何もしない悪役令息になってみた

ゆい

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本編

28

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みんなは結局何が起こったかわからないようだった。私も飲み込むまで時間がかかった。
私は今までのこと、今起こったことなどを整理してから考えを話してみる。

「憶測ですが、ルテウスは、魅了魔法をオルクス様に使おうとしたんです。私の探査魔法だと、金と黒が入り混じった禍々しいモノが視えていたので、思わず叫んでしまいました。触らないと魅了魔法が効かないみたいなので、オルクス様に触ろうとしていたんです。」

「で、触る直前に王弟殿下が拘束したと。」

と、オステオン様が繋いでくれた。

「はい。」

「……でも、リアムは彼が捕まえる前から、魅了魔法を使えることを知っていたよね?」

と、次兄が聞いてくる。

「魅了魔法かどうかはわかりませんでしたが、精神的な魔法を使えるのでは、と考えていました。」

「どうして、考えていたの?」

「リオネル様達から話を聞いていた限り、素行が悪いのはわかっていましたが、少数の子息は、彼の側から離れなかったと聞いています。いくら綺麗な方でも、性格が良くなく、ただの男爵子息なので、旨味がないのにおかしいなと思い、考えてみました。フレデリック様は、パール伯爵子息が婚約者と言われましたので、それには驚きました。8歳のお茶会で、パール伯爵子息が彼に言い寄っていたのは知っていますが、伯爵は上位貴族なので、余程資産家の男爵家でなければ、婚約は叶わないはずです。ラフストーン男爵が事業に成功したなんて聞いたことはないですし。それで、精神的に縛る魔法を使っているのではないかと思ったのです。もしかしたら、伯爵の家の者達も魅了魔法にかかっているのかもしれません。それに【神の国の記憶】があったのは、ルテウスだったのでしょう。フレデリック様を待ち伏せしていたのも、【神の国の記憶】で事前に行動がわかっているのではないかと、推測します。」

ルテウスの行動は常軌を逸しているところが多々あることを知っていた。
前世の世界でも、彼の行動は常識的におかしかった。
しかもパール伯爵子息が婚約者と聞いて、これは?と考えた。

「【聖者】になりたかったのはルテウス本人だったんでしょう。でも、彼は悪い意味で目立ち過ぎた。だから、自分が【聖者】だと言っても、周りは聞いてくれないから、彼は婚約者となったパール伯爵子息を、【聖者】に仕立て上げた。高位貴族の子息が言うことだから、信じる人も少なからずいるはずだと、考えたのでしょう。ただ【神の国の記憶】が邪魔をして、【聖者】の今の本当の意味を知らなかったと思います。伝承の【聖者】と思って使っていたようですが、今の意味を知っていたら、【聖者】という言葉を使いませんし、婚約者が【聖者】なんて恥を外聞しているようなものですから、得意気に言えたんだと思います。」

「だから、『【聖者】様だから』なんて言えたんですね。」

と、ナリファ様。私は頷いた。
昔は、天使から授かった力を持つ者が【聖者】とされていたが、今のこの世界で【聖者】と言えば、教会上層部の慰み者をそう呼ぶ。いつの頃かわからないけど、慰み者を【聖者】と呼ぶように変わっていった。
神に遣えるので、聖職者は結婚を禁止されている。しかし、聖職者と言えど人間。三大欲求には抗えず、主に罪人から【聖者】が選ばれる。選ばれた【聖者】は、総本山の教会の奥に隠されて、一生を上層部の方々に捧げる。身も心も全てを。中には嗜虐思考の方もいるので、【聖者】の一生は短いと聞く。
平民でも言わないのに、貴族子息自らが【聖者】と名乗ること自体おかしなことだ。
ルテウスは、この世界に馴染むことをしなかったせいで、知ろうとしなかったのだろう。その結果がこのようになった。
でもなんでパール伯爵子息を【聖者】に仕立て上げたんだろう?

「そこまでして注目を集めたかったのかな?」

呆れたようにアスリム様が言う。

「家でも周りでもちやほやされていたのが、8歳のお茶会以降、学園でも社交界でも全く相手にされなくなったからでしょうか?可愛いを全面にアピールしていたと聞いていますし。」

「しかし、リアムをなぜ『悪役令息』と言ったんだ?」

と、オルクス様。

「多分ですが、私が学園に入って彼に嫌がらせをするあらすじが、彼の中にあったのでしょう。【神の国の記憶】でこの世界と似た物語があり、同じ名前が出てきた時に、物語の人物と当て嵌めていったのでしょう。それこそ【神の国の記憶】で私という人物がそういう行動を振る舞っていたのかもしれません。もし記憶がなくても、可哀想な自分を演出するために、身分的に私がうってつけだったのかもしれませんけど。」

「「「はぁぁ?!」」」

と、オルクス様、次兄、王子が叫ぶ。

「なんだそれ。気持ち悪いな。」

と、アスリム様。

「可哀想って。勝手に悪役に仕立て上げられそうになったリアムの方が可哀想だよ。」

と、オステオン様。優しいな。

「ちょっとヤりに行ってくるわ。」

と、ナリファ様。実は血の気が多い方?って、アスリム様止めて!

