一度目は勇者、二度目は魔王だった俺の、三度目の異世界転生

染井トリノ

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魔界編(本編)

163.魔界へ

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「今の魔界ってどんな状況なんだ?」

 俺は再度開催された会議で質問した。出席しているメンバーはゼロの声明がある以前と同じである。その質問にエレナが答える。彼女はこの場で唯一の魔界出身である。

「とても平和になったわ。少なくともベル君が魔王だった頃よりはだけど」

 エレナは語尾の音量を小さくしながら答えた。俺は状況をなんとなく察する。

「向こうと連絡はとれるのか?」

「無理ね」

「そこは相変わらずか」

 人間界と魔界、その間には両界を仕切る巨大な渓谷が存在している。両界の渓谷と呼ばれ、以前の王都襲撃の際にエレナが罠にかけられた場所でもあった。渓谷には強力な魔力が漂っており、その影響で大抵の魔法が上手く機能しない。通信用の魔法も渓谷を挟んでしまうと途切れてしまうのだ。

「ワタシが教えられるのは人間界に来る前の事と、魔界側にいる部下からの情報だけよ」

「それで十分だ。教えてくれ」

「わかったわ」

 エレナから情報を聞く。
 三百年前の争い以降、勇者と魔王の意志に従い革命が起こる。いがみ合うしかなかった人間界と魔界が共存の道を歩み始めたのだ。まず両界の行き来を可能にした。魔族でも人間界に、人間でも魔界へ足を踏み入れられるようになった。そして両者は大きな争いを防ぐため、互いに不可侵の条約を取り決めた。
 その後人間界では平和が続き、現在に至るまで大きな争いは起きていない。ただし魔界はそこまで順調には進まなかった。

「ベル君が去ってから、魔界でも平和を望む声が上がったわ。だけどその一方で、悪魔たちの中に新たな魔王になろうと動き出した者もいたの」

 直後魔界は大きく二つの勢力に分かれてしまう。亡きベルフェオルの意志を継ぎ平和を望む魔王派と、新たな王として君臨しようと目論む新勢派である。両者はぶつかり合い、一度は魔界全土を巻き込んでの戦争にまで発展した。

「ただ戦争はすぐに終結したわ。結果は魔王派の勝利、新勢派は敗走して各地へ散って行ったの。それからは小競り合い程度で済んでいるはずよ」

「争いは一切無しって感じにはいかなかったか。まぁ大方予想通りではあるけどさ。それで結局今の魔界を統括してるのは誰なんだ」

「ベクトよ。彼が魔王派を先導して勝利したから、そのままの流れで新しい魔王になったの。本人は自分じゃ不足だってずっと否定してたわ」

 ベクトは元魔王軍四人の幹部の一人であり、俺の側近でもあった上位悪魔である。単純な戦闘力ではエレナをも凌ぐ程で、元魔王軍の事実上ナンバーツーだった。

「ベクトか。確かにあいつなら魔王もつとまるだろうな。ただ……」

 俺はゼロの声明を思い返した。タルタロスで直接彼と話した俺は、声明で言った内容にいくつか違和感を感じていた。どちらも同じ事を言っている。しかし言葉の一部が違っていたのだ。その違いから一つの可能性を導き出す。

「やっぱり急いで魔界へ行った方が良さそうかな」

「ええ、でないと手遅れになるかもしれないわね」

「だよな」

 エレナも俺の一言に同調した。この場で二人だけが、今後起こりうる最悪の可能性にたどり着いている。

「待ってくれ。すまないがどういうことなのか説明してもらえないか」

 二人に対して国王が説明を要求した。俺は軽く頷いてから説明を始める。最初に結論を伝えた。

「このままいけば、魔界が敵に回るかもしれないんですよ」

「なんとっ!」

 会場がざわめく。

「それは真なのか。ゼロの目的は全世界に生きる者達の殲滅なのだろう? ならば魔界の住人もその標的のはずだが」

「その通りなんだけど、魔界の連中はたぶん別の解釈をしてるはずだ。なぜならあの声明で、ゼロは魔界を滅ぼすとは一言も明言していなかった」

 国王達も声明の内容を思い返した。
 おそらく意図的だろう。ゼロは声明の中で全人類を殲滅すると口にした。彼の思惑を直接聞いた俺ならともかく、知らぬ者は人類のみを標的にした宣言に聞えてもおかしくない。

「更に言えば、悪魔や魔族は強者に従う。奴らにとって強さこそが絶対の掟なんだ。だから魔王になる者は他の追随を許さない絶対的な強さが必要になる。ベクトは確かに強いけど、圧倒的とは言えない。そこにゼロというさらなる強者が現れれば、奴らはベクトの元を離れるだろう」

 そして、魔族側の戦力を取り込んだ後に人間界を攻める。後で魔界も殲滅してしまうつもりなのだろう。単純な戦力で言えば、人間界より魔界の方が強い。魔界さえ取り込んでしまえば人間界など簡単に落せるとふんだのだ。それは実際のところ正解で、魔界が敵に回れば人間界は滅ぶ。たとえ俺がいてもゼロが相手では他に気を配る余裕など無いのだ。

「だから早く対処した方が良いって話です」

「そういう事情だったか……了解した。ではそちらは任せても構わないか」

「そのつもりですよ」

「ベル君、もしかして一人で行くつもり?」

 エレナが問いかけた。

「まだわからないかな。あいつらがついて来るなら止めないよ」

「だったら行き先を分担した方がいいわ。魔界には亜人がそれぞれの種族で形成している国があるの。彼らがゼロと手を結ぶ事は無いでしょうけど、だからこそ先に滅ぼされる可能性はあるわ。それにあの声明の後で悪魔達がちょっかいをかけだす事もある」

「そうなると人数は多い方が助かるのか。エレナはどうする?」

「ワタシはこっちに残るわ。学園と王都の守りを手薄にはできないもの」

 そう言いながらちょっぴり残念そうな表情を見せた。

「それが良い。エレナが残ってくれれば俺も安心だ」

「ええ、任せて」

 さて、それじゃさっそくあいつらに声をかけるとするか。
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