あなたと生きたい。吾子

青葉めいこ

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9 とうとう彼に知られてしまった

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「ジョゼ! 無事でよかった!」

 レオンは私に近づくとタスクを抱き上げたまま固まっている私を抱きしめた。華奢な美少年だったレオンは、今はアンディやウジェーヌと同じ均整の取れた長身の美青年だ。小柄な私は、すっぱりと彼の胸に入ってしまった。

 私とレオンの間で押し潰されたタスクは、あからさまに不快げな声をあげた。

「離れろ。小僧」

 三歳児から「小僧」呼ばわりされたレオンは微妙な顔でタスクを見下ろした。

「――お前!? 祐!?」

 転生者であり「彼」を知っているレオンは、すぐに気づいた。

 その幼い体の中にいるのが「誰」か――。

「気安く呼ぶな。小僧。『祥子』とジョゼが名付けてくれた名前だ」

 先程以上の不快さがにじむ声であり表情だった。

「……祥子、その子は、君の子か?」

 ヴィクトル、いや、お父さんが強張った顔でタスクを凝視していた。

 私は無意識にタスクを抱きしめる腕に力を込めていた。

 ――とうとう彼に知られてしまった。

 私と同じ銅色の髪と赤紫の瞳。けれど、その顔は、ヴィクトルお父さんにそっくりだ。

 誰が見たって一目で親子だと分かるほどに――。

「……ええ。私の息子、タスクよ」

 腹の中で十月十日育て産んだ、私の息子タスク

 その以外の真実など私はらない――。

「……子か?」

 強張った顔のまま訊いてくるお父さんに、私は内心(相変わらずだな)と苦笑した。

 どれだけ聞きたくなくても、受け入れられなくても、真実から逃げようとしない、その高潔さ。

 だからこそ、前世の母も妹も私も、そんな彼を愛したのだ。

 けれど、今は、その高潔さが恨めしい。

 逃げてくれていいのだ。

 そんな子供は知らない、俺の子ではないと、責任放棄してくれて構わない。

 真実、「彼」には何の係わりもない子だ。

「彼」となる前の今生の人格ヴィクトルがした事だ。

 タスクは私だけの子だ。

「彼」には何の関係もない。

「――こいつが貴女をけがした男か」

 私がお父さんに答えるより早くレオンが地を這うような低い声で言った。

 質問は私にしているが、レオンの瞳は、お父さんにだけ向けられている。憎悪に満ちたその眼差し。明らかに敵を見る目だ。

 レオンは、いきなりお父さんの襟首を摑むと固めた拳を振り上げた。

 次にレオンが何をするのか悟った私だがタスクを抱えているため、すぐに動けなかった。

 慌ててタスクを床に下ろした時には、そんな私の代わりという訳ではないだろうが、お父さんと一緒にいた前世の私そっくりな少女がレオンの振り上げた右腕に抱きついていた。

「駄目です! やめてください!」

 前世の私そっくりな少女を間近に見てレオンは動揺したようだ。少女はずっとお父さんの傍にいたのだが私にしか注目していなかったのだろう。

「君は誰だ? なぜ、この男を庇う? こいつが何をしたのか知っているのか?」

 お父さんの襟首を摑んだままだがレオンの表情は先程より落ち着いている。彼女の姿に驚きすぎて怒りが取り合えず追いやられたからだろう。

「私はジャスミーヌ・アヤゴン。彼の妹です。『以前の彼』が何をしていたのか知っています。あなたが憤るのは分かりますが、どうか落ち着いてください。今の彼は、その方や他の女性達に、ひどい事をした男と肉体は同じですが別人なのですから」

 お父さんが話したのか。ずいぶんと彼の事情に詳しい。

「彼は前世の私の父親、相原融よ」

「……前世の娘を犯したのか?」

 私の補足説明はレオンの怒りを再燃させたようだ。お父さんに向ける眼差しに険しさが増している。

 前世で父親の「おもちゃ」にされていたレオンにとって「特別」である私の身に起こった事は到底許し難い事だろう。たとえ、今の私とヴィクトルお父さんの肉体が他人だと分かっていても。

「違う。その時の彼は『今の彼』じゃなかった。……事が終わった後、『今の彼』になったの」

「だからって」

「そうだ。だからといって、俺が祥子にした事は決して許されない。祥子だけじゃない。この体ヴィクトルが虐げた女性達に対してもだ」

 言い募ろうとするレオンの言葉を遮って、お父さんが続けた。

 レオンが殴ろうとした時、彼は全く抵抗しなかった。

 今生の彼ヴィクトルの体は、祐、《バーサーカー》と同じくらい身体能力に優れている。その気になれば、避ける事も逆にレオンを痛めつける事もできたのに、そうしなかった。前世の娘である私にした事、今生の自分が虐げた女性達にした事、それらの報いを受けるべきだと思っているからだ。






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