「ナリファ、それはオルクスの仕事だ。君の仕事は私の面倒をみることだよ。」

と、オルクス様に全振りしたよ。それ、一番してはダメなやつでは?ってか、アスリム様達もラブラブだね!

「アスリム殿、よくわかっているな。よし、私がヤりに行くよ。生まれて来なければ良かったと思うくらいでいいかな?」

「オルクスにしては優しいね。私の案も入れて欲しいな。」

と、好戦的な兄弟。もう、誰か止めて!オステオン様の案は聞きたくないけど、絶対にヤバいやつだよね?!

「あの、とりあえず、我が国のことなので、私どもにお任せしていただけませんか?」

王子が頑張ってくれた。王子はこの中では良心だった。

「…そうだね。この国のことだから、任せるよ。オルクス、それでいいか?」

「…仕方がない。ただ、我が婚約者を傷付けたのだから、それ相応の処分でなければ私は納得しないから。」

「わかりました。父上にもそのように伝えます。」

オルクス様の怒りオーラにビクビクしながらも王子はそう答えた。
私は、オルクス様の『我が婚約者』で、胸がキュンとする。

「リアム、顔を赤らめているところが違うからね。」

次兄の呆れた声で、はっと我にかえる。

「赤らめていません。」

「はいはい。全く恋愛小説を読ませない父様の過保護のせいで、リアムはいつまで経っても心は無垢なままだ。」

「そ、そんなことないです。」

「しかも推理小説ばかり読ませているから、名探偵張りに真相を暴くし。…ルテウスのことは、リアムの推察通りだと思うから。王弟殿下が尋問しているから、すぐに真相がわかるはずだ。殿下は伴侶とリアム以外は優しくないから、恐怖でペラペラ喋ると思うよ。」

「…王弟殿下は、私には優しいのですか?」

「気付いてないの?」

「はい、わかりませんでした。」

「魔法の許可申請を出して、最短で陛下に許可をもぎ取ったのは、王弟殿下だよ。」

「私はてっきり、フレデリック様とエド兄様がしてくれたかと思ってました。」

「私達にそこまでの力はないよ。でも殿下は、自分の手柄だと伝えてないんだね。リアムに恩でも売るつもりだったのかな?……あの人は可愛いものが好きなんだよ。王弟妃殿下はもちろん、リアムも好みに入るから、優しいんだよ。ライオル様は自分そっくりのお顔だから、いまいち可愛がれなかったらしいよ。あっ、これ内緒の話ね。」

「内緒、なんですね?」

次兄、他国の人の前で、内緒話は広めてくださいって言っているようなものだよ。
でも、可愛いもの好きか。……ライオル様、ちょっと不憫だな。

「まだ歓迎会が始まったばかりだけど、なんだか疲れたよ。」

と、ナリファ様。

「本当に。まだ挨拶回りもしていないし。」

と、アスリム様。

「さて、気持ちを切り替えて回るぞ。オルクス、リアム行くぞ。」

と、オステオン様が言う。

「リアム。私から離れてはいけないよ。」

「はい、オルクス様。」

「フレデリック、私達も行こうか。」

「ああ。皆様、どうぞ楽しんでいってください。」

と、その場は解散して、各々で顔繋ぎの挨拶回りをしだした。
みんな疲れた顔を隠しながら、歓談をしていたと聞いた時は、流石だと思った。
リオネル様とサイラス様にも会えて、オルクス様を紹介できた。
2人に『今までお会いした中で、今日が一番幸せそうなお顔をされていますよ』と言われてしまった。
どんな顔しているんだろ?幸せがオルクス様に伝わっているのかな?だとしたら、嬉しいな。

この歓迎会で、私とオルクス様の香水が話題になった。それぞれの香りは違うのに、2人並べば更に深く爽やかで甘い香りになる。これ以降、帝国の香水屋がアダマスに支店を置くほど、恋人達の人気の香水になる。



