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彼女も腐女子だった2
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「お祖母様は『お籠り』なのね」
今日は皇太子妃としての勉強が休みというデイアは、義母の「しばらく留守にする」という話を聞き納得したように呟いた。
「『お籠り』ですか?」
首を傾げるエウリに、デイアは一瞬だけ「しまった!」という顔になったが、すぐに冷静に対応した。
「……ごめんなさい。わたくしからは話せないの。あなたが正式にミュケーナイ侯爵家の一員になれば、お祖母様は全てをお話してくださると思うから、それまで待ってほしい」
互いが腐女子とばれて以来、デイアはエウリに対して敬語ではなくなった。
エウリは変わらず敬語なのでデイアは文句を言うが皇太子妃になる彼女に対等な口は利けない。それを言うと、彼女は渋々ながら納得してくれた。
仕立て屋が帰った後、エウリとデイアは居間で優雅にお茶を飲んでいた。
最初は花嫁衣裳の話題で盛り上がっていたが、思い出したようにデイアが意外な事を言いだした。
「あなたを嫁に迎えると決めた日から、お父様、とてもご機嫌なの。気づいてる?」
「え? そうでしょうか?」
顔合わせ以降、侯爵や宰相として忙しいオルフェとは、婚約者として時々夜会に一緒に出席するだけだ。その際も別段会話らしい会話などない。そもそも本当の意味で夫婦になる訳ではないので、これくらいの距離感が最適だと思うエウリだ。
エウリからすれば、オルフェは彼を遠目で観察して妄想した頃とさして変わっていないように見える。デイアの言うように「ご機嫌」とは思えないのだが。
「君の姿が好きだ」と言っていたくらいだから、この姿を傍で見ていられるのはオルフェにとっても嬉しい事だとは思う。それで、デイアには父親が「ご機嫌」に見えるのだろうか?
「んー、確かに、お父様は、あまり表情に出ない方だから、なまじ、あれだけの美貌だから余計に妙な誤解をされちゃったりするのよね。でも、付き合っていけば分かると思うけど、とても優しい方よ」
「……ええ、分かります」
男尊女卑のこの帝国で極めて高い地位にいるというのに、自分達親子に散々失礼な発言をした小娘に対してすらオルフェは最初から優しく接してくれた。
そんな彼ならばエウリが提示した結婚条件を絶対に破らないと確信している。それが、彼女にとっては何よりも重要な事だった。
「……エウリ様は、今でもお父様の外見にしか興味がない?」
意を決した顔で尋ねてきたデイアにエウリは目を瞠った。
「……デイア様?」
彼女は、もしかして知っているのだろうか? オルフェが話したのか?
「知っているの。わたくしもお祖母様も。お兄様があなたに求婚した事も。あなたが提示した結婚条件も」
デイアはエウリの疑問を肯定したが余計に彼女を混乱させただけだった。
(……知っていたのに、お義母様は「あなたが嫁にきてくれて嬉しい」とか言ったの!? もしかしなくても、お義母様って狸!?)
「誤解なさらないでね。顔合わせの時のお祖母様のお言葉は全て本心よ。わたくしもお祖母様と同じように思っている」
言葉には出していないが表情に出ていたのだろうか。エウリの混乱した気持ちに気づいたらしいデイアが宥めるように言ってきた。
「だって、ごく普通の女性なら、あのお母様に対抗できないじゃない」
……確かに、ごく普通の女性ならカシオペアに始終あの調子で突っかかってこられては、いくらオルフェを愛していても、すぐに音を上げるだろう。
「……それでも、求婚してきた男性の父親と結婚する女ですよ。しかも、高飛車な結婚条件を出して。いくらオルフェ様が承諾したとしても、お義母様も、あなたも、よく認めましたね」
よくそんな女を嫁に認めたなと呆れるエウリだが、デイアの眼差しに気づいて息を呑んだ。波ひとつない湖面のように静かで、それでいてどこか切なくなる眼差しだったのだ。
「夜会で、あなたを遠目で初めて見た時から感じるものがあったわ。『ああ、この人は何か重いものを背負っているな』って」
「……デイア様」
聡明な人は気づくものなのだろうか?
前の夫、アリスタの両親も「それ」に気づき息子との結婚を反対していた。だが、アリスタの熱意とエウリの早く男爵家を出たいという思惑が一致して結婚した。……結局、多くの人に迷惑をかけて離婚する事になったが。
「お兄様は、あなたを本気で愛している。美しさだけに惹かれている訳じゃない。だから、あなたが提示した結婚条件を受け入れられない。そんなお兄様では駄目なんでしょう?」
――私は君の美しさで求婚したんじゃない!
必死な顔でエウリに訴えていたハーキュリーズ。
求婚された時も顔合わせの時も、碌に彼の話を聞かなった。
だって、どうして信じられる?
求婚されるまで、彼とは、まともに話した事などなかったのに。
それに何より、エウリの全てを知って求婚するなどありえない。
だが、エウリが「重いもの」を背負っていると直感で見抜いたデイアが「お兄様は、あなたを愛している。美しさだけに惹かれている訳じゃない」と言い切ったのだ。
その彼女の言葉は信じられる。ハーキュリーズの言葉は全く信じないくせに、その妹の言葉は全面的に信じるとは何とも皮肉だが。
デイアの言う通り、ハーキュリーズが外見だけでなくエウリを愛しているのだとしても、いや、だからこそ尚更、彼を受け入れる事はできない。
アリスタの時と同じになってしまうからだ。多くの人に迷惑をかけた。何よりアリスタを深く傷つけた。彼の事は男性としては愛せなかったけれど、人間としては好ましく思っているのに。
もう二度と、あんな事はしたくない。
「お兄様には申し訳ないけれど、あなたがお父様を幸せにしてくれるなら、わたくしもお祖母様も、あなたがどんな女性でも構わないと思ったわ」
「……幸せですか?」
確かにオルフェは「その姿を毎日傍で見ていられるのなら」と言った。それが、彼にとっての「幸せ」なのだろうか?
「わたくしはお父様の娘だから、あなたよりも、お父様よりで考えてたわ。
でも、今は、あなたを友人だと思っている。だから、このままお父様との結婚を黙って見ている事が正しいか分からなくなったの」
「……私が『重いもの』を背負っていると気づいているのに『友人』だと言ってくださるのですか?」
「あなたという人を好きになったからよ。言っておくけど、BLを気軽に話せるからだけじゃないわよ。
ああ、そうだ。その『重いもの』を知りたいとは思わないわ。全てを話す事だけが友情だとは思わないし、それに知らないほうがいい事も、きっとあるから」
「私もBLを気軽に話せる事を抜きにしても、あなたが好きです。義理の母娘でなくなっても、できれば生涯の友人でいたいです」
(……でも、私という人間を知れば、そう思わないでしょうね)
知っても変わらず接してくれる人達もいる。だが、きっとそんな奇跡は、もう二度と起きないだろう。
「……オルフェ様が何らかの思惑で私と結婚しようとしているとしても構いません。結婚条件さえ守っていただけるのなら」
「あなたにとって、あの結婚条件は『重いもの』を背負った自分を守るために必要なものなのでしょう? だから、どんな想いであれ結婚条件を受け入れたお父様は、その時から、あなたにとって『特別』になったはずよ」
(……どうして、このお嬢様は、こうもズバズバと人の内面を見抜く事ができるのかしら?)
