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1話

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「テラ今日も大変だったね」

「大変なのはメルの方だよ。
   僕はただメルが1人で戦っているのに魔法で回復したり、強化するだけだもん」

「ううん、そんな事ないよ。
   テラが強化してくれるお陰で楽に戦えるし、僕が怪我をしてもテラが治してくれるから怖いモンスター相手にも戦えるんだよ。
だからテラも自信を持ってよ」

   メルとテラは小さな村で育ち幼馴染として育ち15歳になり村を出て、各地を周り町で困っている事があれば助けたり、自分達のレベルを上げるために魔物退治なども行っている。
この世界は魔王に脅かされておりそれを救うために二人で旅をしている。

   魔王の力は絶大であり各国が魔王を倒すために様々な支援をしている。
   その一つが冒険者ギルドであり、ギルドに登録している者は様々な特典を受けられる。
二人はそんな冒険者ギルドに登録している冒険者である。

「メル、無理して僕と組まなくても良いんだよ。
勇者のメルならもっと強い人達と組んだ方が…」

「僕はテラと一緒に魔王を倒したいの。
   だからこれからも一緒に戦おうよ、ね」

「分かったよ、でも一つだけ約束して欲しい。
 足手まといだと思ったら遠慮なく切り捨てて欲しい」

「やだよ!その時は一緒にレベル上げ頑張ろうよ」

テラは頭を横に振るがメルはじっとテラの事を見ている。
テラは諦めて「分かったよ」とだけ返事をした。

 この世界ではレベルという強さの基準がある。
レベルは経験値を得ることにより上がっていく。
魔物や人間を倒すと倒した相手の強さに応じて経験値となりある一定までいくとレベルが上がる。

 そして職業があり、これは神殿にて祈りを捧げると職業に就いたり、変更したり出来る。
どの職業になれるかは個人差があり、希望したからと言って確実になれる訳ではない。
テラの回復術師は数は少ないが上位互換の賢者があるため人気はない。
 メルの職業勇者は歴史上初めての現れた職業であり、その実力から世界を救う者とし各国の王からも認められている。

2人は魔物討伐が終わり街へと戻る。
ギルドに戻り討伐報告をし宿へと帰る。
宿は少しでもお金を浮かす為に同室にしている。
本来なら女のメルと男のテラで分けて部屋を取るべきなのだが幼馴染という事もあり2人に抵抗はない。

「ふー今日も疲れたね。
 僕は汗を流してくるけどテラはどうする?」

「僕は今日壊れてしまったメルの手甲を探してくるよ」

「あっ忘れてた、じゃあ一緒に行くよ」

「大丈夫だよ、手甲ならメルと僕のサイズは一緒だからメルが来なくても大きさが分かるから、
メルは疲れてるだろうから先にお風呂に入っていおいでよ」

 テラはそう言って部屋を出て行った。
メルは買い物をテラに任せてお風呂へと向かう。

「はぁーメルに頼りっぱなしじゃ男としてダメだよな…
 村のお爺さんからもメルを引っ張れるような男に成れって言われてたのに…:

 テラは町を出て近くの森の中に入り杖を振るう。
杖は鉄製の固い先端をしておりテラの振るう杖が木に当たる度に木がえぐれていく。
テラは自分も少しでも戦えるように体を鍛えていた。
   その後魔法の訓練を始める。攻撃魔法は本来なら回復術師のテラには使えないのだがテラは何とか攻撃魔法を覚えられるように頑張っている。
   テラは日課の訓練を終え町に戻り手甲を探す。見つかった手甲はメルに似合う満足な物であった為購入して宿へと戻る。
   宿に入るとメルが誰かと話していた。

「あっ!テラ!
   ギルドの人が来て明日話がしたいって言ってるんだけどどうかな?」

「僕は大丈夫だよ。
明日何時ごろギルドに行けばいいの?」

「明日の昼過ぎ1時頃ギルドの会議室にてお待ちしております。
他にも優秀な冒険者の方々がいらっしゃる予定ですのでお気を付けて下さい。
それでは私は失礼いたします」

ギルド職員が去り2人は明日の事を色々と話し合った。


 次の日メルとテラは指定された時間にギルドへと向かった。
ギルドには既に10名程の冒険者が居り説明が始まるのを今か今かと待っていた。
2人は端っこの席に座り説明が始まるのを待つ。
 しばらくして1人の男が現れ自己紹介を始める。

