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集いしもの達
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「祖国の危機によくぞ集まってくれた!」
ブラウンシュヴァイク公が声を張り上げた。あの密談から早ひと月、傭兵や騎士をはじめとして所領を持たない貴族なんかが集まってきている。
帝都周辺の情勢は小競り合いが発生しているが大きな変化はない。帝都は包囲され、物資の欠乏は日を追って悪化している。
真っ先に割を食うのが立場の弱いものというのも変わらない。そういう意味では義憤を感じなくもない。
俺は眼前に広がる光景を半ば現実逃避しながら眺めていた。眼下にいる兵力は少なく見積もっても10,000近い。ブラウンシュヴァイク公はここぞとばかりにため込んだ財貨を吐き出し、王都から引き返してきた商人たちから物資を買い上げた。
ついでに、俺の右手前方には騎士服に身を包んだフレデリカ皇女がいる。本来ならドレスとかで着飾るのだろうが、彼女はこの軍の旗頭だ。実際問題として、本拠たる領都で留守番をしていても実は全く問題ない。ただ、寄せ集めの軍ゆえに士気の維持は死活問題だ。同様の問題は帝都を包囲する皇女の兄上の軍にも言えるのだが、近隣の村とかを略奪して気晴らしをしているらしい。あ、いかん、だんだん腹が立ってきた。
「落ち着いて、貴方が逸っては麾下の兵を危険にさらすことになります」
「わかってはいるんですけどね。どうしても……ああ、いかんなあ」
「ふふ、その義憤。わたくしにはとても好ましく思いますよ」
ブラウンシュヴァイク公の演説は続く。今は盛大に褒美について語っているようだった。兵たちのテンション向上は半端ない。
「我らは正義の軍である。見よ! 皇帝陛下の御意はフレデリカ皇女にある!」
兵たちからは見えないことをいいことにでっち上げた勅書をかざす。そうそう、念のためシーマを演台の背後のやぐらに配置した。こういう場面での暗殺手段はまず間違いなく狙撃だろうからな。
被害者になったことがある俺が言うのだから間違いない。
「「「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
勅書がある、すなわち錦の御旗だ。逆賊を討てとか大騒ぎしている。
気楽なもんだ、と内心ぼやいていると、フレデリカ皇女が俺を見てニタリと嗤った。にっこり微笑んだのではない。あれは獲物を前にした捕食者の表情だ。
「皆さんの忠義、このフレデリカがすべて見届けます」
いつの間にか終わっていたブラウンシュヴァイク公の演説の後、自然に立ち位置を入れ替えていた。静かな口調だが不思議と声はいきわたっている……魔道具か。よく見ると騎士服の襟元に風の属性を持った宝石があしらわれたブローチがついている。
「わが父、皇帝陛下はいま、逆賊の軍に包囲されています。事ここに至って肉親の情など不要! 私を滅して国のために立ちましょう!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
「もちろん、よい働きをしたものには相応の報いを。わたくしを命がけで守ってくれたこの方には、その場で騎士とさせていただきました」
うん、兵士から騎士。あこがれるよね。少なくともそういうわかりやすいサクセスストーリーを夢見て田舎の農家の三男坊とかが兵になる。半数くらいは初陣で命を落とし、1年生き延びることができたら晴れてベテランだ。
「逆賊たちには死の報いを。そして、功績を上げた皆さんには相応の地位を!」
うん、最高潮の雄たけびが聞こえてくる。ところで、この演台の上で唯一俺だけが武装している。護衛の兵は除いてだが。理由はいろいろだ。王女の信頼を示すとか、もう一つは当然だが……これだ。
「ハアッ!」
時間差をつけて射込まれた矢を斬りはらう。同時にフレデリカ皇女が呪文を唱えた。
「光よ! 集いて防壁となれ! プロテクション!」
彼女の唱えた魔法は初級の防御魔法だ。ただ、規模が違う。本来ならば個人を対象とする範囲が、演台にいた護衛の兵を含む、100名を超える人間を覆ったのだ。
そして再び矢が射こまれるが、障壁に当たってはじき返される。そして、シーマが矢を放ち、狙撃手はすべて撃ち落された。
「ふう……ありがとうございます」
「最初から障壁張ってれば済む話だったんじゃ?」
「そんなことしたら、あなたの見せ場がないじゃないですか」
「そんなもん要りません」
「うふふ、そうですね、本番はこれからですし」
再び皇女が嗤った。眼前の兵たちから見えない角度でがすっと当身を食らう。
「ぐふっ!?」
「大丈夫ですか? アル様!」
油断しているところを殴られ、体がくの字になる。
「ああ、またわたくしを身をもって守ってくださいましたね。ありがとうございます」
顔面を何やら柔らかいものでふさがれる。うん、いいものだ。
同時に口を開けないようにふさぐ意味もあるんだろう。って言うか息ができない。視界は奪われているが怨嗟の視線だけはもうビンビンに感じる。
ただ、同時に彼らは思っただろう、皇女はお嬢様育ちでちょろいと。いいところを見せれば自分に惚れてもらえると。
「女神よ、慈悲を賜り給え。汝が愛しき御子に癒しを与えたまえ……ヒール!」
腹部の痛みが引いていく。回復魔法も使えるとは聞いていたが……。
「皆さん。わたくしは皆さんが傷つくことを望みません。戦であることは理解しておりますが、それでもこの戦いが終わった後、一人もかけることなく再びご挨拶ができること、それがわたくしの望みです」
お花畑発言してんじゃねえと思うが、ぱっと見絶世の美少女に涙目で懇願されれば……悲しいかな、野郎の本能は沸点を超過する。
