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第8話 小さなことから
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「ニャッ!」
ふいにシーマが鋭い声を上げ、目にも止まらぬ速さで矢を放った。
矢は一直線に飛び、一羽の鳥を射抜く。
「にゅふー。この鳥、丸焼きにしたらおいしいのニャ」
俺も見つけた獲物に矢を放つ。その矢はでっかいイノシシの尻に突き刺さった。
「あー、どーすんのニャ?」
「こうする」
怒りに任せて突っ込んで来たイノシシをぎりぎりで避け、そのまま首を斬り飛ばす。
うん、やはり体の切れとか斬撃の精度が上がってる。これはやはり剣術スキルというやつの効果なのだろう。
「ほえー、デタラメだにゃ」
「俺もそう思う」
「普通の剣術スキルって、基本ができてる剣士がいっちょ前くらいの腕前に上がるくらいニャ。アルは元々の腕が相当だったんだろーニャー」
俺以上の使い手はまだまだいたとは思うが、確かに上位には食い込んでいたと思う。ただ、今の腕前ならば、師匠にも食い下がれそうだな。
とりあえず血抜きをして軽くしたイノシシを引きずり、帰り道でシーマがまた何羽か鳥を射落とした。
キャンプに戻ると、その獲物の数にみんな歓声を上げていた。
「シーマ、どうだった?」
若いイヌ耳の女性がシーマに興味津々で聞いてくる。
「にゅふふー。耳をモフってもらえたのにゃ」
すんごいドヤ顔で宣言すると、女性たちの間からキャーだと、いいなーだのいろんな声が上がる。頬を赤く染めている女性も多かった。
「……隊長。ありがとうございます」
「……まさかとは思うけど」
「ええ、耳を触るという行為は獣人族の間では「夫婦」とか親子でしかされません。それ以外でやると殺し合いになることもあります」
「やっちまったああああああああああああああああ!?」
「期待通りです!」
こっちもドヤ顔でアントニオがサムズアップしてくる。もはやなし崩しでシーマは俺の嫁になった扱いだった。
「にゅふー。これからもよろしくニャ、旦那」
名前呼びから旦那呼ばわりになった。この一言にキャンプの住民たちからもどよめきが上がる。女性陣は頬を紅潮させ、興味津々といった風情だ。
「無理してないか?」
「ニャンで? 旦那は強いニャ。強いならたくさんの獲物が獲れるニャ」
「そういう基準?」
「他に何が要るのニャ? 強くないと家族を守れないニャ」
どうもそういうことらしい。オーガを叩き切った武勇、それが彼らを従える条件になったわけだ。
シーマは彼ら獣人族の中で一番の弓の使い手らしい。ただ、狩猟生活には限界があり、傭兵として身を立てていたそうだ。
その日の夜は宴会だった。帝国は人間至上主義であり、獣人たちは一つ下の扱いである。帝都に近いほどその差別意識は強くなる。
ここは辺境だからか、そこまでの差別は無いようだがそれでも大きな町には近寄ろうとはしないそうだ。
焚火の周りで踊る者、肉を食って酒をかっくらいぶっ倒れるもの。共通していたのは、みんな笑顔だった。
ボケーっとそれを眺めていると、シーマがやってきた。
「旦那、何してるニャ?」
「ああ、みんなを見てた」
俺の目線の先には、力比べをしてダブルノックアウトしてぶっ倒れているケネスと、熊っぽい獣人だ。
「あちゃー、何やってんだニャ」
「楽しそうじゃないか」
「まあ、ニャ。あ、そうだ」
「どうした?」
「ニャーは子供は3人くらいほしいのニャ」
「……え?」
「大丈夫。一族の子供の世話もしてたからニャ」
「いやそういうことじゃなくて」
「にゅふふー。いい感じでみんな酔っぱらってるニャ」
「アア、ソウダネ」
そうしてシーマは獲物を見るような目つきで俺を見上げてくる。いつの間にか腕にしがみつかれ、ふにょんとした感触が伝わってきた時……俺は全力で逃げた。