「よく集まってくれた、俺はこのギルドのマスターだ!
 今日集まってもらったのはこの町の近くで見つかった魔物についてだ。
 見つかったのはドラゴンだ!
 種類は分からないが相当大きいそうだからAクラスかSクラスだろう」

「ちょっと待てドラゴンなら早く避難命令を出してこの町から人を逃がした方がいいんじゃないか?」

「事態はそう簡単ではない、ドラゴンが現れたのは街道沿いなのだ。
 知っての通りこの町は山に囲まれており住民が一斉に逃げるには街道を使うしかないのだが、その街道にドラゴンが居ては町の者が全員逃げるのは不可能だろう。
 だからここに居る者でドラゴンを討伐するのだ」

 
 全員この町では凄腕の冒険者達なのだが皆話しを聞いて黙ってしまった。
魔物のランクは下はGランクから始まり最高がSランクとなっている。
Aクラスの魔物はAクラスの冒険者が5人集まれば倒せると言われており、その上のSランクの魔物は測定不能という意味である。
ギルドの冒険者ランクも同様にG~Sランクまでとなっている。(メルとテラはCランクである)
今回現れたドラゴンがAかSランクと聞いて黙ってしまうのも無理はない。

「皆の考えている事は手に取るように分かるが、今回は希望もあるのだ!
この国の王様より勇者と認められた者がここには居る。
その者を中心に戦えば勝機は見えるだろう」

ギルドマスターは話しながらメルの方を見る。
他の者も視線をメルへと向ける。

「本当にこの嬢ちゃんがそんなに強いのかよ?」
「俺の方が強そうじゃね?」

 メルの強さに疑問の声が上がる

「うるせぇ!この嬢ちゃんはな昨日もジャイアントグリズリーとキングゴブリンを討伐してるんだぞ!
お前らは回復術師と2人でそんなAクラスの魔物を討伐出来るのか?どうなんだ!?」

 全員が黙ってメルの事を見ている。
そして…

「そんな強い奴が居るならドラゴンだっていちころだぜ」
「嬢ちゃんがそんな強いとは…」
「もう勝ったも同然だな」
「ドラゴンなんてぶっ飛ばしてやるわ」

 既に勝ったかのような騒ぎになった。
メルはオロオロしている、その横でテラは複雑な思いを抱えていた。
テラはメルが評価されて嬉しいが、自分は全く役に立ててない事を悔やんでいた。

「お前ら!ドラゴン討伐は今から1時間後にギルドの前に集合だ!
それまでに武器を整えておけよ」

 ギルドマスターはそう言って部屋を出て行った。
メルは冒険者に囲まれて質問攻めに逢っている。
その様子をテラはじっと見つめていた。


1時間後ギルドの前
 先ほどの会議に出ていた冒険者が全員集まり出発を待っている。

「テラ!ドラゴンだって初めて見る魔物だから緊張しちゃうね」

「今から緊張してたら持たないよ、ドラゴンの所までは2時間掛かるみたいだからね」

「うーそうなんだけどね…」

 二人はそんな話をしながら馬車に乗り込む。
すると既に乗り込んでいた3人からメルが話し掛けられる。

「あなた勇者なんでしょどういう魔法を使えるの?」
「君ほど美しい人が戦っているなんてこの世は残酷だ」
「後で是非手合わせをお願いしたい」

 メルは困っているが一人ひとり丁寧に対応していく
テラは困っているメルを助ける事も出来ずにただ見ているだけだった。
馬車の中でワイワイ話していると御者をやっているギルド職員から声が掛かる。

「そろそろドラゴンの目撃地点に着きますので準備してください」

 馬車の中に緊張感が走る。
すぐに馬車は止まり全員馬車から降りるように促される。
馬車から降りると左側が岩場で右側の少し離れた所に森が見える。
ギルド職員の話ではドラゴンは森の中で目撃されたようだ。
全員が森を見て固唾を飲んでいる。