可憐でおっとりした外見に油断していると確実に足をすくわれる。
エウリ自身、デイアに指摘されるまで気づいていなかったのだ。
到底誰も受け入れられないだろう結婚条件を受け入れてくれたあの瞬間から、オルフェはエウリの『特別』になったのだと。
「あなたを本気で愛しているお兄様は受け入れられない。けれど、あなたを女性として愛していないお父様は受け入れられる。それが、あなたの『特別』になるために必要な事だとは何とも皮肉ね」
「……確かに、オルフェ様は私の『特別』かもしれない。けれど、男性として愛している訳ではありませんよ」
「今はね。でも、外見だけでなく好きになってきているのでしょう? もし、あなたがこの先、仮初めでなく夫婦になりたいと願ったとしても、お父様は、きっとその願いを受け入れられない。だって――」
「それは、ありえません」
エウリはデイアの言葉を途中で遮った。これ以上聞く必要はなかったから。
「ありえないって、お父様を男性として愛する事が?」
「いいえ。そうではなく、仮初めではなく本当の夫婦になりたいと私が願う事がです。子供だけは絶対に作らないと決めていますから」
そうだ。もし、いつかオルフェを男性として愛するようになったとしても子供だけは絶対に作らない――。
今日は皇太子妃としての勉強が休みというデイアは、義母の「しばらく留守にする」という話を聞き納得したように呟いた。
「『お籠り』ですか?」
首を傾げるエウリに、デイアは一瞬だけ「しまった!」という顔になったが、すぐに冷静に対応した。
「……ごめんなさい。わたくしからは話せないの。あなたが正式にミュケーナイ侯爵家の一員になれば、お祖母様は全てをお話してくださると思うから、それまで待ってほしい」
互いが腐女子とばれて以来、デイアはエウリに対して敬語ではなくなった。
エウリは変わらず敬語なのでデイアは文句を言うが皇太子妃になる彼女に対等な口は利けない。それを言うと、彼女は渋々ながら納得してくれた。
仕立て屋が帰った後、エウリとデイアは居間で優雅にお茶を飲んでいた。
最初は花嫁衣裳の話題で盛り上がっていたが、思い出したようにデイアが意外な事を言いだした。
「あなたを嫁に迎えると決めた日から、お父様、とてもご機嫌なの。気づいてる?」
「え? そうでしょうか?」
顔合わせ以降、侯爵や宰相として忙しいオルフェとは、婚約者として時々夜会に一緒に出席するだけだ。その際も別段会話らしい会話などない。そもそも本当の意味で夫婦になる訳ではないので、これくらいの距離感が最適だと思うエウリだ。
エウリからすれば、オルフェは彼を遠目で観察して妄想した頃とさして変わっていないように見える。デイアの言うように「ご機嫌」とは思えないのだが。
「君の姿が好きだ」と言っていたくらいだから、この姿を傍で見ていられるのはオルフェにとっても嬉しい事だとは思う。それで、デイアには父親が「ご機嫌」に見えるのだろうか?
「んー、確かに、お父様は、あまり表情に出ない方だから、なまじ、あれだけの美貌だから余計に妙な誤解をされちゃったりするのよね。でも、付き合っていけば分かると思うけど、とても優しい方よ」
「……ええ、分かります」
男尊女卑のこの帝国で極めて高い地位にいるというのに、自分達親子に散々失礼な発言をした小娘に対してすらオルフェは最初から優しく接してくれた。
そんな彼ならばエウリが提示した結婚条件を絶対に破らないと確信している。それが、彼女にとっては何よりも重要な事だった。
「……エウリ様は、今でもお父様の外見にしか興味がない?」
意を決した顔で尋ねてきたデイアにエウリは目を瞠った。
「……デイア様?」
彼女は、もしかして知っているのだろうか? オルフェが話したのか?
「知っているの。わたくしもお祖母様も。お兄様があなたに求婚した事も。あなたが提示した結婚条件も」
デイアはエウリの疑問を肯定したが余計に彼女を混乱させただけだった。
(……知っていたのに、お義母様は「あなたが嫁にきてくれて嬉しい」とか言ったの!? もしかしなくても、お義母様って狸!?)
「誤解なさらないでね。顔合わせの時のお祖母様のお言葉は全て本心よ。わたくしもお祖母様と同じように思っている」
言葉には出していないが表情に出ていたのだろうか。エウリの混乱した気持ちに気づいたらしいデイアが宥めるように言ってきた。
「だって、ごく普通の女性なら、あのお母様に対抗できないじゃない」
……確かに、ごく普通の女性ならカシオペアに始終あの調子で突っかかってこられては、いくらオルフェを愛していても、すぐに音を上げるだろう。
「……それでも、求婚してきた男性の父親と結婚する女ですよ。しかも、高飛車な結婚条件を出して。いくらオルフェ様が承諾したとしても、お義母様も、あなたも、よく認めましたね」
よくそんな女を嫁に認めたなと呆れるエウリだが、デイアの眼差しに気づいて息を呑んだ。波ひとつない湖面のように静かで、それでいてどこか切なくなる眼差しだったのだ。
「夜会で、あなたを遠目で初めて見た時から感じるものがあったわ。『ああ、この人は何か重いものを背負っているな』って」
「……デイア様」
聡明な人は気づくものなのだろうか?
