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10.迷惑な訪問者と突然の訪問者3
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「そちらが言いだした事です。ぜひ、婚約破棄しましょう。でも、有責なのは我が家ではなくそちらです。規定通りの違約金はしっかり払っていただきます」
クレメンスの前では控える様にしていたが、ヴィクトリアの性格は大人しい従順な性格ではない。
「認めないつもりか、ヴィクトリア! 数日前に私と行く予定だった店で男と逢引しているところを友人が見ていたんだぞ?」
「ただ、男性とお茶をしていただけで浮気とは……、でしたらあなた様は一体何人の女性と浮気しているのでしょうか? 社交界では親切に色々教えて下さる方が大勢いらっしゃるんですよ?」
「男の付き合いと同類にしてもらっては困る」
またこれだ。
結婚するまでは遊ぶのが男の流儀。そんな意味不明な説明で本当に納得しているとでも思っているのか不思議だ。
緊迫した空気の中、突然応接室の扉がノックされ、許可を出す前に開かれた。
「誰だ、一体――!」
「お話の最中、申し訳ありません」
きっちりとした騎士隊の制服を身に纏った人物が丁寧に謝罪する。
その人物に、驚きで固まるヴィクトリア。そしてその存在に驚きつつも訝し気に彼を見る三人。
一番初めに我に返ったのは父親だった。
「お出迎えできず申し訳ありません、ミルドレット卿……しかし、一体どうのようなご用件でしょうか? 大変申し訳ないのですが、今取り込み中でして」
「ええ、ですからこちらに伺いました」
突然現れた彼は、落ち着いた様子で部屋の中を見回し、最後にヴィクトリアに微笑みかける。
その微笑みに心臓がかすかに高鳴った。
「この集まりの当事者の一人である私が弁明しなければ、彼女の名誉に傷がつくと思いましてまいりました」
「どういう事でしょうか?」
「問題になっていたんですよね? 彼女が男性と出かけていたという事が」
「まさか……」
「少し事情は違いますが、私の事です。出かけていたと言うよりも、お互い約束が反故されて時間があったので、私がお誘いしました。なにせ、暑い中待たされたもので、令嬢も涼しい場所で休憩したほうがいいかと思いましてね。もし、それが浮気と言うのなら、ぜひ私にも慰謝料を請求してください。まあ、支払いませんが」
微笑みながらもその目は笑っていなかった。
非難するかのようにクレメンスを捕らえて離さない。
「それと、少し漏れぎ聞こえて来たのですが、結婚前に遊ぶのが男の嗜みと声高に主張するのは止めていただきたいですね。不愉快ですから……ああ、もう一つ。その日あなたは、女性のいる店で昼まで過ごしていたらしいですが……これは浮気ではない? 果たして裁判所ではどのように解釈されるのか楽しみですね」
やはり、はじめから反故されるための約束だった。
その時横からどういうことだと説明を求める視線を感じた。
(そうだった。あの日の事はロザリーに黙っていてもらって、余計な心配をかけたくなくてクレメンス様と出かけたことにしていたんだったわ)
とりあえず、説明は後でしっかりしておこうと心に留めている間にも、ルドヴィックが当事者権限とでもいうように話を進めていく。
いや、婚約に関しては完全に部外者だのだが、それを突っ込める人間はここにはいない。
強引ともとれるが、誰も口を挟むすきを与えなかった。
さすがは騎士団長。
荒くれ者たちを束ねているような人は一味も二味も違う。と変なところで感心してしまった。
「それで……婚約破棄でしたか? そうしたほうがよろしいでしょう。その方がお二人のため。今後の交渉は、第三者を通した方がよろしいでしょう。子爵、よろしかったら私の知り合いを紹介しましょうか?」
そこで伯爵家に聞かずにヴィクトリアの父親に尋ねる辺りで、完全に相手を無視しているような形だ。
「ミルドレット卿、お手数をおかけしますがぜひお願いします」
考えるそぶりも見せず子爵は即決した。
第三者を通した方が良い事はすぐに分かっていたが、この結婚を仲介してきたのが公爵家のため、伯爵家の後ろには公爵家がいる。そのため、第三者をどうするのか悩むところだだったが、ミルドレット侯爵家が紹介してくれると文句はない。
家格は公爵家の方が上ではあるものの、影響力という面ではミルドレット侯爵家の方が上。
「私の友人はこういう争いにはとても慣れていますので、満足する結果で終われると思います。それに、ご令嬢の名誉を汚すことはしないと約束します」
「そこにまで配慮いただけるとは。まことにありがたく思います」
「さて、では話は終わったという事で、伯爵家の方々はお帰りになっていただきましょう。大丈夫、外に私を見張っている部下が幾人かいますので、無事伯爵家に送り届けますとも」
「見張って……?」
「ちょっとした冗談です。お気になさらずに。一応上の立場の人間ですので、護衛のような者です。ただし、私の方が腕は立つので、便利な小間使いのような感じですが。しかし、忠実に私の命令に従って動いてくれるので、重宝してます」
きらりと輝く瞳から、まるで肉食獣のように狙った獲物は逃がさないような執着心を感じた。
一瞬、これはちょっとした脅しではないのかしら、と思うヴィクトリア。