「さてドラゴンはどこに居るのかな?」

1人の戦士が森を見ながら呟き前に進み出る。

「おい、気をつけろよ」

 ギルドマスターが心配して声を掛ける。
戦士が森の方に少し歩いていると突然辺りが暗くなる。

「上だ!」

 視線を上に向けるとそこには巨大なドラゴンが飛んでいた…

「あれはスカイドラゴンだ!風魔法が得意でスピードも速いから気をつけろ!
魔法を使える奴は強力な奴を叩きこんでやれ!
それ以外の奴は防御を固めて待機だ」

ギルドマスターからの指示に全員が従う。
魔法使いが魔法を使おうとした時スカイドラゴンは急降下してきて前に出ていた戦士に向かっていく

「やばっ!」

 慌てて逃げる戦士だが間に合いそうにない、魔法使い達は早く魔法を使おうと詠唱を行うが間に合わない
ドラゴンが戦士に噛みつこうとした時メルが飛び出した。

「てやっ!」

 メルはドラゴンの翼に向かって剣を振るう
その剣は躱されてしまいスカイドラゴンは再び上空へと戻っていった。

「すまねぇな嬢ちゃん」

「いえ、それよりも早く盾を構えて防御姿勢に」

 戦士はすぐに盾を構え防御姿勢を取る。
その時テラは詠唱を終え全員に防御力UPの魔法を使い、すぐさま次の魔法を使おうと詠唱を始める。
 ドラゴンは上空で口を開きエネルギーを貯めているようだ。

「不味いブレスが来るぞスカイドラゴンのブレスは空気を圧縮した物で目には見えないから結界を張るから全員集まれ」

 ギルドマスターの周りに全員が集まり防御姿勢をとっている。

「ゴオァァァァァァァァーーー」

 スカイドラゴンの不可視のブレスが結界を襲う。

「きゃあっ!!」
「ぶはっ」

結界の一部がブレスにより破壊され2人がダメージを受けてしまう。

「怪我をした奴は馬車まで下がれ!
 うちの職員が治してくれる」

 2人はよろよろと立ち上がり馬車へと向かう。
スカイドラゴンは上空でこちらの様子を伺っているようだ。
その隙にテラは魔法の攻撃力が上がる補助魔法をメルに使う。
メルは勇者しか使えない雷魔法の詠唱を終わらせをドラゴンに向けて放った

「サンダーレイン!」

スカイドラゴンの上より雷が無数に発生しスカイドラゴンを襲う。

「ギョォォォエエエエーー」

スカイドラゴンは凄まじい声を上げて落下してくる

「落ちて来たよ皆武器を構えて!」

メルの魔法に驚いていた一同が慌てて武器を構える。
落ちてきたドラゴンに向けて魔法使いたちが一斉に魔法を使う。

「ファイアーレイン」
「トルネード」
「ダークボール」

 名の売れた冒険者だけあって皆強力な魔法を使う、スカイドラゴンは魔法の直撃を喰らってしまいダメージを受ける。

「よしっ!効いているぞ!このまま畳み込むぞ」

 ギルドマスターはそう言って斧を背負ってスカイドラゴンが落ちてくる所に猛スピードで向かって行った。
しかしスカイドラゴンは落ちてくる途中で体勢を立て直して空中に留まっている。
再びメルは魔法を使おうと詠唱を始める。
テラはメルに速度上昇の補助魔法を使う。

