらすなら、この手を血でいくらでも染め上げてきた。
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ーーーーー
閲覧ありがとうございます!
この物語には"性的なことをされた"という表現を含みますが、実際のシーンは書かないつもりです。ですが、そういう表現があることを把握しておいてください!
是非、コメント・ハート・お気に入り・エールなどをお願いします!