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SかMか
8(終)
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ぱちっと目を開けると、イケメンという言葉では到底足りない超絶美形が映った。
漆黒の短髪が映える雪花石膏のごとき肌、雪の日の空のような淡い灰色の瞳、均整の取れた長身。
マットは中性的だが、彼は優美でありながら精悍な印象だ。前世の彼と同じように。
「……まだ起きてたの?」
キングサイズのベッドに私と彼は一緒に横たわっている。窓から入る外灯の明かりで何とか顔が分かる。まだ夜は明けていないのだ。
「寝られない。寝たら夢のような気がしてね」
今日、私は目の前の彼、デアードエッス帝国のドナティアン・ドーサッド侯爵と結婚した。今生でも彼は私より十歳年上だ。
で、まあ、初夜を済ませて私はそのまま寝てしまったのだが、どうやら彼は、ずっと起きていて私の寝顔を見ていたようだ。
「夢じゃないわ。夢だったら困る」
私は彼に抱きついた。
弟が十八になると私は宣言通り、エッスニーモナッレエル公爵家を譲り、ドナティアンと結婚しデアードエッス帝国のドーサッド侯爵領の領主館で暮らす事になった。
元々、弟にエッスニーモナッレエル公爵家を譲るつもりだったので、家とは関係ない私好みのドSでイケメンな夫候補を探していた。見つからなければ最終的には私好みのイケメンに限定するが前世のように身売りするつもりだった。
そんな時に、ある夜会で出会ったのが、デアードエッス帝国のドナティアン・ドーサッド侯爵だ。
彼は普段領地に籠っていて自らが行っている商売絡みでない限り自国の社交にすら参加しない事で有名な侯爵だった。
私も自らが行っている商売絡みの社交でない限り夜会には参加しないので今生で出会う事はなかった。
受ける印象は同じでも前世とは容姿が違う。
それでも一目で気づいた。
「彼」だと。
前世の私の義理の息子。
「理解できなくても否定しないし受け入れる」と言ってくれた私の唯一で特別な人。
だから、容姿がどれだけ変わっても「彼」ならば分かる。
彼もどういう訳か、一目で「私」だと気づいた。
私も彼も人目を惹く立場と容姿なので誰もいない庭の木立で話す事になったのだが、そこで、なぜか彼は私に求婚してきたのだ。
「婚約破棄したボンクラでMじゃないヴォンクウラデーム王子は我が国に売られ君は今フリーだ。俺の求婚を受けても支障ない立場だろう?」
出会ってすぐの求婚に戸惑っているだけだが、すぐに了承しない私に彼は苛立っている様子だ。
「え、でもプロボーズだなんて。出会ったばかりで」
プロポーズ自体は嬉しい。前世から愛している男性からなのだから当然だ。
けれど、彼が求婚してくる理由が分からないから戸惑うし受け入れられないのだ。
「君にも前世の記憶があるだろう? だったら、『出会ったばかり』というのは違うと思うが?」
彼は呆れ顔になった。
「……そうだけど、何で私と結婚したいの?」
今生の私もだが彼の家も裕福な高位貴族だ。財産や権力目当ての求婚というのではないだろう。
「前世から惚れていた女と結婚したいと思うのは当然だろう?」
「はい?」
彼は今さらっと、とんでもない科白を言った気がする。
「……やっぱり気づいてなかったんだな」
彼は苦笑した。
「惚れてなきゃ、義母に手を出したり、大金を払ってまで自分のものにしようとはしないよ」
確かに、言われてみれば彼ほどの男性であれば、若く美しい外見だけが取り柄のドMな義母に手を出したり買ったりしなくても簡単に心身共に美しい女性を手に入れられる。
「あの堅物な義父が大金を払ってまで妻にした女だ。最初は興味本位だったよ」
興味本位で義母に手を出した結果、体の相性が最高だった。さらには、私がドMだと知っても、それごと受け入れようという気になったので体だけでななく私自身を手に入れたいという自分の恋心に気づいたのだという。
「前世の最期に言ってくれただろう? 『俺』でなければ駄目だと。その気持ちは変わってしまったか?」
前世では飄々としていた彼が不安そうな顔をしている。私への恋心故だと思うと失望などしない。むしろ嬉しかった。
「いいえ。『貴方』であれば、外見が余程のブサメンでない限り抱かれてもいいと思っていたわ」
幸い彼は今生でも完璧に美しいが。
「私は生まれ変わっても『私』のままよ。他人が理解できず到底受け入れられない女だわ。それでも、結婚してくれるの?」
彼は私を抱きしめた。
「理解できなくても否定しないし受け入れる。その気持ちは今生でも変わらない」
私も彼を抱きしめた。
「愛しているわ。今度は夫婦として共に生きましょう」
生まれ変わっても、私は「私」のまま変わらなかった。
誰もが受け入れられないだろう私を受け入れてくれた唯一の人と、今生は愛人や義理の母子としてではなく相愛の夫婦として生きていきたい。
私にとって人間は二種類しかいない。
サドかマゾか。
それでも私を理解できなくても否定せず受け入れてくれた「彼」だけは、そんなの関係なく唯一で特別だ。
今生を共に生きる私の愛する夫。
貴方が私を否定しない限り、私も貴方を否定しないし受け入れて愛していくわ。
