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第1話 異世界転移は唐突に
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「ひるむな! かかれ! かかれ! かかれええええええ!!」
前線に立って兵たちを鼓舞する。銃撃戦を制し、俺の配下の抜刀隊が崩れた敵陣を蹂躙して行った。
背後から軍勢が移動する音が聞こえる。予備兵力が追撃へと移行するのだろう。
俺は振りかざしていた刀を鞘に納め一息つく。前線から部下たちが引き返してきていた。
「隊長! やりましたよ!」
副長がニカっと笑みを浮かべて俺のもとにやってきた。そんな彼の笑みが凍り付く。
ターーーーーーーン……
銃声は後からやってきた。冗談のように俺の胸のど真ん中に空いた穴をまるで他人事のように眺める。
「ゴブッ……」
声を出そうとするが、喉から血がせりあがってきて声にならない。
「衛生兵! 衛生兵はどこだ!」
副長があげる声を聞きながら、俺の意識は静かに閉ざされて行った……。
何か周囲がうるさい。というか俺は助かったのか? しかしあの銃弾はたしかに俺の心臓を貫いていた。
周囲の音に耳を傾けると悲鳴とかが聞こえてくるし、何か金属同士を打ち合わせるような、それこそ聞き慣れた音も聞こえて来た。
そこでふと思い当たり身体を動かしてみる。指先から順に力を入れて行くが問題なく動いた。
「あれ? っていうか普通俺死んでるよな。ここって死後の世界?」
目を開き周りを見渡すと、自分は小高い丘の上で横たわっていた。騒がしい方向を辿ると、えらい古臭い軍装をした連中がガキンバキンと斬り合いをしている。
その光景に思わず見とれてしまった。
「え? これって夢?」
西暦二〇XX年。日本は内戦の真っただ中だった。憲法が改正され、自衛隊は国防軍となった。そんな日本の姿に危機感を覚えた隣国はついに日本にその牙をむく。日本海は鉄壁の守りとなる防衛線となり、空軍の制空権は巡航ミサイルすら叩き落して見せた。
国民の危機意識は高まり、俺はそんな空気に乗って士官学校へと入学したのだ。
そして、謀略によって日本は東西に分裂する。俺がさっきまで立っていた戦場はまさしく天下分け目の関ヶ原の戦場だったのだ。
最前線で部隊を指揮し、そして目の前の敵を蹴散らしたところで……狙撃に倒れた。はずだったのだ。
半ば呆然と戦場を眺めていると、俺の背後から人が歩く音が聞こえて来た。
「……お前、何者だ? なんでここにいる?」
プレートメイルというのだろうか。板金鎧を身に着け、立派な髭を生やしたおっさんが話しかけて来た。威圧感半端ねえ。周囲の兵士らしき人たちは剣を抜いて切っ先をこっちに向けている。
これって返答ミスったら即処刑フラグ? そうして武装を確認する。刀はいつも通り俺の腰にあった。ただ、ここで抜いたら……えらいことになるな。
「えっと……ここは、どこだ?」
緊張のあまり回っていない頭はまともな返答ができなかった。
「質問に答えん上に質問で返すか。まあ、いい。ここはローラッド平原だ」
「……すまん、理解できていない」
俺は相当に間抜けな顔をしていたんだろう。呆れたような表情だったが、俺の服装を見て眉をひそめた。
「……あれか、迷い人ってやつか?」
おっさんの言葉から導き出されることは……うん、これって異世界転移ってやつだ。
「なんでそう思う?」
「お前のその服。見たこともない形をしているし、布地もこの世のものじゃあないだろう?」
「そう、なんですか?」
「まあ、いい。こんなガキに何かできるわけじゃないだろう。ケネス!」
「はっ!」
髭のオッサンより一回りでかい、まさに巨漢という兵士が前に出て来た。
「こいつを後方に送っとけ。雑用くらいできるだろ」
「イエッサー!」
