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2話

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 テラを乗せた馬車は2日間走り続け小さな村へと着いた。
そこで馬車の持ち主は積み荷を降ろし始める。

「おいこのでけえ袋はなんだ?」

「そんな袋積んでたか?とにかく開けて中を確認してみろ」

男が袋を開けると気を失っているテラが出てきた。

「なんだこの男は!」

「おい!その男縛られてるぞ…もしかして何か事件に巻き込まれてこの馬車に放り込まれたんじゃないか」

「そうなると俺達も共犯と思われるかも…」

「だが村に入っちまったから今も誰かに見られてるかもしれねえぞ」

男達は2人は悩んだ挙句テラを起こしてみる事にした。
乱暴にテラの身体を揺すり起こしてみる。

「う…うん?」

「おっ起きたか兄ちゃん!大丈夫か?」

「えっと…ここはどこですか?」

「ここはドナ村だ。
   それよりお前さんはどうして馬車に乗っていたんだ?」

「それは変な男達に突然捕まって…」

「やっぱり犯罪に巻き込まれたのか…
俺達はただ馬車の荷を下ろそうとしたらお前さんが居ただけだ。
だからもし町の衛兵とかにその男達の事を訴え出るなら俺達の事は言わないでくれねえか?」

「はい………分かりました」

 男達はテラの返事を聞くとほっとして今までのこわばった表情を崩した。
そして男達はテラをただほっぽり出していくわけにもいかず、荷下ろしの手伝いをする事で余った衣類や少額のお金を渡す事にした。

「それにしても兄ちゃんも災難だったな、なんか悪い事でもしたのか?」

「いえ………特に心当たりはありません」

 テラはここで勇者であるメルと別れさせる為に馬車に投げ入れられたことは言わなかった。
言ったらこの人達が騒ぎ出すかもしれないし、信用されないと思ったからだ。

「そうだろうな、兄ちゃんは如何にもお人好しって感じだもんな!
まあこんな辺鄙な村まで来ちまったんだからあーだこーだ考えてもしょうがねえから荷物を降ろしたらパーッと酒でも飲んで嫌な事は忘れちまいな!」

 テラは積荷を降ろし終わり荷物やお金を貰って男達と別れる事になった。

「じゃあ兄ちゃん大変だろうが頑張れよ!」

「はい、色々とありがとうございます」

「そうだ、このドナの村の近くに最近怖いモンスターがいるらしいから気を付けろよ」

「怖いモンスターですか、分かりました気を付けます」

「じゃあ達者でな」

男達は手を挙げて馬車で去っていった。
 
 実は2人はテラに関わり過ぎて面倒な事に巻き込まれたくなかったので村に泊まらずに出発したのだ。
そんな事は知らないテラは男達を感謝を持って見送った後、男達に教えて貰ったこの村にある唯一宿屋【安らぎ亭】へと向かう。
安らぎ亭はすぐに見つかったがどうやら宿の前で騒ぎが起きているようだ。

「また街道にジャイアントポアが出たのかい?」

「今回は街道沿いに3匹も居たぞ、それを見て俺達は引き返して来たんだ。
今回は早めにジャイアントポアを見つけることが出来たから助かったが、あの街道を通るのは危険だな」

「でもあの街道を通らなくちゃ森を通るしかないだろ?
それこそもっと危険じゃないか、誰かジャイアントポアを倒してくれないかね」

「ジャイアントポアを3匹倒すなんて相当な手練れじゃないと無理だろ、それこそ街に行って冒険者ギルドにでも依頼しないと到底無理な話さ」

 宿屋の前で村の者が口々にジャイアントポアについて話している。
ジャイアントポアは大きい猪みたいなモンスターで体長は5メートルもあり、人間ですら捕食してしまう凶暴なモンスターだ。
ジャイアントポアのランクはCランクでありテラと同じランクなのだが、テラがCランクなのはメルと共にこなした依頼の結果でありテラ一人ではとても太刀打ちできる相手ではない。

「でも街に行くにしても街道はジャイアントポアが塞いじまってるし、森を通るのは危険すぎるし一体どうすればいいのか…」

「そういや今日町から行商人が来てたよな?
もしかしたらジャイアントポアから逃げる術を持っているんじゃないか?」

「確か今日来たのはロック兄弟だろ、あいつらにそんな術があるはずないから偶々助かったんだろ」

「ロック兄弟ならこの村に来たらいつもうちの宿に泊まるからそろそろ顔出すんじゃないかい?」

「おい!そこに知らない奴が居るぞ!もしかしてあの街道を通って来たのか?」

 ようやく声を掛けられずに困っているテラを発見した村人はテラに色々と問いかけてくる。
しかしロック兄弟がどうやってそんな危険な街道を通って来たのかは、ずっと縛られて袋に入っていたテラに知る由もなく何も答えられない。

「ごめんなさい、僕は馬車の中ではずっと寝ていたのでどうやって通ったのか分からないです」

 テラの言葉にあからさまに落胆する村人達。
村人達はその後テラから色々と聞くがロック兄弟はこの村を既に発っていると聞き更に落胆してしまった。
そのまま集まりは散開していきようやくテラは宿屋の女将に泊まりたい旨を伝える事ができた。 
 テラは宿に入りこれからの事を考える。
ロック兄弟から貰ったお金はあと1泊分しかなく武器や防具といった物もなくとてもモンスターと戦えるとは思えない。
どうやってお金を稼ぐか考えていると外から大きな声が聞こえてきた。