大人しくしていなければどうなるか分からないぞと聞こえたが……向こうの二人は気づいていなさそうだ。
分が悪いと思ったのか、逃げる様に足音を響かせて去っていく。
無事帰れればいいのだけど……と余計な心配をしてしまった。
クレメンスの前では控える様にしていたが、ヴィクトリアの性格は大人しい従順な性格ではない。
「認めないつもりか、ヴィクトリア! 数日前に私と行く予定だった店で男と逢引しているところを友人が見ていたんだぞ?」
「ただ、男性とお茶をしていただけで浮気とは……、でしたらあなた様は一体何人の女性と浮気しているのでしょうか? 社交界では親切に色々教えて下さる方が大勢いらっしゃるんですよ?」
「男の付き合いと同類にしてもらっては困る」
またこれだ。
結婚するまでは遊ぶのが男の流儀。そんな意味不明な説明で本当に納得しているとでも思っているのか不思議だ。
緊迫した空気の中、突然応接室の扉がノックされ、許可を出す前に開かれた。
「誰だ、一体――!」
「お話の最中、申し訳ありません」
きっちりとした騎士隊の制服を身に纏った人物が丁寧に謝罪する。
その人物に、驚きで固まるヴィクトリア。そしてその存在に驚きつつも訝し気に彼を見る三人。
一番初めに我に返ったのは父親だった。
「お出迎えできず申し訳ありません、ミルドレット卿……しかし、一体どうのようなご用件でしょうか? 大変申し訳ないのですが、今取り込み中でして」
「ええ、ですからこちらに伺いました」
突然現れた彼は、落ち着いた様子で部屋の中を見回し、最後にヴィクトリアに微笑みかける。
その微笑みに心臓がかすかに高鳴った。
「この集まりの当事者の一人である私が弁明しなければ、彼女の名誉に傷がつくと思いましてまいりました」
「どういう事でしょうか?」
「問題になっていたんですよね? 彼女が男性と出かけていたという事が」
「まさか……」
「少し事情は違いますが、私の事です。出かけていたと言うよりも、お互い約束が反故されて時間があったので、私がお誘いしました。なにせ、暑い中待たされたもので、令嬢も涼しい場所で休憩したほうがいいかと思いましてね。もし、それが浮気と言うのなら、ぜひ私にも慰謝料を請求してください。まあ、支払いませんが」
微笑みながらもその目は笑っていなかった。
非難するかのようにクレメンスを捕らえて離さない。
「それと、少し漏れぎ聞こえて来たのですが、結婚前に遊ぶのが男の嗜みと声高に主張するのは止めていただきたいですね。不愉快ですから……ああ、もう一つ。その日あなたは、女性のいる店で昼まで過ごしていたらしいですが……これは浮気ではない? 果たして裁判所ではどのように解釈されるのか楽しみですね」
やはり、はじめから反故されるための約束だった。
その時横からどういうことだと説明を求める視線を感じた。
(そうだった。あの日の事はロザリーに黙っていてもらって、余計な心配をかけたくなくてクレメンス様と出かけたことにしていたんだったわ)
とりあえず、説明は後でしっかりしておこうと心に留めている間にも、ルドヴィックが当事者権限とでもいうように話を進めていく。
いや、婚約に関しては完全に部外者だのだが、それを突っ込める人間はここにはいない。
強引ともとれるが、誰も口を挟むすきを与えなかった。
さすがは騎士団長。
荒くれ者たちを束ねているような人は一味も二味も違う。と変なところで感心してしまった。
「それで……婚約破棄でしたか? そうしたほうがよろしいでしょう。その方がお二人のため。今後の交渉は、第三者を通した方がよろしいでしょう。子爵、よろしかったら私の知り合いを紹介しましょうか?」
そこで伯爵家に聞かずにヴィクトリアの父親に尋ねる辺りで、完全に相手を無視しているような形だ。
「ミルドレット卿、お手数をおかけしますがぜひお願いします」
考えるそぶりも見せず子爵は即決した。
第三者を通した方が良い事はすぐに分かっていたが、この結婚を仲介してきたのが公爵家のため、伯爵家の後ろには公爵家がいる。そのため、第三者をどうするのか悩むところだだったが、ミルドレット侯爵家が紹介してくれると文句はない。
家格は公爵家の方が上ではあるものの、影響力という面ではミルドレット侯爵家の方が上。
「私の友人はこういう争いにはとても慣れていますので、満足する結果で終われると思います。それに、ご令嬢の名誉を汚すことはしないと約束します」
「そこにまで配慮いただけるとは。まことにありがたく思います」
「さて、では話は終わったという事で、伯爵家の方々はお帰りになっていただきましょう。大丈夫、外に私を見張っている部下が幾人かいますので、無事伯爵家に送り届けますとも」
「見張って……?」
「ちょっとした冗談です。お気になさらずに。一応上の立場の人間ですので、護衛のような者です。ただし、私の方が腕は立つので、便利な小間使いのような感じですが。しかし、忠実に私の命令に従って動いてくれるので、重宝してます」
きらりと輝く瞳から、まるで肉食獣のように狙った獲物は逃がさないような執着心を感じた。
一瞬、これはちょっとした脅しではないのかしら、と思うヴィクトリア。
大人しくしていなければどうなるか分からないぞと聞こえたが……向こうの二人は気づいていなさそうだ。
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