3 / 37
第1章/1-36
3 ▼老兵イスカール▼
しおりを挟む帝国のはずれの小さな寂れた港に辿り着く。なるほどここなら目立たない。港の一角に船が停泊している。それほど大きくないがそこそこ作りはしっかりしてそうだ。これなら王国までの船旅は問題なさそうだ。
俺は王国の兵士達と一緒に馬車を降りる。おんぼろの灯台から、灯台守のじいさんがこそこそと出てくる。
「…やっと来たか。さっさと行ってくれ」
「約束の分だ」
兵士がじいさんに金を渡す。
「…こんなのはもうこれっきりにしてくれよ。ばれたらただでは済まんわい」
「恩に着る」
じいさんが金を懐に入れる。四の五の言っていられない。賄賂でも何でも、この際受け取ってもらわないと、こっちが死んでしまうからな。
▼ ▼ ▼
よかった。これで逃げ切れる。船に乗り込もうとした時。後ろで兵士の1人が倒れた。
「…どうした?」
仲間が確認すると同時に、2人目が倒れる。傍に剣を持った1人の老兵が立っている。長く白いひげ。年季の入った革製のマント。
!!
イスカール!!
近くにいた王国の兵士が老兵に襲いかかる。老兵は、兵士の振りかぶった斬撃を横にさらりとかわすと、一撃で兵士をしとめる。みね打ちだ。
残りの兵士たちが老兵めがけて突撃する。頭部への横薙ぎの斬撃。老兵は素早くしゃがんで兵士の脇腹へ一撃。そのまま回転、別の兵士の斬撃が外れる。バランスを崩した兵士のみぞおちへ一撃。その兵士が倒れきる前に、銃をかまえていた兵士にダッシュ。ほとんど瞬間移動だ。老兵が剣を振ると、銃が真っ二つになった。兵士は腰を抜かしてその場にへたり込む。全員のされてしまった。死んではいない。
『戦竜』の異名を持つ、レンブルフォート帝国伝説級の名将、イスカール。だいぶ前に現役を引退してからは、なにかの特別な任務に就いているとかで、一切帝都に姿を現していない。
追っ手としては最強だ。ジラードも切り札を使ってきたようだ。
イスカールは俺を見る。
「お久しぶりです、ルシーダ殿下」
「…そうだな」
俺はまだ小さい頃、イスカールと何度も会ったことがある。その剣技も間近で見ていたが、あの頃からまーとんでもなく強かったな。今でも全然衰えてないじゃないか。今どこで何をしてるんだろう。
「…イスカール、俺を捕まえるのか?」
「ルシーダ殿下、皇帝の命により、あなたを帝都に連れ戻さねばなりません」
ここまで来たが、イスカールに目をつけられたらお終いだ。
一台、馬車が走って来て、近くで止まる。中から1人の女が急いだ様子で降りて来た。
「…ああ、間に合った!」
女は駆け寄ってくる。
「イスカール、待ってくれないか」
「殿下。こちらは危険です。馬車にお戻りください」
女は首を横に振る。
女は俺の方を見る。優しそうな顔だ…なんというか、幸薄い雰囲気だな。たぶんあまり栄養のある食事をとっていないんだろう。身なりもひどい。服が薄汚れてぼろぼろだ。
「イスカール、この人を王国に逃がしてやってくれないか」
「殿下、それは…」
「頼む」
イスカールは考え込む。
女が俺に歩み寄って微笑む。女…いや、男か! 顔を見ても最初は分からなかったが、近くでよく見たらなんとなく雰囲気で分かった。でも中性的な、不思議な雰囲気だ。幼く見えるが、どうやら歳も俺と同じくらいみたいだな。背も俺より少し高い。
「君がルシーダ皇子だね。噂通りの綺麗な人だ」
どうも。お前もな。
「あんた…何者だ?」
「今はまだ…言えない。でも僕たちはいずれまた会うことになるよ。必ず。運命だからね」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる