19 / 34
#17 11月14日 考える/考える/きっと無駄
しおりを挟む例えばの話。
羽鳥湊咲がまた絵を描けるようになれば、それは良い結末なのだろうか。
長くなったレジ列を捌き続けるうちに麻痺してきた脳が、ずっと繰り返している自問をまた浮かび上がらせる。
私は彼女の近くにいるいくらか年上の人間として、その手助けをするのが正しい振る舞いなのだろうか。
もちろん、湊咲自身が改めてそうしたいと思えるようになったのなら、それは歓迎すべきことだと思う。どうやら多くの他人より優れているらしい彼女の能力をまた発揮できるのなら、それに越したことはない。
目の前では会計中のお客さんが財布の小銭入れを探っている。帰宅途中のサラリーマンと思しきスーツ姿のその人は、数冊の自己啓発本をまとめて買っていた。全部もう紙袋に入れてしまって、レジカウンターの上に横たわっている。
誰だって多かれ少なかれ、そういう物を求めるのだろうか。
褒められない行いだと思いつつ、そんなことを考える。
けれどこうやって自ら求めるのならともかく、勝手な外野の推測で押し付けるのは間違いだろう。
それでも彼女と過ごす時間が増えたきっかけであったり、その後の彼女の様子であったりを思い浮かべれば、知り得たその背景をただ流すことが正解だとも思えなくなる。
仰々しく傲慢な言い方をすれば。
羽鳥湊咲は私に助けて欲しいのだろうか? 救って欲しいのだろうか?
そんな事を彼女が求めていないとしたら、こんな考えを抱くことも失礼かもしれない。
やっと探し出された小銭を受け取り、お釣りを返して感謝を告げる。おざなりにやっているつもりはないが、もうほとんど無意識の動作だ。
次にレジへやってきたのは制服姿の男子高校生。露骨に待ちくたびれたような様子で参考書と新刊の漫画を差し出してくる。お待たせして申し訳ありませんと詫びると、どこか居心地の悪そうな顔をしていた。
別に気にする必要なんてない。私だって何も思っていないのだから。
そんな内心は伝わるはずがないし、伝えるつもりもないのだけれども。
伝えようとしたって、伝わらないかもしれない。
彼と私のコミュニケーションとしては、それで問題ない。
けれど、私は湊咲に対しても同じように考えられるだろうか。
そんな風に割り切ってしまえるのだろうか。
こうやって考えていたって答えなんて出ないことも、ほとんど確信していた。
それでも巡り続ける思考を止めることもできず、目の前の作業を捌いていく。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる