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放浪の姫と第六の魔王
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「そういえば、あなた名前は?」
ここで非常に間抜けなことに気付いた。名乗ってねえ。
「ああ、アルフレドという」
「それって……あなたもしかしてあの?」
「口が悪い奴は俺のことを血塗れブラッディアレフって呼ぶな」
「へ? いえ、そっちじゃなくて」
ん? まさかこいつ……?
「ヴァレンシュタインの?」
「っく、落ちぶれても公女か。よく知ってるな」
「だから皇帝を斬ったの?」
うちの実家は帝国に滅ぼされている。最前線の辺境伯家だったからもう真っ先にやられた。親父も兄貴たちもあの圧倒的な物量の前では全く無力だった。あえなく討死してゆくのを見て歯噛みしたのは苦い思い出だった。
「……かもな?」
それが表情に出ていたのか、ルシアも神妙な顔だ。
「ふうん、まあいいわ。けど納得ね」
「なにがだ?」
「10倍の帝国軍に包囲されて、その包囲網を突破して女子供を逃がしたのはあなたでしょう? だから血塗れッて異名がついたのね」
「あー、もうそれは良いとしてだ」
「なに、照れてるの? 見かけによらず可愛いのね」
「かわ……もういい、とりあえず部下をまとめる」
その時、副官が馬を走らせてやってきた。
「我が君! あれほど先行してはいけませんとお願いしておりましたのに!」
「や、いけませんって、それお願いの時に使う言葉か?」
「細かい事はいいのです! お怪我はありませんか?」
その姿を見て何かを悟ったような顔をする公女。うわあという表情を浮かべる。
「誤解を招いているようだが、こいつは男だぞ?」
「えっ!? そっちの趣味があるの?」
「ないわ!」
そう、こいつはすさまじい女顔なのである。さらに体つきも華奢で、一見というかもろに女にしか見えない。
「ラン、大丈夫だ。あの程度の相手に不覚を取らん」
「そうですか、安心しました、我が君!」
そういうと破顔して抱き着いてこようとする。俺はランのデコに手を当て、押し戻す。
「やっぱりそういう関係なんじゃない。うわー……」
「我が君、この方は?」
「とりあえず、当面の雇い主だ」
「承知いたしました。おそらくですがルシア公女?」
「よくわかったわね」
「新たな地に出向く前に調査をするのは常識でしょう」
「アレフ、この子に大将任せた方がいいんじゃない?」
「うむ、たまに俺もそう思う。俺は斬り込む以外に能がないからな」
「我が君はこの戦乱の世を斬り従え王になるべき方です!」
「ラン、いや、ランディウス。それくらいにしておけ」
俺の言葉にランは何かを感じたのか、それ以上口を開くことはなかった。
「失礼いたしました。後続の兵をまとめてまいります」
「頼む」
ルシアは、ランディウスの名前を思い出そうとしているようだ。まあ、寄り合い所帯で、それぞれに事情を抱えている。俺も世が世なら辺境伯家の坊ちゃまだからな。
ひとまずルシアを護衛して彼女の目的地、シーモアの町に向かった。そこにはルシアの派閥をまとめる家臣がいるとのことで、先行して出した死者が到着していれば兵をまとめていてくれるはずとのことである。
果たして数度の追手を撃退し、俺たちは無事シーモアの町に到着した。出迎えてくれたのは全身を大鎧に包み、巨大な大楯を持ったごっつい爺様だった。
「アルベルト!」
「姫様! よくご無事で!」
「ええ、このアルフの傭兵団が護衛してくれました」
「アルフ? 大陸でもトップクラスの実力のクロスナイツ傭兵団の?」
「あんたそんな有名人だったの?」
「むしろ知らずにあの態度かよ。まあ、うちの傭兵団の名前はクロスナイツだ」
そうするとアルベルトの爺さんが右手を差し出してきた。
「噂はかねがね聞き及んでおる。高名なるクロスナイツとともに戦えることは光栄だ」
俺も手を握り返す。予想通りというか、すさまじい握力だ。まあ、負ける気はないが。
互いに表情一つ変えず力比べをするが、まったくの互角だった。周囲の者も異様な雰囲気を感じ取って固唾を呑んでいる。
「ぐわっはははははは。いや、見事。すさまじいまでの剛力じゃの」
「ふん、爺さん、あんたもな」
「まだジジイと呼ばれる歳ではないわ!」
「ルシア、こいついくつだ?」
「えーと、確か67だったはずよ?」
「ジジイじゃねえか」
すると目の前に何かがすさまじい速度で振り下ろされた。頭をそらして避ける。降ってきたものを見ると巨大な戦斧であった。
「ルシア殿下じゃ。もしくは姫様と、そうお呼びするように」
「承知した」
別に迫力に押されたわけではない。まあ、担ぐ神輿が軽いと俺たちも軽くみられるからな。そういうことにしておこう。
軍議が始まった。アルベルトの爺さんが詰めた兵力は2000あまり。うちの手勢が今300ほどだ。で、グレイブ伯が集めた兵力は4000以上。倍の兵力か。どうしたものかね。
「兵力差のでないバールク丘陵に陣を張るべきかと」
「工兵はいますか?」
「とりあえず木こりとか職人を動員して何とかじゃな」
「野戦陣を張りましょう。防御施設を整えるだけでかなり違います」
なんか、ランとアルベルトの二人で話が進んでゆく。まあ、もともとあいつは有能だからな。そんな時、急使が雪崩れ込んできた。
「申し上げます! 東よりグラニード傭兵団約3000が侵攻中です! 併せてグレイブ伯の4000がバールク丘陵に布陣。アドニス将軍率いる騎兵が先行しております」
「なんじゃと!?」
アルベルトの爺さんの顔色が変わる。挟み撃ちか。有効な手だ。
「アレフ、グラニード傭兵団とは?」
「評判はよくねえな。略奪が大好きな連中だ」
「では彼らをまず蹴散らしましょう」
「グラニードの連中は確かに精強とは言えねえ。けどうちの手勢よりも数は多いぞ?」
「民を守るが公王の役割です。叔父上は私を倒すためとはいえあのような連中と手を結びました。ならば道を正すが私の役目です」
「さすがです!」
アルベルトの爺さんは目をウルウルさせてやがる。こりゃ、あいつらとやりあうしかねえな。俺はランに目配せして策を出すように促すのだった。
ここで非常に間抜けなことに気付いた。名乗ってねえ。
「ああ、アルフレドという」
「それって……あなたもしかしてあの?」
「口が悪い奴は俺のことを血塗れブラッディアレフって呼ぶな」
「へ? いえ、そっちじゃなくて」
ん? まさかこいつ……?
「ヴァレンシュタインの?」
「っく、落ちぶれても公女か。よく知ってるな」
「だから皇帝を斬ったの?」
うちの実家は帝国に滅ぼされている。最前線の辺境伯家だったからもう真っ先にやられた。親父も兄貴たちもあの圧倒的な物量の前では全く無力だった。あえなく討死してゆくのを見て歯噛みしたのは苦い思い出だった。
「……かもな?」
それが表情に出ていたのか、ルシアも神妙な顔だ。
「ふうん、まあいいわ。けど納得ね」
「なにがだ?」
「10倍の帝国軍に包囲されて、その包囲網を突破して女子供を逃がしたのはあなたでしょう? だから血塗れッて異名がついたのね」
「あー、もうそれは良いとしてだ」
「なに、照れてるの? 見かけによらず可愛いのね」
「かわ……もういい、とりあえず部下をまとめる」
その時、副官が馬を走らせてやってきた。
「我が君! あれほど先行してはいけませんとお願いしておりましたのに!」
「や、いけませんって、それお願いの時に使う言葉か?」
「細かい事はいいのです! お怪我はありませんか?」
その姿を見て何かを悟ったような顔をする公女。うわあという表情を浮かべる。
「誤解を招いているようだが、こいつは男だぞ?」
「えっ!? そっちの趣味があるの?」
「ないわ!」
そう、こいつはすさまじい女顔なのである。さらに体つきも華奢で、一見というかもろに女にしか見えない。
「ラン、大丈夫だ。あの程度の相手に不覚を取らん」
「そうですか、安心しました、我が君!」
