上 下
80 / 132
魔法学園編(本編)

124.料理は愛情

しおりを挟む
 調理場に並ぶ金色の双子。
 調理台にはたくさんの食材が並べられ、調理器具たちが自分の出番を今か今かと待ちわびている。
 その姿を俺は見守っていた。

 何となく心配になって見に来たけど、何だ大丈夫そうだな。
 食材も普通のものばかりだし、料理長に習ったのなら間違いないだろう。
 これなら見に来る必要なかったな。
 まぁでも、せっかくだし見学していくか。

「ねぇレイム、何作ろうかな?」

「お兄様が好きなものを作りたいね! ライム」

「そうだよね! でもどうしよう、ライム達お兄ちゃんの好きな食べ物知らないよ?」

「それならたくさん作ろうよ! せっかくこんなにたくさん食材もあるんだから」

「うん! それが良いね!」

 俺はその様子を観察しながら思った。
 普通に聞きにこれば良いのに……
 教えてあげた方がいいかな?
 いやでも、ここで教えたら覗いてるのばれるし、別に嫌いな食べ物とかもないし良いか。
 手作りなら何でも美味しいしね。
 
 そうこうしていると、二人が動き始めた。

 おっ、さっそく調理開始か?

「じゃあまず野菜を洗おう!」

「うん!」

 ちゃんと料理っぽい手順が始まったな。
 やっぱり気のせいだったみたいだ。
 その光景に安心してほっとしていると、ライムの野菜を洗う手順に若干の違和感を感じた。

 ん? 何だろう……今野菜に何かかけたような……っていうか泡立ってないかあれ?
 
 俺はそっと近づいて、ライムが手に持っているものを確認した。
 彼女が手に持っているボトルには、洗剤と大きな文字で記されていた。

 洗剤?? 今野菜に洗剤かけたの?
 野菜って洗うのに洗剤必要だったっけ?

「やっぱり野菜は綺麗に洗わないとね!」

「そうだね! でもレイム達が見た時、料理長は水で洗ってたけど……」

 そう、それが普通だよ?

「でもでも! やっぱり綺麗にするならコレ使ったほうが良いと思う!」

 どうしてそうなったんだ。
 さっきまで物凄くまともだったのに……
 いや待てよ?
 最近は野菜用の洗剤もあるってアリスが言ってた気がする。
 もしかしたらこれも―――

 そう思ってボトルを再確認した。
 ボトルには食器用としっかり記されていて絶望した。

「よし! これで全部洗い終わったね! レイム」

「うん! 完璧だね! ライム」

 うん、完璧に洗う終わっちゃったね。
 まっ、まぁ洗剤は洗い流せば問題ないし大丈夫だろう。
 味付けに使うのは勘弁してくれよ。

「これはもう使わないね!」

 ライムが洗剤のボトルをしまった。
 その光景にほっとしたのも束の間、次の問題が目に飛び込んできた。
 いつの間にか調理台には、百以上の小瓶が並べられていたのだ。
 これは一体……いやもう何となく予想は付くけど。

 調理の作業が進んでいく。
 その過程の中で、大量の小瓶は大活躍していた。

「せっかく作るんだもん! ライム達にしかできない味付けにしないとね!」

「そうだねライム、忘れられない味付けにしようね!」

 もはや言うまでもなく、小瓶はすべて調味料だった。
 それも一般的なものはほとんど無く、どれもあまり家庭的に使われていないものばかり。
 確認はしたけど、ほとんど何なのかわからなかった。
 ただ小瓶のうちいくつかには、使用上の注意的なものが濃く書かれているものもあって、正直ぞっとする内容が書いてあるものもあった。

 料理初心者のタブーを惜しみなく踏んでいく二人に、もはや清清しさすら感じ始めていた頃、すべての調理工程が完了し、俺も覚悟を完了しなければならない状況になった。
 そして現在、並べられた料理を前ににらめっこしている。
 その横には、満面の笑みを浮かべる二人の姫様がいた。

「たくさん食べてね! お兄ちゃん!」

「おかわりもありますよ? お兄様」

「おっおう、ありがとう。二人とも……」

 見た目……は普通なんだよな。
 その辺りはちゃんと料理長から教わった感じが出てるのに、どこで方向性を間違えたんだ。
 というか、国王この事知ってたな?
 だから俺に、幸運を祈るなんて意味深な言葉残したのか。
 わかってるなら先に教えてほしかったよ。
 さて、この状況をどうすべきか?
 俺は二人の顔を再確認した。
 まず食べないという選択肢は無い。
 この状況になった時点で、もはやそこに選択の余地は無い。
 問題は食べた直後のリアクションだ。

「そ、それじゃあいただこうかな」

 俺は目の前にあったスープに手をつけた。
 スプーンで掬い、飲む前に一度心の中で確認する。

 いや、まだ不味いと決まった訳じゃない!
 もしかしたら初心者のミラクルが起こって、奇跡的に味が成立している可能性もある。
 その可能性に、俺は賭ける!
 
 そう信じて口に運ぶ。
 刹那、口の中に広がった未知の風味に戦慄した。
 なっ、何コレ?
 苦いのか、辛いのか、甘いのか、そもそも味なのか??
 ただ確信をもって言えるのは一つ―――めちゃくちゃ不味いって事だけだった。
 やばい、目が潤んできた。

「どうかな?」

「美味しくなかったですか?」

 言葉を無くしていた俺に、二人が不安そうに訊ねる。

「いや……美味しいよ!」

 ここで俺は、満面の笑みで嘘をついた。
 せっかく俺のために作ってもらったんだ。
 それに相手は王女、不味いなんて口が裂けても言えない。
 実際口が裂けそうなくらい痛いんだけど……

「ホント! やったー!!」

 嬉しそうにはしゃぐライムを見て、俺は少しだけ安心した。
 しかし、

「たくさんありますから、いっぱい食べてくださいね!」

 レイムのその一言で、俺は再度覚悟を決めた。
 後に全てを完食した俺は、料理は愛情という常套句を思い受けベる。
 そしてこう思った。

 愛情を受け取るには覚悟が居るんだな……

 二人の花嫁修業は、まだ始まったばかりだ。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

次回更新は12/15(土)12時です。
今回の話はちょっとした息抜き、次回から新展開です!
感想お待ちしております。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,089pt お気に入り:6,926

貞操観念がバグった世界で、幼馴染のカノジョを死守する方法

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:334pt お気に入り:17

転生したらハムハムすることに夢中です。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:818pt お気に入り:197

服を脱いで妹に食べられにいく兄

恋愛 / 完結 24h.ポイント:773pt お気に入り:19

【R-18】僕と彼女の隠れた性癖

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:660pt お気に入り:26

【完結】ナルシストな僕のオナホが繋がる先は

BL / 完結 24h.ポイント:589pt お気に入り:1,587

追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:369pt お気に入り:4,037

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。