異世界転移したら傭兵団を率いることになりました

響 恭也

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紡がれた絆

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「一応聞いておきたいんだが……何が望みだ?」

 頭痛をこらえつつ聞いてみた。答えはまともなものを期待していなかったが……。

「もちろん、我らの主となっていただく」

「我ら?」

「わたくしの夫となって面倒ごとすべて肩代わりしてくださいね?」

「公爵の位はあきらめましょう。ただし、私のすることを変に止めないでいただきたいのです」

 位をあきらめるっていうのは、おそらく意味が違うんだろうな。

「一応確認だ。位をあきらめるってのは?」

「無論、仕方ないので引き受けるって意味ですよ」

「ああ……」

 普通は誰もがうらやむ大貴族の地位。それを邪魔もののように扱うあたり相当だが、王様とか貴族とかは多大な権利と同じ重さの義務を負う。それを理解せずにその地位にいることは本来許されない。

 許されないからと言って権利ごと投げ捨てるのはある意味道理にかなっており、そして常識外れだ。



「大貴族の当主とかね、あんなもんは牢獄ですよ」

 曰く、好きな時に寝て起きることすら許されない。食べたいものも食べられないうえに、毒見が終わってからなので冷め切っている。

「はっきり言えば、椅子に座ってるのが仕事なんですよね。家臣たちが全部取り仕切ります。伝統ある公爵家だけあって無能な者はいませんし」

「ふむ、安泰な立場に思えるけどな?」

「たしかにね。ただ、国が揺れている状況ではそうもいっていられません。それにね、自分にやらせろとかやりたいって言っているような輩には絶対に任せられないのですよ」

「私利私欲、それとも功名にはやるか?」

「おっしゃる通り。本当は全部家臣に丸投げして食っちゃ寝していたいんですけどね」

「その丸投げ対象に俺が含まれるということについて非常に問い詰めたい気分なんだがな」

「気にしたらだめです」

 一言でバッサリと切り捨てられ、俺は頭を抱えた。

 そうしていると上着の裾をクイッと引っ張られる。

 振り向くとにへらとした笑みを浮かべるフレデリカ皇女がいた。



「んふー」

 なんだその緩み切った顔は。キリッとしてれば美少女なのにもったいない。

「よかったね」

「何がですか」

「こんな美少女を嫁にできるんだよ?」

「自分で言わないでいただきたい」

「ふっふっふ、わたしが美少女なのは厳然たる事実!」

「素が出てますよ?」

「旦那の前でくらい素顔でいたいんです」

「うん、普通に聞いたらゲロ甘いんですが、ただのグータラ発言ですよねそれ」

 俺の言葉にフレデリカがふんぞり返った。胸部装甲がプルンと揺れたのは……見ないようにしたかったが思い切り目に入った。

「美少女はそこにいるだけで価値があるんです!」

 思い切りダメな発言をドヤ顔で言い放った。

「それ、兵たちの前で言えますか?」

「んー……煽っていいなら?」

「お願いするかもしれません」

「ふふ、お任せあれ」

 そう言って笑う姿はまさしくお姫様だった。普段からこうだったらいいのにな。

「何を言っているんですか!」

「は? え?」

「猫を被り続けることがわたしの胃にどれだけのストレスを与えていることか! あなたにわかりますか?」

「ちょ、なにを?」

 そのあともマシンガンのように言葉をたたきつけられる俺。ブラウンシュヴァイク公は……なにそのジェスチャー。物理的に口をふさげと? そんなことしたら既成事実が出来上がっちゃうじゃないですか。



「さて、話が横道にそれたが、まとめようか」

 思い切りそらした人がシレっと言い放った。さすが大貴族、面の皮はドラゴン並みだな。

「鉄面皮を超える龍面皮か。悪くない……ククク」

 だからあんたら人の思考を読み取るのやめてくれませんかねえ?

「だってしょうがないじゃない。あなた思い切り顔に出てるし」

「ふぁっ!?」

 ペタペタと顔を撫でまわすが自分ではわからない。

「実にわかりやすい表情ですよねえ。いやあ、腹芸ばっかやってると、こういう人を見ると安心しますねえ」

「うんうん、わかる! かわいいわよねえ」

 かわいいとか言われて顔に血が上る。

「あらー、真っ赤になってる。……意外にうぶなのね」

「それ、皇女殿下の言っていいセリフじゃない気が」

「ふふ、今は身内しかいないじゃない」

「ってまた話が横道にそれていますねえ!」

「ああ、そうそう。まず当家の立ち位置ですが、皇女殿下の指揮下に入ります。同時に支持を表明します」

「ありがとう。ブラウンシュヴァイク公。貴公の忠節、このフレデリカが必ずや皇帝陛下にお伝えします」

「はっ、ありがたき幸せ」

「うん、あなたら二人でもう完結してるよね? 俺いらないよね?」

「「何を言いますか!」」

 同時に言い放った。息ぴったりだな。

「最初に言ったでしょう。あなたに皇女を押し付けないと、私にお鉢が回ってくるのですよ! 公爵ですら窮屈なのに、皇帝とか考えたくもない!」

「女帝は前例がないのでめんどくさいんですよ。あの阿呆な兄上たちに任せるわけにはいきませんし、いっそあなたがなってくれた方がいいんです!」

「というか、美少女の嫁と皇帝の座、何が不満なんですかねえ?」

「そうですよ? わたしのどこが不満なんです!」

 両サイドから詰め寄ってくる皇女と公爵。国の上から数えた方が圧倒的に速い二人に詰め寄られている、ただの傭兵隊長ってどこにいるんだろうなと益体もないことを考えた。



 そして翌日、ブラウンシュヴァイク公の名前で声明が出された。

 ブラウンシュヴァイク公爵家はフレデリカ皇女を支持すること。皇女の麾下に入ること。

 そしてここからがある意味本番だ。ブラウンシュヴァイク公の配下であった傭兵隊長が、皇女の危機を救ったこと。その功績を賞し、皇女みずからの名前で親衛隊長に抜擢するとの宣言がなされた。



 この声明の意味は色々とあるが、無位無官の身でも功績次第で取り立てられることのアピールが大きい。

 公爵家領都ブラウンシュヴァイクには、日を追って人が集まってくるのだった。
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