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第一部 ジョセフ
71 私の新たな婚約者
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「いいだろう。ルイーズをフランソワの婚約者にしよう」
結局、国王は承諾してくれた。
「自分が提案しておいて訊くのは何ですが、よろしいのですか?」
「何かと問題のある子だろう」と難色を示していたのに。
「国内外の目ぼしい令嬢には婚約者がいるからな。それに、フランソワを国王にしないのなら、あいつの妻になる女性は誰でも構わない」
確かに、王太子妃や王妃にならないのなら才色兼備な令嬢でなくてもいいだろう。
「陛下が望むようにルイーズにはフランソワ王子を気遣う事などできないと思いますが」
ルイーズがレオンを好きな事を抜きにしても、あの脳内花畑に他人を気遣う事などできるとは思えない。
「それは別の女性に期待する。王侯貴族は夫婦で愛人を持つのは一般的だしな」
確かに、国王自身、妾妃がいるけれど。
妻となるルイーズがフランソワ王子を気遣わなくても、他の女性にその役割を求めればいいという事だろうか?
長男に対しては、その恋が成就するように王位も妻も与えるつもりだのに、次男に対しては、その結婚が幸福だろうと不幸だろうと、どうでもいいのだ。
私自身、元婚約者だろうと彼の幸不幸には興味がない。
重要なのは、まずお父様を喜ばせる事だ。
そのためにまずフランソワ王子の婚約者を私から異母妹に挿げ替える。
「君の新たな婚約者だが」
国王は話題を変えた。
大抵の貴族令嬢にとって婚約解消や破棄は汚点だ。次の婚約者を見つけるのは難しいのだが私は辺境伯で国王の姪だ。すぐに新たな婚約者を宛がわれるのだろう。
今生は貴族令嬢として生まれたし何より恋は二度としたくないので政略結婚は構わない。ただ、王妃や王太子妃という重すぎる責務を担うのが嫌なだけで。
「ジャン・ヴェルディエ、宰相の一人息子を考えている」
思ってもいなかった新たな婚約者を提示され私は目を瞠った。
去年の疫病でアレクシスとレティシア妃の父親でありジャンの祖父、宰相であるジャン・ヴェルディエ侯爵(祖父と孫は同じ名前なのだ)は亡くなり、アレクシスが新たな宰相となった。
「……ジャン様は、確か他にご兄弟姉妹は、いらっしゃいませんでしたよね?」
アレクシスの後、宰相位とヴェルディエ侯爵家を継ぐのは、ジャンしかいないはずだ。
現宰相や前宰相などヴェルディエ侯爵家の男性は同性愛者で有名だ。
けれど、家を存続させる義務感から、それなりの家格の女性と結婚し子を儲けるのだという。妻になる女性からすれば完全に子を産む道具扱いで何とも酷い話だ。
「ああ、いない。ブルノンヴィル辺境伯をジョセフに譲ってジャンに嫁げと言っているのではないよ。ジョセフやルイーズをブルノンヴィル辺境伯にするくらいなら、血にこだわらず優秀な人間にやってもらう」
私の口にしなかった懸念を国王は否定した。国王として、いくら肉親でも、その地位に相応しくないのなら切り捨てるのだ。
「フランソワの時と同じだ。辺境伯と侯爵夫人を兼任してもらう。君ならできるだろう?」
「……そこまで私を買ってくださるのは嬉しいのですが」
かつてリリが口にした言葉を今度は私が口にした。
「王太子妃や王妃程でなくても宰相夫人も重責だし……何より、ヴェルディエ卿、宰相閣下が舅になるのが嫌ですね」
ジャンはジョゼフィーヌより一つ年下、ルイーズと同い年で、今年九歳になる。
親しく話した事はないが、お茶会などの集まりで遠目で見た彼は、父親の宰相や従兄のジュール王子に似た美少年だった。ただ二人のような底知れない腹黒さは感じず、おとなしい印象を受けた。
幼い彼の性的嗜好が父親や祖父のようなゲイかどうかは分からないが、そうだったとしても私は気にしない。
印象だけで決めるなら、彼が夫なのは好都合だと思う。
彼個人はともかく……舅となる宰相が嫌だ。ジュール王子以上のやばさを感じさせる宰相などに近づきたくはない。
「……その気持ちは分からなくもないが」
最愛の女性、レティシア妃の実弟であっても、国王も宰相に底知れなさを感じているのだと分かった。
「ジャンを君の新たな婚約者にしてほしいと頼んできたのは、宰相なんだ」
「え?」
ジャンを新たな婚約者に言われた時と同じくらい驚いた。
「宰相でジュールの叔父だ。彼には次代の国王をジュールにしようとする旨、話しておいた。その際に、君の婚約が解消になるかもしれない事も」
「……それで、自分の息子を私の次の婚約者にしたいと?」
確かに、今生の人格より「私」のほうがブルノンヴィル辺境伯に相応しいと認めてくれていた。
けれど、それが自分の息子を婚約者にしてもいいと思える理由なのだろうか?
