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#16 11月10日 眠る/眠れない/まだ、夜

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 寝支度をして歯を磨き、照明を消して、2人並んで布団に潜り込んで。

 すぐ隣で眠る湊咲の顔を、薄い暗闇の中で眺めている。

 いつか彼女が目を奪われていた、あの夜を写した写真。重ねていたのかもしれないと、今は思う。

 眠れない様子も寝苦しそうな様子もなかった。いつもと同じはずの寝顔。そこから違う何かを読み取ってしまうとしたら、それは私の勝手な認識のせいだろう。

 正直、思ったよりも重い話だった。

 そもそも真実なのかどうなのか、判断を下す根拠はない。けれど作り話にしては真に迫りすぎていたとも思う。だから今は、ひとまず真偽について深く考える気にはなれない。

 湊咲の告白を聞いた後、浅い慰めも年上ぶった説教も口にする気にはなれなかった。まして共感するフリなんてできるはずもなく。言わないほうがマシだと思うような、意味のない言葉しか浮かばなかった。

 瞳が乾いていく感触があるのに、目を閉じる気になれない。

 何か言ったほうが良かったんじゃないか、言うべきだったんじゃないか。

 そんな考えは、私のエゴでしかないんじゃないか。

 ああやって苦しげに話すだけで、知っている人間が一人増えただけで、本当に湊咲は少しでも楽になったのだろうか。

 本人はそう言っていたし、今の安らかな寝顔を見ればその通りなのかもしれないとも思う。

 その一方で、ただ吐き出しただけで何かが変わると考えるのは、愚かで楽観的すぎる気もした。

 何も分からないし、考えても答えが出ることはない。本人にすらまだ分かっていないかもしれない。

 私がしてきたことは、私ができたことは。

 一体何だったのだろうか。

 なにもない、というのがやっぱり本当のところだとは思う。

 仮に、もっと時間があったり、私の思慮が深かったりしたとしても同じだったんじゃないか。

 湊咲の規則正しい寝息に耳を澄ます。シンプルで微かで、最低限の生命を維持しようとする空気の流れ。

 彼女の寝顔はずっと穏やかだ。いつものように。

 私の家にいる時の寝顔しか、私は見たことがない。

 もう見慣れてしまった目元の隈。ここにいる時はよく眠れると言っていた。一体、この家にいない時の彼女は。

 やっぱり考えても無駄だと、私も目を閉じてしまおうと思って、すぐに失敗して。長めの瞬きを繰り返しているみたいな。

 そんなことをいつまでも繰り返してから、枕元に投げ出していたスマートフォンを手繰り寄せた。湊咲の顔に光がかからない位置で画面を点灯させて時間を確かめる。2時58分。日の出まではまだもうしばらくある。

 夜の長さが、救いなのか苦しみなのか。

 今日たまたま眠れないだけの私には、判断がつきそうにない。
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