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第二部 祐
89 「彼」は、この世界でも狂戦士(バーサーカー)
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辺境伯である私、国王、宰相であるアレクシス、いろんな所にコネがあり情報通であるウジェーヌが捜してもジョセフは見つからなかった。
アレクシスの言う通り、ジョセフはもう「ジョセフ」ではないのだと確信した。
甘ったれた貴族のお坊ちゃんであるジョセフであれば、私達がこれだけ捜して見つからないはずがないからだ。
それからの三年は、嵐の前の静けさというべきか、何事もなく日々が過ぎていった。
その噂を聞くまでは――。
十四歳になった私は春の社交のため王都のあるお茶会に参加し、その噂を聞いた。
大陸の中東にあるオスーフ帝国と西方にあるアーベントロート王国は、ここ三年ほど戦争をしていた。
けれど、それも唐突に終わりを告げる。
ある一人の男によって――。
その男は「タスク・ムトウ」と名乗り、その常軌を逸した戦いぶりから狂戦士と呼ばれるようになった。常に鉄仮面をしているので、その素顔を知る者は誰もいない。
文武両道で知られるオスーフ帝国の皇帝は自ら戦地に赴き兵士達を指揮していた。
「彼」は、たった一人で敵の大将であるオスーフ帝国の皇帝を討ち取り戦いを終わらせたのだ。
けれど、それからの彼の行方は杳として知れない。
これだけの戦功をあげながら何も求めず国を去った彼の事をアーベントロート王国では国の危機に神が遣わした使徒ではないのかと噂されていた。
(タスクが私の知る「祐」なら使徒なんかじゃない)
祐という漢字には「神の助け」という意味があるが、これほどその名前にそぐわない人間もいないのだ。
――殺し合いでしか生きている実感がない。
誰もが聞き惚れる美声で、そう宣った男だ。
国の危機に心を痛め戦争に身を投じ敵の大将を討ち取るなどするはずがない。
彼が戦うのは、あくまでも自分のためだ。
生きている実感を得るためだけに――。
タスク・ムトウ(武東祐)。
《バーサーカー》。
「彼」の名前でありコードネームだ。
その名を持ち、そう呼ばれる男がいる。
こんな偶然があるだろうか?
その噂を聞いてからの私は全く使いものにならなかった。
もはや社交どころではなく何やかやと話しかけてくる人々の間をすり抜け庭の外れにある東屋に避難した。ふらつく体で、へたり込むようにベンチに座った。
(……まさか彼まで、この世界に転生しているの?)
噂の男が彼だったとして……私までこの世界に転生していると知っているのだろうか?
知っているのなら、いずれやってくる。
彼はウジェーヌとは違う。
前世で自分を殺した私を許すはずがない。
自分がそう仕向けたのだとしても、前世で殺された恨みを晴らしにくるだろう。
――両親を殺した俺が憎いか? だったら、俺より強くなって俺を殺してみろ。
前世の幼い私と妹の前で両親を殺して、そう宣った男。
私が彼への復讐心を燃やしている事に気づいていたのに実行部隊員として私を鍛えた。
彼は両親の仇ではあったが、同時に実行部隊員としての私の師匠でもあった。
――俺は畳の上で死にたくないしボケたくもない。俺よりも強い奴に殺されたい。
だから、両親を目の前で殺しても私と妹は殺さなかった。
復讐心を胸に、いずれ自分を殺しにくるように仕向けたのだ。
自分を殺す人間を育てるその心理など理解できないし、したくもない。
だからこそ、彼は人でありながら人をやめているとしか思えなかった。
アレクシスの言う通り、ジョセフはもう「ジョセフ」ではないのだと確信した。
甘ったれた貴族のお坊ちゃんであるジョセフであれば、私達がこれだけ捜して見つからないはずがないからだ。
それからの三年は、嵐の前の静けさというべきか、何事もなく日々が過ぎていった。
その噂を聞くまでは――。
十四歳になった私は春の社交のため王都のあるお茶会に参加し、その噂を聞いた。
大陸の中東にあるオスーフ帝国と西方にあるアーベントロート王国は、ここ三年ほど戦争をしていた。
けれど、それも唐突に終わりを告げる。
ある一人の男によって――。
その男は「タスク・ムトウ」と名乗り、その常軌を逸した戦いぶりから狂戦士と呼ばれるようになった。常に鉄仮面をしているので、その素顔を知る者は誰もいない。
文武両道で知られるオスーフ帝国の皇帝は自ら戦地に赴き兵士達を指揮していた。
「彼」は、たった一人で敵の大将であるオスーフ帝国の皇帝を討ち取り戦いを終わらせたのだ。
けれど、それからの彼の行方は杳として知れない。
これだけの戦功をあげながら何も求めず国を去った彼の事をアーベントロート王国では国の危機に神が遣わした使徒ではないのかと噂されていた。
(タスクが私の知る「祐」なら使徒なんかじゃない)
祐という漢字には「神の助け」という意味があるが、これほどその名前にそぐわない人間もいないのだ。
――殺し合いでしか生きている実感がない。
誰もが聞き惚れる美声で、そう宣った男だ。
国の危機に心を痛め戦争に身を投じ敵の大将を討ち取るなどするはずがない。
彼が戦うのは、あくまでも自分のためだ。
生きている実感を得るためだけに――。
タスク・ムトウ(武東祐)。
《バーサーカー》。
「彼」の名前でありコードネームだ。
その名を持ち、そう呼ばれる男がいる。
こんな偶然があるだろうか?
その噂を聞いてからの私は全く使いものにならなかった。
もはや社交どころではなく何やかやと話しかけてくる人々の間をすり抜け庭の外れにある東屋に避難した。ふらつく体で、へたり込むようにベンチに座った。
(……まさか彼まで、この世界に転生しているの?)
噂の男が彼だったとして……私までこの世界に転生していると知っているのだろうか?
知っているのなら、いずれやってくる。
彼はウジェーヌとは違う。
前世で自分を殺した私を許すはずがない。
自分がそう仕向けたのだとしても、前世で殺された恨みを晴らしにくるだろう。
――両親を殺した俺が憎いか? だったら、俺より強くなって俺を殺してみろ。
前世の幼い私と妹の前で両親を殺して、そう宣った男。
私が彼への復讐心を燃やしている事に気づいていたのに実行部隊員として私を鍛えた。
彼は両親の仇ではあったが、同時に実行部隊員としての私の師匠でもあった。
――俺は畳の上で死にたくないしボケたくもない。俺よりも強い奴に殺されたい。
だから、両親を目の前で殺しても私と妹は殺さなかった。
復讐心を胸に、いずれ自分を殺しにくるように仕向けたのだ。
自分を殺す人間を育てるその心理など理解できないし、したくもない。
だからこそ、彼は人でありながら人をやめているとしか思えなかった。
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