あれおかしいな?こんなはずじゃなかった!?

響 恭也

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伝説の戦士

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 プロバンス伯から、不可侵条約の打診があった。レイルの勢力は急速に広がっていること。また、レイル自身に統治者としての経験が不足しており、なによりも無名であること。地盤固めの時間が必要である。いろいろな理由もあって、非常に都合のいい申し出に見えた。そう、都合がよすぎるのだ。
「何が目的ですかね?」
「わからぬ。リン殿の配下が今情報を集めておる。わからぬことを推測しても仕方あるまい」
「そうですね。まずは足元を固めないと…」
「うむ、まずは降ってきた2か村の処遇を決めねばな」
「まあ、とりあえず現状維持ですね。ただ、プロバンスとの前線に近い地域になるので防備は必要です」
「ふむ、配置する部隊を考えねばならんな」
「ですね。いろいろと問題はありますが、まず人が足りません」
「うーん、新興勢力のつらいところだのう」
「見どころのある傭兵隊をそのまま当家の常備兵として雇い入れることと、ひとまず教育を受けている層から登用して文官を増やすこと。そもそも徴税すらままなりませんしね。このままじゃ」
「村長を介しての間接統治だと効率が良くない。可能な限り権力を集約せねば・・・か」
「ええ、ただ、それをやるには私が村長を超えるほどの信望がないと…」
「ふむ、武名は上がっているが、それ以外の部分で実績が不足しているか」
「まあ、話が最初に戻りますが、なんか大きな事件を解決するとか実績がないと…ですね」
「ふむ、まああれだ」
「なんです?」
「うん、レイル殿にはまず威厳が足りない」
「うーん・・・そういわれましても」
「まず、私相手であっても敬語を使うでない」
「いやそんな、スカサハさんはほら、賢者としての名声があるじゃないですか」
「虚名だがな。逆に、そういう名声がすでにある私が従う。ほら、なんかレイル殿がすごい人間に見える」
「まあ、そういう要素もわからなくはないですよ?」
「そうだな、それがいい」
「要するに、執務室から出たら、スカサハさんは私の部下という扱いで?」
「うん、なんなら妻でもよいぞ?」
「その冗談はもういいです」
「冗談でこんなことを言うように見えるのか?」
「はい」
「…ひどい」

 レイルはマッセナを護衛に新たに支配下にはいった村の巡察に向かった。村長の態度も面従腹背といった様子ではなく、ラングを討ったレイルに従ってくれているようだ。何しろ孫娘と引き合わされた。さすがに10歳の子供を連れ帰るほどレイルの面の皮は厚くなかった。そもそも連れ帰ったらスカサハがどのような態度をとるか分かった者ではない。幸いにして少女はレイルをお兄ちゃんと認識しなついてくれたが、それ以上に発展することはなさそうだった。ただひたすらマッセナがにやにやしていたのだけが気になったが。
 残り2か村についても、ひとまず不可侵の盟約は結んだ。敵でも味方でもないという中立を約しただけだが、現状は敵対していないというだけでも意味はある。プロバンスとのやり取りによっては味方にも敵にもなりうる状況であったが…。
 後日、プロバンス伯ベルトランからの正式な使者が来訪した。なぜかレイルの片腕とされるマッセナ卿を同席させるようにとの要望があり、レイルの後ろに控えている。参謀としてスカサハもレイルの隣に控えている。
「プロバンス伯の使者ラモンと申します。レイル卿にはお初にお目にかかります」
「丁寧なあいさつ痛み入る。レイルだ、以後良しなに」
「さて、ご挨拶も終わったところで、要件を述べさせていただきます」
「聞こう」
「プロバンスの英雄、マッセナ卿を騙る痴れ者をお引渡しいただきたい。それが適えば、不可侵条約を結ばせていただく」
「んあっ!?」
 レイルの横でマッセナが変な声を出す。
「どういうことですかな? 我が家臣を差し出せと?」
「はい、エレス王の御世。王の右腕とされたカイル候の陣中で常に先陣を賜った勇者の名を騙るなど不敬極まりない! 当家に対する侮辱です!」
「済まぬ、何が言いたいのかわからないのだが」
「当家の口伝に伝わるマッセナ卿のいでたちを真似、戦斧を振り回す兵のうわさ、届いております。しかもそこでマッセナ卿の名を名乗っていることも」
 使者ラモンの口上はそのまま過去の武勇伝を語り始め、自分のセリフに酔っているのかこちらを見もせずに目を閉じてしゃべりだす。
「マッセナ、どういうことだ?」
「いやー、儂にもさっぱり?」
「かの家はマッセナ卿の子孫と名乗っているらしい」
「へ? けど儂、娘一人しかいないし、カイル殿のところに嫁に出したけど、その後どうなったんだっけ?」
「カイル候と第二夫人メイ殿との間に息子が一人いたはずじゃの」
「そうなの?」
「ちょっと待て、なんで当事者がそれを知らん?!」
「やー、そもそもメイのやつ、最前線で斬り込み隊長やってたし。子供出来たらそれができなくなるって常々言ってたし」
「そうなのか。だが、世が平和になった後生まれた可能性は?」
「あーそれはあったかも知れませんが、少なくとも儂は知らないですな」
「ふむ・・・」
 とりあえず相談がまとまったあたりで、使者がこちらに告げてきた。
「引き渡していただけないならば、こちらから戦書を送ります。一戦して片をつけましょう」
「わかった。それで今後うちの家臣に口出ししないということであれば受けよう」
「くく、いい返事です。当家の武勇を思い知るがよいでしょう」
 不敵な笑みを浮かべて使者は退出していった。
「なんなんだ一体…」
「若、すいません。儂のために」
「まあ、マッセナにはとても世話になった。そんなお主を見捨てたら私はこれより誰にも顔向けできなくなる。ましてや父上にはな」
「レイル殿。わかっているのか。一人の家臣のために多くの兵と民を危険にさらしていることを」
「よくわかっていますよ。だけどね、今後同じようなことを言われて、例えばスカサハ殿を差し出せと言われて唯々諾々と受け入れることができません。部下一人を守れずして、もっと多くの民を守れません」
「レイル殿、そんなに私のことを…ぽっ」
「スカサハ殿、そこでぽっとか口に出して言うとか、貴女どんだけ残念なんですか」
「残念って言うな!?」
「まあ、あれだ、書面が来るまで軍備を整えましょう」
「数をそろえるために、シャイロック卿が考案した武器の生産を命じている」
「へえ、それはどんなものですか?」
「シャイロック卿は戦の時、荷駄隊を率いていた。敵兵の奇襲を受けたとき、味方は無傷で撃退した実績があるそうじゃ」
「それはすごい。自警団の編制も急がないとな」
 レイルたちは解散し、それぞれの仕事に戻っていった。
 1月後、プロバンス伯からの書面が届いた。期日に合わせてレイルは領内に動員令を出したのだった
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