よくわからない敬礼っぽいポーズを決めて、ケネスとか言う兵士は俺のほうに歩いてきて、俺の首根っこを掴んでひょいっと持ちあげた。
「さあ、こっちだ」
もはやじたばたもできない。俺はされるがままに連れていかれ、その背後では髭のオッサンが上げる雄たけびに周囲の兵たちが気勢を上げている。
そして、彼らはそのまま丘のふもとで戦っている兵たちの群れに突入していった。
これが髭のオッサン……ガイウス・ギルフォードとの出会いだった。
引きずられそうになった時、後方で派手な喚声が上がった。おそらくさっきの隊長とやらが突撃を仕掛けたんだろう。
ケネスが一瞬そちらに気を取られた瞬間、俺は彼の手を振りほどいてさっきの丘に戻った。
あの隊長とやらは用心深いようだ。丘の上には予備兵として百名ほどの兵が待機している。
「はあ、仕方ねえな」
ケネスは呆れたような口調で俺の隣に立っている。
「ふん、お前さんが何者か知らんが、戦場が珍しいのか?」
「一応見習いの身ではあるが、士官候補生だった。……敵の方が数が多い。それでも互角に渡り合ってる。横槍が効いているな」
俺がさらっというとケネスは感心したようにこちらを見た。
「……敵味方の数を言ってみろ」
偵察の基本だ。手で枠を作る。その中にいる人の数を大まかにとらえる。そしてその枠がいくつあるかで人数を数えるのだ。
「こっちの陣営が千二百。敵方が千五百ほどか。敵は横槍が入って混乱しているけど、すぐに収まりそうだな」
ケネスの眉が釣りあがる。こいつ表情に出過ぎだな。
「おい、どうなんだ?」「ああ、大体の頭数はあってる」
周囲の兵のざわめきが聞こえてくる。ケネスはさっきまでの表情を改めて俺に問いかけてきた。
「ふむ、じゃあこのまま行ったらどうなる?」
「戦いは数だよ。数が多い方が勝つ」
その一言に周囲からの目線がきつくなる。そりゃそうか。味方の負けを予言したわけだからな。
というあたりで戦況が大きく動いた。敵は中央に予備兵を投入し、一気に突破を図っているようだ。
一直線だった味方の陣形は中央部が押され、くの字を描いたように変形している。戦線自体もじりじりと押し込まれていた。
「……まずいな」
「のんきに言ってる場合か。そこまでわかるなら何か手は打てないか?」
「指示を受けているのではないのか?」
などと考えつつも俺は周囲を見渡した。お、あれだ。
まばらに生えた木に軍馬が繋がれている。
「馬はどれくらいいる?」
「三十頭ほどだ」
「うち騎兵はどれだけだ?」
「後で隊長に報告だな……」
渋面を作ったケネスは馬を集結させ、騎兵を編成した。
集めてもらった馬を確認する。うっわ鐙もないのかよ。こりゃ長くは乗れないな。
「まあ、あれだ。隊長から指示は受けていたんだがな。俺の判断で突っ込めと言われて……」
「判断がつかんかったと?」
ケネスが無表情でうなずく。
「じゃあ俺の合図で突撃してくれ」
「……承知した」
「敵は討たなくていい。蹴散らすだけだ」
ケネスは驚いた表情で俺を見ている。
「だが敵を討ち取らなければ……」
「敵を殺せば確かに勝ちだがね。このままじゃ味方は崩れるぞ? まず敵の足を止める」
「お、おう」
「そうしたら、隊長が反撃してくれるさ。この位置取りで敵に奇襲かける人だからな。さらにこっちに予備兵を残しておいたのは二つ意味がある」
ケネスたちは固唾をのんで俺の言葉を待っている。
「奇襲で敵にとどめを刺すか、逃げる時の捨て石さ」
俺の言葉に何となく理由を理解していた兵がいるんだろう。表情は硬い。
「で、さ。負け戦は面白くないじゃない。どうせなら勝たなきゃな」
「……だから突撃か」
「そう」
俺は愛刀をすらっと抜いた。日の光を弾いて反射光で虹色に輝く。
そして軽く素振りをすると兵の目線が俺に向いていることを感じた。
「じゃあ、行こうか。敵の後ろ備えを叩く」
