ざまぁした(つもりの)お姉様は妹の掌の上

青葉めいこ

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裏(三人称)

17 愛など求めていなかった

 物語であれば、めでたしめでたしで終わる。

 バッドエンドであろうと、そこで終わりにできる。

 けれど、ここは現実だ。

 異世界転生という普通ならありえない現象が自分の身に起こった事も。

 それも、よりによって、全てを失い世間的には死んだ、最悪バッドエンドといっていい時に、前世の人格である「自分」が目覚めてしまったのも。

 死ぬまで物語人生は終わらない。




 佐藤毬愛さとうまりあの人生は、何ともつまらないものだった。

 それは、自分がつまらない人間だったからだと、今の毬愛は理解している。

 美しく聡明で、数多くの人間を魅了した両親から生まれたとは思えないほど、ごくごく平凡で、つまらない人間だった。

 だから、両親にも、夫にも愛されなかったのだ。

 毬愛自身も、こんな自分を愛せない。

 それでも、こんな毬愛を気遣い愛してくれた人達もいたのに。

 その人達のお陰で生きてこれたのに。

 そんな事も気付かない愚かな女だった。

 だから、あんな最期を迎えてしまったのだろう。




 鈴木凌すずきりょう、毬愛の夫になった美しい彼は、元々母の愛人の一人だった。

 婚約者だった女性が他の男と駆け落ちしたために、仕方なく母と結婚した父と違い、母は父を愛していたらしい。

「らしい」というのは使用人達のお喋りをたまたま聞いただけで、毬愛の目から見て母が父を愛しているとは到底思えなかったからだ。だから、「愛していた」と過去形を遣っている。

 そう、毬愛が物心をついた頃には、母の父への愛は消失していたのだろう。

 身内の欲目を抜きにしても、父は美しい男だった。

 美しいだけでなく、聡明で数多くの人間を惹き付ける魅力もあった。

 まあ、その魅力も、父の元婚約者や毬愛むすめには効かなかったが。父が毬愛むすめに対して父親としての最低限の義務として経済的に豊かな暮らしをさせるだけで基本的に無関心だったように、毬愛もそうだったから。生物学上の父親で、この生活を維持するために必要な人間ATMだという認識しかなかったので。

 毬愛が成人し、壮年になっても、父の美しさに衰えはなかった。むしろ、年齢を重ね、人生経験が豊富になる毎に重厚さや渋みが増し、青年にはない魅力を放っていたように思える。

 だが、母は、そう思えかったようだ。

 母は若い美形、特に、性に目覚めたばかりの幼く美しい少年が好きだったのだ。

 父が年を取ると、いくら美しさを維持していても、簡単に彼への愛と関心をなくしたらしい。それでも離婚しなかったのは、佐藤財閥という父の家が持つ権力を失うのを惜しいと思ったからだろう。

 父への愛と関心がなくなった母は自分好みの美しい青年や少年達を愛人にしたのだ。

 鈴木凌もその一人だった。

 それだけでなく、凌は父の元婚約者の息子なのだ。父の元婚約者と駆け落ちし、後に彼女の夫となった男性との間に生まれた息子だ。

 十歳の時、凌は交通事故で両親を亡くした。その彼を両親が引き取ったのだ。凌の母親(父の元婚約者)は両親の親戚だった。凌の父親は天涯孤独で、凌の母親の両親(凌の祖父母)は、すでに亡くなっていて、凌の母親のきょうだいは凌を引き取るのを拒んだので。

 前世では気付かなかったが、親戚だけあって凌は父に似ていた。だから、母は彼を愛人にしたのだろう。日本最古の長編小説の主人公は男で母は女だが、やっている事は、まるっきり彼の真似事だ。

 両親が引き取ったとはいえ、「あなたの夫になる男よ」と母に紹介されるまでは、毬愛は凌と会った事はない。彼は母と共に別邸で暮らしていたので。

 父は凌の養育を母に任せきりで放置していた。凌が元婚約者に似た女性であれば、父のほうが光○氏の真似事をしただろう。

 母がなぜ愛人だった彼を毬愛むすめの夫にしようとしたのかは、自分ばかりか夫の遺産も彼に残したいと思ったからだろう。それだけ彼に執着し、娘の意思を聞かずに勝手に結婚を決めた。

 理解不能で理不尽な母親だと大多数の人間は判断するだろう。

 けれど、それ以上に、全てを分かっていて、凌との結婚を承諾した毬愛もまた大概たいがいだとは思う。

 出会った瞬間、一目で凌に恋をしたのだ。

 まず、心を奪われたのは、その美しい外見だ。

 美しい人間であれば、男女問わず見てきた。

 けれど、美しいとは思っても心を奪われた事などなかったのに。

 その傲慢さも、その外見だから許せた。愛した。

 佐藤財閥という毬愛の家の権力と財力にのみ価値を見出されて、自分を玩具にするの娘だからという、毬愛にはどうしようもない理由で嫌悪感を抱かれ、一切触れてこない白い結婚でも構わなかった。

 だって、当時は誰からも愛されていないと思っていたから。

 最初から、愛を知らなければ、愛など求めない。

 自分が彼を愛していれば、それで充分だったのだ。

 彼の愛など求めていなかったのに。

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