一度目は勇者、二度目は魔王だった俺の、三度目の異世界転生

染井トリノ

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魔法学園編(本編)

120.フレンダ・アルストロメリア⑨

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 消え行く作り物の身体。
 それとリンクしていたキルケーの意識が離れていく。
 そんな刹那の時、キルケーは思った。
 
 まさかあの魔法を解いたというの?
 こんな短時間で、あの娘は自分のトラウマを乗り越えた!?
 そんな……そんな事ありえないわ!
 だって今まで一度もそんな事は無かったもの!
 それとも彼女にはあるというの? 
 今までに会った誰よりも強い心が、トラウマすら一瞬で克服してしまうほどの強い意思があるというの?
 だとしたら何て……
 何て妬ましいのでしょう。
 許せない、許せないわ。
 私よりが持っていない物を、あんな小娘が持っているなんて絶対に許せない。
 ああ―――――私は貴方を壊したい。

 彼女が【嫉妬】の魔女である所以。
 それは自分が持っていないものへの執着心が、他の誰よりも強かったからだ。
 彼女は妬ましかった。
 恵まれている者達が、才能に胡坐をかいている者達が……
 だから彼女は壊そうとするのだ。
 自分に無い物を持つ存在を、そして壊した後自分の玩具に変えてしまう。
 そうして自分に足りない物を補っていく。
 他人に嫉妬し奪い取る。
 それが彼女の本質である。

「やっぱりあれは人形だったか。先輩! 手筈通りお願いします!」

「ええ、任せて! 貴方もお願い!」

 互いに声を掛け合うレイブとフレンダ。
 フレンダの表情に迷いは無い。
 レイブが彼女を助け出したのは、この襲撃よりほんの10分程前だった。
 
「先輩! お帰りなさい!」

「ただいま。心配をかけてごめんなさい」

 リルネットの声が響き、フレンダが謝罪する。
 彼女だけでなく、他のメンツも集まっていた。

「マッケンさん、準備はどれくらい進んでいますか?」

 レイブは労いも休息も求めずに話を進めた。

「大方の準備は整っているよ。しかし如何せんこちらの戦力は半減している。長期戦になればこちらが負けるだろう」

「わかりました。前線には俺が立ちます。なんとか初撃で数を減らすので、他の皆さんは残りを足止めしてください」

「レイブ、俺達も戦うぜ!」

 グレンが声をかける。

「ああ、そうでないと困る。戦法は前回と一緒だ」

「倒すんじゃなくて動きを封じるんすね?」

「そうだ。あと例の騎士とは俺が戦う」

 例の騎士と言うのは、フレンダの父の事だ。
 皆の視線が彼女に集まる。

「私は大丈夫よ。お父様の事はレイブ君、貴方に任せるわ。その隙に私は本体の魔女を探せばいいのね?」

「はい」

「任せて。必ず見つけてみせるわ――――」

 フレンダは力強くそう宣言した。
 そうして今戦場に立っている。

「【千里眼】!」

 フレンダの瞳が色を変える。
 それとほぼ同時期に、止まっていた軍団が侵攻を再開した。

「来るかゾンビ共! だが残念だったな―――――もう準備は出来ている」

 レイブは得意げに笑い、両手を前で組んだ。

「【広域反魔法:ラプラス】!!」

 彼が使ったのは、前回の襲撃でも使用した反魔法。
 すでに詠唱を済ませた状態で待機していた彼は、瞬時にこの魔法を行使した。
 魔法陣の上で居たゾンビ達が消滅していく。
 進軍してきた大体数を撃退する事ができた。

「さぁて、これであの人も消滅しててくれると助かるんだが―――」

 レイブの上空に影が迫る。
 聖剣を抜いたレイブは、振りかざされた刃を止める。

「―――やっぱりそう上手くはいかないよな」

 レイブは再び、騎士テスカルトと相対する。
 激しい攻防を繰り広げる中、フレンダは眼を凝らす。
 亡き父の戦いには眼もくれず、己に課せられた使命に眼を使う。
 視界を先へ先へと進ませる。
 そして森の中に身を潜めるキルケーを捉えた。

「見つけたわ!」

 フレンダの声に周囲が反応する。
 続いて彼女は弓を構え、右手に藍色のクリスタルを取り出した。
 そしてクリスタルを砕き、砕けたクリスタルが矢へと形を変える。

「どうやら気づかれたようね……だけど無意味よ?」

 フレンダは弓を構え弦を引き絞る。
 千里眼で捉えたキルケーの姿。
 それを目掛けて弦を離す。
 矢が放たれる。
 距離は射程範囲のギリギリ内側。
 故にこの矢は届く。
 ただし……

「お馬鹿ね! 私が気づいている以上、そんな攻撃は当たらないわ!」

 フレンダが狙ったのはキルケーではない。
 迎撃体勢をとるキルケー、その足元に矢は届く。
 一瞬呆気に取られたキルケーだったが、直後に展開した魔法陣を見て理解した。

「っ!?」

 それは【時空間魔法:レルミット】の魔法陣。
 フレンダが放った矢は、転移の魔法を込めた矢だったのだ。
 彼女が砕いたクリスタル……あれには魔法を封じ込める力がある。
 それよって予めレイブの魔法を封じ、フレンダが矢に変えて使用する事でキルケーを――――

「ここは―――――」
 
 この戦場へ移動させた。

「さすが先輩だ」

 テスカルトと戦闘をしていたレイブが動く。
 彼を振りほどき、戦場のど真ん中に転移してきたキルケーに迫る。
 この時、キルケーは思った。

 しまっ―――――――

「もう遅い」

 斬撃がキルケーを襲う。
 最後まで思考を済ませるよりも早く、レイブの攻撃が彼女の胴体を斬り裂いたのだ。
 
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

次回更新は12/8(土)12時です。
感想お待ちしております。
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