猫は逃げるものを見ると本能的に追いかけるという。キラーンと目を輝かせ、しなやかな動きで俺に迫ってくる。
「待つニャ!」
「待たねえ!」
「おとなしくニャーと子作りするニャ!」
「いや、待ってくれ」
「待たないニャ。だいじょうぶ、痛くしないからニャ」
「そういう問題じゃねえええええ!」
その騒ぎを見て傭兵団の皆が起き出し、ゲラゲラ笑いだす。
「隊長のヘタレ―」「男なら責任取りなさい!」「爆発しろ―」
もう好き放題言われている。おっかけっこ自体はともかく、シーマも本気ではないのだろう。なぜなら弓を持ち出していない。
「にゅふふふふふ」
そう思っていたのが油断だった。誰かが立てかけておいた弓と矢筒を手に取り、軽く引く。それだけで弓の癖を見抜いたのだろう。
「ニャッハー!!」
俺にあてようとはしていない、ただ俺が踏み込もうとする一歩先を射貫いて俺の足を止めてゆく。
「どんな腕前だよ!?」
「ニャハハハハハハハハ!!」
高笑いしながら矢を乱射するが、恐ろしいことに流れ矢は一つもなかった。走り、飛んだり跳ねたりしながら、俺の動きを制限するように矢を打ち込んでくる。
「っていうか、シーマの矢をあれだけ避けながら距離を詰めさせない旦那はどんだけ……」
「いや、シーマのあの弓の腕もとんでもない。うちの隊長をあんだけ追いつめるとか……」
ケネスとクマの獣人がなぜか意気投合している。
そしてついに俺は壁際に追い詰められた。
「にゅふふふふふふ」
シーマの笑みが怖い。まさに獲物を前に品なめずりする猛獣だ。
そして、俺にしなだれかかってきた。同時に寝息が聞こえてくる。
「あー、旦那さん。シーマが酔っ払ってとんだ粗相を……」
「え? 酔っぱらってたの?」
彼に頼まれ、俺はシーマを抱えて彼女に割り当てた寝床に放り込む。そうして俺は元々の自室へ帰り眠りにつくのだった。
今日の出来事は、大きな視点から見れば小さなことだろう。けど、俺たちの傭兵団と獣人族の皆が同じ方向を向いて歩きだした記念すべき日になるんだろう。そう思った。
ふいにシーマが鋭い声を上げ、目にも止まらぬ速さで矢を放った。
矢は一直線に飛び、一羽の鳥を射抜く。
「にゅふー。この鳥、丸焼きにしたらおいしいのニャ」
俺も見つけた獲物に矢を放つ。その矢はでっかいイノシシの尻に突き刺さった。
「あー、どーすんのニャ?」
「こうする」
怒りに任せて突っ込んで来たイノシシをぎりぎりで避け、そのまま首を斬り飛ばす。
うん、やはり体の切れとか斬撃の精度が上がってる。これはやはり剣術スキルというやつの効果なのだろう。
「ほえー、デタラメだにゃ」
「俺もそう思う」
「普通の剣術スキルって、基本ができてる剣士がいっちょ前くらいの腕前に上がるくらいニャ。アルは元々の腕が相当だったんだろーニャー」
俺以上の使い手はまだまだいたとは思うが、確かに上位には食い込んでいたと思う。ただ、今の腕前ならば、師匠にも食い下がれそうだな。
とりあえず血抜きをして軽くしたイノシシを引きずり、帰り道でシーマがまた何羽か鳥を射落とした。
キャンプに戻ると、その獲物の数にみんな歓声を上げていた。
「シーマ、どうだった?」
若いイヌ耳の女性がシーマに興味津々で聞いてくる。
「にゅふふー。耳をモフってもらえたのにゃ」
すんごいドヤ顔で宣言すると、女性たちの間からキャーだと、いいなーだのいろんな声が上がる。頬を赤く染めている女性も多かった。
「……隊長。ありがとうございます」
「……まさかとは思うけど」
「ええ、耳を触るという行為は獣人族の間では「夫婦」とか親子でしかされません。それ以外でやると殺し合いになることもあります」
「やっちまったああああああああああああああああ!?」
「期待通りです!」
こっちもドヤ顔でアントニオがサムズアップしてくる。もはやなし崩しでシーマは俺の嫁になった扱いだった。
「にゅふー。これからもよろしくニャ、旦那」
