ざまぁした(つもりの)お姉様は妹の掌の上

青葉めいこ

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裏(三人称)

15 初めて感情を揺さぶられた

「何か言いたそうね。いいわ。最後になるだろうから聞いてあげるわ」

 彼女が顔をさらしてから、ずっともごもご言っていたフェリクスに、ようやく彼女は意識を向けると、彼の近くにいた部下に目を向けた。

「公爵の猿轡を解いて差し上げて」

 ようやく猿轡から解放されたフェリクスは、彼女に血走った目を向け怒鳴りつけた。

「マリアジェーン! こんな事をして、ただで済むと思っているのか!?」

 彼女は憐みの眼差しをフェリクスに向けた。

「ご自身の立場をまだ分かっていらっしゃらないようね。あなたも、お姉様同様、勉強だけできるお馬鹿さんだったのね」

 自分よりも年下で華奢な少女は、その外見からは考えられない威圧を放っていた。それに、フェリクスは無意識に呑まれている。

 今この場を支配しているのは、まぎれもなく彼女だ。

 一見、簡単に踏みつぶせそうな小さな彼女が、今、この場を支配しているのだ。

「公爵の私に、こんな真似をしてタダで済むとでも思っているのか?」

 フェリクスの言葉は今更だ。

「ばれるようなヘマはしませんよ」

 彼女は、それだけの覚悟を持って実行しているし、また危機に陥っても臨機応変に切り抜けるだけの才覚もあると自負しているのだ。そして、おそらく、それは自惚れなどではない。

「安心なさって。あなたを殺したりはしないから。お姉様は、あなたの死を望んでいない。裏切ったあなたではなく愛人を殺そうとしたのですもの。だから、私も、殺したりなどしませんよ」

 そう、彼女は殺さない。

 彼女の姉が望んでいないから。

 彼女の姉が望み、彼女が、これから殺そうとしているのは――。

 マグダレナがすでに気づいた事に、ようやくフェリクスは思い至ったようで顔色が変わった。

「待て! やめろ! マグダレナは私の子を妊娠しているんだ!」

「ええ。だから、お姉様は彼女を殺そうとしたのでしょう」

 淡々と彼女は言う。フェリクスの訴えに動揺する素振りは一切ない。

 当然だ。フェリクス曰く「こんな真似」をした彼女が撤退するはずがない。途中でやめるくらいなら最初から実行もしなかったはずだ。

 情や良心に訴える事も無意味だ。おそらく彼女に、それらは欠片も存在していないだろうから。

「公爵家で起こった事だ。王家が必ず介入してくる! 今ならなかった事にできる! 私とマグダレナを解放するんだ! マリアジェーン!」

「ジョンソン公爵家を継ぐ人間など、いくらでもいるわ。あなた以上に優秀な人間が公爵家を継げばいい。だから、アダムも、公爵家の家令も、黙認しているのだから」

 どうやら手引きしたのは、ジョンソン公爵家の家令、アダムらしい。

「……そんな、アダムが私を裏切っただなんて」

「あなたでは、彼の信頼を得られなかった。ただそれだけの事でしょう」

 家令の第一は、主家であって、その主人ではない。

 だから、主家に相応しくないと判断すれば、あるじを挿げ替えるくらい躊躇なくやってのける。

 そして、マグダレナが見る所、アダムは主家だけでなく「自分に相応しい主」かどうかでフェリクスを判断していたようだった。

 領地経営を妻に丸投げし、愛人に耽溺するような男など、公爵として、まして、自分の主として相応しくないと判断したのだ。

 だからこそ、主人とその愛人が殺される事態を何のためらいもなく手引きした。

 マグダレナは不思議とアダムを恨む気にはなれなかった。

 むしろ、人生の最後に、彼女と出会わせてくれた事に感謝した。

 誰にも何にも、自分自身にすら、興味を持てなかった。

 ただ生きているだけの人生だった。

 そんな自分の感情を初めて揺さぶった人間に出会えたのだ。

 それが、人生の終わりを意味するのだとしても。

 今までの、ただ生きているだけのせいよりも、ずっといい。










 











 







 



 

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