「おい誰かあのデカブツを落としてくれ!」

 ギルドマスターの声に魔法使いたちも再び詠唱を開始する。
するとスカイドラゴンはメルとテラをじっと見つめた後森の奥の方に猛スピードで飛び去ってしまった。

「逃げたのか…?」

 急にスカイドラゴンが飛び去ってしまった為呆然としている。
しかし次の瞬間喜びを爆発させた。

「勝ったぁぁぁ!!俺達が勝ったんだぁ」

やはり皆ドラゴンを相手にするのは怖かったのか凄まじい喜びようである。
喜びがひと段落した後にメルへの賛辞が続く。

「やっぱり勇者って凄いな」
「メルちゃん最高」
「あの雷魔法はなんて魔法なの?」

メルへの賛辞は止まらずそれは町に着いてからも続いた。


 町では様々な人がお礼を言ってきたり涙を流して喜ぶものまでいた。

「Sクラスのドラゴンを追い払ったんだ、皆誇って良いぞ!
今日は町の金で宴会だぁー」

ギルドマスターはドラゴン討伐というプレッシャーから解き放たれたのかはしゃいでいる。

「テラ!私達凄い事やったんだね」

「そりゃスカイドラゴンなんて今まで国の軍隊が全滅させられたとか町が1つ全滅したとかいう化け物相手に誰も死ぬことなく追い払ったんだから」

「そうだよね、私達凄い事やったんだよね」

 凄い事をやったのはメルだけだよと言いたい気持ちをグッとこらえるテラ、周りの者は皆自分達が凄いことやったと自慢しているがテラはそんな気分になれない。

「メル、気分悪いから先に宿に帰ってていいかな?」

「大丈夫?じゃあ私も一緒に宿に戻るよ」

「おいおい今日の主役さんがどこ行こうって」

酔っぱらったギルドマスターにメルは絡まれ連れてかれてしまう。
テラは1人先に宿に戻り今日の事を考えていた。

(どうしてスカイドラゴンはあそこで逃げて行ったんだろう?
ダメージがあったとはいえまだまだ戦えたはずなのに…
それに逃げる前僕とメルの事を見ていたのはなんだろ?)

テラは考えている間に眠ってしまった。


「テェ~ラァ~!どうして先に帰っちゃうのよ!私も一緒に戻りたかったのに」

「うん……ごめんごめん、僕じゃどうしようもないと思ったから」

「もう!ちゃんと次は守ってよね」

 メルは言い終わると着替えをし始めた。

「ちょっと僕ここに居るんだけど!」

「テラなら見られても大丈夫だよ~」

「さてはメル酒を飲んだな!全く酔っぱらっちゃって…」

 メルは着替え終わるとテラのベッドに潜り込んできた。

「今日は久しぶりに一緒に寝ちゃダメかな?」

「ダメだよ!久しぶりって一体何歳の頃の話してるの?一緒に寝てたのなんて5歳ぐらいまででしょ」

「ぶぅ~頑張ったご褒美に一緒に寝てもいいじゃない」

「だーめ、さあ早く自分のベッドに行って」

メルはテラのベッドから動かない、どうやらそのまま眠ってしまったようだ。
テラはメルの髪を撫でて「頑張ったね、おやすみ」と声を掛けメルのベッドで寝る事にした。

 
 翌朝ギルドの職員がメルたちの泊っている宿を訪れギルドとして表彰したいとの打診があった。
しかしメルがテラが一緒じゃないならと辞退した。
それから何日間か過ぎた時ギルドにAランク冒険者のパーティーが訪れていて騒ぎになっていた。
この国ではSランクの冒険者はおらず最高がAランク冒険者なのだ。
Aランク冒険者も数が少なく国全体で30人程しかいない。
Gランクから始まる冒険者ランクはEクラスで一人前、Cクラスでベテラン扱いをされることを考えればAランクというのがいかに規格外か分かる。
そんなAランク冒険者のみで結成されたパーティー【セラスの剣】がこの町に来ているのだ、騒ぎになるなという方が無理である。
 メルとテラは混雑しているギルドを避けて宿に戻りのんびりしているとギルドの職員が再び宿を訪ねて来た。
用件はこの国の王様より表彰をしたいとの手紙をセラスの剣が持って来たらしく、明日にはセラスの剣と共に王都へと向かって欲しいとの事であった。
またテラは呼ばれていないのでメルは断りを入れる。
職員は驚いていたが分かりましたと言ってその場を去っていった。

