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時を渡りしものと今を生きるもの
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プロバンス伯は降伏を受諾した。戦闘は直ちに停止され、レイル軍の勝鬨が戦場に響き渡る。伯は部下の統制をしっかりと取っており、無用な混乱は起きなかった。
「いやあ、レイル殿、お若いのに見事な手並み。このベルトラン感服した!」
「いや、プロバンス勢の武勇、お見事でした」
「それをコテンパンにしておいて何をおっしゃられるやら」
「実際、真正面から戦ったら負けたのは我らでしょう」
「確かにいろいろと手は打っていたようだが、それも含めて戦ですからの。相手の手に乗るほうが悪い」
「潔いですな」
「それだけが取り柄にござる」
「さて、戦場にて決すということですが、我らは貴公の同盟相手として不足ですかな?」
「不足ですな」
「なに?!」
「うむ、我らがレイル殿と対応であるのは不足。我を臣下としていただきたい」
「は…はい??」
「レイル殿、お受けなされませ」
「スカサハ、どういうことだ?」
(お、取り乱しても演技ができていますな、感心です)
(む、とっさに…)
「はい、レイル殿の悲願のため、この方は大きな味方となります」
「左様、さすが森の賢者殿だ。道理を分かっておられる」
「…一つ問いましょう。なぜ私に降る?」
「それは貴方様が我が主筋に当たるからです」
「なっ?」
「要するにですな、我がプロバンス家はトゥールーズの分家に当たり、マッセナ卿の血筋を引きます。さらに言えば、フリード王家の臣です」
「それと私に従うのと何の関係が?」
「フリード直系の剣を振るう。そして見事な軍の采配と、本物のマッセナ卿が付き従う。それ以上見極めが必要ですかな?」
「まいった。降参だ」
「ならばやはり?」
「そうだな、父の国が滅んで100年もたっているらしいが、私はフリード第一王子レイルだ」
「おお、おおおおおおお!」
「わわっ?!」
「当家に伝わる口伝を果たす時が来た。何たる名誉!」
「それはどのような?」
興奮気味にスカサハが食いつく。
「いつの日か正統の血を引くものが現れる。それを守り戦えと」
「なるほど。なんというか、都合がよすぎていろいろとあれだが、よろしく頼む」
「はは、我が全霊をもって!」
レイルの勢力は成り行きとはいえ一気に倍増した。プロバンス伯を同数の兵で破るものは今までいなかったとの評判の作用もありレイルの武名は大きく上がっている。プロバンス東部の小領主もこの戦いの帰趨と、ベルトラン卿の降伏によりレイルの配下に降った。マルク子爵家とバルデン子爵家。ともにエレス王の先陣を果たした名家である。バルデン家は領土を削られわずかな兵を残すのみとなっていたが、伝統の黒騎士団の末裔たる騎兵を守り抜いていた。少数精鋭の騎兵を維持するため、兵数自体も極めて少ない。だが、最精鋭の騎兵はレイル軍の切り札になる。マルク家の重装歩兵と、初代から口伝でのみ伝わる野戦築城術はスカサハの研究成果と合わせて限られた兵を最大限に生かす方法となりえた。
南に向かえば旧ウェストファリア王国の王都アヴィニヨン。古くから穀倉地帯として有名で、エレス王の遠征を支えた地域でもある。配備されている兵力は多く、3000以上となる。レイルの勢力は2郡を制圧し、動員可能な兵力は5000あまり。総動員の場合なので、遠征させるとすると半数がいいところだ。何より厄介な点は、アヴィニヨン城自体が難攻不落の要害であることか。まずは地盤固めが優先される。互いの国境に置いていた兵力の再配置と、集団戦の訓練。そして、兵站の構築により正面兵力の充実と機動力向上。
内政面でも手を入れる。エレス王のころに行われていた政策などはすべて廃止され、前時代的な統治がされている。王家から回ってくる方法を守ることを強制され、独自の政策などはすなわち反逆とみなされる。レイルの勢力はそんなことは一切構わず、効率化を図る政策を打ち出した。