翌日の昼から王宮に呼ばれた。
次兄と父と登城した。私が成人前だから、父が同伴となった。
通された部屋には、昨日のメンバーに、国王陛下、王弟殿下、王太子殿下もいる。
王弟殿下が場を仕切り、ルテウスとパール伯爵子息の話をしていく。
話の内容は、概ね私の推察通りだった。

「パール伯爵子息は、魔術師、教会の方に魔法を解呪してもらいましたが、廃人同然の状態ですね。受け答えは全くできませんし、日常生活もできません。教会の方が言っていましたが、魅了魔法は麻薬と同じく、摂取しただけ身体にも精神にもダメージが大きいとのことです。パール伯爵は領地に静養させると言われてましたが、早晩で貴族図鑑からいなくなりそうですね。」

王弟殿下は悪い顔をしながら言ったみたい。周りが引いているからそうなんだろう。
これだけのことをしてしまって、本人は廃人も同然なら、貴族らしく早々に切り捨てるんだろう。

「ラフストーン男爵子息は、もう救いようがないですね。話は支離滅裂過ぎて、何を言っているのか理解できない。パール伯爵子息に魅了魔法をかけていたことも自覚がありませんでした。それに『リアムが学園に来ないから、ストーリーが進まない』とか『来年はリヴィアサンが来たら、アダマスが滅びる』とか。私の可愛いリアムを悪役に仕立て上げようとしたなんて、本当に度し難い!」

「可愛いは同意ですが、リアムであって、貴方のではありません。」

と、オルクス様が口を挟む。

「おやおや、今更婚約者ヅラですか?私とリアムは毎週お茶会をする仲なんですよ。知らなかったでしょ?」

「なに!」

次兄と王妃様と一緒のお茶会です。礼儀作法の時間でもあるんですけどね。それに呼んでもいない王弟殿下が毎回お茶会に突入してきているだけなんですけど。
次兄の話を聞くまでは、王弟殿下の『時間ができたから』を信じていた私は、チョロいのでしょうか?
2人の言い争いは放って、王太子殿下がつなげる。

「彼は聖者になりたかったようなので、教会に打診して引き取ってもらうことにしました。もちろんに引き取ってもらう予定です。ここが落とし所になりますが、いかがでしょうか?もちろん、ラフストーン男爵からは慰謝料をふんだんに徴収しますので。」

「まぁ、そこが落とし所だろうね。男爵は一年以内には爵位を返還しそうだしね。公爵もそれでいいかな。」

と、オステオン様が納得されてから、父に聞いてくる。

「少し足りないけど、それ以上の搾取は難しそうですね。陛下の決定に従います。」

と、父が言う。何が物足りないのか聞きたいけど聞けない。それに絶対に教えてくれないんだから。

「では、そのように刑を執行させます。オルクス殿、それでよろしいか?」

「はい。兄が了承した以上私に否やはございません。リアムすまないな。私が自ら処分できなくて。」

「いえ、オルクス様の手は国民を守る手です。だから、オルクス様自らがしなくて良かったです。」

「リアム!ああ、もう、本当に可愛いな!もうこのまま帝国に連れて帰ろうかな?」

みんなの呆れた視線が私とオルクス様に飛んでくる。私、変な事言った?それともオルクス様?

「ダメです!まだエド兄様の結婚式が終わっていません。それとも結婚式に一緒に出席してくれないんですか?」

「するとも!リアムの婚約者としてそのために来たのだから!」

「なら、一緒にエド兄様とフレデリック様を祝いましょうね。」

「ああ!ともに祝おう!」

「「「「「……。(リアムの手のひらでコロコロ転がされているなぁ)」」」」」

「……。(やっぱりリアムたん最高!)」

「まぁ、これでフレデリック殿も安心して式を迎えられるな。」

とアスリム様が言う。

「ええ。本当に待ち伏せには困り果てていたので、これで一安心です。エドワードにも何度も突っかかってくるしで。男爵家の方に苦情を入れても改善してもらえなかったので。」

本当にどうしようもないヒロインだったようだ。
でも、これで次兄達は憂いなく結婚することができそうだ。




ヒロインが不在となった今は、ゲームは終了を迎えただろう。
ゲームとしてはバッドエンドだけど、何もしない(できない?)私は、悪役令息にならずに済んだ。
私にとっては、彼の方が悪役令息だったけど。
主人公も悪役も結局のところ、本人の性格・心持ち次第で決まるんだなぁと思った。

しかし、なんでパール伯爵子息を【聖者】に仕立て上げたのか、聞いてみたかったな。



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