笑顔で手を振るフレデリカ皇女に俺はいろんな意味で恐れを抱くのだった。
ブラウンシュヴァイク公が声を張り上げた。あの密談から早ひと月、傭兵や騎士をはじめとして所領を持たない貴族なんかが集まってきている。
帝都周辺の情勢は小競り合いが発生しているが大きな変化はない。帝都は包囲され、物資の欠乏は日を追って悪化している。
真っ先に割を食うのが立場の弱いものというのも変わらない。そういう意味では義憤を感じなくもない。
俺は眼前に広がる光景を半ば現実逃避しながら眺めていた。眼下にいる兵力は少なく見積もっても10,000近い。ブラウンシュヴァイク公はここぞとばかりにため込んだ財貨を吐き出し、王都から引き返してきた商人たちから物資を買い上げた。
ついでに、俺の右手前方には騎士服に身を包んだフレデリカ皇女がいる。本来ならドレスとかで着飾るのだろうが、彼女はこの軍の旗頭だ。実際問題として、本拠たる領都で留守番をしていても実は全く問題ない。ただ、寄せ集めの軍ゆえに士気の維持は死活問題だ。同様の問題は帝都を包囲する皇女の兄上の軍にも言えるのだが、近隣の村とかを略奪して気晴らしをしているらしい。あ、いかん、だんだん腹が立ってきた。
「落ち着いて、貴方が逸っては麾下の兵を危険にさらすことになります」
「わかってはいるんですけどね。どうしても……ああ、いかんなあ」
「ふふ、その義憤。わたくしにはとても好ましく思いますよ」
ブラウンシュヴァイク公の演説は続く。今は盛大に褒美について語っているようだった。兵たちのテンション向上は半端ない。
「我らは正義の軍である。見よ! 皇帝陛下の御意はフレデリカ皇女にある!」
兵たちからは見えないことをいいことにでっち上げた勅書をかざす。そうそう、念のためシーマを演台の背後のやぐらに配置した。こういう場面での暗殺手段はまず間違いなく狙撃だろうからな。
被害者になったことがある俺が言うのだから間違いない。
「「「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
勅書がある、すなわち錦の御旗だ。逆賊を討てとか大騒ぎしている。
気楽なもんだ、と内心ぼやいていると、フレデリカ皇女が俺を見てニタリと嗤った。にっこり微笑んだのではない。あれは獲物を前にした捕食者の表情だ。
「皆さんの忠義、このフレデリカがすべて見届けます」
いつの間にか終わっていたブラウンシュヴァイク公の演説の後、自然に立ち位置を入れ替えていた。静かな口調だが不思議と声はいきわたっている……魔道具か。よく見ると騎士服の襟元に風の属性を持った宝石があしらわれたブローチがついている。
「わが父、皇帝陛下はいま、逆賊の軍に包囲されています。事ここに至って肉親の情など不要! 私を滅して国のために立ちましょう!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
「もちろん、よい働きをしたものには相応の報いを。わたくしを命がけで守ってくれたこの方には、その場で騎士とさせていただきました」
うん、兵士から騎士。あこがれるよね。少なくともそういうわかりやすいサクセスストーリーを夢見て田舎の農家の三男坊とかが兵になる。半数くらいは初陣で命を落とし、1年生き延びることができたら晴れてベテランだ。
「逆賊たちには死の報いを。そして、功績を上げた皆さんには相応の地位を!」
うん、最高潮の雄たけびが聞こえてくる。ところで、この演台の上で唯一俺だけが武装している。護衛の兵は除いてだが。理由はいろいろだ。王女の信頼を示すとか、もう一つは当然だが……これだ。
「ハアッ!」
時間差をつけて射込まれた矢を斬りはらう。同時にフレデリカ皇女が呪文を唱えた。
「光よ! 集いて防壁となれ! プロテクション!」
彼女の唱えた魔法は初級の防御魔法だ。ただ、規模が違う。本来ならば個人を対象とする範囲が、演台にいた護衛の兵を含む、100名を超える人間を覆ったのだ。
そして再び矢が射こまれるが、障壁に当たってはじき返される。そして、シーマが矢を放ち、狙撃手はすべて撃ち落された。
「ふう……ありがとうございます」
「最初から障壁張ってれば済む話だったんじゃ?」
「そんなことしたら、あなたの見せ場がないじゃないですか」
「そんなもん要りません」
「うふふ、そうですね、本番はこれからですし」
再び皇女が嗤った。眼前の兵たちから見えない角度でがすっと当身を食らう。
「ぐふっ!?」
「大丈夫ですか? アル様!」
油断しているところを殴られ、体がくの字になる。
「ああ、またわたくしを身をもって守ってくださいましたね。ありがとうございます」
顔面を何やら柔らかいものでふさがれる。うん、いいものだ。
同時に口を開けないようにふさぐ意味もあるんだろう。って言うか息ができない。視界は奪われているが怨嗟の視線だけはもうビンビンに感じる。
ただ、同時に彼らは思っただろう、皇女はお嬢様育ちでちょろいと。いいところを見せれば自分に惚れてもらえると。
「女神よ、慈悲を賜り給え。汝が愛しき御子に癒しを与えたまえ……ヒール!」
腹部の痛みが引いていく。回復魔法も使えるとは聞いていたが……。
「皆さん。わたくしは皆さんが傷つくことを望みません。戦であることは理解しておりますが、それでもこの戦いが終わった後、一人もかけることなく再びご挨拶ができること、それがわたくしの望みです」
お花畑発言してんじゃねえと思うが、ぱっと見絶世の美少女に涙目で懇願されれば……悲しいかな、野郎の本能は沸点を超過する。
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