「……直接、宰相閣下に真意を伺うしかないようですね」
考えても分からないのなら直接本人に聞くしかない。ジュール王子以上に腹黒い男が素直に答えてくれるとは思えないけれど。
結局、国王は承諾してくれた。
「自分が提案しておいて訊くのは何ですが、よろしいのですか?」
「何かと問題のある子だろう」と難色を示していたのに。
「国内外の目ぼしい令嬢には婚約者がいるからな。それに、フランソワを国王にしないのなら、あいつの妻になる女性は誰でも構わない」
確かに、王太子妃や王妃にならないのなら才色兼備な令嬢でなくてもいいだろう。
「陛下が望むようにルイーズにはフランソワ王子を気遣う事などできないと思いますが」
ルイーズがレオンを好きな事を抜きにしても、あの脳内花畑に他人を気遣う事などできるとは思えない。
「それは別の女性に期待する。王侯貴族は夫婦で愛人を持つのは一般的だしな」
確かに、国王自身、妾妃がいるけれど。
妻となるルイーズがフランソワ王子を気遣わなくても、他の女性にその役割を求めればいいという事だろうか?
長男に対しては、その恋が成就するように王位も妻も与えるつもりだのに、次男に対しては、その結婚が幸福だろうと不幸だろうと、どうでもいいのだ。
私自身、元婚約者だろうと彼の幸不幸には興味がない。
重要なのは、まずお父様を喜ばせる事だ。
そのためにまずフランソワ王子の婚約者を私から異母妹に挿げ替える。
「君の新たな婚約者だが」
国王は話題を変えた。
大抵の貴族令嬢にとって婚約解消や破棄は汚点だ。次の婚約者を見つけるのは難しいのだが私は辺境伯で国王の姪だ。すぐに新たな婚約者を宛がわれるのだろう。
今生は貴族令嬢として生まれたし何より恋は二度としたくないので政略結婚は構わない。ただ、王妃や王太子妃という重すぎる責務を担うのが嫌なだけで。
「ジャン・ヴェルディエ、宰相の一人息子を考えている」
思ってもいなかった新たな婚約者を提示され私は目を瞠った。
去年の疫病でアレクシスとレティシア妃の父親でありジャンの祖父、宰相であるジャン・ヴェルディエ侯爵(祖父と孫は同じ名前なのだ)は亡くなり、アレクシスが新たな宰相となった。
「……ジャン様は、確か他にご兄弟姉妹は、いらっしゃいませんでしたよね?」
アレクシスの後、宰相位とヴェルディエ侯爵家を継ぐのは、ジャンしかいないはずだ。
現宰相や前宰相などヴェルディエ侯爵家の男性は同性愛者で有名だ。
けれど、家を存続させる義務感から、それなりの家格の女性と結婚し子を儲けるのだという。妻になる女性からすれば完全に子を産む道具扱いで何とも酷い話だ。
「ああ、いない。ブルノンヴィル辺境伯をジョセフに譲ってジャンに嫁げと言っているのではないよ。ジョセフやルイーズをブルノンヴィル辺境伯にするくらいなら、血にこだわらず優秀な人間にやってもらう」
私の口にしなかった懸念を国王は否定した。国王として、いくら肉親でも、その地位に相応しくないのなら切り捨てるのだ。
「フランソワの時と同じだ。辺境伯と侯爵夫人を兼任してもらう。君ならできるだろう?」
「……そこまで私を買ってくださるのは嬉しいのですが」
かつてリリが口にした言葉を今度は私が口にした。
「王太子妃や王妃程でなくても宰相夫人も重責だし……何より、ヴェルディエ卿、宰相閣下が舅になるのが嫌ですね」
ジャンはジョゼフィーヌより一つ年下、ルイーズと同い年で、今年九歳になる。
親しく話した事はないが、お茶会などの集まりで遠目で見た彼は、父親の宰相や従兄のジュール王子に似た美少年だった。ただ二人のような底知れない腹黒さは感じず、おとなしい印象を受けた。
幼い彼の性的嗜好が父親や祖父のようなゲイかどうかは分からないが、そうだったとしても私は気にしない。
印象だけで決めるなら、彼が夫なのは好都合だと思う。
彼個人はともかく……舅となる宰相が嫌だ。ジュール王子以上のやばさを感じさせる宰相などに近づきたくはない。
「……その気持ちは分からなくもないが」
最愛の女性、レティシア妃の実弟であっても、国王も宰相に底知れなさを感じているのだと分かった。
「ジャンを君の新たな婚約者にしてほしいと頼んできたのは、宰相なんだ」
「え?」
ジャンを新たな婚約者に言われた時と同じくらい驚いた。
「宰相でジュールの叔父だ。彼には次代の国王をジュールにしようとする旨、話しておいた。その際に、君の婚約が解消になるかもしれない事も」
「……それで、自分の息子を私の次の婚約者にしたいと?」
確かに、今生の人格より「私」のほうがブルノンヴィル辺境伯に相応しいと認めてくれていた。
けれど、それが自分の息子を婚約者にしてもいいと思える理由なのだろうか?
「……直接、宰相閣下に真意を伺うしかないようですね」
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