「メル本当に断って良かったの?」

「良いの!テラが一緒じゃなきゃ表彰なんて受けたくないもん」

「でも王様相手に断ったら周りが不敬だとかうるさいと思うよ」

「それでも良いの!」

「何をそんなに怒ってるのやら
   それよりも今日はもう遅いから宿のご飯で良い?」

「うん、それでいいよ」

   2人がご飯を食べようと宿併設の酒場へと行くと酒場は賑わっていた。
2人は数少ない空いているテーブルに腰を掛けると料理を注文した。
料理を待ってる間何度もメルが絡まれ、その都度適当にあしらった。
料理が運ばれて食べていると4人の冒険者が酒場に入ってきた。
空いてる席がここしかないと強引に相席させられる2人。

(テラ面倒くさそうな人達だから早く食べて部屋に戻ろうね)
(分かった、急いで食べちゃお)

2人が急いで食べてると冒険者達がメル達に話し掛ける。

「貴女がメルよね?どうして王様からの表彰を断ったの?多分勲章やら爵位やらも貰えるはずなのに」

「別に私はそんなのが欲しくて魔物と戦っているんじゃありませんから」

「ふーん流石勇者様ね。
紹介が遅れたけど私達はセラスの剣というパーティーよ。
私は魔法使いのアイナよ、ヨロシクね」

メルは挨拶されてしまったので仕方無く挨拶を返す。
その間テラはセラスの剣から無視されている。

「もし良かったら私達とパーティーを組まない?
これでも私達この国では一番のパーティーなんだけどどうかな?」

「折角のお話ですがお断りさせて頂きます」

「理由を聞いてもいいかな?」

「私達は2人で旅をしているので、特に他人の手助けを必要としておりませんので」

「本当にそうかな?
   貴女がそう思っていても一緒に旅している回復術士の君はどうかな?」

「僕はメルの言う事に従いますので」

   テラは本当は戦力が増えた方が良いとは思っているが、ここでそんな事を言えばメルがへそを曲げてしまうので自重した。

「そっかー私達は明日の昼前までこの町にいる予定だから気が変わったら言ってね」

(アイナさんの話は終わった様だが、さっきから横に居る3人が僕の事をずっと睨んでるの止めさせてくれないのかな)

2人は食事を終えると逃げるように部屋へと戻って行った。

「なんか面倒な人達だったね、明日この町を出るって言ってたからそれまでは会わないようにしましょう」

「でもセラスの剣と言えば国王様から国の名前をパーティー名に使っていいって許可を得ている程だから、凄い人達だと思うよ。
もし僕に遠慮して断ったなら…」

「それ以上は言わないで!
私はテラと一緒に旅をしたいの、だからこの話はお終いね
じゃあ私はお風呂に入ってくるから」

メルは部屋を出ていってしまった。

(僕はどうすれば良いんだろう)

   テラは布団の上に寝転がりながら考える。
自分にもっと力が有ればメルの横に並んで戦えるのに、攻撃魔法が使えれば、防御力が高ければ、と決して回復術士のテラには出来ない事ばかり考えて自己嫌悪してしまう。

「このままじゃダメだ、メルが戻ってきたらお風呂に入って頭を冷やそう」

   テラはメルがいない間にメルの武器と防具の手入れをしておく。
普段はメル本人がやるのだが、やり方が荒い為たまにテラがやってあげているのだ。

「この武器でスカイドラゴンに斬りかかったんだよな…」

   テラは自分なら到底出来っこないと再び自己嫌悪に陥ってしまう。
すると部屋のドアを誰かがノックする。

(メルにしては早いな?こんな時間に誰だろう?)

ドアを開けるとそこにはセラスの剣の4人が立っていた。

「君と話がしたいんだけど良いかな?」

「メルじゃなく僕に話ですか?」

「そう君にだよ」

   どうするかテラが悩んでいると

「寄生虫野郎がそんな事も自分で決めらんねぇのか!」

「止めろライザー!」

「でもよこの寄生虫野郎が…」

「止めろと言ったはずだ!」

「ちっ分かったよ!」

「それで話をしたいんだがどうかな?
後ろの3人が怖くて話せないというなら私と差しで話をしようじゃないか」

「分かりました、なるべく手短にお願いします」

「分かった、では私の部屋で話そう」

   アイナは他の3人とはその場で別れテラを連れて部屋へと向かう。
その時3人からテラに罵声を浴びせられアイナに窘められていた。
部屋に着くとアイナに座るように進められ着席するテラ

