20 / 32
20 三年ぶりの再会
しおりを挟む
翌日、私、タスク、レオン、リリ、ミーヌ、トオルは、王都に向かった。アンディと話し合うためだ。
ミーヌとトオルには何度も「来なくていい」と言ったのだが、二人の気持ちを変えられなかった。
前世からの縁と……今生の自分がした事でトオルは私とタスクに対して妹同様「守らなくては」という気持ちがあるようだ。
ミーヌにしてもトオルが私とタスクに対して、そんな気持ちだからというだけでなく前世の縁故に自分も私やタスクと無関係でいられないと思っているようなのだ。前世の記憶があっても表出している人格が今生なら彼女は「お母さん」ではない。私とタスクの事は放っておいてくれて構わないのに。
王都に向かう前に、南門のゲートハウス宛に辞表を送っておいた。アンディとの話し合いによっては、また彼の元で生活できるかもしれないし、できなくてもオザンファン侯爵領に戻るつもりはない。
元々、旅に耐えられるほどタスクが成長したら国を出るつもりだった。アンディ達と二度と会わないように。予定より少し早いが、話し合いの結果によっては国を出るつもりだ。
列車と車で二時間ほどで王都にある三年前まで私が暮らしていた邸に到着した。
邸の玄関前で我知らず繋いでいたタスクの手をぎゅっと強く握っていた。
いくら中身が「彼」でも、あの冷静沈着なアンディや荒事が苦手なウジェーヌがいきなりタスクを襲うとは思わない。
けれど、話し合いによっては、あるいは――。
その時は、私がタスクを守る。
三年前に私は今生の家族ともいうべき彼らよりタスクを選んだのだ。
望まない行為の結果出来た子であるだけでなく、前世から何のためらいもなく私を殺そうとし、将来私を殺すだろう彼を――。
「大丈夫だ。ジョゼ」
タスクもぎゅっと私の手を握り返してきた。
「君の危惧する事にはならない」
「え?」
タスクの言葉に驚いていると扉が開かれた。
「お帰りなさい。ジョゼ」
三年ぶりのテノールの美声とともに内側から扉が開かれた。
ブルノンヴィル辺境伯でなくなってからアンディも私を敬称なしで呼ぶようになった。
「……アンディ」
三年という年月は成長期だったレオンとリリを大人にしたが、すでに大人だったアンディは一見肉体的には変わらない。ただ美しさが増しているだけだ。
「ジョゼ。無事でよかったです」
レオンのように勢いよくではなかったがアンディも出会うなり私を抱きしめてきた。冷静沈着な彼には珍しい行動だが、それだけ私の身を案じ実際に触れて確かめたいのだろう。
「……心配かけて、ごめんなさい」
アンディの広い胸に頭を預けて私は言った。
「……本当に祐だな」
アンディの隣にいるウジェーヌは、その変わらぬ端正な美貌に微妙な表情を浮かべてタスクを見下ろしている。
レオンは戻る前日に、アンディとウジェーヌに私が見つかった際の事を電話で話していた。
「ああ。まさかまたこうして会うとは思わなかったがな」
幼い容姿にはそぐわない言い方だがウジェーヌは気にしない。中身が「彼」だと分かっているからだ。
「……二度と会いたくなかったよ」
ウジェーヌは、ちらりと私を見た。明らかにその目は「なぜ、生まれた時に殺さなかった?」と問いかけるものだ。
ウジェーヌとしては不思議でならないのだろう。
タスクが「祐」であれば、いずれ自分達を殺しにくるのは分かりきっている。
だのに、「なぜ、無力な赤ん坊のうちに殺しておかないのか?」と。
唯一の人にしか価値を見出せず、また男であるウジェーヌには理解できないだろう。
望まない行為の結果でも、お腹の中で十月十日育て死ぬ思いで産んだのだ。
母としての情が芽生える。
殺せるはずがない。
前世から自分を殺そうとし、将来自分を殺す「彼」であってもだ。
「では、俺を殺すか?」
まさかタスクがそう言うとは思わなかった。
「は?」
「タスク?」
ウジェーヌは間抜けな声を上げ、私は怪訝そうにタスクを見下ろした。
「いくら俺でも、このガキの体では抵抗できない。今なら、お前でも簡単に殺せるぞ?」
タスクはウジェーヌを試している訳ではないのだろう。
荒事が苦手なウジェーヌだが、伊達に《マッドサイエンティスト》(狂科学者)というコードネームで呼ばれていた訳ではない。自らの手を汚す事に、ためらいなど覚えない。
「そんな事」
「させないわ」と続けようとした私を遮るように、タスクが言った。
「だが、そうする前に、話し合ってくれるのだろう?」
会った瞬間、襲われずにすんだので充分話し合いの余地はあるとタスクも考えたのだ。
「勿論だ。そのために、ジョゼとお前に戻って来るようにレオンに言付けた」
アンディはそう言うと、玄関前で話すのも何だからと私達を応接室に促した。
ミーヌとトオルには何度も「来なくていい」と言ったのだが、二人の気持ちを変えられなかった。
前世からの縁と……今生の自分がした事でトオルは私とタスクに対して妹同様「守らなくては」という気持ちがあるようだ。