スカサハの研究による農地改革。コメの栽培を始めた。単位面積当たりの収量は小麦をしのぐ。むろん単一の作物だけに頼れば、凶作や病害を受けたときの被害は大きくなる。リスク分散のため、主食となりうる策盛るの分散を図るわけだ。また、ノブナガ公の始めた料理改革も併せて実施する。海の幸はまだなかなか手に入らないが、少しでもうまいものを食べれば、明日への活力がわいてくる。この政策は非常な好意をもって住民や小領主たちに受け入れられた。
今までは領境をまたぐと税が発生していた。レイルの支配下の領内に限定された形だが、その通行税を一切廃止した。ただし、立ち寄った領内で、村や集落などに立ち寄ることを奨励し、野宿は治安維持と安全確保のためなるべく禁じた。行商人が増えると物流が盛んになる。貨幣の浸透と、余剰作物の流通による生産力の増大。特にティルナノグの産物はそれ以外に地方では大きな利益が出る。
通行税の廃止により、商人が殺到し、代金代わりに様々な物産が持ち込まれる。ティルナノグの薬草などが出回ったことで、人口も上向いているようだ。領主の補助で医療の拡充も始めた。薬師の育成などもその一環だ。また領主館に薬草に備蓄なども行う。
実際問題として、ラングはかなりあくどいことをやっており、ため込んだ財貨はかなりの量に及んでいた。それが今レイルのもとで民衆に還元されている。ある意味皮肉な結果である。
治安維持には最も力を入れた。わずかな財貨でも盗めば斬刑。殺人も斬刑。人を傷つけたものは追放。わかりやすく明確な法を厳格に適用した。特に盗賊などの駆逐も積極的に行ったことにより、領内は急速に安定してゆく。
同時進行でレイルたちは南下の準備を進める。だがここでしくじればここ迄の努力が水泡に帰す。領内の統合による経済圏の構築。生産高の向上による兵力の増強。限られた兵力を生かすための集団戦の訓練と、兵站システムの構築および街道整備による機動性の向上。そこまでで1年を要した。周辺状況は、住処を持たない民をリンがまとめ上げ、レイルの領内での保護を条件に一台諜報網を構築する。そしてそんな諜報網に引っかかった情報があった。オズワルド王国の正規軍が、レイルを討伐するための準備を進めている。同時に周辺の領にも動員令が出されている。北と南と東、3方向からの同時進行に対抗する必要があった。
風雲は急を告げ、領内にも緊張が走る。スカサハは普段通りレイルに迫り、レイルは逃走する。セタンタは槍を磨き、マッセナはレイルを見て肩をすくめる。そしてベルトランは兵の前で演説し、士気を高めた。レイルはスカサハにつかまり悲鳴を上げる。彼らは平常運転だった。
「いやあ、レイル殿、お若いのに見事な手並み。このベルトラン感服した!」
「いや、プロバンス勢の武勇、お見事でした」
「それをコテンパンにしておいて何をおっしゃられるやら」
「実際、真正面から戦ったら負けたのは我らでしょう」
「確かにいろいろと手は打っていたようだが、それも含めて戦ですからの。相手の手に乗るほうが悪い」
「潔いですな」
「それだけが取り柄にござる」
「さて、戦場にて決すということですが、我らは貴公の同盟相手として不足ですかな?」
「不足ですな」
「なに?!」
「うむ、我らがレイル殿と対応であるのは不足。我を臣下としていただきたい」
「は…はい??」
「レイル殿、お受けなされませ」
「スカサハ、どういうことだ?」
(お、取り乱しても演技ができていますな、感心です)
(む、とっさに…)
「はい、レイル殿の悲願のため、この方は大きな味方となります」
「左様、さすが森の賢者殿だ。道理を分かっておられる」
「…一つ問いましょう。なぜ私に降る?」
「それは貴方様が我が主筋に当たるからです」
「なっ?」
「要するにですな、我がプロバンス家はトゥールーズの分家に当たり、マッセナ卿の血筋を引きます。さらに言えば、フリード王家の臣です」
「それと私に従うのと何の関係が?」
「フリード直系の剣を振るう。そして見事な軍の采配と、本物のマッセナ卿が付き従う。それ以上見極めが必要ですかな?」
「まいった。降参だ」
「ならばやはり?」
「そうだな、父の国が滅んで100年もたっているらしいが、私はフリード第一王子レイルだ」
「おお、おおおおおおお!」
「わわっ?!」
「当家に伝わる口伝を果たす時が来た。何たる名誉!」
「それはどのような?」
興奮気味にスカサハが食いつく。
「いつの日か正統の血を引くものが現れる。それを守り戦えと」
「なるほど。なんというか、都合がよすぎていろいろとあれだが、よろしく頼む」
「はは、我が全霊をもって!」
レイルの勢力は成り行きとはいえ一気に倍増した。プロバンス伯を同数の兵で破るものは今までいなかったとの評判の作用もありレイルの武名は大きく上がっている。プロバンス東部の小領主もこの戦いの帰趨と、ベルトラン卿の降伏によりレイルの配下に降った。マルク子爵家とバルデン子爵家。ともにエレス王の先陣を果たした名家である。バルデン家は領土を削られわずかな兵を残すのみとなっていたが、伝統の黒騎士団の末裔たる騎兵を守り抜いていた。少数精鋭の騎兵を維持するため、兵数自体も極めて少ない。だが、最精鋭の騎兵はレイル軍の切り札になる。マルク家の重装歩兵と、初代から口伝でのみ伝わる野戦築城術はスカサハの研究成果と合わせて限られた兵を最大限に生かす方法となりえた。
南に向かえば旧ウェストファリア王国の王都アヴィニヨン。古くから穀倉地帯として有名で、エレス王の遠征を支えた地域でもある。配備されている兵力は多く、3000以上となる。レイルの勢力は2郡を制圧し、動員可能な兵力は5000あまり。総動員の場合なので、遠征させるとすると半数がいいところだ。何より厄介な点は、アヴィニヨン城自体が難攻不落の要害であることか。まずは地盤固めが優先される。互いの国境に置いていた兵力の再配置と、集団戦の訓練。そして、兵站の構築により正面兵力の充実と機動力向上。
内政面でも手を入れる。エレス王のころに行われていた政策などはすべて廃止され、前時代的な統治がされている。王家から回ってくる方法を守ることを強制され、独自の政策などはすなわち反逆とみなされる。レイルの勢力はそんなことは一切構わず、効率化を図る政策を打ち出した。
スカサハの研究による農地改革。コメの栽培を始めた。単位面積当たりの収量は小麦をしのぐ。むろん単一の作物だけに頼れば、凶作や病害を受けたときの被害は大きくなる。リスク分散のため、主食となりうる策盛るの分散を図るわけだ。また、ノブナガ公の始めた料理改革も併せて実施する。海の幸はまだなかなか手に入らないが、少しでもうまいものを食べれば、明日への活力がわいてくる。この政策は非常な好意をもって住民や小領主たちに受け入れられた。
今までは領境をまたぐと税が発生していた。レイルの支配下の領内に限定された形だが、その通行税を一切廃止した。ただし、立ち寄った領内で、村や集落などに立ち寄ることを奨励し、野宿は治安維持と安全確保のためなるべく禁じた。行商人が増えると物流が盛んになる。貨幣の浸透と、余剰作物の流通による生産力の増大。特にティルナノグの産物はそれ以外に地方では大きな利益が出る。
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実際問題として、ラングはかなりあくどいことをやっており、ため込んだ財貨はかなりの量に及んでいた。それが今レイルのもとで民衆に還元されている。ある意味皮肉な結果である。
治安維持には最も力を入れた。わずかな財貨でも盗めば斬刑。殺人も斬刑。人を傷つけたものは追放。わかりやすく明確な法を厳格に適用した。特に盗賊などの駆逐も積極的に行ったことにより、領内は急速に安定してゆく。
同時進行でレイルたちは南下の準備を進める。だがここでしくじればここ迄の努力が水泡に帰す。領内の統合による経済圏の構築。生産高の向上による兵力の増強。限られた兵力を生かすための集団戦の訓練と、兵站システムの構築および街道整備による機動性の向上。そこまでで1年を要した。周辺状況は、住処を持たない民をリンがまとめ上げ、レイルの領内での保護を条件に一台諜報網を構築する。そしてそんな諜報網に引っかかった情報があった。オズワルド王国の正規軍が、レイルを討伐するための準備を進めている。同時に周辺の領にも動員令が出されている。北と南と東、3方向からの同時進行に対抗する必要があった。
風雲は急を告げ、領内にも緊張が走る。スカサハは普段通りレイルに迫り、レイルは逃走する。セタンタは槍を磨き、マッセナはレイルを見て肩をすくめる。そしてベルトランは兵の前で演説し、士気を高めた。レイルはスカサハにつかまり悲鳴を上げる。彼らは平常運転だった。
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