「兄貴!しっかりしてくれ!」

「これは酷い怪我だね、一体どうしたんだい?」

「兄貴がジャイアントポアに襲われたんだ早く治療しないと兄貴が死んじまう!」

 どうやらロック兄弟がジャイアントポアに襲われたらしい、兄の方は大怪我をしており意識はないようだ。
弟もあちこち怪我をしている。
テラは部屋の窓から確認するとすぐに表へと出た。
そして大怪我をしている兄の治療をしようと魔法を唱え始める。

「おっ!さっきの兄ちゃんじゃないか!回復魔法使えるのか?」

テラは魔法を唱えている為頭を上下に動かすことで返事をする。
そしてテラが使える最高の回復魔法を使うとロック兄の顔がみるみるうちに赤みが差していく。

「うぉーーー!すげえ、すげえぞ兄ちゃん」

 テラの回復魔法を見てロック弟が歓喜の声を上げる。
やがてテラが回復できる所を全て治療し終えると魔法を使うのをやめる。
するとテラの周りにいつの間にか集まっていた村人達が一斉に歓喜の声を上げる。

「やったわ!」

「瀕死のロックを助けたぞー」

「わーお兄ちゃん凄い」

村人たちが口々にテラを褒め称える。

「ほんとに、本当にありがとな兄ちゃん」

 ロック弟が涙ながらにお礼をテラに言う。
テラはお礼よりもロック兄を早く宿のベッドで寝かせた方が良いと伝え、ロック兄を一緒に宿へと運び入れる。

「とりあえず僕が出来る事はやりました、もう大丈夫だとは思いますが無理はさせないで下さいね。
あと貴方も酷い怪我をしているようなのでそちらも治療しましょう」

「あー悪いが俺の怪我の治療はけっこうだ、よく考えたらそんなに持ち合わせがないから兄貴を助けてくれただけで充分だぜ。
それで兄貴の治療費はどれくらいだ?」

 この世界では回復魔法を使った治療所がある。
その治療所での治療費はとても高く骨一本を治すだけで一般人の月収分ぐらい掛かってしまう。
その為ロック弟は自分の治療は遠慮したのだ。

「えっと…治療費ですか、うーん僕もお金に困っているし…
この宿の宿泊費とかどうですか?」

「えっ!こんなぼろ宿の宿泊費でいいのか?
そんな安くていいなら幾らでもいいぜ!」

「ぼろ宿で悪かったね!」

「あっ…女将…居たのか…」

「最初っから居たさ!それにしてもあれだけの回復魔法を使って宿代だけでいいなんて本当かい?
せめて一週間分ぐらいは貰っときなさいな」

「そうだぜ兄ちゃん!じゃないといくらなんでも安すぎるぜ」

「分かりました、ではそのお値段でお願いします」

「おう!そのぐらいなら任せとけ!」

 この宿の料金は食事付きで1泊銅貨50枚だ。
銅貨100枚で銀貨1枚になり銀貨100枚で金貨1枚となる。
その上に白金貨があり、銅貨の下に鉄貨が存在する。
一般市民が月に稼ぐのは銀貨30~50枚程である。

 テラはちょっと色を付けた金額の銀貨4枚を受け取った。

「本当にありがとな、町の治療所なんか行ったら兄貴の治療費で一体取られるか分かったもんじゃないからな」

「ちょっといいかい?えっとテラさんだったけ?
治療するのにその金額でいいならお願いしたい事があるのだけど…」

「構いませんがちょっと待って頂いてもいいですか?」

テラはそう言うとロック弟に近寄り魔法の詠唱を始める。

「おいおい、兄ちゃん俺は大丈夫だから止めてくれよ」

テラはロック弟の言葉を聞かずに魔法を唱えている。
魔法を唱え終わり魔法が発動するとロック弟の折れていたであろう肋骨や切り傷だらけだった肌が治っていく。

「これはサービスですので気にしないで下さい」

「いや、そう言われてもここまでやってもらっちゃ無料ただって訳には…」

「えっと…うーん…あっ!では今日の晩御飯をご馳走してもらってもいいですか?
初めて来た村なので何も分からないので食事する所を教えて頂けると助かります」

「それだけでいいのか?全く兄ちゃんは欲がねえんだな。
そんなもんで良ければいくらでも任せてくれ」

 ロック弟は無料でいいと言うテラに呆れながらもテラにお礼として食事をとびっきり良いものを食べさせようと意気込んでいる。
やがてロック弟の治療が終わり女将のお願いを聞くことになった。

「テラさんは本当にお人好しだね。
ご飯代だけで治してくれる回復魔法使いなんて普通はいないよ。
そんなあんたに付け込むようで悪いんだけど治療して欲しい子が居てね…」

「構いませんよ、僕に治せるようであればやりますよ」

「そうかい、ありがとね。
見て欲しい子っていうのはうちの娘でね…ちょっと付いて来てくれないかい」


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