アイリスとリコリス

沖月シエル

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第1章/1-36

25 ▽情報収集開始▽

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「おー、いい壺だな!」

「待て! 触るんじゃない! まったく油断も隙もないやつだ」

聞き覚えのある声が広間から聞こえてきた。僕は待機していた部屋から駆け出して行く。

「…ああ、会いたかった!」

「…お? アナスタシア!」

僕は宮廷まで来たニキータに駆け寄る。首輪がすでに外されている。よかった。

「お前…なんかすごい格好してるな? 完全に貴族様だぜ」

「えへへ…似合うでしょ? ルシーダから借りてるんだ。今度僕のも作ってもらえるんだよ」

「ルシーダ? この新領主様のことか?」

「そうだよ」

ニキータは少し不思議そうに僕を眺める。

「…アナスタシア、お前ほんとに何者なんだ?」

「…おい、奴隷! あんまり勝手なことするなよ」

後ろからルシーダが声をかける。

「アナスタシアがどうしてもって言うから買ってやったものの…俺は別にお前には用無いんだからな」

「本当はあの奴隷館から王国軍を追い出してほしかったんだけどね。ニキータの居場所だったから」

「それは俺でも無理だ。俺も王国軍の言いなりだからな」

「まあ困ってたから、とりあえず助かったぜ。ありがとな」

ニキータは僕の肩に腕を回すと、僕の頬に軽くキスをする。

!!

わ、て、照れるな…

「…おおおおいおい! アナスタシアから離れろ! なんちゅうやっちゃ!」

「いやー気が強い女子だね…新領主様っていうからどんなやつかと思ったけど、こんなかわいこちゃんだったとは」

「か、かわいこ…!」

「…そうそう、ルシーダは男だよ」

「は? 何だって?」

ニキータはきょとんとしてルシーダの方を見る。ルシーダは相変わらず睨んでいる。

「いや女だろ」

「男じゃボケ!」

「ひえー…おっかねえ。しっかしあんたら本当どうなってんだ?」

まあでもこの中で一番真っ赤な口紅が似あうのはニキータ、君なんだけどね。

「少なくともお前は人のこと言えんだろ!」

「オレはイケメンじゃん? でも領主様は女子って感じだぜ?」

「おんのれ生意気な…!」

「まあまあ」

この二人は相性あんまりよくないかもね…

「…なあ、アナスタシア。あの辺の壺、後で1つ2つかっさらえねえかな?…絶対高く売れるんだけどな…」

ニキータが僕の耳元でひそひそ小声で話す。さすがはニキータ…いつでも家業に余念が無い…

「だめだよ」

「しゃーないか…」

「おい! 何をこそこそ話してるんだ!」

「いやいや何でもない何でもない!…で、オレはこの宮廷で何をすればいいんだ? 買ってもらったのはいいけど、宮廷でのんびり暮らし…ってのは柄じゃないんでね。暇で死んじまうぜ」

「えっと…ルシーダ? ニキータのことは僕に任せてもらってもいいかな?」

「もちろんだ。お前が希望したことだからな」

「よろしく頼むぜ。いやーあの領主様が主人じゃなくてよかったぜ」

「アナスタシア! そいつ散々こき使ってやれ! あとお前! いつまでアナスタシアに触ってるんだ! いいかげん離れろ!」

「まあまあ…」



▽  ▽  ▽



僕とニキータは、ルシーダと別れて宮廷の屋上まで来る。眼下に帝都の風景が広がっている。その向こうにはレンブルフォートの森と草原。

「…へえー、上の方はこんななってんだなー。この間来た時は見られなかったからな」

「…最初に会ったの、この宮廷だったね」

「地下の牢屋で寝てたんだよな、お前。上階で戦争してんのによ」

そよそよと風が吹いている。心地良い。

「…ま、俺は分かってたけどな。お前が一般人じゃないってことは」

「バレてたね」

「バレバレだった。そろそろ教えてくれるか?」

「ま、簡単に言うと、僕もレンブルフォートの皇族なんだ。ただし、昔のね」

「皇子様ってわけか。あの領主様と親戚なのか? いとことか?」

「それは全然違う。僕とルシーダの関係は、ちょっと複雑なんだ」

「そうか…」

「僕は今、わけあって、王国側に内緒で、領主のルシーダに匿われてる。自由も制限されてて、特に宮廷の外ではあまり自由に動けない。そこで、君にお願いしたいんだ」

「オレの仕事だな?」

「そう。これから僕の指示に沿って情報を集めてほしい。君なら宮廷の外でも僕やルシーダが許可すれば自由に動けるからね。君はシーフもやっていたし、適任かと思って」

「そういうのなら得意中の得意だ」

「特に王国軍には気をつけて。今レンブルフォートを実質的に主導する立場にあるのは軍部だから」

「了解。久しぶりにおちょくってやっか」

「なんだか親友を利用するみたいで申し訳ないけども」

「とんでもない、全然気にすんな。むしろワクワクしてきたぜ」

「お願いできるかな?」

「任せろ」


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