「単刀直入に言わせてもらうわね、貴方は勇者のお荷物になってるからパーティーを解散しなさい」

いきなりの言葉に戸惑うテラ、しかしアイナの言葉は続く

「あの子は魔王を倒せる力を持ってるわ、それに比べて貴方はただの回復術士、そんな貴方が一緒に居る事であの子の負担になってるとは思わないの?」

「僕だってそう思ってるけど、でもいつかはメルと肩を並べて…」

「それは無理ね、ただの回復術士がいくら頑張ったってあの子と肩を並べて戦う事は出来ないわ、それは貴方が一番分かってるでしょ?」

「でも転職して強くなれば」

「それは何年後?世界は今魔王の危機に晒されているの、貴方1人の都合でこの世界は魔王に滅ぼされてしまうのかもしれないわよ?
いい、あの子が私達セラスの剣に入ればすぐにでも魔王討伐に向けて旅立てるのにそれを貴方が邪魔をしているのよ!
はっきり言って貴方は人類の敵でしかないわ」

   そこまで言われてテラは黙ってしまう。

(僕だって必死にやってるのにどうしてここまで言われなきゃならないんだ)

   テラは悔しさで唇をギュッと噛んでいた。

「私達は明日この町を出るけど、それまでにあの子とパーティーを解散してなければ王都に戻った時に貴方達をこの国に仇なす逆賊として王様に報告しておくわ。
そうなればあの子も犯罪者として皆から追われる立場となってしまうでしょうね」

「そんな…それは余りにも酷過ぎます!」

「でもそうしてあの子を奴隷にでもして戦わせる以外何か方法がある?
このまま足でまといの貴方と2人で旅をしていたら魔王を倒すのはいつになるか分からないじゃない
だからあの子を犯罪者として奴隷にした後私達セラスの剣に入れてしまうのが手っ取り早いのよ」

   テラは思考をフルに使ってどうすれば良いか考える。
しかし名案は思い浮かばない…

「私の用件はこれだけよ!後は貴方がどうすればいいのか自分で考えて」

 そう言ってアイナはテラを部屋から追い出す。

「期限は私達が出発してしまう明日の昼前までだからね」

 ドアの閉まり際に最終通告をしてくる。
テラは自室に戻りどうすればいいのか考えるが答えは決まっている。

(僕が出て行けば良いのか?そうしたらメルは僕という足枷がなくなって魔王を倒せるのか?
僕がメルの足手纏いになっているのは確かだしどうする)

テラが悩んでいるとメルがお風呂から帰って来た。

「テラどうしたの何か思いつめたような顔をして?」

「大丈夫だよ、ちょっと考え事をしていてね。
それよりも武器と防具の手入れやっといたからチェックしといてくれよ」

テラは手入れを終えていたメルの武器と防具を手渡す。

「うん、いつもありがとね!私が自分でここまで出来れば良いのだけどごめんね」

「気にするな、それより僕はお風呂に入ってくるけどメルは今日は疲れただろうからそろそろ寝たら?」

「そうだね、そうさせて貰おうかな」

「うん、お休み」

 テラは部屋を出てカギを閉めてお風呂へと向かう。
幸いお風呂には誰もおらず一人で湯船に浸かりながらゆっくりと考える。

「よしっ決めた!とりあえずメルに事情を話してみよう!僕一人で決めたらメルは絶対怒るもんね」

そう決めたら素早く風呂を出て服を着るテラ、脱衣所を出た時アイナの仲間の3人がテラを取り囲む

「よう寄生虫野郎、まだこの宿を出て行ってなかったのか?早く出て行けよ」

テラは話すことは無いと横を通り過ぎようとするが、通せんぼをされ壁に追いつめられる。

「何逃げようとしてやがるこのゴミ虫が」

「面倒だからこのまま町の外に放り出してやろうぜ」

「名案だな!よしお前が出て行くの手伝ってやるぜ」

「何をするんですか!」

 男たちはテラのお腹を殴った後に眠り粉を嗅がせ意識を失わせると、テラを袋の中に縛ってから入れて町の外へと連れだした。
町の外に出てしばらく行った所に止まっていた馬車の荷台にテラを入れた袋を紛れ込ませその場を離れる。