前の夫、アリスタの両親も「それ」に気づき息子との結婚を反対していた。だが、アリスタの熱意とエウリの早く男爵家を出たいという思惑が一致して結婚した。……結局、多くの人に迷惑をかけて離婚する事になったが。
「お兄様は、あなたを本気で愛している。美しさだけに惹かれている訳じゃない。だから、あなたが提示した結婚条件を受け入れられない。そんなお兄様では駄目なんでしょう?」
――私は君の美しさで求婚したんじゃない!
必死な顔でエウリに訴えていたハーキュリーズ。
求婚された時も顔合わせの時も、碌に彼の話を聞かなった。
だって、どうして信じられる?
求婚されるまで、彼とは、まともに話した事などなかったのに。
それに何より、エウリの全てを知って求婚するなどありえない。
だが、エウリが「重いもの」を背負っていると直感で見抜いたデイアが「お兄様は、あなたを愛している。美しさだけに惹かれている訳じゃない」と言い切ったのだ。
その彼女の言葉は信じられる。ハーキュリーズの言葉は全く信じないくせに、その妹の言葉は全面的に信じるとは何とも皮肉だが。
デイアの言う通り、ハーキュリーズが外見だけでなくエウリを愛しているのだとしても、いや、だからこそ尚更、彼を受け入れる事はできない。
アリスタの時と同じになってしまうからだ。多くの人に迷惑をかけた。何よりアリスタを深く傷つけた。彼の事は男性としては愛せなかったけれど、人間としては好ましく思っているのに。
もう二度と、あんな事はしたくない。
「お兄様には申し訳ないけれど、あなたがお父様を幸せにしてくれるなら、わたくしもお祖母様も、あなたがどんな女性でも構わないと思ったわ」
「……幸せですか?」
確かにオルフェは「その姿を毎日傍で見ていられるのなら」と言った。それが、彼にとっての「幸せ」なのだろうか?
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でも、今は、あなたを友人だと思っている。だから、このままお父様との結婚を黙って見ている事が正しいか分からなくなったの」
「……私が『重いもの』を背負っていると気づいているのに『友人』だと言ってくださるのですか?」
「あなたという人を好きになったからよ。言っておくけど、BLを気軽に話せるからだけじゃないわよ。
ああ、そうだ。その『重いもの』を知りたいとは思わないわ。全てを話す事だけが友情だとは思わないし、それに知らないほうがいい事も、きっとあるから」
「私もBLを気軽に話せる事を抜きにしても、あなたが好きです。義理の母娘でなくなっても、できれば生涯の友人でいたいです」
(……でも、私という人間を知れば、そう思わないでしょうね)
知っても変わらず接してくれる人達もいる。だが、きっとそんな奇跡は、もう二度と起きないだろう。
「……オルフェ様が何らかの思惑で私と結婚しようとしているとしても構いません。結婚条件さえ守っていただけるのなら」
「あなたにとって、あの結婚条件は『重いもの』を背負った自分を守るために必要なものなのでしょう? だから、どんな想いであれ結婚条件を受け入れたお父様は、その時から、あなたにとって『特別』になったはずよ」
(……どうして、このお嬢様は、こうもズバズバと人の内面を見抜く事ができるのかしら?)
可憐でおっとりした外見に油断していると確実に足をすくわれる。
エウリ自身、デイアに指摘されるまで気づいていなかったのだ。
到底誰も受け入れられないだろう結婚条件を受け入れてくれたあの瞬間から、オルフェはエウリの『特別』になったのだと。
「あなたを本気で愛しているお兄様は受け入れられない。けれど、あなたを女性として愛していないお父様は受け入れられる。それが、あなたの『特別』になるために必要な事だとは何とも皮肉ね」
「……確かに、オルフェ様は私の『特別』かもしれない。けれど、男性として愛している訳ではありませんよ」
「今はね。でも、外見だけでなく好きになってきているのでしょう? もし、あなたがこの先、仮初めでなく夫婦になりたいと願ったとしても、お父様は、きっとその願いを受け入れられない。だって――」
「それは、ありえません」
エウリはデイアの言葉を途中で遮った。これ以上聞く必要はなかったから。
「ありえないって、お父様を男性として愛する事が?」
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