俺が切っ先を向けたのは敵勢の予備兵力になっているひとかたまり。
そして俺は気負うことなく、いつも通りに声を発した。
「俺に続け! 突撃!」
前線に立って兵たちを鼓舞する。銃撃戦を制し、俺の配下の抜刀隊が崩れた敵陣を蹂躙して行った。
背後から軍勢が移動する音が聞こえる。予備兵力が追撃へと移行するのだろう。
俺は振りかざしていた刀を鞘に納め一息つく。前線から部下たちが引き返してきていた。
「隊長! やりましたよ!」
副長がニカっと笑みを浮かべて俺のもとにやってきた。そんな彼の笑みが凍り付く。
ターーーーーーーン……
銃声は後からやってきた。冗談のように俺の胸のど真ん中に空いた穴をまるで他人事のように眺める。
「ゴブッ……」
声を出そうとするが、喉から血がせりあがってきて声にならない。
「衛生兵! 衛生兵はどこだ!」
副長があげる声を聞きながら、俺の意識は静かに閉ざされて行った……。
何か周囲がうるさい。というか俺は助かったのか? しかしあの銃弾はたしかに俺の心臓を貫いていた。
周囲の音に耳を傾けると悲鳴とかが聞こえてくるし、何か金属同士を打ち合わせるような、それこそ聞き慣れた音も聞こえて来た。
そこでふと思い当たり身体を動かしてみる。指先から順に力を入れて行くが問題なく動いた。
「あれ? っていうか普通俺死んでるよな。ここって死後の世界?」
目を開き周りを見渡すと、自分は小高い丘の上で横たわっていた。騒がしい方向を辿ると、えらい古臭い軍装をした連中がガキンバキンと斬り合いをしている。
その光景に思わず見とれてしまった。
「え? これって夢?」
西暦二〇XX年。日本は内戦の真っただ中だった。憲法が改正され、自衛隊は国防軍となった。そんな日本の姿に危機感を覚えた隣国はついに日本にその牙をむく。日本海は鉄壁の守りとなる防衛線となり、空軍の制空権は巡航ミサイルすら叩き落して見せた。
国民の危機意識は高まり、俺はそんな空気に乗って士官学校へと入学したのだ。
そして、謀略によって日本は東西に分裂する。俺がさっきまで立っていた戦場はまさしく天下分け目の関ヶ原の戦場だったのだ。
最前線で部隊を指揮し、そして目の前の敵を蹴散らしたところで……狙撃に倒れた。はずだったのだ。
半ば呆然と戦場を眺めていると、俺の背後から人が歩く音が聞こえて来た。
「……お前、何者だ? なんでここにいる?」
プレートメイルというのだろうか。板金鎧を身に着け、立派な髭を生やしたおっさんが話しかけて来た。威圧感半端ねえ。周囲の兵士らしき人たちは剣を抜いて切っ先をこっちに向けている。
これって返答ミスったら即処刑フラグ? そうして武装を確認する。刀はいつも通り俺の腰にあった。ただ、ここで抜いたら……えらいことになるな。
「えっと……ここは、どこだ?」
緊張のあまり回っていない頭はまともな返答ができなかった。
「質問に答えん上に質問で返すか。まあ、いい。ここはローラッド平原だ」
「……すまん、理解できていない」
俺は相当に間抜けな顔をしていたんだろう。呆れたような表情だったが、俺の服装を見て眉をひそめた。
「……あれか、迷い人ってやつか?」
おっさんの言葉から導き出されることは……うん、これって異世界転移ってやつだ。
「なんでそう思う?」
「お前のその服。見たこともない形をしているし、布地もこの世のものじゃあないだろう?」
「そう、なんですか?」
「まあ、いい。こんなガキに何かできるわけじゃないだろう。ケネス!」
「はっ!」
髭のオッサンより一回りでかい、まさに巨漢という兵士が前に出て来た。
「こいつを後方に送っとけ。雑用くらいできるだろ」
「イエッサー!」
よくわからない敬礼っぽいポーズを決めて、ケネスとか言う兵士は俺のほうに歩いてきて、俺の首根っこを掴んでひょいっと持ちあげた。
「さあ、こっちだ」
もはやじたばたもできない。俺はされるがままに連れていかれ、その背後では髭のオッサンが上げる雄たけびに周囲の兵たちが気勢を上げている。
そして、彼らはそのまま丘のふもとで戦っている兵たちの群れに突入していった。
これが髭のオッサン……ガイウス・ギルフォードとの出会いだった。
引きずられそうになった時、後方で派手な喚声が上がった。おそらくさっきの隊長とやらが突撃を仕掛けたんだろう。
ケネスが一瞬そちらに気を取られた瞬間、俺は彼の手を振りほどいてさっきの丘に戻った。
あの隊長とやらは用心深いようだ。丘の上には予備兵として百名ほどの兵が待機している。
「はあ、仕方ねえな」
ケネスは呆れたような口調で俺の隣に立っている。
「ふん、お前さんが何者か知らんが、戦場が珍しいのか?」
「一応見習いの身ではあるが、士官候補生だった。……敵の方が数が多い。それでも互角に渡り合ってる。横槍が効いているな」
俺がさらっというとケネスは感心したようにこちらを見た。
「……敵味方の数を言ってみろ」
偵察の基本だ。手で枠を作る。その中にいる人の数を大まかにとらえる。そしてその枠がいくつあるかで人数を数えるのだ。
「こっちの陣営が千二百。敵方が千五百ほどか。敵は横槍が入って混乱しているけど、すぐに収まりそうだな」
ケネスの眉が釣りあがる。こいつ表情に出過ぎだな。
「おい、どうなんだ?」「ああ、大体の頭数はあってる」
周囲の兵のざわめきが聞こえてくる。ケネスはさっきまでの表情を改めて俺に問いかけてきた。
「ふむ、じゃあこのまま行ったらどうなる?」
「戦いは数だよ。数が多い方が勝つ」
その一言に周囲からの目線がきつくなる。そりゃそうか。味方の負けを予言したわけだからな。
というあたりで戦況が大きく動いた。敵は中央に予備兵を投入し、一気に突破を図っているようだ。
一直線だった味方の陣形は中央部が押され、くの字を描いたように変形している。戦線自体もじりじりと押し込まれていた。
「……まずいな」
「のんきに言ってる場合か。そこまでわかるなら何か手は打てないか?」
「指示を受けているのではないのか?」
などと考えつつも俺は周囲を見渡した。お、あれだ。
まばらに生えた木に軍馬が繋がれている。
「馬はどれくらいいる?」
「三十頭ほどだ」
「うち騎兵はどれだけだ?」
「後で隊長に報告だな……」
渋面を作ったケネスは馬を集結させ、騎兵を編成した。
集めてもらった馬を確認する。うっわ鐙もないのかよ。こりゃ長くは乗れないな。
「まあ、あれだ。隊長から指示は受けていたんだがな。俺の判断で突っ込めと言われて……」
「判断がつかんかったと?」
ケネスが無表情でうなずく。
「じゃあ俺の合図で突撃してくれ」
「……承知した」
「敵は討たなくていい。蹴散らすだけだ」
ケネスは驚いた表情で俺を見ている。
「だが敵を討ち取らなければ……」
「敵を殺せば確かに勝ちだがね。このままじゃ味方は崩れるぞ? まず敵の足を止める」
「お、おう」
「そうしたら、隊長が反撃してくれるさ。この位置取りで敵に奇襲かける人だからな。さらにこっちに予備兵を残しておいたのは二つ意味がある」
ケネスたちは固唾をのんで俺の言葉を待っている。
「奇襲で敵にとどめを刺すか、逃げる時の捨て石さ」
俺の言葉に何となく理由を理解していた兵がいるんだろう。表情は硬い。
「で、さ。負け戦は面白くないじゃない。どうせなら勝たなきゃな」
「……だから突撃か」
「そう」
俺は愛刀をすらっと抜いた。日の光を弾いて反射光で虹色に輝く。
そして軽く素振りをすると兵の目線が俺に向いていることを感じた。
「じゃあ、行こうか。敵の後ろ備えを叩く」
俺が切っ先を向けたのは敵勢の予備兵力になっているひとかたまり。
そして俺は気負うことなく、いつも通りに声を発した。
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