名前呼びから旦那呼ばわりになった。この一言にキャンプの住民たちからもどよめきが上がる。女性陣は頬を紅潮させ、興味津々といった風情だ。
「無理してないか?」
「ニャンで? 旦那は強いニャ。強いならたくさんの獲物が獲れるニャ」
「そういう基準?」
「他に何が要るのニャ? 強くないと家族を守れないニャ」
どうもそういうことらしい。オーガを叩き切った武勇、それが彼らを従える条件になったわけだ。
シーマは彼ら獣人族の中で一番の弓の使い手らしい。ただ、狩猟生活には限界があり、傭兵として身を立てていたそうだ。
その日の夜は宴会だった。帝国は人間至上主義であり、獣人たちは一つ下の扱いである。帝都に近いほどその差別意識は強くなる。
ここは辺境だからか、そこまでの差別は無いようだがそれでも大きな町には近寄ろうとはしないそうだ。
焚火の周りで踊る者、肉を食って酒をかっくらいぶっ倒れるもの。共通していたのは、みんな笑顔だった。
ボケーっとそれを眺めていると、シーマがやってきた。
「旦那、何してるニャ?」
「ああ、みんなを見てた」
俺の目線の先には、力比べをしてダブルノックアウトしてぶっ倒れているケネスと、熊っぽい獣人だ。
「あちゃー、何やってんだニャ」
「楽しそうじゃないか」
「まあ、ニャ。あ、そうだ」
「どうした?」
「ニャーは子供は3人くらいほしいのニャ」
「……え?」
「大丈夫。一族の子供の世話もしてたからニャ」
「いやそういうことじゃなくて」
「にゅふふー。いい感じでみんな酔っぱらってるニャ」
「アア、ソウダネ」
そうしてシーマは獲物を見るような目つきで俺を見上げてくる。いつの間にか腕にしがみつかれ、ふにょんとした感触が伝わってきた時……俺は全力で逃げた。
猫は逃げるものを見ると本能的に追いかけるという。キラーンと目を輝かせ、しなやかな動きで俺に迫ってくる。
「待つニャ!」
「待たねえ!」
「おとなしくニャーと子作りするニャ!」
「いや、待ってくれ」
「待たないニャ。だいじょうぶ、痛くしないからニャ」
「そういう問題じゃねえええええ!」
その騒ぎを見て傭兵団の皆が起き出し、ゲラゲラ笑いだす。
「隊長のヘタレ―」「男なら責任取りなさい!」「爆発しろ―」
もう好き放題言われている。おっかけっこ自体はともかく、シーマも本気ではないのだろう。なぜなら弓を持ち出していない。
「にゅふふふふふ」
そう思っていたのが油断だった。誰かが立てかけておいた弓と矢筒を手に取り、軽く引く。それだけで弓の癖を見抜いたのだろう。
「ニャッハー!!」
俺にあてようとはしていない、ただ俺が踏み込もうとする一歩先を射貫いて俺の足を止めてゆく。
「どんな腕前だよ!?」
「ニャハハハハハハハハ!!」
高笑いしながら矢を乱射するが、恐ろしいことに流れ矢は一つもなかった。走り、飛んだり跳ねたりしながら、俺の動きを制限するように矢を打ち込んでくる。
「っていうか、シーマの矢をあれだけ避けながら距離を詰めさせない旦那はどんだけ……」
「いや、シーマのあの弓の腕もとんでもない。うちの隊長をあんだけ追いつめるとか……」
ケネスとクマの獣人がなぜか意気投合している。
そしてついに俺は壁際に追い詰められた。
「にゅふふふふふふ」
シーマの笑みが怖い。まさに獲物を前に品なめずりする猛獣だ。
そして、俺にしなだれかかってきた。同時に寝息が聞こえてくる。
「あー、旦那さん。シーマが酔っ払ってとんだ粗相を……」
「え? 酔っぱらってたの?」
彼に頼まれ、俺はシーマを抱えて彼女に割り当てた寝床に放り込む。そうして俺は元々の自室へ帰り眠りにつくのだった。
今日の出来事は、大きな視点から見れば小さなことだろう。けど、俺たちの傭兵団と獣人族の皆が同じ方向を向いて歩きだした記念すべき日になるんだろう。そう思った。
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