「よしっこれであの寄生虫野郎は戻ってこれねえだろう」

「えげつねえことをやるねぇー」

「お前だってあいつを縛ってたじゃないか」

「はっはっはっこの事はアイナには内緒にな、あいつはうるせえからな」

「違えねえ!俺達は酔い覚ましに散歩しただけだ」

 男たちはそのまま去っていってしまった。


 朝になり馬車がテラが居た町とは別の場所へと出発してしまう。
テラの意識がないまま馬車は進んでいく。
馬車は昼になり休憩の為止まった時にテラの意識が戻る。

(どこだここは?体が縛られていて動けない!くそっ口にもロープかなんかがあって声も出ない…
僕は一体どうしたんだ?お風呂に入って………あの3人組だ!)

テラは意識を取り戻したがロープで縛られており、分厚い袋に入れられている為全く動けず声も出せない。
馬車は昼休憩が終わり再び動き出す。

(一体ここはどこなんだ?振動が凄いけど何か乗り物の中なのか?
なんとかしてメルの所に戻らなきゃ!)

テラの思いも空しく馬車は動き続ける。


 一方その日の朝メルは起きたらテラが戻ってきてない事を不審に思い町中を探し回っていた。

(テラどこなの?お願い無事でいて)

町の衛兵やギルドの人に尋ねてみるが誰も分からないという。
メルは荷物を置いてテラが出て行く事はないと判断し何か事件に巻き込まれたと考える、そこにセラスの剣の4人が現れた。

「貴女の相方はどこかに行ってしまったんだって?」
「邪魔な寄生虫野郎が居なくなって良かったじゃねえか」

「貴方達には関係ない事でしょ!どうせテラの居場所を知らないくせに話し掛けてこないで!」

「もし知ってるって言ったら?」

「!本当に知ってるの?」

「ああ、知ってると言えば知ってるよ」

「お願い教えて!お金なら今はあんまりないけどすぐに稼いで払うから!」

「知ってると言ってもどうしたのか知ってるぐらいだけどね」

「えっ!それはどうゆう事?」

 アイナは先日テラに話した事を包み隠さず話した。

「どうしてそんな事を言ったの!?テラが居なきゃ私なんて何も出来ないのに…」

「そんな事はないでしょ、貴女は世界で唯一の勇者という職業になり先日はスカイドラゴンを追い返したって話じゃないか、それで何も出来ないって言われたら私達Aランク冒険者ですら困ってしまうよ」

「でも私にはテラが必要なの!それを貴方たちが…」

「まあそんな怒ないでよあの子は私の話を聞いて自分で貴女の傍を離れたんでしょ?
それなのに貴女がそんなにあの子にご執心してもしょうがないんじゃないかな?」

「そんな事言われても…」

「貴女さえ良かったら私達と一緒に来ない?」

「絶対に嫌です!」

「私達と一緒に来ればあの子も見つかるかもよ?」

「………」

「私達これでも結構名前の売れた冒険者パーティーなの、私達があの子を探してるって言えばもしかしたら見つかるかもしれないよ
それに今日王都に戻るから王様に直接探してってお願いできるかもね」

「…貴方達が余計な事を言ったせいでテラが居なくなったのに何を言っているの?」

「私達は魔王を倒すために貴女の力を借りたいの、その為なら手段は選ばないわ」

「その為にテラを私から引き離したの!許せない!」

「どう思われても構わないけど、貴女こそそれ程の力を持ちながらCランクに居るなんて許される事じゃないわ!
どうして貴女は魔王を倒しに行かないの?
どうしてもっとレベルを上げようとしないの?
貴女なら世界を救えるはずよ!
それなのにどうして貴女はこんな所でくすぶっているの?」

「………」

「私達はどんなことをしても貴女を連れて魔王を倒しに行くつもりよ、
貴女がどんなに断ろうと私はどんな手段を使ってでも貴女を連れ出すわ」

メルは結局押し切られるように王都までセラスの剣と一緒に行く事にし、テラ探しを王様にお願いすることになった。
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