ミーヌにしてもトオルが私とタスクに対して、そんな気持ちだからというだけでなく前世の縁故に自分も私やタスクと無関係でいられないと思っているようなのだ。前世の記憶があっても表出している人格が今生なら彼女は「お母さん」ではない。私とタスクの事は放っておいてくれて構わないのに。
王都に向かう前に、南門のゲートハウス宛に辞表を送っておいた。アンディとの話し合いによっては、また彼の元で生活できるかもしれないし、できなくてもオザンファン侯爵領に戻るつもりはない。
元々、旅に耐えられるほどタスクが成長したら国を出るつもりだった。アンディ達と二度と会わないように。予定より少し早いが、話し合いの結果によっては国を出るつもりだ。
列車と車で二時間ほどで王都にある三年前まで私が暮らしていた邸に到着した。
邸の玄関前で我知らず繋いでいたタスクの手をぎゅっと強く握っていた。
いくら中身が「彼」でも、あの冷静沈着なアンディや荒事が苦手なウジェーヌがいきなりタスクを襲うとは思わない。
けれど、話し合いによっては、あるいは――。
その時は、私がタスクを守る。
三年前に私は今生の家族ともいうべき彼らよりタスクを選んだのだ。
望まない行為の結果出来た子であるだけでなく、前世から何のためらいもなく私を殺そうとし、将来私を殺すだろう彼を――。
「大丈夫だ。ジョゼ」
タスクもぎゅっと私の手を握り返してきた。
「君の危惧する事にはならない」
「え?」
タスクの言葉に驚いていると扉が開かれた。
「お帰りなさい。ジョゼ」
三年ぶりのテノールの美声とともに内側から扉が開かれた。
ブルノンヴィル辺境伯でなくなってからアンディも私を敬称なしで呼ぶようになった。
「……アンディ」
三年という年月は成長期だったレオンとリリを大人にしたが、すでに大人だったアンディは一見肉体的には変わらない。ただ美しさが増しているだけだ。
「ジョゼ。無事でよかったです」
レオンのように勢いよくではなかったがアンディも出会うなり私を抱きしめてきた。冷静沈着な彼には珍しい行動だが、それだけ私の身を案じ実際に触れて確かめたいのだろう。
「……心配かけて、ごめんなさい」
アンディの広い胸に頭を預けて私は言った。
「……本当に祐だな」
アンディの隣にいるウジェーヌは、その変わらぬ端正な美貌に微妙な表情を浮かべてタスクを見下ろしている。
レオンは戻る前日に、アンディとウジェーヌに私が見つかった際の事を電話で話していた。
「ああ。まさかまたこうして会うとは思わなかったがな」
幼い容姿にはそぐわない言い方だがウジェーヌは気にしない。中身が「彼」だと分かっているからだ。
「……二度と会いたくなかったよ」
ウジェーヌは、ちらりと私を見た。明らかにその目は「なぜ、生まれた時に殺さなかった?」と問いかけるものだ。
ウジェーヌとしては不思議でならないのだろう。
タスクが「祐」であれば、いずれ自分達を殺しにくるのは分かりきっている。
だのに、「なぜ、無力な赤ん坊のうちに殺しておかないのか?」と。
唯一の人にしか価値を見出せず、また男であるウジェーヌには理解できないだろう。
望まない行為の結果でも、お腹の中で十月十日育て死ぬ思いで産んだのだ。
母としての情が芽生える。
殺せるはずがない。
前世から自分を殺そうとし、将来自分を殺す「彼」であってもだ。
「では、俺を殺すか?」
まさかタスクがそう言うとは思わなかった。
「は?」
「タスク?」
ウジェーヌは間抜けな声を上げ、私は怪訝そうにタスクを見下ろした。
「いくら俺でも、このガキの体では抵抗できない。今なら、お前でも簡単に殺せるぞ?」
タスクはウジェーヌを試している訳ではないのだろう。
荒事が苦手なウジェーヌだが、伊達に《マッドサイエンティスト》(狂科学者)というコードネームで呼ばれていた訳ではない。自らの手を汚す事に、ためらいなど覚えない。
「そんな事」
「させないわ」と続けようとした私を遮るように、タスクが言った。
「だが、そうする前に、話し合ってくれるのだろう?」
会った瞬間、襲われずにすんだので充分話し合いの余地はあるとタスクも考えたのだ。
「勿論だ。そのために、ジョゼとお前に戻って来るようにレオンに言付けた」
アンディはそう言うと、玄関前で話すのも何だからと私達を応接室に促した。
0
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~
オレンジ方解石
ファンタジー
恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。
世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。
アウラは二年後に処刑されるキャラ。
桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる