SかMか

青葉めいこ

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 私の三年前に亡くなった今生の母はエッスニーモナッレエル公爵家の一人娘アイサレーナイだ。

 母は従妹ママーハッハの婚約者だった外見だけは美しい父クウズチッチを一方的に見初め公爵家の権力で無理矢理婿にしたのだ。

 そういう経緯で結婚したので父は当然ながら母を愛さなかった。

 母を妊娠させると役目を果たしたんだからいいだろうと元婚約者を愛人にし彼女との間にも子供、私の半年違いの弟妹(双子の兄妹)を作ったのだ。しかも、彼らはエッスニーモナッレエル公爵家の別邸で暮らし、その生活費やら遊興費やらも公爵家から出ている。

 父を愛していた母は何も言わなかったが、愛人やその子供達の元に入り浸る父の行動に段々母は荒れていった。

 そんな母が私には不思議だった。

 家の権力で相愛の婚約者から引き離し無理矢理婿にしたのだ。まず愛されないのは当然だろうに。

 幼い頃は夫に愛されない自分に酔っているのだと思っていた。

 だが、そうではないらしいと最近気づいた。

 母がどんな理由で荒れているにせよ、罵倒はドMな私にはご褒美だった。

 だから、荒れた母に付き合っていたのだが、罵倒だけでなく暴力行為に及びようになったので「駄目だこいつ! 早く何とかしないと!」と前世で読んだ漫画の主人公と同じ事を思い始めた。

 私はドMではあるが肉体の苦痛ではなく罵倒で悦ぶタイプだ。

 言葉の暴力という言葉があるが、私には肉体への暴力のほうが遙かに痛いのだ。

 どれだけ言葉の刃を振るわれてもドMな私にはご褒美だが、肉体で受ける打撃は痛みと傷が残るので、ごめん被りたい。

 転生者で精神年齢が大人な私は幼い頃から荒れた母の代わりに公爵の仕事をこなしていたし、部下達は有能なので母を「排除」しても何の問題もない。

 前世から家族に恵まれなかったからか、ドMな性質故か、肉親だろうと邪魔だと思えば手を掛ける事も厭わないし罪悪感など抱かない。

 こんな私を「理解できなくても否定しないし受け入れる」と言ってくれた「彼」だけが私には特別なのだ。

 けれど、この世界でも親殺しは最大の禁忌だ。、直接手を下す事は避けたかった。

 だから、まず母の心を折る事にした。心を折れば大抵の人間は自殺してくれるからだ。

 無理なら暗殺者プロを雇って殺そうと決意した。前世でも邪魔な人間は、そうやって始末してきた。今更ためらったりはしない。

 私の十五の誕生日、中等部の卒業式だった。

 この日も荒れて暴力を振るう母に、私は母の心を折る前に幼い頃からの疑問をぶつけた。

「幼い頃は夫に愛されない自分に酔って悲劇のヒロインごっこを楽しんでいたと思っていたのですが、どうして本気で相愛の婚約者から引き離して無理矢理結婚した自分がお父様に愛されると思い込めたのですか?」

 これは純粋な疑問で、母の心を折るための言葉ではなかったのに。

 母は化物を見るような目で私を見た後、三階の自室のバルコニーから飛び降りた。

「計画通り」ではなかったが呆気ないほど簡単に母は死んだ。

 私は労せず邪魔者を始末できたが疑問に答えてもらえなかったのは少しだけもやもやする。

 だから、母が亡くなった後、何気なく家令に疑問をぶつけると彼は苦い顔で「推測ですが」と前置きして話してくれた。

 母は美しく聡明な自分に自信を持っていた。まして、父の婚約者は自分がずっと見下していた従妹。無理矢理の結婚だろうと簡単に父の心を得られると思い込んでいたのだ。

 誰もが美人に恋する訳ではないのに。

 おそらくは家令の推測通りだと思う。生前の母の性格からして。




 母の葬儀が済んだ翌日、一年の喪に服す事なく父が愛人とその子供達(私の弟妹)を連れて本邸に乗り込んで来た。

 それからの日々は母と過ごした頃と変わらない。

 むしろ、自分を虐げる人間が増えただけ他の人間には地獄だっただろうが私には天国だった。

 母の家の金で生きている事を棚に上げ相愛の自分達を引き離した母を憎み、その母が亡くなっても外見が母に酷似した私も憎んでいる父と継母。

「お姉様、ズルイ」が口癖で私の物を何でも奪い取り、挙句、私の婚約者まで奪い取った異母妹ズウルーイモート。

 まあ、元々物に執着していなかったから奪われても悲しくはないし、何より王命で王家の不良物件を押し付けられて嫌で嫌でたまらなかったから、あの馬鹿を奪ってくれた事は感謝しているけどね。

 唯一、異母弟イッケンマットモーナシイスコオンことマットだけが私を姉として慕ってくれたが、ドMな私は私を苛めない弟には興味ない。



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