そういうと破顔して抱き着いてこようとする。俺はランのデコに手を当て、押し戻す。
「やっぱりそういう関係なんじゃない。うわー……」
「我が君、この方は?」
「とりあえず、当面の雇い主だ」
「承知いたしました。おそらくですがルシア公女?」
「よくわかったわね」
「新たな地に出向く前に調査をするのは常識でしょう」
「アレフ、この子に大将任せた方がいいんじゃない?」
「うむ、たまに俺もそう思う。俺は斬り込む以外に能がないからな」
「我が君はこの戦乱の世を斬り従え王になるべき方です!」
「ラン、いや、ランディウス。それくらいにしておけ」
俺の言葉にランは何かを感じたのか、それ以上口を開くことはなかった。
「失礼いたしました。後続の兵をまとめてまいります」
「頼む」
ルシアは、ランディウスの名前を思い出そうとしているようだ。まあ、寄り合い所帯で、それぞれに事情を抱えている。俺も世が世なら辺境伯家の坊ちゃまだからな。
ひとまずルシアを護衛して彼女の目的地、シーモアの町に向かった。そこにはルシアの派閥をまとめる家臣がいるとのことで、先行して出した死者が到着していれば兵をまとめていてくれるはずとのことである。
果たして数度の追手を撃退し、俺たちは無事シーモアの町に到着した。出迎えてくれたのは全身を大鎧に包み、巨大な大楯を持ったごっつい爺様だった。
「アルベルト!」
「姫様! よくご無事で!」
「ええ、このアルフの傭兵団が護衛してくれました」
「アルフ? 大陸でもトップクラスの実力のクロスナイツ傭兵団の?」
「あんたそんな有名人だったの?」
「むしろ知らずにあの態度かよ。まあ、うちの傭兵団の名前はクロスナイツだ」
そうするとアルベルトの爺さんが右手を差し出してきた。
「噂はかねがね聞き及んでおる。高名なるクロスナイツとともに戦えることは光栄だ」
俺も手を握り返す。予想通りというか、すさまじい握力だ。まあ、負ける気はないが。
互いに表情一つ変えず力比べをするが、まったくの互角だった。周囲の者も異様な雰囲気を感じ取って固唾を呑んでいる。
「ぐわっはははははは。いや、見事。すさまじいまでの剛力じゃの」
「ふん、爺さん、あんたもな」
「まだジジイと呼ばれる歳ではないわ!」
「ルシア、こいついくつだ?」
「えーと、確か67だったはずよ?」
「ジジイじゃねえか」
すると目の前に何かがすさまじい速度で振り下ろされた。頭をそらして避ける。降ってきたものを見ると巨大な戦斧であった。
「ルシア殿下じゃ。もしくは姫様と、そうお呼びするように」
「承知した」
別に迫力に押されたわけではない。まあ、担ぐ神輿が軽いと俺たちも軽くみられるからな。そういうことにしておこう。
軍議が始まった。アルベルトの爺さんが詰めた兵力は2000あまり。うちの手勢が今300ほどだ。で、グレイブ伯が集めた兵力は4000以上。倍の兵力か。どうしたものかね。
「兵力差のでないバールク丘陵に陣を張るべきかと」
「工兵はいますか?」
「とりあえず木こりとか職人を動員して何とかじゃな」
「野戦陣を張りましょう。防御施設を整えるだけでかなり違います」
なんか、ランとアルベルトの二人で話が進んでゆく。まあ、もともとあいつは有能だからな。そんな時、急使が雪崩れ込んできた。
「申し上げます! 東よりグラニード傭兵団約3000が侵攻中です! 併せてグレイブ伯の4000がバールク丘陵に布陣。アドニス将軍率いる騎兵が先行しております」
「なんじゃと!?」
アルベルトの爺さんの顔色が変わる。挟み撃ちか。有効な手だ。
「アレフ、グラニード傭兵団とは?」
「評判はよくねえな。略奪が大好きな連中だ」
「では彼らをまず蹴散らしましょう」
「グラニードの連中は確かに精強とは言えねえ。けどうちの手勢よりも数は多いぞ?」
「民を守るが公王の役割です。叔父上は私を倒すためとはいえあのような連中と手を結びました。ならば道を正すが私の役目です」
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