後書き。
ドナティアンはサディズムの由来になったサド侯爵の名前からとりました。
漆黒の短髪が映える雪花石膏のごとき肌、雪の日の空のような淡い灰色の瞳、均整の取れた長身。
マットは中性的だが、彼は優美でありながら精悍な印象だ。前世の彼と同じように。
「……まだ起きてたの?」
キングサイズのベッドに私と彼は一緒に横たわっている。窓から入る外灯の明かりで何とか顔が分かる。まだ夜は明けていないのだ。
「寝られない。寝たら夢のような気がしてね」
今日、私は目の前の彼、デアードエッス帝国のドナティアン・ドーサッド侯爵と結婚した。今生でも彼は私より十歳年上だ。
で、まあ、初夜を済ませて私はそのまま寝てしまったのだが、どうやら彼は、ずっと起きていて私の寝顔を見ていたようだ。
「夢じゃないわ。夢だったら困る」
私は彼に抱きついた。
弟が十八になると私は宣言通り、エッスニーモナッレエル公爵家を譲り、ドナティアンと結婚しデアードエッス帝国のドーサッド侯爵領の領主館で暮らす事になった。
元々、弟にエッスニーモナッレエル公爵家を譲るつもりだったので、家とは関係ない私好みのドSでイケメンな夫候補を探していた。見つからなければ最終的には私好みのイケメンに限定するが前世のように身売りするつもりだった。
そんな時に、ある夜会で出会ったのが、デアードエッス帝国のドナティアン・ドーサッド侯爵だ。
彼は普段領地に籠っていて自らが行っている商売絡みでない限り自国の社交にすら参加しない事で有名な侯爵だった。
私も自らが行っている商売絡みの社交でない限り夜会には参加しないので今生で出会う事はなかった。
受ける印象は同じでも前世とは容姿が違う。
それでも一目で気づいた。
「彼」だと。
前世の私の義理の息子。
「理解できなくても否定しないし受け入れる」と言ってくれた私の唯一で特別な人。
だから、容姿がどれだけ変わっても「彼」ならば分かる。
彼もどういう訳か、一目で「私」だと気づいた。
私も彼も人目を惹く立場と容姿なので誰もいない庭の木立で話す事になったのだが、そこで、なぜか彼は私に求婚してきたのだ。
「婚約破棄したボンクラでMじゃないヴォンクウラデーム王子は我が国に売られ君は今フリーだ。俺の求婚を受けても支障ない立場だろう?」
出会ってすぐの求婚に戸惑っているだけだが、すぐに了承しない私に彼は苛立っている様子だ。
「え、でもプロボーズだなんて。出会ったばかりで」
プロポーズ自体は嬉しい。前世から愛している男性からなのだから当然だ。
けれど、彼が求婚してくる理由が分からないから戸惑うし受け入れられないのだ。
「君にも前世の記憶があるだろう? だったら、『出会ったばかり』というのは違うと思うが?」
彼は呆れ顔になった。
「……そうだけど、何で私と結婚したいの?」
今生の私もだが彼の家も裕福な高位貴族だ。財産や権力目当ての求婚というのではないだろう。
「前世から惚れていた女と結婚したいと思うのは当然だろう?」
「はい?」
彼は今さらっと、とんでもない科白を言った気がする。
「……やっぱり気づいてなかったんだな」
彼は苦笑した。
「惚れてなきゃ、義母に手を出したり、大金を払ってまで自分のものにしようとはしないよ」
確かに、言われてみれば彼ほどの男性であれば、若く美しい外見だけが取り柄のドMな義母に手を出したり買ったりしなくても簡単に心身共に美しい女性を手に入れられる。
「あの堅物な義父が大金を払ってまで妻にした女だ。最初は興味本位だったよ」
興味本位で義母に手を出した結果、体の相性が最高だった。さらには、私がドMだと知っても、それごと受け入れようという気になったので体だけでななく私自身を手に入れたいという自分の恋心に気づいたのだという。
「前世の最期に言ってくれただろう? 『俺』でなければ駄目だと。その気持ちは変わってしまったか?」
前世では飄々としていた彼が不安そうな顔をしている。私への恋心故だと思うと失望などしない。むしろ嬉しかった。
「いいえ。『貴方』であれば、外見が余程のブサメンでない限り抱かれてもいいと思っていたわ」
幸い彼は今生でも完璧に美しいが。
「私は生まれ変わっても『私』のままよ。他人が理解できず到底受け入れられない女だわ。それでも、結婚してくれるの?」
彼は私を抱きしめた。
「理解できなくても否定しないし受け入れる。その気持ちは今生でも変わらない」
私も彼を抱きしめた。
「愛しているわ。今度は夫婦として共に生きましょう」
生まれ変わっても、私は「私」のまま変わらなかった。
誰もが受け入れられないだろう私を受け入れてくれた唯一の人と、今生は愛人や義理の母子としてではなく相愛の夫婦として生きていきたい。
私にとって人間は二種類しかいない。
サドかマゾか。
それでも私を理解できなくても否定せず受け入れてくれた「彼」だけは、そんなの関係なく唯一で特別だ。
今生を共に生きる私の愛する夫。
貴方が私を否定しない限り、私も貴方を否定しないし受け入れて愛していくわ。
後書き。
ドナティアンはサディズムの由来になったサド侯爵の名前からとりました。
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